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『みをつくし料理帖』シリーズ完結の第10弾『天の梯』から、 4年を経て発行された特別巻は、主要キャラクターたちを描いた4つのお話。 『あきない世傳金と銀』でもシリーズ完結後に特別巻全2巻が発行され、 読者を大いに喜ばせてくれましたが、その原型がここにあったのですね。 ***花だより澪が大坂へ戻って4年、74歳になった種市は上野宗源寺からの帰り道、境内に倒れていた水原東西と名乗る易者に食事を与える。その礼にと占ってもらうと、来年の桜を見ることは叶わないと言われてしまう。ショックを受けた種市は男の話を最後まで聞かぬまま帰宅、何日も寝込んでしまうが、澪に会うため清右衛門、坂村堂と共に大阪へ向けて出発、小田原まではりうも同行する。が、小田原の旅籠『森雅屋』では、隣の部屋の客が夜通し祝詞を唱えて眠れない。種市が辛抱溜まらず部屋に乗り込むと、それは正真正銘、本物の水原東西で、先日出会ったのは詐欺師と分かる。本物の東西から、種市とりうは「保齢長命」の相が出ていると言われ大喜び。しかし、旅の途中で種市の腰痛が再発、箱根から江戸に引き返すことに。涼風あり17歳で御膳奉行・小野寺数馬に嫁いで6年の乙緒は、如何なる時にも動揺せず、喜怒哀楽を面に出さない。輿入れ前から乙緒に小野寺家の家風を叩き込んだ義母・里津は、亡くなる2日前にこう言う。 「心を見せないそなたと、それを酌もうとしない数馬との間に、 埋めようもない深い溝が出来たら何とする。 そなたひとりが苦しみ、思い詰めたら何とする。(中略) そうした時には、数馬に『岡太夫が食べたい』と伝えなさい。 この私に、そう言うよう命じられたと」(p.105)義妹・早帆から澪と数馬の話を聞かされた乙緒は、懐妊後に体調を崩し寝込んでしまう。乙緒に岡太夫を所望された数馬は、それを手ずから作り、妻と語り、母の思いを知る。秋燕高麗橋淡路屋が再建されて3年、摂津屋から「女名前禁止」の猶予が切れるのを前に、番頭・辰蔵を婿に迎え、淡路屋の店主に据えるよう促された野江が、辰蔵に昔を語る。 享和2(1802)年、翁屋に売られた野江は「あさひ」の名を与えられ、禿となった。 足抜けを試みた野江は、途中で出会った廓の料理番に唐汁を馳走され、戻るよう諭される。 文化2(1810)年、新造出し当日、女衒を仕損じたあの時の料理番・又次が飛び込んでくる。 振袖が血で汚れても、この人は恩人と又次を庇う野江の姿に居合わせた摂津屋が助け舟。 さらに、連れの二人と三人で預託金を出し合いあさひを年季明けまで全部買い切ること、 又次を新しい料理番として翁屋で雇うことも決めさせた。澪にから汁の作り方を教えてもらい、それを手ずから作って出す辰蔵に野江は言う。 「この私と一緒になってくれはるか?家族になってくれはるやろうか?」(p.223)月の船を漕ぐ「三日ころり」後、自らの無力さに夫・源斉が体調を崩し、道修町の家で寝込んでいた。代替わりした家主から北鍋屋町の店を立ち退くよう言われた澪は、その暖簾を一旦下し、源斉のため様々な料理を用意するが食は一向に進まず、義母・かず枝からの文が届く。そこには、源斉が好んだ永田家の江戸味噌の作り方が記されており、澪は大いに反省。源斉は澪が江戸味噌で作った味噌汁をお代わり、さらにご飯と味噌汁をお代わりした。そして、文政6(1823)年如月六日、初午、澪が四ツ橋で店を再開しようという時、種市、坂村堂、清右衛門がやって来た。 ***何と言っても、野江と摂津屋の関りの長さ、深さに驚かされました。種市が澪に亡き娘の姿を重ねていたように、摂津屋も野江に亡き娘の姿を重ねていたわけですが、澪と野江のお話は、この摂津屋なくしては成立しなかったのだと改めて知ることになりました。まさに、『みをつくし料理帖』の影のMVPですね。
2026.08.23
