炬燵蜜柑倶楽部。

炬燵蜜柑倶楽部。

2006.09.09
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「大丈夫!?」
 え、と自分を見下ろしている黒い目に、ジャスティスは気付く。
「ねえ大丈夫? アタマどっかおかしくしてねえ?」
 何てえ言いぐさだ、と思ったが、テレパシイの交信があれだけ続いたから、頭がふらつくのも確かだ。
「…ちょっと待て、おい、揺れてるぞ」
「あ」
 スペイドは周囲を見渡す。
「あんた何を連中に言ったの? ここがこんな反応を起こすなんて、今まで無かったんだよ」
「…俺はどのくらい、あいつと交信してたんだ?」

 数秒? 彼は目をむく。信じられない。そんな一瞬だったのだろうか。
 瞬間のことにしては、その映像は、思考は、大きすぎた。確かに、「開いて」いない普通の人間が受け止めることは、よほどのことがないとできないだろう。
「ねえ」
「お前、俺にくっついてると、何を考えてるか勝手に分かるんだろう?」
「あ? ああ」
「じゃあ行くぞ。話している時間が惜しい。…おそらく、奴等、何か、しようとしてるんだ」
「え」
 相手の返事を待つまでもなく、ひょい、とジャスティスはスペイドを担ぎ上げた。
「俺はお前を、アリゾナから連れ出すからな」
「って…」
「そう、連中と、約束したぜ」


 足元が揺れる。周囲が揺れる。
 地震だろうか何だろうか。それは判らない。
 ただもう、足元が揺れ、周囲の岩壁が時々びし、と音を立てる。
 崩壊の予告だ、と彼は思う。
 それがあんた等の選択なのか?

 ただもう、今できることは、一つしかないのだ。
「次はどっちだ?」
 曲がり角が来ると、そのたびに彼はスペイドに問いかける。そのたびに右、とか左、とかスペイドは答える。
 あ、違った、と時々かましてくれる辺りには、ボケ、と声を張り上げる。そしてそのたびに、周囲に反響して、とんでもないことになる。
「あ」
 そう言えば、と彼は一瞬足を止める。イリエの若い者、がまだそこには倒れたままになっている。
「俺、降りるよ」
「黙ってろ」
 そう言うと、彼はそのまま、イリエの若い者を左の腕で横炊きにすると、再び走り出した。
「…うわすげえ。あんた、何って力だよ」
「うるせえな」
「でも、格好いいよ」
「…うるさいって言ってるだろう!」
 実際、額も首筋も汗がだらだらと流れ落ちてるのが判る。背中もそうだ。気持ちわるい。外に出たら絶対にあの川で水浴びだ、と彼は叫んでいた。
「うんそれもいいね」
 そしてそれを読んで、答えてくる奴がまた質が悪い。
 背後に崩壊の音が、近づいて来ているのだ。
 体験から良く知っている。崩壊するものの内部はもちろん、ある程度の近くに居ても、被害を被る可能性は高いのだ。
「…そっか、そういうこと、あんたには、言ったんだ」
 ぼそ、とスペイドがつぶやく。あああの時のことを、やっと見つけたなこいつ、とジャスティスは気付く。
「俺は―――行ってもいいんだろうか」
 うなづく気配。
「…行っても、いいんだね」
 そうだお前は行ってもいいんだ。
 お前の力があれば、この広い広い全星系を飛び回ることができるだろう。
 ジャスティスは言葉には出さないが、思う。
「そうだね。それも楽しいかもしれない」
 スペイドは遠のいていく、見慣れた光景を目の当たりにしながら、つぶやく。
「俺を、親父をあの時、守ってくれて、ありがとう」
 やがて、外の光が、彼等の視界に入ってきた。

 外の光の強烈さに一瞬くらり、としながらも、ジャスティスはスペイドを下ろし、できるだけ遠くへ走れ、と言った。
 うん、と相手はぴょん、と大きく跳ねる。
「げ」
 その飛距離と来たら。
「ジャスティスさんも、速く!」
 ああ全く、と思いつつ、左腕のイリエの若い者を放り出してしまいたい衝動に、一瞬かられた。
 しかしまあ、そのあたりは営業社員だった。
 他社に恩を売れるものを放っておく訳にはいかない。無論、生きてる者を放っておけるか、が彼の本心だが。
「…あ」
 小屋があるあたりまで出ると、立ち止まり、スペイドは大きく目を広げた。
 汗をだらだらと流しながら、ジャスティスはどさ、とその場にイリエの若い者を落とした。多少打ち傷になってようが構ったものじゃない。
「…谷が崩れる…」
 赤い岩が、勝手に崩壊していく。
 こんなことって、あるだろうか。ジャスティスはそんな光景は、初めて見た。
 岩は、自分自身で、その身を内部から壊しているのだ。
 光に透けた、その内部から亀裂が入り、そのまま外側へと向かって行った。
 そして―――

「な」

 ジャスティスは、その瞬間、自分の目が信じられなかった。

 何も知らなかったら、それは、こう見えただろう。
 赤い鉱石が、瞬時にして、黄金に変わった、と。
 ほんの、一瞬だったのだ。
 瞬きするかしないか、のところだった。
 確かにそれまで、それは、そこにあったはずなのに。
「…これは…どういうことだ?」





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最終更新日  2006.09.09 21:53:26
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