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2015.09.19
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カテゴリ: 読書案内
【村山由佳/放蕩記】
20150919

◆母の、娘に対する異常なまでの干渉と束縛
読み出したら止まらなくなってしまった。
この小説のリアリティーさにたじたじとなってしまい、どうしようもないのだ。
「これはあくまで小説なんだ」と、自分に言い聞かせつつも、ついつい夢中になってしまう。
テーマとなっているのは、母と娘の切っても切れないしがらみである。
この関係性を単なるホームドラマのような形で完結させていないことに、度胆を抜いた。
主人公の夏帆が味わった、幼いころの母への恐怖感もさることながら、奔放な性関係、シニカルで大人びた学生時代など、それはもう衝撃的な展開なのだ。
それなのにちっともドラマチックじゃない。
ほとんどすべてが現実味を帯びて、たゆたゆと流れている。
さらには、ものすごい臨場感にあふれた生々しさを感じさせるのだ。

(あとから気づいたのだが、文庫本の裏表紙にも“感動の自伝的小説”とあった)
とはいえ、小説の宿命でもあろうが、読者という存在を無視はできないので、ところどころの脚色は当然施しているに違いない。

あらすじはこうだ。
売れっ子小説家として活躍する夏帆は、母親への嫌悪感や反発心から逃れられないでいた。
7つ年下の恋人・大介は、定職もなくぷらぷらしている身だが、複雑な精神構造を抱える夏帆をメンタル面で支え、肉体的にも充分な悦びと満足感を与えていた。
夏帆は、上に2人の兄と下に1人の妹を持つ長女だったが、要領の良い妹とは対照的に、母親に対しいつも複雑な感情を抱いていた。
母の大阪弁で遠慮のない物言いは、夏帆の気持ちを逆立てるのに充分で、大学生になった娘にまで必要以上に干渉したがるのも異常だった。
まだ小学生の夏帆に向かって夫婦の営みについて語ったり、夫の浮気のグチをこぼし、決して耳にしたくはないことをつらつらと聞かされる夏帆は、ますます母親への嫌悪感を募らせる。
38歳となった現在、夏帆は改めて母と向き合おうとしていた。
母は、認知症を患っていたのだった。

主人公の夏帆は、決して珍しいタイプではない。

親の束縛から必死に逃れようとする思春期の反抗も、皆が通る道には違いない。
著者は、ミッション系の私立小・中・高一貫教育を受け、しかもずっと女子校で様々な体験をして来たようだ。
大学は男女共学の立教大学文学部卒とのことで、それまでの呪縛から思い切り解放されたかのように性を謳歌している。

読者にしてみれば、もしかしたらまゆつば的な内容もあり、素直に信じられないようなくだりもあるかもしれないが、私個人からすれば、充分真実味があって好奇心をくすぐられた。
ぜひとも読み下してもらいたいのは、躾という名のもとに厳しく育てた母親の破綻した性格と、唇をギュッとかみしめて耐える娘の母親への軽蔑と嫌悪感である。

老いて認知症を患った母への複雑な心境も、見事な筆致である。
難を言えば唯一、性への貪欲さとか交遊についてのあれやこれやは、惜しいかな、柳美里を越えられず、常識の範疇を出るものではなかった。
(無論、それなりに乱交描写はあるが)
村山由佳が衝撃の真実を語った逸作である。

『放蕩記』村山由佳・著



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★吟遊映人『読書案内』 第2弾は コチラ から



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最終更新日  2015.09.19 06:03:02
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