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羅針盤の殺意 天久鷹央の推理カルテ (実業之日本社文庫) [ 知念 実希人 ]価格:770円(税込、送料無料) (2024/6/5時点)楽天で購入 本書は、名医というより名探偵と言った方が相応しい?天医会総合病院の副院長兼統括診断部長の若き女医・鷹央先生の活躍する「推理カルテ」シリーズの一つ。本書に収められているのは、次の三作。すなわち「禁断の果実」、「七色の猫」、「遺された挑戦状」である。このうち最後の「遺された挑戦状」が本書の半分以上を占めており、2つの短編と1つの中編というのが相応しいだろう。 この「遺された挑戦状」では鷹央の学生時代の師匠だった人が出てくる。当時の帝都大総合病院の教授で今は御子神記念病院の院長である御子神氷魚という人物だ。鷹央は、診断の技術は神がかっていると言っていいほど天才的であるが、対人関係はさっぱりだ。前々からそのような設定ではないかと思っていたが、本書にはその辺りがはっきり書かれている。鷹央は「かってはアスペルガー症候群と呼ばれ、今は自閉症スペクトラム障害のひとつとされている特性を持っている」(pp37-38)とある。そして氷魚も同じような特性を持っているのだ。その氷魚が、不審な死を遂げる。これに挑戦するのが鷹央先生という訳だ。これは主として「遺された挑戦状」で扱われているが、「禁断の果実」では毎年定期的に肝炎を起こす高校生の話、「七色の猫」では、身体に色を塗られた猫の謎。 作者は現役の医師でもある。だから医学的知識は豊富である。これをうまく活かした医学ミステリーではないかと思う。☆☆☆☆
June 5, 2024
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沈黙のパレード (文春文庫) [ 東野 圭吾 ]価格:891円(税込、送料無料) (2022/9/19時点)楽天で購入 本書は、ガリレオシリーズの1冊である。そうテレビドラマでは、急に数式をそこら中に書き出す大変人に描かれている物理学者が探偵役を務めるミステリーである。 この巻では、湯川は、准教授から教授にめでたく昇進している。そして彼の親友で大学同期の草薙刑事は警視庁の係長になっている。ところで湯川の勤めている大学は帝都大学という設定だが、そのモデルはどこだろう。手がかりは、湯川の属しているのが理工学部というところと、草薙が係長に昇進したというところだろう。 理工学部の設置されている大学は以外と少ない。ちなみに、ドラマに使われているのは京大だが、京大には工学部と理学部はあるものの理工学部というものはない。東大も、入試こそ類別だが、学部はちゃんと工学部と理学部に分かれている。東京工大も一時理工学部のあった時代はあったが、その後分割され、現在では理学院と工学院になっている。残念ながら東京に国立大で理工学部のある大学はないようだ。しかし私大には、いくつかある。帝都大は東京にあるという設定である。この時点で、帝都大のモデルは国立大ではないだろうと推測できる。 もう一つは、草薙40歳くらいで警視庁捜査一課の係長になっているということだ。警視庁の係長と言えば階級は警部である。東大、京大なら、キャリアとして入る人が多いと思う。その場合40歳くらいなら警視正かその上の警視長になっているはずだ。警視正でも警部より2階級も上である。つまり草薙刑事はノンキャリアということだろう。まあ、東大を出ても、ノンキャリアのおまわりさんになる人もいるので、絶対という訳ではないが。 これらのことから、帝都大の明確なモデルは絞れないものの、東京にある私大を意識していることは推察されるだろう。よくモデルは東大といわれるが、以上の点から私は違うと考える。 さてストーリーの方だが、舞台は東京の西側にあるという設定の菊野市。湯川は、大学が金属材料研究所磁気物理学研究部門の研究拠点を作ったためにここにきている。ただ完全にここに勤務しているわけではなく、時に施設内に泊まることはあっても、週に2~3回通っているし、研究がひと段落すれば、本部のほうに帰っているので、こちらにも研究施設があるということかな。そして「なみきや」という食堂の常連客になっている。 この「なみきや」の看板娘の並木佐織は3年以上前に疾走していた。その遺体が、静岡県にあるゴミ屋敷の火事のあとから発見させる。佐織は静岡県には行ったことがないというのに。そして佐織は歌の才能が豊かな娘で、「なみきや」の常連客たちからも愛されている存在だった。その容疑者として逮捕されたのは蓮沼寛一という男。彼は、23年前にも本橋優奈という少女を誘拐して殺したという容疑で逮捕されていた。ところが本橋優菜の事件では、蓮沼は無罪となり、並木佐織の事件でも、釈放されていた。 その蓮沼が殺される。犯人は割と早めに分かるので、湯川が犯行の過程を解き明かされていくようなものかと思ったら、最後にびっくりするようなどんでん返しが控えている。しかも、それにもどんでん返しがあるという驚くような内容だ。ただ蓮沼が殺されたことでは物理学者らしいところも出ているが、それ以降にはあまり物理学者らしいところが視られないのは残念。
September 19, 2022
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じごくゆきっ (集英社文庫(日本)) [ 桜庭 一樹 ]価格:759円(税込、送料無料) (2020/8/22時点) 本書は、桜庭一樹さんの短編7編を収めた短編集である。収められているのは、「暴君」、「ビザール」、「A]、「ロボトミー」、「じごくゆきっ」「ゴッドレス」、「脂肪遊戯」の七つ。簡単にそれぞれを紹介してみよう。〇暴君 主人公の金堂翡翠は、益田市から松江市にあるミッション系の女子中学校に通っている中学一年生。ある日、帰る途中で小学校の時同級だった三雲陸のお腹に出刃包丁が突き刺さっており、彼の妹や弟が殺されていた。〇ビザール 主人公の近田カノは25歳のOL。転職先の隣の課のおじさん更田と恋仲になる。二人は、7年前土砂崩れで壊滅した同じ町の出身だった。このままうまくいくと思われた二人だが事件が起こる。〇A Aは50年前のアイドル。彼女は、事故で目覚めることのない15歳の少女と接続することにより、再びセンセーションを巻き起こす。〇ロボトミーこの話は、僕(鷹野)と優埜(ユーノ)の結婚式の場面から始まる。ユーノの母親はとんでもない毒親で、まったく娘離れしていない。僕たちは半年で離婚になる。その後再開したユーノは病に侵されていた。〇じごくゆきっ 主人公の女子高生金城は、副担任の中村由美子先生と2人で、なぜか鳥取砂丘へ行くことになってしまう。〇ゴッドレス 主人公のニノは父の香(かおる)から呼び出される。香は同性愛者で、彼の女友達が体外受精でニノをつくった。香はニノに勉という男と結婚しろという。勉は香の恋人で、ニノと結婚すれば家族になれるというのだ。ニノは香からDVを受けて、支配されていた。〇脂肪遊戯 第1話の「暴君」と続く話で、そちらにも出てくる田中紗沙羅の物語。彼女は小学校では美少女だったが、思春期を迎えると美少女のままぶくぶくと太りだした。その理由が明らかになる。 桜庭さんの作品は好きなのだが、ツッコミどころも多い。名前や設定が変なのが多いのである。もうひとつ地理的な感覚も変だ。あの名作「砂糖菓子の弾丸は打ち抜けない」には海野藻屑というトンでもない名前が出てきたし、七竈という美少女もいる。この短編集では田中紗沙羅が変と言えば変なのだが、トンでもない名前は見当たらない。ただし紗沙羅の設定が、「整った目鼻立ち。横幅は少女二人分。巨漢の美少女。」(p13)と、やっぱり変なのである。 地理的な感覚に関しては、例えば主人公は、益田市から松江のミッション系の女子中学校に入っている。本文にも松江は益田の「近くの都会」(p8)と書かれているが、益田市は島根県の西のはずれ。殆ど山口県である。一方松江市は島根県の東の端、隣はもう鳥取県だ。両者の距離は160㎞以上もある(注:益田駅~松江駅)。決して近くはない。他の作品には、下関にサンゴ礁の島があったり、中国一の大都会だったり・・・。伯備線の近くに余部鉄橋があると言ったり。 帯やカバーの後ろ側には「「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」の後日談を含む」と書かれており、期待していたのだが、結論を言うとどの話が該当する作品かよく分からなかった。おそらく隣の県の益田市の話である「暴君」と「脂肪遊戯」がそうなのかなと思う。しかし、「砂糖菓子の弾丸」の舞台は鳥取県境港市だ。地理的に離れすぎている。 ミッション系の女子中というのは2005年までは松江にあった(現在は共学)。当時の時刻表は分からないが、今だったら特急に乗らないと始業時間に間に合わない。各駅に乗れば片道4時間程度かかるので、山陰線の便利の悪さを考えると、益田から松江に通学というのは、まずありえないと思う。☆☆☆☆※初出は、「風竜胆の書評」です。