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みをつくし料理帖シリーズ第7弾『夏天の虹』の発行(2012年3月)後、 第8弾『残月』の発行(2013年6月)前に発行(2012年5月)された一冊。 「巻末付録 澪の料理帖」で紹介されたものの中から選ばれた料理の写真と 巻末付録では紹介されなかった新たな料理のレシピ&写真が掲載されています。 写真は全てカラーで、見るだけで美味しさが伝わってきます。 そこに各登場人物が発した印象深い言葉が添えられており、あの時の情景が蘇ります。 写真とレシピの間には、30もの「内緒話」が挿入されており、どれも興味深いものばかり。みをつくし料理帖シリーズ誕生の経緯、お話の舞台や登場人物の名前、スケッチ画について、著者と読者、関係者、家族とのエピソード等々、作品同様心が温まります。戯作者・清右衛門のモデルは、やはり「あのひと」だったんですね。 巻末「あとがき」では、本書誕生の経緯を高田さんが詳しく綴っています。 ***書き下ろし小説「貝寄風」享和2(1802)年、如月二十日、高麗橋淡路屋の三女・野江は、四ツ橋の塗師の娘・澪(8)と自分の部屋で貝桶で遊んだ後、高麗橋通りを二人で歩きながら、女衆や番頭の名について話す。その際、自分がやがて違う名を与えられ、違う名で呼ばれるのは嫌だと涙する澪に野江は、人の一生は何があるか分からず、自分も違う名を与えられるかもしれない、と言った後こう続ける 「ほかのどんな名ぁ貰たかて、澪ちゃんにとって私は『野江』やんね。 私にとっても、澪ちゃんはずっと『澪ちゃん』やわ」(p.150)
2026.08.22
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巻末「解説」は、成瀬あかりがM-1グランプリ出場を思い立つ契機となった 第15代王者・ミルクボーイのボケ担当・駒場孝さん。 成瀬や作品について、まるでラジオで語っているかのごとく、 臨場感たっぷりに、熱い思いが伝わって来て、とてもイイ! ***ときめきっ子タイム大津市立ときめき小学校4年の北川みらいは、総合学習の時間で地区活動している人として、夏祭りで司会をしているゼゼカラについて班で調べようと、オーミーで結芽とインタビュー。後日、他の組の璃央と結芽が、成瀬を馬鹿にしているのを陰で聞いてショックを受けるが、その帰り道で出会った島崎と成瀬の言葉で気持ちを立て直し、発表は大成功した。成瀬慶彦の憂鬱京大入試を2週間後に控えた娘のあかりが、京都での一人暮らしについて調べている。当然家から通うものだと思っていた父・慶彦は気になってしかたがなく、入試にも連日付き添う。入試初日後には、高知から来て今夜は京大で野宿するという城山友樹を、あかりと家に連れ帰る。後日、二人は合格、あかりは広島に住む京都の大学を受験した友人の部屋を探していたと分かる。やめたいクレーマーフレンドマート大津打出浜店の「お客様の声」に投函するのがやめられない呉間言実。アルバイトの成瀬に万引き犯逮捕の協力を依頼されると、後日怪しげな老女を発見。さらに日を経て再度その老女を発見、そのことを成瀬に伝えるとやがて犯人は逮捕された。夫・佑生と夏祭りに出かけ、お楽しみ抽選会で2等ミシガンクルーズペア乗船券が当選するが……コンビーフはうまい成瀬と共にびわ湖大津観光大使になった篠原かれんは、初めてスマホを持った成瀬にレクチャー。金沢駅で行われた「おいでやすびわ湖滋賀フェア」では、成瀬のパフォーマンスに圧倒される。「観光大使ー1グランプリ」近畿ブロック予選当日の朝、母親から見合い写真を見せられ口論に、乗った電車は緊急停止するが、本番では特技を生かし審査員特別賞、兄からLINEで祝福される。探さないでください大晦日、島崎みゆきはあかりに内緒で成瀬宅を訪ねるが、書置きとスマホを残して消えていた。心配する父・慶彦、北川みらい、篠原かれんと共に、呉間夫妻とも連携してあかりの行方を追う。名古屋城まで行って、既に東京にいると分かり滋賀に逆戻り、紅白でけん玉をする姿を確認する。