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予約していた『十二国記 幽冥の岸』が届いたものの、 前作『白銀の墟 玄の月』に連なるお話とのこと。 しかし、それを読んだのは、もう7年も前。 記憶が定かでない部分も、結構あるかも…… なので、物語全体の復習も兼ねて、本書を先に読んでおくことに。 2022年8月に発行されたガイドブックです。 まず最初は、これまでのお話のおさらいから。『魔性の子』から始まって、『月の影 影の海』『風の海 迷宮の岸』『東の海神 西の滄海』『風の万里 黎明の空』『丕緒の鳥』『図南の翼』『華胥の幽夢』『黄昏の岸 暁の天』そして『白銀の墟 玄の月』まで、その概略が説明されていきます。続いては、主な登場人物の紹介で、中嶋陽子から始まって、楽俊、泰麒、驍宗、尚隆、延麒、珠晶、景麒と続いていき、総勢39ものキャラクターについて記されています。そして、用語解説は。王、麒麟、王気、誓約、失道、天帝等々50語を解説、さらに、『「十二国記」物語年表』で、これまでのお話のなかの出来事を年表形式で並べ、『「十二国記」世界地図』では、各地域がどのお話で舞台となったかを示してくれています。特別エッセイ『「十二国記」と私』には、萩尾望都さん、辻村深月さん、冲方丁さん、畠中恵さんら、総勢10名から寄せられたエッセイが、『祝30周年「十二国記」 ART GALLERY』には、萩尾望都さん、羽海野チカさん、藤崎竜さん、芥見下々さん、いとうのいぢさんら、総勢10名の作品が掲載されています。『「十二国記」と人』では、「十二国記」に携わった編集・校閲・装幀・イベントの各担当者が、それぞれの仕事の裏話を披露してくれていて、本書の中でも一際興味深い部分。編集者・鈴木真弓さんへのインタビュー『「十二国記」の30年史』と、著者である小野さん自身への「小野不由美ロングインタビュー」、『「十二国記」絵師』の山田章博さんへのインタビューも、作品理解を深められるものでした。そして最後に、あの幻の短篇「漂白」が掲載されています。これは、『東の海神 西の滄海』の100年後のお話で、『「十二国記」物語年表』には次のように記されています。 王国を抜け出した延王と延麒、斡由の墓に参る。(p.52) *** もうひとつ、小野さんからは、全4巻の新作には書き切れなかったエピソードを、 「短編集」にまとめさせてほしいとの希望を、新作が完成した直後にいただいたのです。 (中略)なるべく早い刊行を望んでおられましたが、大作の執筆での無理もあり、 ご不調が続いておられます。(p.99)これは、新潮文庫《完全版》の編集を担当された鈴木真弓さんの言葉。「全4巻の新作」とは、もちろん『白銀の墟 玄の月』のことです。そして、鈴木さんはさらにこんな言葉も述べておられます。 『白銀の墟 玄の月』の発売帯で「書下ろし短編が先に読める!」という 刊行記念の全員プレゼント企画を行ったのも、 そういうスケジュール感が念頭にあったからです。 でも実際には、年明けから小野さんのご体調の不調が続いて、 「一話が先に読める」プレゼントもなかなか厳しい状況でした。 夏過ぎにその目処が立って、新作刊行から丸一年の10月12日に 「お届け決定!」を発表できてほっとしました。 2020年の「十二国記の日」に、なんとか「幽冥の岸」を配信できました。(p.128)この部分には愕然としました。手元にある新刊『幽冥の岸』の第4話を、私は既に読んでいた……そして、それが他の3つのお話と共に刊行されるまでに、6年もの月日を要していた……小野さん、どうかお身体に気を付けて、今後も、長く長くご活躍ください。それでは、いよいよ『十二国記 幽冥の岸』を読むことにいたしましょう。
2026.09.27
