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天皇機関説とは、当時日本固有の神的存在とされた天皇を、近代国家の社会システムに整合させるために考案された憲法学説で、「天皇は国家の最高機関であり憲法の枠内で権能を有する」という、立憲君主国の原則に準ずるものだった。
だが、天皇を絶対的権威と見なす思想家の蓑田胸喜や、菊池武夫ら軍人出身の政治家、右翼の活動家は、この学説に「天皇への不敬と国体の破壊」と言いがかりをつけ、機関説提唱の憲法学者で貴族院議員の美濃部達吉を「学匪(がくひ)」「国賊」と激しく罵倒して社会から排撃することに成功する。
本書は、この異様な政治闘争の進展を臨場感あふれる膨大なディテールで描き出す大作である。
美濃部や蓑田の人となりにさまざまな角度から光が当てられ、宮沢俊義ら憲法学者の立ち回り、機関説攻撃の背後にあったとされる一木喜徳郎枢密院議長の失脚をもくろむ策略、 侍従には「機関説支持」を伝えながら美濃部擁護の行動をとらず事態を事実上傍観した昭和天皇の態度など、重層的な描写で当時の空気感が生々しく描かれる。 一連の出来事についての、当時東京帝大生だった丸山真男や、三島由紀夫の言動も興味深い。
同時代の新聞記者や庶民は、重大な社会の地殻変動が起きているという認識が薄かったが、 天皇機関説事件は、理性が感情に、道理が誹謗(ひぼう)中傷に敗北し、主観的な天皇崇拝の大義名分が際限なく肥大化するきっかけとなった。 「国体」という2文字を居丈高に振りかざす言いがかりの標的となった者は、沈黙と萎縮を強いられた。この事件以降、日本国民は不穏な空気に包まれながら、戦乱の時代へと突き進んでいくことになる。
(戦史研究家・山崎雅弘)
◆平山周吉著「天皇機関説タイフーン」(講談社刊)¥3,080.-
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