そして、年明けのカウントダウンが始まる直前に自宅に戻ったあかりと、新年の挨拶を交わす。大津ときめき紀行 びわ湖さんぽ著者と小説新潮編集部Oさんが、成瀬と共に大津を一緒に巡りながら、色々と語り合います。 ***前回ご紹介した中学生も、今回の駒場さんも、本当に一生懸命成瀬について語りました。その熱量には驚かされますが、それ位成瀬が魅力的なキャラクターだということでしょう。『成天』から『成信』を経て、読者はさらに成瀬の魅力に引き付けられたはず。シリーズ累計250万部突破は、伊達じゃありません。第3弾は、素直にハードカバーを購入するか、解説や紀行文を読むために文庫化されるまでまた待つか、本当に悩ましいところです。(まぁ、両方買えばいいじゃないか、という話なのだが)
2026.08.15
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昨年の今頃、本書を読んだという中学生の女子と話をする機会がありました。 第21回本屋大賞を受賞し、大きな話題になっていることを知っている程度の私に、 彼女は、成瀬について、走るのが速くて絵も歌も上手、京大を目指す程頭が良く、 200歳まで生きるのが目標等々、そのスゴさをとても熱心に教えてくれました。 その熱量は、普段の彼女からは到底考えられない程大きなものでした。 ***ありがとう西武大津店幼稚園の頃から、他の園児と一線を画していた成瀬あかり。学年が上がるにつれ孤立し、小学5年生になると明確に無視されるようになるが、中学2年生となった今でも、他人の目を気にすることなくマイペースに生きている。8月末に営業終了する西武大津店を、3日からびわテレのぐるりんワイドで連日生中継するので、それに毎回映ると言う成瀬を、幼馴染の島崎みゆきはTVチェックし、時に一緒に映る。そして最終日、中継を楽しみにしていた祖母が亡くなるが、通夜は翌日となり成瀬は西武へ。膳所から来ましたM-1グランプリに成瀬と一緒に挑むことになった島崎、コンビ名は『ゼゼカラ』に。練習を重ね、途中でボケとツッコミが逆転してしまった文化祭の舞台を経て朝日生命ホールへ。1回戦敗退でナイスアマチュア賞も獲れなかったが、成瀬は来年も一応出るつもりだと言う。階段は走らない営業終了前年10月の西武大津店、Web会社勤務の敬太は法律事務所を営む吉峯マサルと会い、小学生時の級友4人とも偶然出会って、卒業30年の同窓会を行うことになるがコロナで白紙に。その後、マサルの賛同を得て敬太が同級生HPを作ると、仲の良かったタクローから連絡が。西武大津店最終営業日の屋上、3人は軽い揉め事の後にタクローが転校して以来の再会を果たす。線がつながる県立膳所高校入学式で新入生代表の挨拶をし、クラスの自己紹介でけん玉を披露した成瀬あかり。同じ中学校卒業生の大貫かえでは、前の席の大黒悠子と一緒にかるた班の見学に行き成瀬と遭遇。さらに東大を目指す大貫は、須田直也と一緒にオープンキャンパスに行くがそこでも成瀬に遭遇、二人で西武池袋本店へ行き、その際なぜ坊主頭にしたかを訊ね、先日自宅来訪時の非礼も詫びる。レッツゴーミシガン全国高等学校小倉百人一首かるた選手権大会に出場した広島県代表錦木高校2年の西浦航一郎は、滋賀県代表膳所高校2年の成瀬あかりに目を留め、同じ部の2年・中橋結希人が声をかける。翌々日、3人で一緒にミシガンに乗ると、成瀬は西浦と昼食を取り、自殺を企図した男を制止後、西浦に「今は自分のことに忙しくて、恋愛は人生の後半に回そうと思っているんだ」と告げた。ときめき江州音頭高校1年生の時、成瀬と島崎が馬場公園で漫才の練習をしていると、吉峯マサルに声を掛けられ、ときめき夏祭りの実行委員として総合司会をするようになり、今年で3回目を迎える。その打ち合わせ後、島崎が東京に引っ越すことを告げると二人は気まずい関係になってしまうが、実行委員の稲枝敬太から助言を得た成瀬は島崎に謝罪、夏祭りで漫才をした二人は来年も……大津ときめき紀行 ぜぜさんぽ著者と成瀬が、小説内の世界を一緒に散歩、各所で思い出を振り返る。 ***読み終えて、なぜ彼女があれ程の熱量で成瀬あかりについて語っていたのかが分かりました。そのカギは、巻末「解説」でも記されているように「線がつながる」の中にあります。彼女は、大貫かえでと同じように周囲の様子を窺いつつ密やかに学校で過ごしていたのでしょう。そんな彼女にとって、周囲から無視されても、嫌がらせを受けても決して自分らしさを失わず、日々を淡々と過ごし、自分の実力を発揮し続ける強さは、とても眩しいものだったことでしょう。さらに、成瀬はその言動の随所に、他者に対しリスペクトを持って接していることが分かります。自分もあんな風であれたら……そういう強い思いが、あの熱量を生み出したのだと気付きました。そして、そう思っているのは、決して彼女一人だけではない。中学生にも、高校生にも、そして社会人の中にも、数え切れぬ程たくさんいるのだということを、本屋大賞の受賞や、本書シリーズの大流行が証明しているのです。ふと、『きみの友だち』の恵美のことが思い浮かびました。
2026.08.14
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みをつくし料理帖の第10弾にしてシリーズ完結巻。 贅を尽くした特別なものではなく、 食べるひとの心と身体を日々健やかに保ちうる料理を、 私は作り続けていきたい。 医師が患者に、母が子に、健やかであれと願う、 そうした心を持って料理に向かいたいのです(p.36) 自らの進むべき道を見定めた澪が、新たな一歩を踏み出します。 ***結び草伊勢屋が新たな店舗で商いを再開、自らも翁屋引移り前日に飯田川沿いの借家に引っ越した澪は、重陽の日、鼈甲珠を翁屋に届けるとあさひ太夫に遭遇、太夫は鼈甲珠を右の掌に収め天に翳した。居合わせた者は幻想的情景に声を失うが、その様子は錦絵に描かれ世間に広く知られることに。一方、澪の新居で葛尽くしの料理でもてなされた美緒は、家族皆でまた日本橋に帰りたいと話す。張出大関澪は、鼈甲珠、持ち帰り用の粕漬けに加え、城勤務の下級武士のため1日10食の弁当作りを開始。すると、その旨さが城内でちょっとした噂になり、御前奉行も褒めていたと聞かされる。源斉の母・かず枝が弁当を求め訪ねて来た際には、留守番のふきが酢の物の味見を勧めるが、絵付皿を用いたことでかず枝の様子が急変、澪の迅速な処置と源斉の対応で大事に至らず済む。一方、澪が夜の通いだけとなったつる家では、政吉の作った薯蕷蒸しが「親父泣かせ」と大評判。料理番付の行司役が店に姿を見せた後、師走朔日には遂に『張出大関』との吉報が届く。明日香風一柳に年始に訪れた澪は、芳から座敷で見つかったという木蘭色のざらついた塊を見せられ、塊から零れ落ちた粉を指に付け口に含むが、何なのか分からない。病の床にある恩師にと七種粥を求めつる家を訪れた源斉のため、澪は自宅で調理をすることに。その際、口に出来るのは公方様だけという「酪」の話になり、それは木蘭色の塊だと源斉は言う。その後、柳吾は「酪」を勝手に作った疑いで捕らえられ、それを知った佐兵衛は澪の前で慟哭。そして、死期の迫った元天満一兆庵の料理人・富三に遭遇すると、「心許り」の重詰めを届ける。すると富三から、自らと采女宗馬、佐兵衛の酪作りに関わる全ての事情が記された文が届く。佐兵衛はその文を澪から預かると町奉行所に自訴、登龍楼は取り潰し、宗馬は行方知らずに。柳吾が戻り、やがて佐兵衛も解き放たれるが、その際、御前奉行の一人が庇ってくれたと言う。天の梯重陽の夜の出来事から、翁屋が太夫の存在を隠しきれなくなると、摂津屋が澪の覚悟を確認。鼈甲珠に関する全てを翁屋に売り渡し、以後は手を引くことで翁屋も了承、見請けが決まる。澪は野江にとって一番の幸せを実現すべく、翁屋と太夫の3人の旦那衆に、さらなるお願いを。卯月朔日、生家・高麗橋淡路屋の元番頭・龍蔵の息子・辰蔵に迎えられ、太夫は野江に戻った。 ***一方、奥医師の話を断り、恩師の遺志を受け継いで、江戸を離れ大坂で医塾を開く決意した源斉。