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冒頭「まえがき」には、次のように記されています。 とにかく言わずにいたこと、今だから言えること、今こそ言いたいこと、 関わってくれた方々への感謝と後悔……すべてをさらけ出し、野球界のため、 ひいては未来の子どもたちのためにも、 道標のひとつになればいいと思っている。 「最後」という言葉は使いたくないが、決意を持った語り下ろしだ。(p.5) 江夏豊さんが語った野球選手としての人生、そしてその前後の人生を、 ノンフィクションライターの松永多佳倫さんが文字として書き起こした一冊。 阪神から南海、広島、日本ハム、西武を経てメジャーに挑戦した日々の記録は圧巻。 1995年に覚せい剤取締法違反で逮捕されたことにも触れておられます。 *** どんなスポーツにもミスは付きものだが、とりわけ野球ほどミスの多い競技はない。 野球のミスといえば多くの人が「野手のエラー」を想像するかもしれないが、 最も多いミスは「ピッチャーの投げ損じ」で、その次が「バッターの打ち損じ」だ。 110球完封の完璧なピッチングでも、その110球すべてが”完璧なボール”ではない。 何球か、あるいは十数球は甘い球もある。 それをいかに少なくするか、相手の打ち損じを誘うか。 その能力を持っているのが「いいピッチャー」なのだ。(p.142)本著の中で、最も唸らされた部分。確かに、そうですよね。それらをミスととらえ、そのミスを減らすこと、そのミスを誘うことに注力する。そのために必要なのは、やはり「制球力を磨く」ということになるのでしょう。 今のピッチャーを見て残念に感じるのは、フォアボールの多さ。 特にフォアボールを出しても平然とした顔をしているピッチャーには、 恥を知れと言ってやりたいくらいだ。 自分で計算したうえでのフォアボールなら構わないが、 とんでもないボール球を続けてフォアボールを出す。 挙句の果てにデッドボールをぶつけてしまうのはプロとしての技術的な問題だと思う。 (p.252)最近のNPBにおけるデッドボールの多さを見るにつけ、江夏さんがどれほどイライラしておられるかが推し量れます。江夏さんが現役の頃、どんな投球をしていたかは、次の王貞治さんによる言葉を見れば分かります。 若い頃の江夏くんは力のある球を投げていました。(中略) スピードだけでなく何より球に力があったので、 非力なバッターだと運よくヒットを打ててもホームランはしんどかったでしょうね。 コントロールも抜群に良かったから、僕は一度もデッドボールを受けませんでした。 インコース、アウトコースにきっちり投げ分け、 特に右バッターのアウトローへのコントロールには本当に目を見張るものがありました。 (中略)アウトローさえ決めれば、バッターがバットを振らずにストライクが取れるという 自信をもっていたのだと思います。(p.280)巻末の特別寄稿「王貞治からライバル・江夏豊へ」の一文です。「江夏の21球(1979年)」や「オールスターの9連続奪三振(1971年)」よりも前、「シーズン25勝、401奪三振(1968年)」を達成した頃の江夏さんを的確に表現した言葉。とにかく、速くて力があり、アウトローへのコントロールが抜群でした。 *** 自分ひとりで何でもできるなんて考え方はおこがましい。 人の縁のおかげで生きていて、人の縁に活かされている。 それを身に染みて感じている。 歳を重ねるとは、そういうことなんだ。(p.25)「第1章 生き様」の中の一文です。偶然にも、先日読んだ内田先生の『老いへのレッスン』と同じことが書かれていて驚きました。
2026.09.25
