今から9年前、2011年3月に始まったシリアの戦乱は今でも続いている。この戦乱を日本を含む西側の有力メディアは「民主化運動の弾圧」を切っ掛けとする「内戦」だと今でも宣伝してきた。
しかし、2012年6月の段階でメルキト・ギリシャ典礼カトリック教会の聖職者は「 もし、全ての人が真実を語るならば、シリアの平和は守られる。1年にわたる戦闘の後、西側メディアの押しつける偽情報が描く情景は地上の真実からほど遠い 。」と指摘していた。しかもシリア政府軍が戦っている相手が外国からやってきた戦闘員だとローマ教皇庁の通信社に報告しているのだ。
シリアより一足先、2011年2月にリビアでも戦争が始まっている。その年の10月にムアンマル・アル・カダフィ体制は倒され、戦闘員と武器/兵器はシリアへ運ばれている。NATOが制空権を握ってリビア政府軍を空爆したことが大きいが、その際、地上部隊の中心がアル・カイダ系でイギリスと歴史的に関係の深いLIFGだということが明確になる。
アメリカを含むNATOがアル・カイダ系武装集団と手を組んでいることを知る人が増えたこともあり、バラク・オバマ大統領はシリアで支援している相手を「穏健派」だと主張するが、アメリカ軍の情報機関 DIAはその主張を否定する報告書を2012年8月、ホワイトハウスに提出 している。
本ブログでは繰り返し書いてきたが、その報告書はシリアで政府軍と戦っている主力をサラフィ主義者やムスリム同胞団だとし、戦闘集団としてアル・カイダ系のアル・ヌスラ(AQIと実態は同じだと指摘されていた)の名前を挙げていた。支援の相手は穏健派でないということだ。
また、オバマ政権の政策はシリアの東部(ハサカやデリゾール)にサラフィ主義者の支配地域を作ることになるともDIAは警告していたのだが、支援は継続された。
その警告が現実になったのは2014年1月。イラクのファルージャでサラフィ主義者やムスリム同胞団が「イスラム首長国」の建国を宣言、6月にはモスルを制圧する。ダーイッシュ(IS、ISIS、ISILとも表記)の売り出しだ。
その際、ダーイッシュはトヨタ製小型トラック「ハイラックス」の新車を連ねた「パレード」を行い、その様子を撮影した写真が世界に伝えられた。偵察衛星、無人機、通信傍受、人間による情報活動などでアメリカの軍や情報機関は武装集団の動きを知っていたはずであり、パレードは格好の攻撃目標だったはず。ところがアメリカ軍は動かなかった。
こうした事態になったことを受け、オバマ政権の内部で武装勢力に対する支援を巡って対立が激しくなり、マイケル・フリンDIA局長は2014年8月に退役させられてしまう。
そのフリンは2015年8月にアル・ジャジーラの番組でダーイッシュの勢力を拡大させた責任を問われ、自分たちの任務は正確な情報を提出することにあり、 その情報に基づいて政策を決定するのはオバマ大統領の役目 だと反論した。
サラフィ主義者(ワッハーブ派、タクフィール主義者)やムスリム同胞団を傭兵に使った侵略はオバマ大統領が2010年8月に承認したPSD-11に基づいている。
これはオバマの師にあたるズビグネフ・ブレジンスキーが1970年代の後半にアフガニスタンで始めた作戦の真似だが、イギリス政府のアドバイスも影響したと言われている。
イギリスは2003年3月にアメリカと一緒にイラクを先制攻撃したが、サダム・フセイン政権を倒した後の統治に苦労する。そこでトニー・ブレア英首相はジョージ・W・ブッシュ米大統領に対し、非宗教政権を倒してムスリム同胞団と入れ替えるように求めたという。(Thierry Meyssan, “Before Our Very Eyes,” Pregressivepress, 2019)
ムスリム同胞団は歴史的にイギリスと関係が深いが、アメリカの国務長官だったヒラリー・クリントンが最も信頼していたと言われているヒューマ・アベディンもムスリム同胞団と結びついている。母親のサレハはムスリム同胞団の女性部門を指導している人物だ。
シリア侵略にはアメリカとイギリスのほか、フランス、サウジアラビア、イスラエル、カタール、トルコなどが参加、それぞれの国が雇った傭兵が送り込まれたようだ。
ダーイッシュもそうした傭兵がつけているタグのひとつだが、この武装集団にはサダム政権の軍人が参加しているとも言われている。調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュは2007年にニューヨーカー誌で、 ジョージ・W・ブッシュ政権がシリア、イラン、そしてレバノンのヒズボラを最大の敵だと定め、スンニ派と手を組むことにした と書いているが、フセイン体制の残党はスンニ派だ。この決定とオバマのPSD-11はつながっているのだろう。
シリアの戦乱はアメリカなど外国勢力による侵略であり、内戦ではない。戦っている主力は外国からやってきた傭兵であり、シリアの民主化勢力ではない。西側の有力メディアは侵略を支援しているのだ。かつて日本の新聞社は侵略戦争を推進するために「大東亜共栄圏」を宣伝していたが、それと大差のないことを行っていると言える。