永田家と絶縁して士分を離れ、澪と夫婦となることを母・かず枝も後押しします。先に大坂へ出発した源斉を追って、野江と共に大阪へ出発する澪に、清右衛門は、大坂で自分の店を持ち、その名を『みをつくし』とするよう声を掛けます。文政11年の料理番付には、東の大関「元飯田町 つる家」、西の大関「四ツ橋 みをつくし」、行司役には「日本橋柳町 一柳改メ 天満一兆庵」の名が記されました。 口じゃあ何とも言わねぇひとだが、お澪坊のことを、お澪坊のことだけを、 ずっと、もうずっとだ、想い続けていたんだぜ。何の見返りも求めねぇでよ(p.298) 雨の日、小松原との縁組を祝福したあと、 傘を忘れて俎橋を帰って行く男の姿が胸に蘇り、澪は苦しくなる。 あの時、源斉はどんな思いでいたのだろうか、と。(p.277)『あきない世傳金と銀』の賢輔を彷彿とさせる締めくくり。でも、あちらに比べると、こちらの方がそれらしい雰囲気は漂っていましたね。
2026.08.13
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カウンセリングの全体像を明らかにし、 心というものがいかに変化するものかを明らかにする。 20年の臨床経験を積み重ね、本や論文を書き連ねて来た著者が、 各論たちを俯瞰し、原論を生み出すことに挑んだ一冊。 ***著者はカウンセリングを次の3つに分類し、例を挙げながら、そこで行われることを詳細に説明していきます。・謎解きとしてのカウンセリング - 不幸を解析する・作戦会議としてのカウンセリング - 現実を動かす・冒険としてのカウンセリング - 心を揺らす なぜこの問題が起きていて、いかにすればそれが改善するのか。 これこそがインテーク面接で解き明かされねばならない謎であり、 そこにある「不幸という緋色の糸」を見出すことが カウンセリングの出発点でした。(p.157)インテーク面接(初回面接)で、カウンセラーはユーザーの置かれている環境や本人の性格構造、そして問題の経緯を詳しく聴取することで説明モデルを生成し、これをユーザーに伝えて、今後やっていくことについて合意するのが、この面接の役割だと著者は述べています。そして、これが「謎解きとしてのカウンセリング」というものです。 生存とは、困難な状況の中で、生き延びることを指します。(中略) いかに生き延びるか。カウンセリングは生存に取り組む。 実存は、その人独自の生き方のことを指します。(中略) いかに生きるか。(中略)カウンセリングは実存に「も」取り組む。(p.167)著者は「生存」と「実存」では抽象的だとして、「生活」と「人生」に言い換えます。そして、「生活」に関わるのが「作戦会議としてのカウンセリング」で、日常を立て直し、毎日を維持し、現実を破局の危機から守ることを目指すもの。一方、「人生」に関わるのが「冒険としてのカウンセリング」。誰とともに生きるか、何のために生きるか、自分とは何か、今まで生きてきた物語をつまびらかにし、紡ぎ直すことが試みられる、としています。読み進めるうちに、まるでカウンセリングの実際を目の当たりにしているかのような感覚に。学派に関わる記述は特に興味深く、著者が力動系の中の精神分析が専門というのも頷けます。 *** こういう心のプロセスを、ユング心理学は神話学の言葉を借りて 「死と再生」と呼んできました。 人生の危機とは、行き詰った古い自分が死ぬことであり、 新しいやり方で生きる自分が生まれることだという知恵が、ここにはあります。(p.335) 破局を心の次元で発生させ、そして生き延びることによって、 古い物語が終わり、新しい物語がはじまる。 これが生存のために犠牲になっていた実存を生き直すことでした。(p.413) 僕らは古い物語を背負っていて、それに執着することで、行き詰ってしまう。 そこには古い夢があり、古い幻想があります。 それは過去の大切な誰かからもらったものであったり、 植え付けられたものだったり、一緒に作り上げたものだったりします。 