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大和書房の若い編集者・刑部愛香さんとの往復書簡を通じて、 内田先生が「老い」に関する様々な質問に答えていくという一冊。 その質問は、次のようなもの。 1.老いることは悪いことなのでしょうか? 2.老いると身体はどう変化するのでしょうか? 3.老いる祖母に対して、後ろめたさがあります 4.「供養」とは何なのか、よくわかりません 5.人生に行き詰った時、どうしたらよいのでしょうか? 6.年下への接し方がわかりません 7.友だちと疎遠になり、さみしいです 8.どうすれば、長く続く人間関係を築けるのでしょうか? 9.いまの仕事を続けていてよいかわかりません 10.「結婚」に意味を見出せません 11.子を持つこと不安です 12.いずれ死ぬという現実にむなしくなります *** 就職ってある意味結婚とよく似ているんです。どちらも「ご縁のもの」なんです。(中略) だから、「あ、ご縁があった」と思ったら、パッと結婚しちゃう方がいい。 配偶者が結婚以前にどんな人物であったのかということには 実は結婚にとっては副次的な重要性しかないのです。 だって、結婚したら人間が変わるから。 向こうも変わるし、こちらも人が変わる。両方変わる。 お互いがお互いに影響を与え合って、それぞれ別の人間になる。 そして「ベターハーフ(better harf)」というものになります。(p.137)これは「いまの仕事を続けていてよいかわかりません」への回答の一部。内田先生位の年代の人でないと、なかなかこんな風には思えないし、言えないかも。若いと、どうしても自力で何とかしたい、何とかなるって思ってしまいますから。でも、就職も結婚も本当に「ご縁」だと思います。 もう一度繰り返しますが、結婚は「大人になるため」するものです。 それ以外に目的はありません。 もちろん生物学的な言い方をすれば結婚の目的は「子孫を残すため」ですけれども、 結婚の人間的意味は「成熟すること」です。 「配偶者という他者」と共に暮らし、「子どもという他者」を育てることによって、 人は大人になる。(p.156)こちらは「『結婚』に意味を見出せません」への回答の一部。これも、内田先生位の年代の人でないと、なかなかこんな風に言えないかも。でも、結婚している人と結婚していない人とでは、やはり何かしら違いを感じるもの。それを「大人になる」という風に表現されているのですね。
2026.09.23
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髙田さんの作品は、これまで『あきない世傳 金と銀』シリーズ、 そして『みをつくし料理帖』シリーズと読んできましたが、 時代小説でないものを読むのは初めて。 2025年2月に刊行され、今年5月に文庫化されたばかりですが、 先日、本屋さんに行くと、表紙カバーが新しいものになっていました。 映画化され、11月6日に公開されるのに向けてのものとのこと。 ***第1章 履歴書中学生になって新しい制服に馴染んだ頃、潤間さやかは突然クラスメートたちから標的にされる。両親にも学校にも自分が置かれた状況を上手く伝えられず、理解も得られないまま時が過ぎ、理不尽な暴力を受け、大けがによる入院後、2学期の途中から不登校を通すことになってしまう。卒業前、その学校の卒業生として扱われることが受け入れられず、証書の受け取りは拒否した。バイト先のレンタルビデオ店「アガサ」の店長・緒方から履歴書の提出を求められたさやか。客の探していたビデオを契機に、山田洋次監督の『学校』と夜間中学校について知ったさやかは、店長から隣町に河堀夜間中学校があると聞き、1週間そこを訪ね続け、この学校に通うと決意。「2001年4月 大阪市立河堀中学校夜間学級(河堀夜間中学)入学予定」と履歴書に書く。第2章 夜の校庭で河堀中学校夜間学級に入学したさやかは、2年3組で様々な年代の生徒たちと共に学ぶことに。英語の授業や捕食の時間には、結婚のためベトナムから来日した1年1組のスアンも加わって、蕗子が持参した手づくりの小籠包を、他のクラスのメンバーたちと一緒に和やかに食べる。担任の江口先生担当の体育の授業では、美しい星空の下、普段着を着た2年生全員でラジオ体操。第3章 あおぞら捕食の時間、なかなか現れないスアンを呼びに、さやかが1年1組の教室に行くと識字の授業中。