August 22, 2020
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潮騒のアニマ 法医昆虫学捜査官 (講談社文庫) [ 川瀬 七緒 ]価格:990円(税込、送料無料) (2020/8/20時点) 本書は、法医昆虫学捜査官シリーズの5作目だ。舞台は伊豆諸島の神ノ出島。色々調べてみたが、この島は架空の島のようで、伊豆諸島には、神津島という島があるので、ここがモデルだと思われる。 このシリーズは法医昆虫学者の赤堀先生と、警視庁の岩楯警部補そして所轄から一人参加するというスタイルで行っている。今回は新島南署の兵藤晃平巡査部長。ちなみに新島署というのはあるようだが、新島南署はないようだ。新島署は、神津島も所管地区になり、駐在所もある。 大体所轄から参加する警官は、死体に湧いた蛆ボールの洗礼を受けるのだが、今回、見つかった死体は一部を蛆に食われた跡はあるものの、割ときれいなミイラ。西峰果歩という若い女性だ。この死体の謎に挑戦するのが、我らが赤堀先生という訳だ。 今回の主役は蛆ではなく、アリ。それもアカカミアリという特定外来生物である。あのヒアリの近縁種で、毒針を持っており、刺されると重篤なアナフィラキシーショックを起こすことがある。蠅はあまり登場しない代わりに、蠅のようなマスコミは登場し、この作品は、マスコミに対する皮肉にもなっているように思う。 この事件が大量のミイラ死体の発見に繋がったり、別の殺人事件に繋がったりと以外な展開を見せる。そして犯人も。 赤堀先生が犯人に殺されかけるというのもお約束。もちろんこの作品でもそういった場面がある。「毎度のことだが、赤堀ほど体を張っている者はいない。しかし、このままでは駄目だと岩楯は思っていた。彼女の仕事の性質上、いつかは取り返しのつかない場面が訪れる。(以下略)」(p481)☆☆☆☆※初出は、「風竜胆の書評」です。
August 20, 2020
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今昔百鬼拾遺 河童/京極夏彦【1000円以上送料無料】価格:836円(税込、送料別) (2020/8/10時点) この作品は、昨年、出版社3社を横断する形で刊行されたもののうち、2番目に当たる。話の中心となるのは、前巻と同じく京極堂の妹で科学雑誌稀譚月報の記者である中禅寺敦子と「絡新婦の理(じょろうぐものことわり)」に出てきた女子高生の呉美由紀。 物語は、美由紀とその友人たちが、河童談義、尻談義を行っている場面から始まる。尻談義は、河童が尻子玉を抜くという話から来ている。女三人寄ると姦しいというが、彼女たちの話がなんともいえず面白いのだ。それにしても、河童に対していろいろな呼び方があるものだ。 この作品でも、ヘンな人が出てくる。ヘンな人と言うと、榎木津や、敦子の兄の京極堂などがその最たるものだ。関口もかなりヘンな人に分類されるだろう。この作品に出てくるのは、多々良勝五郎という在野の妖怪研究家。この先生、主役を務める「今昔続百鬼」という作品があるので、こちらでもレギュラーになるのかと思いきや、次の巻の天狗には名前しか出てこなかった。 夷隅川水系で相次いで死体が見つかる。その共通項は、尻が丸出しになっていたということ。果たして河童の仕業なのか? この作品で扱われているのは、戦後の物資横流しや迷信に基づいた差別など。しかしやっぱり、京極堂の付き物落としや榎木津のハチャメチャぶりが懐かしい。☆☆☆※初出は、「風竜胆の書評」です。
August 10, 2020
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小夜子先生の美尻 (イースト・プレス悦文庫) [ 睦月影郎 ]価格:814円(税込、送料無料) (2020/8/8時点) 主人公の秋場慎一は高校2年生。銀行員の父親の転勤に伴い、東京から月見ヶ丘市に引っ越してきた。転校した月見ヶ丘学園は、元伝統ある女子高で、前年度から共学になっている。ただし、この2年はテストケースで男子は1割しかいない。だから生徒はあまり男子に慣れていないようだ。 慎一君、さっそく3年生の女子にいたずらされる。そういえば共学になったのが2年前なので3年生には男子がいない。だから女子は男子に興味深々。慎一君、ちょうどよいターゲットになったみたいだ。それを助けてくれたのが音楽教師の藤木小夜子先生。美人でスタイルの良い小夜子先生に年上趣味の慎一君の欲望がムクムクっと・・・。ブツを引き出して先生に出血しているといけないと、先生に見せたり、触ってみてといったり、最後はもちろんドッキング。ちなみにタイトルは、小夜子先生のお尻の形がとても綺麗なことから。綺麗なお尻に萌える人をビジリアンというそうな。 これを皮切りに慎一君のモテモテ人生が始まる。学園長の豪徳寺友里恵。3年生のいたずら女子のリーダー美貴子。小夜子先生の姉でバツイチの美佐子など。もう次から次に慎一君は頑張る(何を?)。特に小夜子先生にはものすごく頑張る。 これ確か、雑誌に連載されていたような記憶があるんだが、調べてみても分からなかった。昔の記憶は当てにならないことは、時々実感するので、もしかすると気のせいだろうか。誰ですか、慎一くんのような高校生活を送りたかったという人は。そりゃ男子の夢だけど。まあ、夢は夢で終わるよ(笑)。☆☆☆※初出は、「風竜胆の書評」です。
August 8, 2020
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【中古】 東雲侑子は短編小説をあいしている ファミ通文庫/森橋ビンゴ【著】 【中古】afb価格:110円(税込、送料別) (2020/8/4時点) 主人公は三並英太という私立央生高校の生徒。この作品は「東雲侑子シリーズ」三部作の最初の巻となる。巻が進むにつれ、学年が一つづつ進むというのがこのシリーズの特徴だろう。 英太の入った高校では、全員が部活に入らなければならないというおかしな校則がある。しかし、図書委員になれば、部活に入っているとみなされ、拘束時間も短い。 という訳で、帰宅部希望の英太は図書委員になったのだが、彼と同じ日にカウンターに座っているのが同級生の東雲侑子。 彼女は、いつも無表情で、不愛想で、いつも何かを読んでいる。何を読んでいるのかと聞きだすと、読んでいるのは、短編小説らしい。 ところが、ひょんなことから、彼女が西園幽子と言う名前で作家活動をしていることを知る。彼女は短編しか書かない。「人間ってとてもちっぽけで、小説にしてみればせいぜい原稿用紙50枚とか60枚とかの短編小説みたいな人生しか送れないんじゃないかって」(p78)担当編集者からも長編を書いてみたらと勧められていたこともあり、長編小説を書いてみようとした東雲に、英太は、長編を書くために彼氏役をして欲しいと頼まれる。東雲は恋をしたことがないというのだ。これをきっかけに、二人の距離は次第に近づいていくという1種の恋愛小説というところか。 つまりは、男女が恋人同士になるきっかけは、ひょんなことからだということか。「俺、彼女できたかも」(p302) さて、二人の関係はどう進展するのか。☆☆☆☆※初出は、「風竜胆の書評」です。
