フリーページ
国際法を犯し、ウクライナを侵攻したロシアを糾(ただ)す狙いは分かる。しかし、心に響かなかった。足元のこの国がそれとは縁遠いからだ。
ここしばらく世間を騒がせてきた2つの事件が脳裏をよぎった。芸能プロのジャニーズ事務所の前社長だった故ジャニー喜多川氏による性加害事件と、いまだ終結が見えない旧統一教会問題だ。
双方には共通項がある。ともに半世紀前から指摘されていた問題だ。ジャニーズ問題では所属タレントらの告発本に加え、週刊誌の追及もあった。ジャニーズ側か週刊誌側を訴えた訴訟では、喜多川氏による性加害の事実が認定された。統一教会問題も何回か世間の耳目を集めた。
だが、ともに強い権力を持つ人物が問題の解決に立ちふさがった。事務所を運営する喜多川姉弟や教団と密接な関係にあった安倍晋三元首相らだ。彼らが亡くなるまで「パンドラの箱」は開かれず、他界するや堰を切ったように世間の断罪の対象となった。
こうした人物たちの周辺にいた人びとの動揺を見るにつけ、往時の支配力の強さがくっきりと浮かび上がる。
こうした流れは芸能界と政界の違いはあれ、この社会では「法の支配」よりも「人の支配」が勝っていることを示しているように思える。ちなみにここでの法は、理性に基づく普遍的な倫理を意味する自然法のそれに近い。
芸能界はかつて市民社会の枠外に息づいていた。性加害の醜聞はそうした構造と無縁ではない。ただ、政界にその種の言い訳は通らない。
「法の支配」に背を向ける傾向は安倍政権で強まった。人事で官僚を掌握し、自らに近い人物を登用する。 内閣法制局長官を代え、集団的自衛権の行使を容認する安保関連法を制定した。 森友、加計学園問題、桜を見る会問題でもその手法は垣間見えた。
だが「人の支配」に伴う副作用は危険だ。支配で憂き目を見た者は抵抗に手段を選ばない。つまりはテロリズムの誘惑を呼び覚ます。
実際、安倍氏は凶弾に倒れた。動機は不透明だが、今年4月には岸田首相も選挙応援中、爆発物を投げられた。
弊害はテロの誘発だけではない。「人の支配」は社会を蝕(むしば)む。そうした社会では能力や努力よりも、権力者に気に入られることが「成功」の機軸になる。 従順さやゴマすりが幅を利かせれば、創造力や倫理は衰える。この国の「落日」を加速させている要因の一つであることは明白だ。
公邸での乱行などで首相の子息である首相秘書官が更迭された。縁故主義は最も単純な「人の支配」である。
首相の「法の支配」が空しく響いた一因は自らの振る舞いへの無自覚さに根ざしている。
(論説委員兼編集委員)
愛国心強制、民主主義と相反(12日の日… 2026年08月12日
DEI:「南の隣国」とは別世界(11日の… 2026年08月11日
今上天皇は第3代天皇だ(10日の日記) 2026年08月10日
PR
キーワードサーチ
コメント新着