その後、江口先生やクラスの遠見、正子ハルモニから識字の授業について聞かされたさやかは、文字を読めない、書けないことの過酷さをを思い知らされる。7月7日、七夕の笹竹には1年1組の生徒たちが「あおぞら」と書いた短冊が何枚も下げられた。第4章 弱くて、脆い20年前『ハイスクールぶるうす』で一世を風靡した漫画家・用瀬裕が、『夜間中学校のことが知りたい』とやって来る。夏休み期間も自習に通う識字学級の生徒たちと共に学んだ用瀬は、2学期には2年3組で捕食の時間を過ごすように。学校からの帰途、蕗子は用瀬とさやかに、満州から日本へ引き上げてくる際の母親との別離の真相を打ち明ける。ひとの弱さや家族の脆さを受け容れようとする蕗子の温かで優しい寛容の言葉に、さやかは胸を撃ち抜かれる。第5章 明日の夢スアンの家に招かれ、待ち合わせ場所に向かうさやかは、途上で出会った同じクラスの健児から、料理人になった経緯や今後の夢について聞かされ、自分には何もないと溜息を漏らす。スアンの家では数々のベトナム料理でもてなされ、自分の父親ほどの年齢と思われるスアンの夫・原田は、二人の馴れ初めを語る。第6章 結び直すのは1年3組の授業中に教室で黒板に「助平」と書いた女性教員・吉村に憤るさやかに、昔国語の先生が作ってくれた「メニュー」の教材を示しながら、夜間中学にも色んな先生が居てると、遠見が宥める。が、河堀夜間中学教員・田村が女性用下着窃盗で逮捕されたとの記事が新聞に掲載されてしまう。緒方店長から、父母が実はこっそり入学式に出席し、度々アガサに自分の様子を聞きに来ていたと聞かされたさやかは、10月31日の遠足当日、遠足の案内の余白に「よかったら、ふたりで来てください」と書き込み、それをダイニングのテーブルの上に置いて家を出る。級友たちと昼食を楽しんでいると、両親が弁当を持って姿を見せた。第7章 まだ見ぬ友へ河堀夜間中学の生徒募集ポスターとビラ作りを任されたさやかは、用瀬にアドバイスを受けながら、それらを完成させる。ポスターには「まだ見ぬ友へ いっしょに やかんちゅうがくで べんきょうしませんか?」と書かれていた。12月23日、学校の在る駅周辺で、河堀中学の制服姿の生徒の助けも借りながら、さやかは生徒募集のビラを配り続けた。最終章 星の教室さやかは、鈴木養護教諭に中学生の頃のことを打ち明けた後、文字や言葉を、国語を教える人になりたいと話す。3学期最後の体育の授業、フェンスの向こうから見ている若い女性にさやかは声をかける。その手には1枚のビラが握り締められていた。ラジオ体操に加わったその女性は「ああ、星が綺麗」と声を漏らした。 ***高田さんが記した「あとがき」によると、この作品は漫画原作者時代に、漫画家・みなみなつみさんと組んで、2001年に漫画雑誌「YOU」に連載したものとのこと。 「ほんなら、さやかちゃん、その人らの受け皿になる夜間中学って、 一体、全国に何ぼほどあるん?」 「35校、あるそうです」(p241)店長とさやかのこのやりとりに、私はかなり驚かされました。その当時でも、私の住む政令指定都市内には2校あり、全国ならもっとあると思っていたから。あとがきによると、2024年に時点で53校、2025年10月時点で62校に増えたそうですが、まだ、各都道府県に1校ずつしかないレベルというのは、かなり寂しい状況ですね。
2026.09.22
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いつもの雰囲気とは少々違う、本格的ミステリーの雰囲気が漂う今回のお話。 イギリスの風景描写も、しっかりと取材されて来たことが伝わってきます。 さて、お話の行方はというと、前編終了時点ではまだあまり見えてきません。 驚くような展開を期待しながら、後編の読書を進めていきます。 ***【Bridge】清貴を真似てお茶に誘う円生の誘いを受け、葵はその後を追う。【Interlide】『緊急事態宣言』下の神戸元町・中華街、円生は坂口由貴に葵への告白の顛末や、化野でアトリエに使っていたアパートが跡形もなく取り壊されていたことについて語る。