だからこそ、古い物語を終わらせることには痛みがある。 古い物語から離れるためには、 その過去の誰かとの心理的な別れを経験しないといけないからです。(p.418) これらを読んだ時に、真っ先に思い浮かんできたのが、先日読んだ『夏帆 The Tale of KAHO』。夏帆が描いた「ミソラの物語」って、「死と再生」の物語そのものではないでしょうか?そして、夏帆自身も同じように母親殺しを経て、古い物語を終わらせ新しい物語を始めた。村上さんの世界は、こんな背景を基に成り立っていたのですね。
2026.08.12
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副題は「”犯罪者”の作り方」。 著者は元厚生労働省事務次官の村木厚子さん。 2009年『郵政不正事件』で虚偽有印公文書作成容疑等で逮捕・起訴されましたが、 2010年9月の裁判で無罪が確定し、職場復帰を果たした方。 法務大臣の諮問機関である法制審議会『新時代の刑事司法制度特別部会』では、 『連合』元会長・神津里季生氏、映画監督・周防正行氏らと共に、 7人の市民委員の一人として、2011年6月から刑事司法制度改革の検討に加わりました。 その際の刑事司法専門家たちとのやり取りも、本著に赤裸々に記されています。 *** たしかに、被疑者・被告人が真犯人であれば、 本人に尋ねれば一定の真相に迫れるかもしれません。 しかし、被疑者・被告人が無辜である場合、事件の真相など知るよしもありません。 どれだけ問い詰めても真相には近づけませんし、 むしろ誤った結論に向かう危険すらあります。(p.118)「有罪率99.9%」が、いかにして生み出されているか。その詳細が、著者の大阪拘置所独房拘留中の体験を中心に綴られていきます。袴田事件等の殺人事件、痴漢冤罪事件、大川原化工機事件、東京五輪汚職事件、そして現在も報道が続くプレサンス事件等も取り上げ、人質司法の実態に迫ります。真犯人に真実を吐露させたい。しかし、その思いが強すぎると、無辜の人にありもしない犯罪を語らせてしまう。その狭間で、刑事司法専門家たちも悩み苦しみながら、最善を尽くしていると信じたい。ただ、その思いを裏切る行為が見られたり、冤罪がなくならなかったりするのが現状です。
2026.08.11
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みをつくし料理帖の第9弾。 燃え盛る炎の中からあさひ太夫を助け出した又次の最期の言葉 「頼む、太夫を、あんたの……あんたの手で……」 それを成し遂げるため、澪が動き始めます。 ***神帰月妻・お薗、娘・お花と一緒につる家を訪れた佐兵衛の賛同を得て、芳は柳吾の求婚を受け入れる。芳に代わってつる家で働くことになったお臼は、一柳仕込みの即戦力ですぐに大活躍。一方、澪は『鼈甲珠』を作ったあとの卵の白身を用い、源斉の助言を得て蒲鉾作りに成功。料理番付発表を考慮し、売り出しは来春からと言う種市を清右衛門が一喝、翌日から献立に載る。美雪晴れ料理番付は、登龍楼が『天の美鈴』で大関位となるが、つる家も『面影膳』で関脇位に返り咲く。澪は柳吾から一柳で修業するよう誘われるが、『鼈甲珠』で成し遂げたいことがあると断る。年末年始を芳と共に一柳で過ごす中、その板場を見て自身はどんな料理を作っていくか考える澪。七草の後、つる家を訪れた摂津屋助五郎が野江の諸事情を知ったと分かると澪も全てを打明ける。華燭柳吾がつる家の新しい料理人として連れて来たのはお臼の夫・政吉で、如月朔日から調理場に。あさひ太夫が源斉と共に化け物稲荷に参拝する姿を、澪は身を潜めつつ見つめ、その無事を祈る。初午前夜、つる家は店ゆかりの面々に佐兵衛も加わって宴を催し、翌朝には芳らを見送る。そして祝言の後、柳吾は今後育ててみたい料理人として、澪と佐兵衛の名を挙げたのだった。