August 4, 2020
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黒後家蜘蛛の会2 (創元推理文庫) [ アイザック・アシモフ ]価格:972円(税込、送料無料) (2018/8/8時点) アイザック・アシモフといえば、ロボット工学3原則などでSF作家として知っている人も多いのではないかと思う。しかし、彼はミステリーも書いており、本書もSF的な要素はなく、短編ミステリーを集めたものとなっている。 タイトルの「黒後家蜘蛛の会」というのは、作者が実際にメンバーとなっている Trap Door Spidersをモデルにした架空の団体だ。この黒後家蜘蛛の会は、ニューヨークのミラノ・レストランで月一回の定例会を開いており、毎回ゲストが招かれる。そのゲストが謎を提示するのだが、黒後家蜘蛛の会のメンバーならぬ給仕のヘンリーが、話を横で聞いただけで謎解きをしてしまうというのが基本的なストーリーである。収められているのは12の短編。一つ一つの話は独立しているので、どの話からでも読むことができるし、あまり連続した読書時間を取れない人でもちょっとずつ読み進めることができるだろう。 傍で話を聞いていた人が、見事な推理をするというのは、例えば北森鴻の「香奈里屋」シリーズや東川篤哉の「謎解きはディナーの後で」シリーズなどの構造とよく似ている。「岡目八目」という言葉があるが、案外と傍で聞いている方が、事件の本質をよく理解できるのかもしれない。 このシリーズは、昔読んだ覚えがあるのだが、内容は完全に記憶から抜け、はるか宇宙の彼方だ。読んでいて思い出したということはなく、ほとんど初見のような感じで楽しむことができた。それにしても自らの記憶力のなさには感心する。これが理工学のようにちょっと覚えればあとは自分で導出できるものならいいのだが、そうでないものは昔からすぐに忘れてしまうようだ。だから化学なんかも無機化学まではいいのだが、有機化学になると覚えることが多すぎて、いやになって大学に入ってきっぱり縁を切ったというのは余談。
August 8, 2018
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妖談へらへら月 耳袋秘帖 (文春文庫) [ 風野真知雄 ]価格:648円(税込、送料無料) (2018/7/17時点) 元祖入れ墨奉行の根岸肥前守鎮衛が活躍する「耳袋秘帖」シリーズのうちの一冊。「耳袋秘帖」シリーズは、大きく分けて殺人事件シリーズと妖談シリーズに分けらられるが、この作品は、妖談シリーズの5巻目となる。描かれるのは、さんじゅあんという謎の人物との戦い。なお、妖談シリーズは、7巻目の「妖談うつろ舟」で完結している。さんじゅあんは、新興宗教の教祖のような存在で、その影響は一般庶民だけでなく幕閣にも及んでおり、殺人集団である闇の者とも関係があるようだ。 江戸では、「神隠し」が頻発していた。例えば、印籠職人卯之吉の一家4人が忽然と姿を消している。手がかりは、子供が話していたという「へらへら月」。いったい「へらへら月」とは何なのか。 もっとも、作中に出てくる神隠しは、みなが同じ原因という訳ではない。神隠しの裏には、「神隠しと日本人」(小松和彦:角川書店)で指摘されているように、色々な背景が隠されているのだ。本作でも、本筋のさんじゅあんに関係するものばかりでなく、その他のケースも示される。 作中でちょっと気になった人物が一人いた。生駒左近という元旗本のこつじき。無外流の剣の達人で、旗本きっての奇人と言われ、いったん出家したが、堕落した既存の仏教に愛想をつかし、今は仏の道を求めて、桶の中に済んでいるという。巷では「桶のこつじき」と呼ばれている。なんだか、ギリシアで樽の中に住んでいたという哲人ディオゲネスを連想するではないか。彼に人殺しをさせたいと怪しい男が近づいてくる。こちらもどのような展開を見せるのか読んでみてのお楽しみ。※初出は、「風竜胆の書評」です。
July 17, 2018
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QED〜ortus〜白山の頻闇価格:950円(税込、送料別) (2018/7/11時点) おなじみ、高田崇史のQEDシリーズの最新刊。収録されているのは表題作の「白山の頻闇」と「江戸の弥生闇」の中編2編。それぞれ描かれるのは白山信仰と菊理媛神および江戸吉原と勝山太夫の謎。これに現実の事件を絡めるのはいつもの通り。〇白山の頻闇 桑原崇と棚旗奈々は、結婚した奈々の妹沙織の誘いで金沢へ赴く。金沢には、菊理媛神の元締めともいえる神社があるので、今回タタルは乗り気だ。それにしてもまだ二人は結婚してない。このままの関係がずっと続いていくんじゃないかな。 ところで、菊理媛神とは、日本書紀に1行だけ出てくる謎の神様だ。黄泉の国から逃げかえるとき、黄泉平坂で伊弉諾尊は追ってきた伊弉冉尊と争っているときに、菊理媛神が突如現れ、何かを言い残して去っていく。 奈々は、巻き込まれ体質で、タタルとどこかに行くたびに事件に巻き込まれるのだが、今回は詩織の夫が事件に関係してくる。 しかし、こんな理由でこのような事件を起こす人間が今どきいるかは疑問だ。どこかのカルト宗教ならわからなくもないが。〇江戸の弥生闇 こちらは、奈々が明邦大学に入学したころの話だ。。友人につれてこられたオカルト同好会に桑原崇がいた。学生時代からかなりの変人だったようだ。この話のテーマは吉原、男の極楽、女の地獄、そしてもれなくビョーキ付きのあそこだ。そこで一世を風靡したという勝山太夫、その真実に迫る。これに近くの高級マンションで起きたという自殺事件の真実を絡めた作品だ。 白山神社は、菊理媛神という女神を祀っているはずなのに雄千木になっているとか、怨霊は真っ直ぐにしか進めないので、怨霊を祀っている神社は参道が真っ直ぐになっていないとか、こういった蘊蓄がだんだんとついてくるのもこのシリーズの特徴だろう。※初出は、「風竜胆の書評」です。
July 11, 2018
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日曜の午後はミステリ作家とお茶を (創元推理文庫) [ ロバート・ロプレスティ ]価格:1101円(税込、送料無料) (2018/7/1時点) 本作において、シニカルな口調で語り手を務めるのは、主人公でミステリー作家のシャンクス。しかし、それほど売れているわけではないようで、売れないことに対する自虐的な話もある。ちなみに、妻はロマンス作家だ。これは、そんなシャンクスが活躍する14編の短編を集めた短編集である。 このシャンクスは、ミステリー作家だけあってなかなかの名探偵だ。なにしろ人から話を聞いただけで事件を推理してしまう。それだけではない。「シャンクス、昼食につきあう」では、妻が初めてのインタビューを受けている傍で、外の風景を眺めているだけで犯罪を感知しているし、「シャンクスの記憶」では、工事現場を見ただけで、犯罪の存在を見抜いたのである。 しかし、作家らしく、「シャンクス、物色してまわる」では、 婦人警官の使った単語、”prowl(物色する)”が自動詞か他動詞かにこだわっている(p103)のがなんとも面白い。 また、アメリカにおける出版事情なども分かり色々と興味深い。例えば次のような記載だ。<シャンクスは出版不況への不満を漏らし、実はここにいる作家の大半はこちらが期待するほど売れていないので、>(「シャンクス、殺される」(p137)) 出版不況が言われているのは、日本だけではなく、アメリカでもそうなのだと認識を新たにした次第だ。日米に共通する現象は何なのかと考えてみると、思い当たるのはネットの発達くらいしかない。 また、「シャンクスの手口」では、自分を酷評した批評家のことをかなり気にしている(p170)。私も長く書評を書いていると、よく頂き物をするのだが、それに対して作者や出版社などからの反応が直接的、間接的に結構ある。例えば、ツイッターで拡散したり、コメントを寄せたりといったように。やはり、気にしているのだろう。私のような無名の人間に対してもそうなのだから、評者がある程度名が知られているとなると一層だと思う。※初出は、「本が好き!」です。
