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2015.10.04
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カテゴリ: 読書案内
【石坂洋次郎/青い山脈】
20151024

◆戦後日本の若者たちの青春を、みずみずしく描く
今、街の書店で『青い山脈』を手に入れようと思っても、まず手に入らない。すでに絶版である。
私はどうしても読みたくて、アマゾンの中古本で購入した。
図書館で借りても良かったのだが、何となく手元に置いておきたかったのだ。

『青い山脈』は戦後の大衆小説としてはミリオンセラーとなった作品である。
当時は絶大な人気を誇り、昭和24年には原節子主演で映画化もされている。
現代風に言ってしまえば、青春小説というカテゴリに区分されて差し支えないだろう。
平成の若い人たちには「古臭く」感じられるかもしれないが、敗戦後の混沌とした世の中に、一条の光が射し込むかのような健全でみずみずしい作風は、正に新しい時代を予感させるものだった。

著者は石坂洋次郎で青森県弘前市出身、慶応義塾大学文学部卒である。
『青い山脈』は、巻末の解説によると、昭和22年の朝日新聞の連載小説として発表されたとのこと。


あらすじはこうだ。
終戦後まもなく、金谷六助はドイツ語の教科書を開きながら店番をしていた。
そこへリュックを背負った女学生が米を売りに来た。
手元に現金のない農村の者たちは、こうして米を売って現金をもらい歩いたのである。
六助は店主の父親が留守していたこともあり、勝手に5升250円で買い取ることにした。
ひょんなことから女学生の寺澤新子に半ば強引に食事の仕度を頼んだ六助は、新子といっしょに昼飯を食べた。
後日、新子は一通の手紙を持って職員室を訪れた。
若い新任の島崎雪子にその手紙を見せるためである。
雪子は、民主主義が導入された今、手紙の検閲などは決してするつもりはなかったが、新子が深刻な問題を含んでいると言うので、あえて読んでみることにした。
するとそれは稚拙なラブレターであった。
ところが新子によれば、それを書いたのは同級生のしわざではないかと言う。

雪子は悩んだ末、新子にはしばらく学校を休むように伝え、この件について調べてみることにした。
さっそくラブレターと生徒たちの作文帳を照らし合わせ、その筆跡を鑑定してみたところ、該当者らしき女学生が判明した。
確かにその女学生の押しの強さやらクラスの仕切り屋的な性格からして、この偽ラブレターを書いたに違いなかった。
雪子は暗澹たる気持ちで頭を抱えていると、校医で独身の沼田から声をかけられた。
雪子は思い切って、新子の持って来たラブレターとその経緯について、沼田医師に意見を聞いてみることにしたのだった。


だが読み方によっては、その若者を教育者としての立場から新しい学校教育制度のもとに指導していく島崎雪子と、医師である沼田とが戦後の日本を立て直していく象徴とも捉えられる。
平成の世を生きる私たちに、過去の小説は現代社会に適応しないと思いがちである。
だが『青い山脈』を読むと、新しいのである。
社会が時代とともに変革し、変わろうとしているとき、私たちは過去の常識に囚われず、伝統を敬いながらも新しい一歩を踏み出さなくてはならない。
作中、左翼運動についての描写があるので引用しておく。

「彼等がそのころ政治運動に熱中したのは、理想を追求したという一面もあろうが、危険とスリルと反抗に青春のはけ口を求めた。極端にいえば胸をドキドキさせるものなら何でもいゝ。そういう心理が底強く働いておつたのだと思います」

これが事実であろう。
だとしたら、私たちはもっと冷静に世の中の動きを確かめる必要がある。
戦後70年、時代は変わった。
日本を取り巻く環境もさらに変わった。
善良な国民が世界の恥さらしになってはいけない。
もっと地球規模で、日本の立ち位置を考えるべきだ。
『青い山脈』は、それまでの因習にとらわれた日本独自の封建制から、人間性に即した民主的社会への移行期を、健全な青春小説として完成させた逸作である。
若い人たちが古典を読むつもりでこの本を取ったとき、新しい風を感じるのに間違いはない。
図書館で借りてでも一読をおすすめしたい一冊だ。

※図書館では「石坂洋次郎作品集」の中に『青い山脈』が収められているかもしれない。

『青い山脈』石坂洋次郎著



コチラ から
★吟遊映人『読書案内』 第2弾は コチラ から



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最終更新日  2015.10.04 12:31:33
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