ひと筋の道初午から半月程経ち、芳は一柳の名女将として評判が立ち、吉原では花見見物が行われるとの噂。澪は弥生朔日を鼈甲珠の商い始めと決め、吉原の規を知らぬまま振売りに挑むが散々な目に遭う。一方、伊勢屋は失火の責めを負い、店主・爽助は身柄を拘束されるが、美緒は皆を守るため奮闘。その姿に励まされ、澪は翁屋と摂津屋の助力を得て、普請中の翁屋の軒先で再始動する。 ***澪の鼈甲珠は評判を呼び、弥生晦日の後も卯月末まで翁屋に卸し商ってもらえることに。清右衛門が褒めたように、摂津屋助五郎の力添えが澪にとって大きな助けとなりました。そして、料理人としてどう生きれば良いのかについても源斉の言葉が澪を迷いから解き放ちます。今巻巻末には、何と特別収録まで収められており、充実度が半端ない!特別収録 富士日和目黒行人坂の茶屋で、御前奉行・小野寺数馬と相模屋店主・紋次郎が出会う。紋次郎が持つ手持ちの弁当に入っていた湯葉の料理から、相模屋の白味醂へと話が弾む。紋次郎の弁当を作った料理人の手による『琥珀寒』という料理を、勧められ口にした数馬。「そうか、お前はここまで来たのだな」と、口中の幸福を飲み下したのだった。
2026.08.08
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みをつくし料理帖の第8弾。 燃え盛る炎の中からあさひ太夫を助け出した又次の最期の言葉 「頼む、太夫を、あんたの……あんたの手で……」 それを成し遂げるため、澪が動き始めます。 ***残月三方よしの夜、つる家を訪れた御用商人・摂津屋助五郎は、あさひ太夫の無事を伝えると、太夫と澪の関係や又次の最期の言葉の意味を問うが、澪がそれを語ることはなかった。澪は、又次の初盆に用意する膳を、盂蘭盆会の三日精進として店で出すことを種市に提案、苦労の末に完成させた氷豆腐を用いた揚げ物をそこに加え、『面影膳』として好評を博す。彼岸までつる家に訪れた内藤新宿・藤代屋が、澪の作った剥き物に目を留めたことを契機として、その妻・しのぶ(元翁屋新造・菊乃)が知る元宿場女郎・お薗の夫・捨吉が佐兵衛だと分かる。出水騒ぎの後、俎橋に姿を現した佐兵衛は、芳、澪、柳吾の前で料理の道には戻らないと宣言。柳吾からの労わりの言葉に涙した佐兵衛は、澪に登龍楼にだけは決して関わるなと念を押す。みくじは吉登龍楼本店に招かれた澪は、吉原新店の板長に迎えたいと言う店主・采女宗馬に四千両を要求。吉原で商うに相応しい逸品を作れたら考えてやらぬでもないという采女との賭けに応じることに。翁屋の寮で静養中のあさひ太夫と再会すると、その際に手渡された懐かしい『こぼれ梅』を用いて卵料理『鼈甲珠』を完成、清右衛門の上機嫌に背中を押され登龍楼に乗りこんで宗馬と対峙する。寒中の麦あさひ太夫に関わる全事情を清右衛門から聞いた種市は、澪をつる家から送り出す覚悟を決め、清右衛門は、澪に登龍楼の新作料理『天の美鈴』を語り、真の勝負は吉原再建後だと檄を飛ばす。一方、美緒が仕出しを引き受けた旅籠『よし房』の店主・房八が後添いを貰う内々の祝宴の後、一柳の今後を巡って坂村堂と激しい口論の途中倒れた柳吾を、芳が一柳で看病することに。芳は、御用商人の養子縁組顔合わせの宴を自ら行うという柳吾を押しとどめ、部屋替えも助言。さらに父子が和解へと向かうよう、目立たぬように双方に働きかける。床上げの日、芳と澪を招いた柳吾は、20日に渡り手厚く看護してくれ芳に感謝の言葉を述べ、残る人生を共に歩みたい、私のもとにいらしてくださいと語りかけたのだった。 ***本筋のお話ではありませんが、今巻ではおりょうや夫・伊佐三、息子・太一に動きがありました。太一は地面に描いた夕顔を絵師・辰政に褒められ、辰政自らが描いた絵手本を手渡されます。また、伊佐三が親方のために、妻や息子と共に裏店から引っ越すことに。さらに、早帆や美緒も登場し、近況を知らせてくれています。
2026.08.01
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