July 1, 2018
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血 [ 新堂冬樹 ]価格:1998円(税込、送料無料) (2018/6/25時点) 本書の内容を一言で言えば、あるサイコパスの物語ということだろうか。この作品は、主人公の本庄沙耶という女子高生。しかし、どこでもいるという女子高生ではない。自分に流れる血を憎み、同じ血が流れる人間を消し去ろうとする。 父方の祖父母は無理心中、両親は目出し帽の男に刺殺される。沙耶はこの後、母方の祖父母、父方の叔父、母方の伯母に引き取られていくが、行く先々で、自分の血筋に当たるものを殺害していくのである。その方法が、デス・ストーカーである猛毒サソリを使ったり、車に爆弾を仕掛けたりというものだが、どのように沙耶がこれらの方法を考えるのかというところがこの作品の一番の読みどころかもしれない。 出てくる人物のほとんどはクズと言ってもいい人物。例えば、沙耶の両親や母方の祖父母だが、自分の保身のことばかり考えているし、叔父は、ワイルドを気取った小心者、その息子で従兄に当たる旬は、沙耶やそのクラスメートの果歩をレイプしようとする。伯母の夫である亨は、実の娘をレイプし、伯母の律子はまったく無関心だ。娘の香織にしても、夫が家出したということになっているが、実は「処分」したようだ。 これだけろくでもない人間をこれでもかこれでもかというほど出す作品はめったにないと言っていいだろう。世の中には「イヤミス」という言葉がある。読んだら嫌な気持ちになるミステリーというものだ。そういった意味では、本書も十分にイヤミスの資格があるが、残念ながらミステリー的な要素はほとんどない。全編がどうすれば沙耶が対象を「処分」できるかということに費やされており、そのやり方にアイデアがつぎ込まれているような気がする。それにしては、最後の終わり方はあっけなかったのだが。※初出は、「風竜胆の書評」です。
June 25, 2018
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【中古】afb_【単品】_GOSICKs IV ゴシックエス・冬のサクリファイス (角川文庫) _桜庭一樹価格:55円(税込、送料別) (2018/6/19時点) 桜庭一樹のGOSICKシリーズの外伝に当たるGOSICKs (ゴシックエス)。本作はその最終巻に当たるものだ。舞台はヨーロッパの架空の小国ソヴェールの聖マルグリット学園。主人公は極東の島国からの留学生である九城一弥と謎に包まれた美少女ヴィクトリカ。描かれているのは、学園をあげてリビングチェスに興じる冬の1日の出来事。 挿入されるのは、ヴィクトリカの思い出話。異母兄となるグレヴィールのあのドリルのような尖がったヘンな髪形、彼の部下であるイアンとエヴァンの二人がいつも手をつないでいること。その原因は全部ヴィクトリカにあったんだね(笑)。 全編を通じて、どこかコミカルな雰囲気が感じ取れる。しかし、その反面、不安な空気も漂わせている。 <たとえば、この学園に学ぶ貴族の子弟たちが一斉に家に呼び戻されているという事実。逆に、都会からとつぜんこの村にやってきた資産家の親子。そして、なぜかそわそわしながらわたしの様子を確認しにきた兄貴。つまりは嵐が近づいている近日中に、そう・・・・・・>(pp177-178) 桜庭一樹の作品にはどこか異形を抱えた美少女が登場することが多い。このシリーズの主人公、灰色狼の末裔たるヴィクトリカは最高のキャラだろう。もっとも桜庭作品には時折ヘンな個所がある。本書でヘンと思ったのは、第一話「白の女王は君臨する」に出てきた鏡文字のトリック。後ろ向きに書いたために、ダイイングメッセージのpがqになった(p63)とのことだが、自分で実験してみるといい。絶対に鏡文字にはならないんじゃないかな。しかし、そんなヘンな部分も含めて、ヴィクトリカはとっても可愛らしいのだ。※初出は、「風竜胆の書評」です。
June 19, 2018
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静おばあちゃんにおまかせ (文春文庫) [ 中山七里 ]価格:756円(税込、送料無料) (2018/6/17時点) 主人公の葛城公彦は、警視庁捜査一課の刑事だ。階級は巡査部長で、年齢は25歳。自分に自信がないが、隣県に移動した元上司の無実を晴らすために奔走するような、なかなかに熱いキャラである。 本書で扱われるのは5つの難事件。上述の元上司にかかった冤罪事件、外国人労働者にかかった冤罪事件、密室殺人事件など。実は彼は、事件が発生すると、恋人で法律家を目指している高円寺円の知恵を借りるのだ。第一話では、二人はまだ恋人未満の関係だったのだが、第3話のあたりで、名実ともに恋人関係になった。 しかし実際には、元高裁の裁判官だった円の祖母が事件を解決しているのである。なにしろ円から、事件の概要を聞いただけで、たちどころに解決するのだ。究極の安楽椅子探偵だろう。 この連作短編集においては、葛城刑事と円のコンビが色々な難事件に挑むというエピソードが本書の横糸となるだろう。これとは別に、全体を通しての縦糸として、円から両親を奪った交通事故の真相の追求がある。 両親が事故にあった際に、円は中学生でいっしょだった。その時、事故を起こした犯人から酒の匂いがしたのだが、裁判の過程ではアルコールは検出されなかった。第4話で円はその犯人と対面するのだが、彼女に記憶にある人物とはどうも違う。その謎を解くというのが全体を通してのテーマとなっている。 最後に明らかになる円の祖母については驚き。最近は、あまり小説は読まないのだが、これは面白くて一気読みしてしまった。※初出は、「風竜胆の書評」です。
June 17, 2018
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シミルボンに、コラムを寄稿しました。故郷の街にある小さな図書館に寄った際に目にしたパンフレットをネタに、書いてみました。→ マンガと文学館のコラボ企画に注目! 最近は、活字の本を読む人が少なくなったので、このような企画が流行るのでしょうか。 また、少し前に、このコラムも寄稿しておりますが、報告をしていなかったので紹介しておきます。→ 受験勉強は役に立ったか? 私も田舎の高校から京都大学に進学しましたので、受験勉強もそれなりにはしましたが、果たして役に立っているのしょうか? もう一つ、これはやはりシミルボンで募集していた「牧眞司コラム大賞」に応募したコラムですが、見事落選してしまいました。私としては、私の芸風と、選者との波長が合わなかったと思っていますが、どうなんでしょう(笑)。→ 時間SFと相対論
May 19, 2017
