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2023.09.02
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カテゴリ: 読書案内
【 笹沢左保 / 愛と孤独と 】

六十代の女性が美容院などで愛読する雑誌に『素敵なあの人』がある。(五十代の私なんかもわりと読んでいるけれど)
その雑誌に連載している冨士眞奈美(※敬称略)のエッセイは白眉である。(わずか1頁の記事だけど)
内容としては、著名な俳人の句と冨士眞奈美本人の作った句を取り上げて、日常のあれやこれやを語るのである。
女優・冨士眞奈美は作家としての一面も持ち合わせ、その才能は多岐にわたる。
私の卒業した高校の先輩であり、卒業生皆の憧れの的と言っても過言ではない。

ところで今回なぜ冨士眞奈美の話題を冒頭から導入したかと言えば、『愛と孤独と』に登場するヒロイン光瀬亜沙子のモデルとなった御仁だからである。
つまり、『愛と孤独と』は著者である笹沢左保の私小説なのだ。
だが残念なことに、巻末の解説によると「(笹沢左保がこの告白小説を)書いていること自体が苦痛になって連載を途中で打ち切ってしまった」とのこと。
私としては短編小説として捉えていたため、何ら違和感は覚えなかったけれど、本来なら続きがあるのだと言われれば、素直にその先を読んでみたい気もするーー


作家の「ぼく」は、六本木のバーで売れっ子女優の光瀬亜沙子と半年ぶりに再会した。
亜沙子は裏表のないサッパリとした性格で、知的な女性だった。
自分とは十歳ぐらいの歳の差があるが、人見知りのぼくは、不思議と亜沙子の前では自然体になれた。
その場限りの付き合いである知人なら何百人といるが、亜沙子とはそうではなかった。
ウマが合うーーと言ってしまえばそれだけなのかもしれないが、ぼくと亜沙子の場合、それ以上の何かがあったことは確かだ。
しかし忘れてならないのは、ぼくにはすでに妻も子もいるという現実なのだ。
もちろん、2人の息子はかわいい。
だが妻とはギクシャクしていて家庭内別居をして久しい。
さらに、ぼくには宗方悦子という存在もあった。
デザイナーであり、自立した女性だが、愛人と呼んでよいものか、男女の関係を長いこと続けている。
この先、亜沙子との関係がどうなっていくかは別としても、宗方悦子とは遅かれ早かれ精算しなくてはならない。

これまでのように、ぼくらは気軽に会うことはできなくなってしまう。
週刊誌の記者から、亜沙子との密会をすっぱ抜かれ、追いかけられる日々の中で、自分はただただ小説を書くことに没入するしかなかったのである。

笹沢左保と言えば売れっ子作家で、時代小説・ミステリー小説が何百本もTVドラマ化されるなど、その名を知らない人はいないと思われる。
代表作に『木枯し紋次郎』シリーズ、『ドライバー探偵夜明日出夫の事件簿』シリーズなど多数ある。
晩年のいかりや長介が出演し、主役に扮した刑事ドラマシリーズ『取調室』も、笹沢左保の原作である。

浮いた話がいくつもあって当然。
大人の恋愛なので、誰も文句は言えまい。
それにしてもモテる。
ご本人は決して自慢のつもりではないだろう。
週刊誌の記者から追い回されて、辟易しているのは文章から伝わってくる。
苦悩の日々を送っていることもよく分かる。
そうは言っても、、、モテる男の自慢話にしか思えないのは私だけだろうか?
もしかしたら笹沢左保本人も、自分を客観的に捉えたとき、そこに気付いてしまったのかもしれない。
だからこそ打ち切りという形でこの私小説にピリオドを打ったのであろう、、、などと私は想像してしまう。

それにしても笹沢左保の受けた打撃は相当なもののようであった。
スキャンダルとしてマスコミに騒ぎ立てられたことにより、食べ物が喉を通らなくなり、不眠症に陥ってしまった。
酷い精神的苦痛を強いられたことにより、仕事にも支障をきたすようになったのである。昭和という時代性もあり、芸能人に人権なんてあってないような扱いだったのは、なんとなく私にも覚えがある。

とは言え、その後の笹沢左保の残した多くの作品や精力的な活動を見れば、人生のどん底も一つの過程として上手く昇華していたことが理解できる。
『愛と孤独と』は笹沢左保の中ではイレギュラーなタイプではあるが、作家の素顔が垣間見られて興味深い内容となっている。
日頃、偏った読書傾向のある方など、純文学の箸休めにでもいかがだろうか?

『愛と孤独と』笹沢左保・著



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最終更新日  2023.09.02 06:00:12
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Re:読書案内No.207 笹沢左保/愛と孤独と 愛とは孤独で苦しいもの--妻子ある男の苦悩を綴る(09/02)  
水口栄一 さん

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