由貴から葵が清貴と結婚したことを聞かされると、円生は清貴に電話をかけ、清貴が結婚に対し負い目を感じていることや、葵の就職後の苦戦について知ることに。その後、円生は新潟から東北6県を巡り、清貴からのメールに応えロンドンにやって来た。要から葵に、篠原の事務所が爆破されたとの電話がかかって来たため、円生も葵に付き添って要の許へと向かうことに。【アートの巡礼<後編>】第1章 投げられた賽コラボ展示会を開催する予定の劇場に要、葵、円生、磨美たちが集まると、そこには篠原と話をする要の母・光子と、現在の夫の姿があった。光子は、展示会を何としても開催するよう息子・要に発破をかけ、立ち去った。篠原は、5年前にクズミグループが主催する美術コンクールで入賞し、アーティストになったアシスタントの松尾園子を要たちに紹介する。さらに、篠原はミラノ、ニューヨークで各2枚の原画が爆破され、爆破が未然に防がれた東京の1枚は空輸中に盗まれたと4人に伝える。そして、今回の事務所爆破は、自身が所有していた『巡礼』同人本が狙いだろうと話す。その他の原画は、裏表紙を除いて現在無事に確保されていた。第2章 ニューカッスルの審判ニューカッスルに到着後、代理人との待ち合わせ場所、セント・ニコラス大聖堂に向かいながら、天音は清貴に、『ノクターン』を開いた光子の英国人の元夫が病となり母国に戻った経緯を話す。そこに、ロビン・キーストンの世話役兼代理人・メグが現れ、ロビン・キーストンは筆名であり、本名はリチャード・ハントだと教えてくれる。家に到着すると、リチャードはチェルトナム文学祭に登壇するため出かけていたが、メグは彼の部屋を案内し、脅迫状は出版社に届いたが、現物は彼がシュレッダーにかけたこと、メグが運転する車の事故で、後部座席のリチャードが車椅子生活となり、代理人になったと話す。清貴は、リチャードが執筆するというデスクを見ると、翌日、天音と共にチェルトナムに向かう。さらに、円生に電話をかけ、今日一日の出来事を確認すると共に、小松への調査依頼等を伝えた。第3章 チェルトナムの告白天音は清貴に、光子と元夫で要の父・クリスとの出会いと結婚、発病と帰国、逝去について語る。清貴は、クリスが英国から光子に『巡礼』第6章の挿絵原画「恋人」を送ったことを言い当て、クリスに悪感情を抱いていた天音が、光子に知らせず『ノクターン』の顧客に売却したと指摘。天音の行動は、再婚を決意した光子が心を乱さぬよう考えてのものだったが、その後店を辞めた。一方、サザビーズ・ロンドンでは、葵が『巡礼』の原画を見て、描かれた時期の違いに気づく。それを受け、篠原がロビンの正体はリチャードではなくメグだと明かし、入替りの経緯を話す。その頃、文学祭で登壇したリチャードはエノキアン語で「最後の一枚は、原点に還る」と述べた。最終章清貴と円生によって、関係者の中に今回の事件の真犯人が雇った2人のスパイがいたことが発覚。一方、メグの自動車事故発生時に助手席に座っていた人物とその行動が明らかになり、事故後、メグ、リチャードとその人物の人生が大きく変わっていったことも分かる。その人物は、後に余命宣告を受けた際、リチャードとメグが住む家に身を寄せていた。その人物は、そこでリチャードが保管していた自身が描いた絵を見つけると、続きを描き始め、自身の死後、生活の足しにそれらを売却するよう二人に伝えるが、「恋人」の絵だけは、妻に届けてほしいと頼んでいた。その後、生活に困窮した二人は絵を売却、協力しながらその人物をモデルに小説を書き始めるが、目の前に現れた妻には、絵を描いたのがその人物だとは決して認めなかった。そのため、妻はメグに抱いていた疑念をさらに膨らませ、復讐を心に誓うことに。一方、妻の息子は母親の暴走を止めようと、その人物が描いた絵を全て集めた上で、作者は小説家の友人だった自身の父親だと公表しようと考えていた。清貴たちは、メグ、リチャードとあの人物の故郷・ノッティンガムの『イギリス最古のパブ』へ。