
これは、常連のYさんのリクエスト「シャンパーニュとホタルイカ料理」というリクエストにこたえて作った平目のシャンパーニュ蒸し、ホタルイカ添え。原型はフェルナン・ポワン(かつて究極の三ツ星レストランと言われたレストラン・ピラミッドのシェフでポール・ボキューズやアラン・シャペルやトロワグロ兄弟の師匠に当たる偉大なシェフ。)のFilet de turbot au champagne平目のシャンパーニュ蒸し。
フランス料理の神様というと、オーギュスト・エスコフィエが有名です。エスコフィエは19世紀の終わりから20世紀の初めにかけて、ホテル王と言われたセザール・リッツと組んで欧米各地に有名ホテルを立ち上げ、現代のレストランのシステムを作り上げ、フランス料理の旧約聖書と言われたギード・キュリネールという6000余りに上る正確なレシピ集も著わしている。
エスコフィエは手間も原価もかけ放題の宮廷料理をホテルやレストランという営利目的の場に見合った仕事にするために、料理の簡潔化に努めたと言われているが、当時の一流ホテルは王侯貴族や大金持ちしか利用しなかったので、エスコフィエの料理でさえも今の時代から見ると、手間や原価がかかりすぎるんですね。それにやはりバターや生クリームがたっぷりで重い料理です。
フェルナン・ポワンは、リヨン郊外の田舎町ヴィエンヌのレストラン・ピラミッドに世界中のグルメを集めたシェフですが、彼の料理は、エスコフィエの仕事をさらにシンプルに簡潔化したものといわれています。まあ、いわば現代フランス料理の源流と言っていいでしょう。実際、ポール・ボキューズを始め、現代のフラン料理の有名シェフのほとんどが、ポワンの弟子筋に当たると言って過言ではありません。ポワンの弟子孫弟子曾孫弟子の星を合わせたら、軽く100は超えるでしょうし、例えば、日本の三国シェフもポワンの愛弟子アラン・シャペルやトロワグロ兄弟の弟子ですから、ポワンの孫弟子というわけです。また。ポール・ボキューズに学んだ日本人シェフはかなりの数がいて、その人たちもすべてポワンの孫弟子というわけです。世界中に一体何人いるのか?というくらいその影響力が大きい偉大な料理人です。
そのポワンの料理の中でも有名な料理の一つが平目のシャンパーニュ蒸しなんですね。まあ、もっともそのまま作ると、古色蒼然たるクラシックな料理なんですけどね。平目をそのアラで取った出汁フメ・ド・テュルボとシャンパーニュ酒にエシャロットやマッシュルームやトマトの果肉などと一緒に蒸し煮にします。魚に火が通ったら、鍋から出して保温しておきます。煮汁を煮詰めて生クリームを加えてさらに煮詰めます。脂肪分が分離する寸前位まで煮詰めると、その時点で脂肪分は60%を超えるくらいでしょうか、、。それをさらにソース・オランデーズ(卵黄とバターの上澄みで作ったマヨネーズ状の濃厚なソース)でリエ(ソースをつなぐこと)します。そのソースを皿に盛った平目にかけて、サラマンダー(上火だけのオーブンで瞬間的に焦げ目をつけることができる)で、グラッセ(つやが出るくらいに焼き色をつける)して仕上げます。エスコフィエの前の時代にロシア宮廷料理人だった、エドワール・ニニョンというシェフのレシピを見るとオアマールのグラタンを作るのに一人前にバターを200グラムも使い、仕上げにフォン・ド・ヴォーを20倍に凝縮したとてつもなく濃いグラス・ド・ヴォーを入れるという凄まじいレシピ(動脈硬化と痛風にまっしぐらみたいな、、、)と比べれば、ポワンの平目にはその半分もバターは使われていませんが、それでも今の時代にあってはかなり重い料理です。
ポワンは、2メートル近い長身で体重も余裕で100キロは超えていましたし、朝に夕にシャンパーニュのマグナム(2本瓶で1.5リットル)を水代わりに飲んでいたそうですから、彼にとってはとっても軽い料理だったのかもしれませんが、、、。生前のポワンの口癖は「バターだ。バター。もっとバターだ!」だそうですから、、、戦前戦後の時代のフレンチはまだかなりリッチだったんですね。
私の作った上の画像の料理には魚の出汁も生クリームも一滴も入ってないし、バターも20グラムくらいしか使ってないです。それでも、しっかり旨味があっておいしいですよ。仕上げに南仏産のドライトマトのパウダーを振ってあります。それでソース・ショロン(ソース・オランデーズにトマトを加えたソース)的な雰囲気を出しています。
バターやクリームを極端に減らすと、なかなかフランス料理らしい雰囲気が出しにくいんですし、美味しく仕上げるのも難しいんです。平目とシャンパーニュの旨味だけを素早く煮詰めて、香りとうまみを凝縮したものを少量のバターでしっかりと濃度のある状態につなぐのには高度な技術が必要です。
もともと、クラシックなフランス料理のソースのテクニックでは、いかにたくさんのバターや生クリームを上手にソースに乳化させるか、脂肪分を分離させないように混ぜ込むかが、職人の技量だった時代があったんですね。私ももしやれと言われれば、大匙1杯の水にバターを1キロでも2キロでも乳化させるくらい簡単です。しかし、逆に小さじ1/2杯の水分にバター20グラムでしっかりリエされたソースを仕上げるのは、もっとずっと難しいです。それをやっているわけです。旨味が凝縮され、塩も適度に決まっていてしっかりリエされた少ないバターのソース。いろんな意味で、バランスが完璧でないと美味しさが表現できないんですね。
私も若いころは結構バターを多めに使ってましたね。一皿に50グラム以上も使っていたかもしれませんが、最近はソースに全くバターやクリームやオイル類を使わないことも結構多いですし、使ってもせいぜい20グラム程度でしょう。おかげで、サンク・オ・ピエの料理はボリュームもあるんですが、あまりもたれないんですね。
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