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【楽天ブックスならいつでも送料無料】その女アレックス [ ピエール・ルメートル ]価格:928円(税込、送料込) 「このミス」で史上初の6冠を獲得したという話題作、「その女アレックス」(ピエール・ルメートル、橘明美訳:文春文庫)。読んでみると、なるほど、確かにそれだけの価値のある作品だと実感する。 主人公のアレックスは、男に拉致され、身動きもできないような狭い檻に閉じ込められてしまう。裸で、ドッグフードと水しか与えられず、排泄物も垂れ流しのまま、次第に衰弱していくアレックス。彼女の死を待ち受けるかのように集まってくるネズミ。 この事件を担当するのが、パリ警視庁のカミーユ・ヴェルーヴェン警部だ。彼の部下として共に捜査を行うのが、大金持のルイ・マリアーニと、どケチなアルマンという対照的な二人。共通なのは、二人とも警部を敬愛しているというところだけ。警部自身も、頭は切れるが、身長が145センチという、およそ警察官らしくない体格だ。こんな異色の警察官たちの活躍ぶりも、この作品の見どころの一つだろう。 アレックスを監禁していた犯人は、警察に追い詰められて、監禁先を明かさないまま自殺してしまう。いったい彼女は、どこに監禁されているのか。事態は一刻も猶予を許さない。ところが、カミーユ警部たちが、アレックスが監禁されている場所を突きとめて、踏み込んでみると、既に彼女は自力で脱出した後だった。しかしその足取りは、ぷっつり途絶えてしまう。後に残るのは多くの謎。 ここから、ストーリーは、読者が想像もつかないような、驚くべき展開を見せていく。一見猟奇的に見えるこの誘拐事件は、単なる序章に過ぎず、遥かに大きな事件が姿を現してくるのだ。作品中に描かれる犯罪の直接の犯人については、読めばすぐに分かるようになっている。分からないのは、それらの犯罪の裏にあるものだ、いったい事件の全貌は、どういったものなのか。次々に現れてくるのは、驚愕の事実。真相に至る扉が空いたと思ったら、そこには、また次の部屋に続く扉があった。本当に悪い奴はだれだったのか。息をつく暇もないような展開の連続が読者を翻弄する。そして最後に明らかになるおぞましい真相。 この作品の面白さは、サスペンス的な要素ばかりによるのではないだろう。例えば、アルマン刑事のどケチネタを適当に織り込んで、読者をクスリと笑わせてくれるのだ。しかし、最後にこのアルマンが、ただのどケチ男ではなかったという意外性を仕込んでいるのは、さすがにエスプリの国、フランスの作家というべきだろうか。 また、カミーユ警部には、身重の妻・イレーヌを誘拐され惨殺されたという過去があり、今でもそれを引きずっている。誘拐事件は担当しないという彼を、捜査に引きずりだしたのは、カミーユ警部を立ち直らせたいという上司のル・グエン部長の配慮だった。事件の解決は、カミーユ警部ががイレーヌの死から立ち直ることでもあった。そういった副次的な設定も、ストーリーに厚みを加えている。 そして、この作品は、通常のミステリーのように、名探偵が偉そうに真犯人を暴きだして一件落着するといったようなものではない。最後に描かれた結末は、「真実より正義」。こういったところもかなり異色だ。 とにかく、読み始めると、意外性のてんこ盛り。ページを開いたら最後、息もつかせぬ展開に、読者は目を離せなくなるだろう。これほどのミステリーには、なかなかお目にかかれるものでない。読ぬのなら、最後まで読みとおせるような時間的余裕がある時をお勧めしたい。そうでないと、続きが気になってしかたがなくなるだろうから。 (独り言) このタイトル、船越英一郎さん主演のテレビドラマ「その男副所長」をもじっているような気がするのは私だけ? ちなみに原題は”ALEX”なんだが(笑)。 ☆☆☆☆☆※本記事は、「風竜胆の書評」のバックアップです。
January 12, 2015
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【送料無料】サイン会の死 [ ローナ・バレット ]価格:1,134円(税込、送料込) ミステリー専門の書店「ハブント・ゴット・ア・クルー」の店主・トリシアが、殺人事件の謎に挑むというコージーミステリー。「本の町の殺人」の続編となる「サイン会の死」(ローナ・バレット/大友香奈子:創元推理文庫)だ。 物語の舞台は、ニューハンプシャー州にある田舎町ストーナム。古書と専門書の書店が集まる読書家の聖地という設定である。トリシアの店に、サイン会のために呼んだベストセラー作家・ゾウイがトイレで殺される。おかげで、保安官の許可があるまで店を開けられないはめに。ところが、トリシアは女保安官のウェンディとは馬が合わず、なかなか許可が出そうにない。このまままでは、経営の危機に。ということで、トリシアは事件を調べ始めることになるのだが、なんとゾウイに盗作疑惑が浮かんでくる。さらには、作家の姪、キンバリーが襲われ、瀕死の重症に。 そこで、トリシアが名探偵ぶりを発揮して、見事に事件を解決といきたいところだが、この人どうも詰めが甘い。なかなかいいところまで真相には迫っていたのだが、もう少しで、無実の人間を犯人にしてしまうような迷探偵ぶりだ。結局、せっかくの推理も、最後に見事にひっくり返ってしまう。 真犯人は、ちょっとサイコなところのある人物だったが、これだと、あまり動機というものが重要でなくなってくるので、犯人を意外なところから、簡単に引っ張り出せてしまう。私は、あまり好きではない。本作は一応ミステリーなのだが、事件の謎解きよりは、ストーナムの人間関係の方が面白いだろうと思う。 最後は、色々な事が大小全て片付き、なんとなくハッピーエンドになった感じだ。トリシアと姉のアンジェリカとはこれまであまり良い関係ではなかったようだが、この事件を通じて姉妹の絆が深まる。酷い目にあったキンバリーだが、結局恋人を得たうえに作家デビューもできそうだ。アンジェリカも念願の料理本が出版されるようだし、菓子職人のニッキも母親との再会を果たした。おまけに、町を悩ませていたカナダガンの糞問題も解決しそうである。 この作品では、基本的に女性が中心で、男は脇役を演じている。そのせいかストーリーはなかなか軽快でとても読みやすい。ただ、イラストは少し残念な感じがあるが。※本記事は、「本の宇宙」に掲載したものの写しです。
January 29, 2014
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【送料無料】泥棒は几帳面であるべし [ マシュー・ディックス ]価格:987円(税込、送料込) 本書を一言で言えば「泥棒の話」なのだが、主人公のマーティンは、かなり変な泥棒だ。何しろ、そのポリシーが独特である。入る家はあらかじめリストをつくって決めており、同じ家に何度も入るのだが、滞在時間は15分以内。相手に無くなったと気づかれるようなものは盗らない。高価な物を狙うときは、長い時間をかけて、大丈夫なことを確認したうえで盗む。普段盗むのは、食料や、せっけん、トイレットペーパーなどの日用品ととってもつつましい。もちろん、これらの品もばれないように、少しずつ盗んでいく。例えば瓶に三分の二ばかり残っている洗剤があったとすると、その半分だけを盗んでいくという徹底ぶりだ。だから、彼が盗みに入ったところは、泥棒に入られたことすら気が付いていないのである。 マーティンのやり方をビジネス的な視点から見ると、極めて道理にかなっていることが分かる。何事にも差別化というものは大切だ。たとえ泥棒をやるにしても、そこには明快な事業戦略というものが必要なのである(笑)。泥棒稼業のオペレーションについては、上に述べた通りなのだが、それ以前にも色々と戦略的に考えている。 例えば得意先は、候補をきちんとセグメント分けをしたうえで、十分な分析・リサーチを行ってから選んでいる。すごいのは、緊急時の対応法だってちゃんと考えているということ。もし、仕事中に、火事になったり地震が起きたりしても大丈夫なのだ。こんなことまで考えて泥棒に入る人間は他にはまずいないだろう。泥棒とはいえ、きっちり自分のビジネスモデルというものを確立しているというのが面白い。時には、こういった経営学的な視点から小説を読んでみるのもなかなか楽しいのではないだろうか。 しかし、このマーティン君、色々と考えて、泥棒戦略を立てている知能犯ではあるが、変なところに律義だ。仕事中、その家の奥さんの使っている歯ブラシが便器の中に落ちたことがある。