その2階奥の部屋には、あの人物の写真が額の中に飾られており、その写真の後ろに、あの人物が自分の想いをすべて込めたと言っていた最後の一枚の絵があった。そこに描かれた女性の顔は、紛れもなくあの人物の妻そのものだった。【Interlide】[1]リチャード・ハントの告白リチャードが清貴の質問に答え、メグやあの人物、小説『巡礼』等について語る。[2]久住要の告白要が清貴の質問に答え、コラボ企画やあの人物とその妻について語る。【Epilogue】ロンドンに戻って来た清貴と葵は、サウスバンクを二人でデート。『アンダー25』の『妄想展示室』の課題発表では、磨美は『可愛い』を、葵は『旅』を、要は『巡礼』をテーマに挙げる。その後、篠原に促され葵が『アートの価値』について語る。ロビンの展示会を開くはずだった劇場をどうするか迷う篠原に、清貴は円生が描いた東北6県の絵を推薦した。 ***今回の作品で、望月さんは確実に一段高い所に達したように感じました。読み続けてきたシリーズが、グッとレベルアップした瞬間に立ち会うことが出来て、とても幸せな気分で、最後の頁を閉じました。今後も、このシリーズが末永く続きますように。
2026.09.21
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『(22)~美術補佐人の誕生~』の後、 『ex. ~春霞の夜の夢~』をはさんでの新刊は、 望月さんの本気度が伝わって来る、前編・後編の2冊に分かれた長編作。 ボリュームだけでなく、その内容もシリーズ最高級の仕上がりです! ***【Introduction】美術キュレーター・篠原陽平が企画する『アンダー25・アート・プロジェクト』。試験に合格した葵は、『クズミ・グループ』会長の久住恵蔵の孫・要に誘われ、陽平と打合せをするために、清貴と一緒にロンドンへと旅立つ。その頃、ミラノでランボルギーニが、東京ではセンチュリーが爆破される事件が起こっていた。【序章】応募作が『ミステリー小説大賞』を受賞し書籍化されるも、緊急事態宣言下で売り上げが伸びず、2、3作目の執筆依頼もミステリーだった梶原春彦は、『ノックスの十戒』に苦しんでいた。宮下香織に促され、一緒に兄・秋人が出演するドラマの撮影にエキストラで参加、雨天中断時に『蔵』を訪れると、秋人と清貴がドラマに関するミステリー談義を始める。そこで、清貴から「面白ければそれでいいんですよ」言われた春彦は、呪縛から解き放たれる。【アートの巡礼】第1章 魔法の国へ要が営む神戸のアートショップ『ノクターン』の元スタッフで、現在は大手損保会社に勤務する美術専門調査員・楠木天音がロンドンに到着。輸送したロビン・キーストンの作品を貨物エリアで確認すると、白紙にすり替えられていた。第2章 ロンドン散歩ビッグ・ベン、バッキンガム宮殿、シャーロック・ホームズ博物館を一緒に巡る葵、清貴、要、そして美術商『タジマ』の娘・田島磨美。ニューヨークでリンカーンが爆破された事件や、『ブルーチップ』候補について語り合うと、清貴はロビン・キーストンの名前を、要は円生の名前を挙げる。サザビーズ・ロンドンで葵ら4人と再会した篠原は、ロビン・キーストンの『巡礼』シリーズの1枚が盗難に遭ったことを告げる。そして、明日、天音がニューカッスルの自宅にいるロビン・キーストンに会いに行くので、清貴に同行して欲しいと依頼する。第3章 巡礼のはじまりロビン・キーストンは、不慮の事故で利き腕が使えなくなり絵筆を置くことになったが、その後執筆した小説『巡礼』が大ヒット。『巡礼』には、かつて自らが描いた絵が表紙と挿絵に使われており、その絵画や商業版以前に発行された同人本が再評価され、価格が高騰していた。篠原はロビンを『ブルーチップ』に押し上げようと、サザビーズ・ロンドンとのコラボを企画、世界中に散らばった『巡礼』の表紙と裏表紙、挿絵計22枚の原画や他の作品を集結し、展覧会を開こうとしていた。さらに、篠原は『アンダー25・アート・プロジェクト』に選ばれた葵、要・磨美の3人には、予算や条件を度外視した自分だけの展示室の企画書提出を求めたのだった。