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ジュディス・バトラー氏(67)は、ドイツ・東欧圏から米国に移住したユダヤ人の家に生まれた。母方の親族の多くは第二次大戦中、ハンガリーで殺された。
幼少よりユダヤ教信者の集会所に熱心に通い、ユダヤ思想を深く学ぶ。二十歳のころは「イスラエルなんて人種差別政策の南アフリカと同じだ」と難じる友人に夜通し反論する学生だった。
それが今、イスラエルとイスラム組織ハマスの停戦を求めて昨年10月、米連邦議会議事堂を一時占拠した団体「平和のためのユダヤ人の声」に加わっている。
自分という人間は、個人を超えた「ユダヤ性」に根ざしているという強烈な自覚。一方で、イスラエルがパレスチナ人を迫害し続ける正当化できない現実。
シオニズム(ユダヤ民族国家建設運動)からの離脱は、ハマスのイスラエル襲撃のはるか前に始まった、20年越しの「魂を引き裂き、自らをずたずたにちぎる」ような経験だったという。
葛藤の跡を分厚い本に書いた。題は「分かれ道」(2012年、翻訳は19年)。 長く共に歩んだ同胞と別の道を行くほかないが、断じて反ユダヤ主義にはくみせず、ユダヤ人であり続けるとは、どのようにあることか。 難渋な思想書なので、なかなか読み終わらない。でも、なぜか手放せない。
バトラー氏は、第3波フェミニズムの思想家。男女の差異に生物学的なセックスと別の、社会的・文化的なジェンダー概念を持ち込んだのが第2波なら、第3波はセックスもジェンダーも男女両極に分かれるのではなく、万人に万人のジェンダーがあるという。
第2波の前提だった「女たち」というくくりも解体してしまうので、フェミニズム同士の反目も起きる。16年米大統領選でヒラリー・クリントン氏がドナルド・トランプ氏に敗れた一因は、若い女性層がヒラリー批判のリベラル急進派か、無関心かを選んだからだという説得的な分析がある。
トランプ氏は「自分が大統領だったらウクライナ戦争はなかった」と言うが、イスラエルの暴走は止めないだろう。バトラー氏はトランプ氏再選にもちろん反対するはずだ。分かれ道は、ねじれ、時に交差し、並行する。それでも分かれ道はある。
(専門編集委員)
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