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2020.04.29
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カテゴリ: 文芸

 「文藝春秋」2019年6月号に掲載された作品で、
 単行本化された本書は、わずか101頁というコンパクトなもの。
 表紙や各所に挿入される高妍さんのイラストが、大きな存在感を放っています。

  ***

  しかし自分が、その人生において果たすことのできなかったことを、
  一人息子である僕に託したいという思いが、やはり父にはあったのだろう。
  僕が成長し、固有の自我を身につけていくに従って、
  僕と父親とのあいだの心理的な軋轢は次第に強く、明確なものになっていった。

  お互い、そう易々とは自分というものを譲らなかったということだ。
  自分の思いをあまりまっすぐ語れないということにかけては、
  僕らは似たもの同士だったのかもしれない。良くも悪くも。(p.84)

村上さんのお父さんは、京都の安養寺というお寺の次男として生まれ、
度重なる兵役を奇跡的に生き残った後、甲陽学院で国語の教師をされていた方。
仏教の学習を専門とする西山専門学校を優等で卒業した後、
京都帝国大学文学部文学科に入学したことからも、学業成績の優秀さは明らか。

それに比し、村上さんの学校での成績はあまりぱっとしたものではなかったため、
父を落胆させてきた、父の期待を裏切ってきたと、自らは記しています。
お父さんは、西山専門学校入学後に俳句に目覚め、大学時代はもちろん、
教師になってからも、俳句に対する情熱を持ち続けておられた方だったようです。


  僕が若いうちに結婚して仕事を始めるようになってからは、
  父との関係はすっかり疎遠になってしまった。
  とくにボクが職業作家になってからは、いろいろとややこしいことが持ち上がり、
  関係はより屈折したものになり、最後には絶縁に近い状態となった。
  二十年以上全く顔を合せなかったし、

  連絡もとらないという状態が続いた。(p.85)

このような状態となった経緯について、村上さんは詳細を記してはいません。
お父さんとようやく顔を合わせ話をしたのは、
お父さんが亡くなる少し前、入院中の京都の病院でだったそうです。
お父さんは90歳を迎え、村上さんも60歳近くになっていました。

それでも、こうやって、父親の生きた軌跡を様々な記録に当たりながら辿り、
一つの作品としてまとめられたことは、お二人にとって本当に良かったと思います。
そして、お父さんは、村上さんが想像しているものとは違う感情を持っておられたのでは?
それは、やはり子を持つ親にならないと、なかなか実感できないものなのかもしれません。





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Last updated  2020.04.29 19:42:21 コメントを書く
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