しかし、ロビンの許には脅迫状が届いていた。 「展示会を中止しろ。中止にしない限り、おまえの作品を爆破し続ける」(p.236)そして、篠原の事務所が爆破されたとの知らせが入る。【Interlude】天音は清貴と共に列車でニューカッスルに向かいながら、要の家族について語る。そして、『ナショナル・ギャラリー』に向かう葵の許には、円生が現れた。 *** 「ちなみに日本人の『ブルーチップ・アーティスト』っているの?」 磨美さんの問いかけに、もちろん、と要さんと清貴さんの声が揃った。 要さんの方が先に声を上げたため、清貴さんは、どうぞ、と説明を譲る。 「日本では、草間彌生、村上隆、奈良美智が、 『ブルーチップ・アーティスト』」といわれているよ」 「草間彌生って、あの水玉系のかぼちゃとかの?」(p.163)本作を読み進めている頃、草間さんの訃報が飛び込んできました。とても残念……ご冥福をお祈りします。
2026.09.19
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2014年4月に発行され、2016年11月に文庫化された作品。 これまで読んできたマハさんの他の作品とは、随分と色合いが異なるものでした。 強いて言えば『暗幕のゲルニカ』に近いものが漂っていると言えるでしょうが、 それでも、訴えかけてくるものは圧倒的にこちらの方が強烈です。 ***サンフランシスコの精神科診療所で、60年以上前に描かれた絵を眺めながら、84歳のエドワード・A・ウィルソンは、軍医として過ごした沖縄での日々を振り返る。1946年5月、医科大学院修了直前、従軍医に任命され婚約者を残して沖縄へやって来たエド。父親が送ってくれた真っ赤なオープンカーに乗って辿り着いたのがニシムイ・アート・ヴレッジ。そこでサンフランシスコの美術学校に留学、東京美術学校でも学んだセイキチ・タイラと出会い、その妻・メグミや他の画家たちとも親交を深め、母国から送られた画材で一緒に絵を描くように。婚約者にクリスマスプレゼントとして送る肖像画を描いて欲しいとエドが頼むとタイラは快諾。しかし、昼間から酒を飲んだくれている画家・ヒガに初めて引き合わせてもらった時、エドが次の言葉を発すると、タイラは激高しエドを村から追い返してしまう。 絵を買うのは、僕ら軍の人間だろう? こんな暗い絵、誰も欲しがらないよ。 君や、ほかの画家たちが描いているような、きれいで、明るくて、 故郷への手みやげにもちょうどいいと思えるような絵でなくちゃ……(p.123)その後、同僚からメグミを軍人向けバーで見かけたと聞き、エドはタイラに内緒でそこで働くメグミと会うが、居合わせた将校に絡まれることに。一方、タイラは完成した肖像画を持って基地を訪れるが、ゲートを突破しようとして袋叩きに。エドはタイラを家に送り届け、壷屋で働くようになったメグミに肖像画の代金を手渡す。ヒガは描いた絵が第1回沖展には選ばれなかったものの、酒を断って壷屋に絵付師として復職。しかし、メグミと市場に買い物に行った際、あの将校に絡まれメチルアルコールを一気飲み。タイラに救いを求められたエドは村に駆けつけると、院長に掛け合って眼科医を派遣してもらい、あの将校、ヒル少佐のオフィスを訪ね、何度もその顔面を殴りつけたのだった。 後日、帰国命令が下り、エドはニシムイの仲間たちと再会を果たせないまま出航。仲間たちは、エドからクリスマスに贈られたコンパクトを用いて太陽の光を明滅させ見送った。 ***佐藤優氏による巻末『解説』に、本著の存在意義は言い尽くされています。それにしても、私はなぜこれまでこの作品をスルーし続けてきたのでしょう……残念というより、不思議でなりません。原田マハという作家に対する印象が、一味違うものに変わりました。
2026.09.15
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