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2004年02月21日
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  「黒い御飯」  永井龍男
 家からその印刷所へ行くまでの十五分ばかりの道に、そこには活動写真などもあるのだが、五日おきに縁日がたった。ちょうど、お弁当を持って行く日が縁日であったことがある。縁日には、近所の子どもたちは申し合わせたように、二銭ずつもらうのが例であった。その日はお弁当を持ってそこへくるまで、縁日を忘れていた。むろん、昼間の分はつかった私は、はっとした。母はもう一銭しかくれない。皆が二銭ずつ持っているのに、自分には一銭しかないということが、どんなに寂しいことであろう。
「父にねだってみよう」
 道を歩きながら私は考えた。それはかなり言いにくい。望みのないことだった。父はけちんぼだったから。包みからお弁当を出して、もじもじしていたが、思いきって言ってみた。父はがま口から二銭銅貨を出して、私の手へのせてくれた。あの大きな重い二銭銅貨を。
(こんなことのあったせいであろうか、今でもあの不便な二銭銅貨は、ひと昔とでもいったような懐かしい重みを持っているように感じられる)そうして、その夜は大尽二でもなった気で縁日を歩き回った。


 がま口から二銭銅貨を取り出し、私にくれたというだけで父の様子がまったく書かれていない。すべては私中心に書かれている。こういう書き方をするのは、変に父の表情や言葉を書くことよって、読者の想像力を殺ぐ危険性があるからである。あえて書かないことによって読者の父に対する想像力は高められるのです。
 小説には書き込むより書かないことのほうが良い場合がたくさんあります。お節介は禁物、言い訳やまともな理由付けは逆に想像力を殺ぎ、凡としたものとなります。日常社会でも、得体の知れない人ほど興味や関心を寄せますよね。あれと同じです。





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最終更新日  2004年02月21日 10時09分31秒
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