時空の流離人(さすらいびと) (風と雲の郷本館)

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August 12, 2008
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 この食糧管理制度であるが、食料の需給と価格の安定を図るために、1942年(昭和17)に制定された食糧管理法に基づいたものである。食糧管理法の下では、米は、国が生産者から高く買い付けたものを、消費者に安く売ることが基本となっており、米の流通についても、厳しい制限が課せられていた。しかし、時代とともに、制度に潜む矛盾が顕在化し、1995年(平成7)には廃止された。奇しくも、この食糧管理法廃止の前年に、この制度の矛盾を鋭く抉るような内容のミステリーとして刊行されたのが、 「沃野の伝説 上、下」 (内田康夫:光文社)である。浅見光彦シリーズの旅情ミステリーに分類されるものであるが、あまり旅情を感じさせず、社会派ミステリーのテイストが高いものとなっている。

 事件の発端は、浅見光彦の母親である雪江未亡人の、「米穀通帳は、どうなったのかしら」という素朴な疑問である。ところが、雪江が米穀通帳について問い合わせをした、京北食糧卸協同組合の坂本義人が死体で発見される。光彦は雪江の言いつけで、事件を調べ始める。

 その一方では、長野県では、巨額のヤミ米横領事件が発覚する。長野と言えば、この人。「信濃のコロンボ」こと竹村警部の登場である。この横領の犯人と目されているのは、行方の分からなくなっている、山花商事という米を扱う会社に勤める、阿部隆三という契約社員。坂本は、失踪前にしていた電話で、「阿部さん」という呼びかけを何回もしていた。警察は、阿部を、坂本殺人事件の犯人と見なすが、父親の無実を信じる阿部の娘悦子と、事件の真相を追及していく。

 この作品の最大の魅力は、内田作品の2大スターである、浅見光彦と竹村警部の豪華共演である。また、作品中のそこかしこで触れられる、食糧管理制度の矛盾と行政の無定見さに関する記述も読みごたえがある。例えば、かって八郎潟という琵琶湖に次ぐ巨大な湖が秋田県にあった。この八郎潟を埋め立て、入植者を募ったが、入植した農家は、猫の目行政により、減反を強いられたかと思えば、もち米を植えろと言われ、更には、収穫ができる前に、青田刈りをさせられたりと思ったら、今度は畑にしろと言われ散々な目を見た。こういった行政の矛盾を作品中ではしっかりと描き出している。

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○「沃野の伝説 上、下」(内田康夫:光文社)


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Last updated  August 12, 2008 07:13:59 AM
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