彼は、同じ家に何度も入っているうちに、その家の住人に一方的に親しみを感じてしまうという性癖があるため、彼女にそんな汚い歯ブラシで歯磨をさせるなんてとんでもないというように考えてしまう。かといって、歯ブラシが無くなったことに気がつかれると、もうここに忍び込むことができないので、捨てる訳にもいかない。ここはもう、新しい歯ブラシを買うしかない。ところが、次から次にトラブルの連続で、絶体絶命の大ピンチに。この辺りのドタバタ感は、いかにもアメリカンコメディという感じだ。 ずっとこんな感じで行くのかと思ったら、後半少し様子が変わってくる。マーティンは、お得意様に親しみを感じているものだから、もうサービス満点。その家で何かちょっとした問題があると、こっそり助けようと尽力してしまうのだ。ある時、危険な性犯罪者が、お得意様を狙っていることを知り、これを何とか防ごうとする。しかし、何と言っても泥棒の身である。表立って目立つようなことはできない。いったい彼はどうやってお得意様を救うのか。この辺りのストーリー展開は、結構ハラハラさせられ、サスペンスとしてもなかなか楽しめるだろう。 結局、この事件により、彼は新しい人生を歩む決心をすることになる。泥棒という非合法な稼業に身を置きながらも、人を救うためには自分の身体を危険にさらす事も厭わない。つまりこれは、そんな男が、陽のあたる道を歩き出そうという再生の物語だったのだ。※本記事は、「本の宇宙」に掲載したものの写しです。
September 13, 2013
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【送料無料】チャーチル閣下の秘書 [ スーザン・イーリア・マクニール ]価格:1,155円(税込、送料込) 本書の舞台は第二次世界大戦下のロンドン。ナチスドイツがヨーロッパで勢力を拡大し、イギリスにも空爆が繰り返されるという緊迫した世相だ。 ヒロインのマギーは、赤毛の理系美女。イギリス生まれのアメリカ育ち。数学の才能があり、MITの博士課程に進むことが決まっていたのだが、祖母がロンドンに遺した屋敷を売るために、ロンドンにやってきたところ、すっかりイギリス愛に目覚めてしまった。 チャーチルの秘書官に応募したところ、選ばれたのはまったく無能な男。結局、マギーは、友人でチャーチル秘書官のデイヴィッドの勧めで、秘書として働くことになる。この「秘書官」と「秘書」、「官」の字が付くのと付かないのでは大違い。秘書官は、ブレーンとして重要な仕事をするスタッフだが、秘書はタイプを打ったり口述筆記をしたりする補助業務要員である。 実は、マギーが秘書官として採用されなかったのには、ある理由があったのだが、この時代、一般には、まだまだ女性には重要な役職は任せられないという風潮があるようだ。この他、マギーを育ててくれた叔母がレズビアンであったり、前述の友人デイヴィッドがゲイだったりと、この小説のテーマの一つとして、ジェンダーというものが横たわっているように思える。実は。マギーは、彼女を秘書官として採用しなかった、チャーチルの主席秘書官であるスノッドグラスから、大変高く評価をされていた。叔母だって、アメリカの大学で教授をしており、デイヴィッドは、前に行ったようにチャーチルの秘書官である。つまりは、能力と、一般に思われている性のありようとは全く関係がないということだ。 マギーは、かなりのピンチの場面はあったものの、結局は、ナチスドイツのスパイや、アイルランドのテロリスト相手に大活躍することになる。才気あふれる美女の活躍は爽快だ。※本記事は、「本の宇宙」に掲載したものの写しです。
August 3, 2013
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【中古】 キング・コング 創元推理文庫/エドガーウォーレス(著者),メリアン・C.クーパー(著者...価格:105円(税込、送料別) 日本を代表する怪獣はなんといってもゴジラだが、アメリカを代表する怪獣と言えばやはりキングコングだろう。ゴジラが最初に上映されたのが1954年なのに対して、キングコングの方は、1933年らしいから、怪獣としてはかなりの先輩だといいうことになる。何度も映画化され、1962年には、「キングコング対ゴジラ」で夢の日米怪獣対決も行っている。⇒続き
June 7, 2013
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【送料無料】彼女と僕の伝奇的学問 [ 水沢あきと ]価格:620円(税込、送料込) 「不思議系上司の攻略法」で知られる水沢あきとの「彼女と僕の伝奇的学問」(メディアワークス文庫)。主人公・能見啓介が、所属する民間伝承研究会のメンバーと共に、民俗学的事件に挑むという話である。⇒続き
June 5, 2013
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【送料無料】“文学少女”と繋がれた愚者(フール) [ 野村美月 ]価格:630円(税込、送料込) 本を食べちゃうくらい愛しているという“文学少女”で文芸部長の遠子と、その後輩で文芸部員の心葉の物語を描いたシリーズの第3弾、「“文学少女”と繋がれた愚者」(野村美月:ファミ通文庫)。心葉は、中学時代のある出来事により心にトラウマを持っている。人との関わりを避けたいと思っていた心葉だが、能天気で、ほっておけば何をするか分からないような遠子に振り回されるような形で、学園で起こる事件に関わっていく。⇒続き
June 3, 2013
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【送料無料】わたしたちが少女と呼ばれていた頃 [ 石持浅海 ]価格:860円(税込、送料込) 石持浅海の 「碓氷優佳シリーズ 」といえば火山学者の主人公が名探偵役を務めるシリーズだ。シリーズ中の 「扉は閉ざされたまま」 「君の望む死に方」はテレビドラマ化されている。この碓氷優佳の高校生時代を描いたのが、「わたしたちが少女と呼ばれていた頃」(石持浅海:祥伝社)だ。⇒続き
June 1, 2013
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【送料無料】人形遣いと絞首台 [ アラン・ブラッドリー ]価格:1,155円(税込、送料込) 化学少女・フレービアが名探偵として活躍する、シリーズ第2弾となる「人形遣いと絞首台」(アラン・ブラッドリー/古賀弥生:東京創元社)。⇒続き
May 31, 2013
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【送料無料】蒸気機関車と血染めの外套 [ アランナ・ナイト ]価格:966円(税込、送料込) エジンバラ市警警部補のファロとその義理の息子で新米医師のヴィンスが、ヴィクトリア朝を舞台にした事件に挑む、「ファロ&ヴィンス」シリーズの3作目、「蒸気機関車と血染めの外套」(アラン・ナイト/法村里絵:東京創元社)。⇒続き
May 29, 2013
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【送料無料】“文学少女”と飢え渇く幽霊(ゴースト) [ 野村美月 ]価格:630円(税込、送料込) 本を食べてしまうくらいに文学を愛する”文学少女”・天野遠子が、人の心の闇を解き明かしていくシリーズの第2弾、「"文学少女”と飢え渇く幽霊」(野村美月:ファミ通文庫)。⇒続き
May 25, 2013
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【送料無料】万能鑑定士Qの事件簿(10) [ 松岡圭祐 ]価格:540円(税込、送料込) 全てのものを鑑定するという万能鑑定士・凜田莉子の活躍を描いた、「万能鑑定士Qの事件簿」(松岡圭祐:角川文庫)の10巻目。この巻では、時間を遡って、莉子が独立したての頃の物語となっている。⇒続き
