・安斎勇樹、塩瀬隆之『問いのデザイン 創造的対話のファシリテーション』は、単なる「質問の技術」を超え、組織やチームの創造性を引き出す “ 思考の構造化 ” を扱った実践的思索書である。著者の安斎勇樹は、東京大学特任講師であり、企業や行政のワークショップを多数設計してきた実践家。その経験をもとに、「良い問い」がどのように人の思考を動かし、創造的な協働を導くのかを体系化している。
・創造的な成果は「良い答え」からではなく、「良い問い」から生まれる。 会議でアイデアが出ない、議論が浅い、同じ意見ばかり繰り返される ―― その根本原因は「問いが貧しい」ことにある。つまり、問いが閉じていれば、思考も閉じる。逆に、問いを開くことで思考の地平が広がり、参加者全員の視点が立ち上がる。安斎はこの「問い」を、ただの発問ではなく、「思考の枠組みを再設計するためのツール」として扱う。そのために、問いの設計を「デザイン」と呼ぶ。
・本書では、問いを 4 つのタイプに整理している。
1. 拡散の問い( Divergent Question ) 可能性を広げ、発想を促す問い。例:「この課題をまったく違う視点で見たらどうなるか?」
2. 収束の問い( Convergent Question ) 選択肢を絞り、結論へ導く問い。例:「最も重要な要素は何か?」
3. 再定義の問い( Reframing Question ) 問題の見方そのものを変える問い。例:「そもそも、これは “ 問題 ” なのか?」
4. メタの問い( Meta Question ) 問いそのものを振り返り、問いの質を上げる。例:「私たちはいま、正しい問いを立てているか?」
この構造を意識して設計することで、対話は偶然ではなく“意図的に創造的”になっていく。
・前半では、「問い」が組織の思考をどう制約しているかを分析する。会議や研修での典型的な「悪い問い」(正解を誘導する、結論を前提にする、誰も傷つけない無難な問い)を挙げ、そこから脱するための理論的枠組みを提示する。
・中盤では、ファシリテーターがどのように問いをデザインし、場のエネルギーを変えていくかを具体的な事例で解説。企業のイノベーションワークショップ、行政のまちづくり、教育現場など、多様な現場のプロセスが紹介される。
・終盤では、「問いを立て続ける文化」をどう組織に根付かせるかに焦点が移る。問いのデザインを単発の技術で終わらせず、チームの思考習慣として内面化するためのフレームワークがまとめられている。
・中堅層が直面する課題は「正解を出す」ことではなく、「前提を問い直す」ことにある。経験と責任の板挟みの中で、組織を動かすには“問いの力”が不可欠だ。安斎は「問いを立てることは、リーダーシップの再定義である」と説く。正しい答えを持つ人より、良い問いを投げかけ、他者の思考を触発する人こそが次の時代を動かす。
・要するに、本書は「問い」を通じて思考と組織を再構築するための実践的ガイドである。
ファシリテーションの技法書というより、思考の “
”
。
ビジネスの現場で沈黙が生まれるその瞬間にこそ、問いの力が試される。
問いのデザイン 創造的対話のファシリテーション [ 安斎 勇樹 ]
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