May 22, 2013
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【送料無料】冬の生贄(上) [ モンス・カッレントフト ]価格:1,050円(税込、送料込) 大学生のころ、学校の掲示板に、スウェーデン留学に関する貼紙があった。まだ大学に入ったばかりで夢いっぱいだったので、チャンスがあれば是非自分もと思っていたのだが、結局そんなチャンスは全然巡ってこなかった。別に何を勉強しにいきたいという具体的な思いがあった訳ではないのだが、日本から見れば遥かなる北欧の地に対して、憧憬の念を持っていたのだろう。もちろんスウェーデン語なんて喋れる訳もなく、夢のただ夢だったのだが、スウェーデンと聞くと、今でもなんとなくあこがれのようなものを持っている。⇒続き
May 20, 2013
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【送料無料】天井裏の奇術師 [ 折原一 ]価格:660円(税込、送料込) トリッキーな、あまりにもトリッキーな作品。折原一の「天井裏の奇術師 幸福莊殺人日記2」(講談社文庫)だ。幸福莊というマンションに住む、おかしな住人たちが織りなす物語である。⇒続き
May 18, 2013
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【送料無料】万能鑑定士Qの事件簿(9) [ 松岡圭祐 ]価格:540円(税込、送料込) あらゆるものの真贋を鑑定するという万能鑑定士・凜田莉子が名探偵役として事件に挑む、「万能鑑定士Qの事件簿」シリーズ第9弾。今回は、なんと、あのダ・ヴィンチの名画、モナ・リザに関する事件だ。⇒続き
May 10, 2013
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【送料無料】万能鑑定士Qの推理劇III [ 松岡圭祐 ]価格:580円(税込、送料込) あらゆるものの真贋を鑑定する万能鑑定士・凜田莉子が活躍するシリーズ第3弾、「万能鑑定士Qの推理劇3」(松岡圭祐:角川文庫)。この巻では、莉子と不思議な関係にある万能贋作者雨森華蓮の弟子が巻き込まれた奇妙な事件が扱われる。⇒続き
May 8, 2013
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【送料無料】珈琲店タレーランの事件簿(2) [ 岡崎琢磨 ]価格:680円(税込、送料込) 京都の街に隠れ家的にひっそりと存在する珈琲店タレーラン。その店のまるで女子高生のように可愛らしいバリスタ・切間美星が、その推理力を活かして身の回りで起きた事件を解決するという「珈琲店タレーランの事件簿」(岡崎琢磨:宝島社)のだ2弾。サブタイトルは、「彼女はカフェオレの夢を見る」だ。⇒続き
May 7, 2013
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【送料無料】万能鑑定士Qの事件簿(8) [ 松岡圭祐 ]価格:540円(税込、送料込) どんなものでも真贋を鑑定してしまう、美貌の鑑定士・凜田莉子が活躍する人の死なないミステリー「万能鑑定士Qの事件簿」(松岡圭祐:角川文庫)の8巻目。今回の莉子の活躍の場は、なんと台湾だ。⇒続き
May 5, 2013
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【送料無料】半熟作家と“文学少女”な編集者 [ 野村美月 ]価格:630円(税込、送料込) “文学少女”シリーズの最終編となり、本編と外伝のエピローグといった観が強いのが、この「半熟作家と“文学少女”な編集者」(野村美月:ファミ通文庫)。主人公は、雀宮快斗というデビュー2年目の高校生作家。この辺りの設定は、本編の主人公である井上心葉を連想させるが、大きく違うのは、心葉が心に暗いものを抱えていたのに対して、こちらの快斗の方は、アホキャラというところである。薫風社文学新人賞特別賞を受賞してデビューし、順調に作品を発表しているようだが、なぜかネット上の評判は最悪。ネットを見るとしょっちゅうブチ切れて、パソコンを壊しまくっているようだ。⇒続き
April 29, 2013
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【送料無料】万能鑑定士Qの事件簿(7) [ 松岡圭祐 ]価格:540円(税込、送料込) あらゆるものを鑑定するという、美貌の鑑定士、凛田莉子が奇妙な事件に挑むという「万能鑑定士Q」(松岡圭祐:角川文庫)シリーズの7巻目。今回莉子は、マルサからの依頼で、店の方は休業し、大人気の女性誌「イザベル」を発行しているステファニー出版へ潜入捜査を行うことになる。⇒続き
April 27, 2013
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【送料無料】エトランゼのすべて [ 森田季節 ]価格:1,260円(税込、送料込) タイトルと表紙イラストの女性の服装から、どこの国の話だろうと思っていたら、なんとこれが、日本の中の日本たる京都を舞台にした話。森田季節の「エトランゼのすべて」(星海社)だ。そう言った目で、もう一度表紙イラストを見直せば、なるほど桜は咲いているし、左側の川は鴨川か。⇒続き
April 26, 2013
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【送料無料】夕顔 [ 野村美月 ]価格:630円(税込、送料込) “文学少女”の野村美月が源氏物語をモチーフに描く学園ミステリー、「ヒカルが地球にいたころ」の2作目となる「夕顔」(ファミ通文庫)。⇒続き
April 25, 2013
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【送料無料】人形パズル [ パトリック・クェンティン ]価格:840円(税込、送料込) パトリック・クェンティンの「パズル」シリーズ第3弾、「人形パズル」(白須清美訳:創元社推理文庫)。一言で言えばアメリカンコメディタッチのミステリーといったところか。年輩の方なら覚えているだろうが、昔よくアメリカンコメディがテレビで放映されていた。あの、画面から時折笑い声が聞こえてくる奴だ。それを、そのままノベライズしたら、きっと、こんな感じになるだろう。⇒続き
April 19, 2013
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【送料無料】万能鑑定士Qの事件簿(6) [ 松岡圭祐 ]価格:540円(税込、送料込) あらゆるものの真贋を鑑定するという万能鑑定士。凜田莉子が活躍する「万能鑑定士Qの事件簿」(松岡圭介:角川文庫)シリーズ第6弾。この巻では、莉子の鏡合わせのような存在、万能贋作者・雨森華蓮が登場する。少し屈折した性格のようで、莉子に対して奇妙な興味を持っているようだ。⇒続き
April 18, 2013
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【送料無料】葬神記 [ 化野燐 ]価格:620円(税込、送料込) 化野燐による「考古探偵一法師全」シリーズの第1巻目に当たる、「葬神記 考古探偵一法師全の慧眼」(角川書店)。考古学に絡んで発生する事件に、探偵役の考古学者一法師全が挑むというシリーズだ⇒続き
April 11, 2013
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【送料無料】謎解きはディナーのあとで [ 東川篤哉 ]価格:1,575円(税込、送料込)北川景子主演のドラマが人気だった、「謎解きはディナーのあとで」(東川篤哉:小学館)。主な登場人物は3人。まずは主人公の宝生麗子。国立署の刑事をしているが、それは仮の姿。その正体は、大財閥宝生グループ総帥の一人娘。正真正銘のお嬢様なのだ。⇒続き
April 2, 2013
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【送料無料】ソウルケイジ [ 誉田哲也 ]価格:720円(税込、送料込) 「ストロベリーナイト」に続く、姫川玲子シリーズ第2弾の「ソウルケイジ」(誉田哲也:光文社)。警視庁捜査一課第10係姫川班の面々が残虐な事件に立ち向かっていくと言う警察小説だ。前作では、玲子を表の主人公とすれば、捜査一課捜査五係の主任である、勝俣健作が浦野主人公のような存在だったが、本作品では、同じ十係の主任である日下守が同じ位置を占めている。⇒続き
March 30, 2013
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【送料無料】深川芸者殺人事件 [ 風野真知雄 ]価格:680円(税込、送料込) 風野真知雄の「耳袋秘帖」シリーズのひとつ、「深川芸者殺人事件」(文芸春秋)。元祖刺青奉行の根岸肥前守鎮衛の活躍する時代ミステリーだ。根岸肥前守は実在の人物で、見聞きした不思議なこと、面白いことを記した「耳袋」の著者としても知られている。還暦を過ぎて、普通ならとっくに隠居している歳なのに、江戸南町奉行に抜擢された人物だ。⇒続き
March 24, 2013
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【送料無料】特等添乗員αの難事件(3) [ 松岡圭祐 ]価格:580円(税込、送料込) 「雨降って地固まる」と言うことわざがある。何かトラブルがあった後は、かえって物事が良い方向に向かうという意味だ。この諺を地で行っている観があるのが、「特等添乗員αの難事件」(松岡圭祐:角川文庫)シリーズのの主人公である浅倉絢奈とその恋人の壱条那沖の間だ。 ⇒続き
March 22, 2013
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【送料無料】ベンスン殺人事件 [ S.S.ヴァン・ダイン ]価格:903円(税込、送料込) 小説に描かれる名探偵は、なぜか変人が多い。シャーロック・ホームズしかり、御手洗潔しかり。私の知っている爽やか系は浅見光彦くらいか。常人には想いも付かない発想で難事件を解決できる人間というものは、それなりの強烈な個性が付き物だということだろうか。そう言った意味で、最も探偵らしい人物の一人が、この「ベンスン殺人事件」(S.S.ヴァン。ダイン/日暮雅通:東京創元社)に登場するファイロ・ヴァンスだろう。 タイトルにあるベンスンとは、証券会社を経営していたアルヴィン・ベンスンのこと。そのベンスンが自宅で何者かに頭を撃ち抜かれて殺されていた。ヴァンスは、親友の地方検事マーカムに、一度捜査に同行させて欲しいと頼んでいたことからこの事件に関わるようになったのである。 このヴァンス、皮肉屋でとにかく口が悪い。会話には、これでもかと言うほど、文芸や舞台芸術などの広い教養を前提とした、引用や比喩が溢れている。彼の口調のせいもあるのだが、これが相当に嫌味たらしい。相手をしている方も、かなりの教養人でないとその意味が汲み取れないだろう。彼の犯罪捜査に対するポリシーも独特で、<物的証拠と状況証拠だけをもとにした推理では犯罪を解決できない>、<真相を知るには犯罪の心理的要因を分析して、それを人物に適用するしかない>と、今で言うプロファイリングのような手法こそが真実に至る道だと確信している。 捜査の方は、迷走し、有力な容疑者が次々に現れてくるのだが、ヴァンスは、次々にマーカムや警察の見込みを覆していく。それだけではない。自分で、<物的証拠と状況証拠だけをもとにした推理では犯罪を解決できない>ということをマーカムに実証するために、特定の人物に対して、こいつが真犯人だとして、その理由を延々と述べていくのだ。しかし、マーカムがその気になったところで、そんな訳ないじゃないかと、がらりとひっくり返してしまうのだから、なんとも始末が悪い。これを何度もやられるのだからたまらない。そして、最後に明らかになるのは、最も犯人らしくない人物だ。ヴァンスは、この人物が犯人だということは最初から分かっていたそうだが、彼の言う心理的要因だけで、本当にそこまで分かるものだろうか。彼の推理の筋道には本当に驚かされる。 読者は、ヴァンスの推理過程に思い切り翻弄され、どんどん迷宮の中に踏み込んでいるような錯覚を受けてしまうだろう。いったい、この迷路に出口はあるのか。「変人にして賢人」であるヴァンスの案内するミステリーツアーは、奇妙な魅力で読者を惹きつける。※本記事は、「本の宇宙」に掲載したものの写しです。
March 21, 2013
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【送料無料】特等添乗員αの難事件(2) [ 松岡圭祐 ]価格:540円(税込、送料込) 閃きの小悪魔、ラテラルシンキングの天才浅倉絢奈が難事件に挑むという、「特等添乗員αの難事件」(松岡圭祐:角川文庫)シリーズの第2巻。出だしは、絢奈は絶好調だった。添乗員として、ツアー客の要求する無理難題を次々に解決していく。⇒続き
March 19, 2013
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【送料無料】“文学少女”見習いの、傷心。 [ 野村美月 ]価格:693円(税込、送料込) “文学少女”シリーズの外伝となる「見習」シリーズの2巻目、「“文学少女”見習いの傷心」(野村美月:ファミ通文庫)。このシリーズは、本編、外伝、挿話集と、どれも内外の名作をモチーフにしているのが特徴だが、この巻でモチーフに使われているのは、シュトルムの「みずうみ」とメアリー・シェリーの「フランケンシュタイン」。もっとも、前者は前振りのようなもので、メインは「フランケンシュタイン」の方だ。⇒続き
March 18, 2013
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【送料無料】雪の女 [ レーナ・レヘトライネン ]価格:1,260円(税込、送料込) 北欧諸国と聞くと、多くの人がまず思い浮かべるのはスウェーデン、次いでノルウェーといったところだろうか。フィンランドをすぐに連想する人はそう多くはないだろう。日本より一回り小さい面積の国で、国土の7割以上が森林に覆われている。人口は約530万人(2008年)だそうだ。日本から遠いうえに、公用語のひとつフィンランド語(スウェーデン語も公用語)も、他の北欧諸国からは孤立している。だから、日本でフィンランドの作品が発表される機会というのはそう多くはないだろう。フィンランドの作家によって書かれたこの「雪の女」(レーナ・レヘトライネン/古市真由美:東京創元社)が、日本語訳となったということは、きっと、それほどに面白いということなんだろうなと、読む前から期待が高まってくる。 本作の主人公は、マリア・カッリオという女性巡査部長。巡査部長と言っても、フィンランドでは、初級とはいえども幹部扱いのようだし、マリアもポストと言う言葉を使っていたので、制度が日本の警察とは少し異なるようだ。マリアは、ロースベリ館という男子禁制のセラピーセンターに「精神的護身術」の講師として招かれたのだが、その館の女主人であるエリナ・ロースベリが不審な死を遂げる。何と降り積もった雪の中で、パジャマ姿で凍死していたのだ。彼女は組み合わせると意識を失わせるような薬を飲んでいた。一体事件なのか、事故なのか。 、 ここから、マリアの事件捜査が始まるのだが、期待に違わず面白い。ただ舞台がフィンランドであることや物語のシチュエーションを別にすれば、何となく既視感があるような気が。そうだ、「ストロベリーナイト」(誉田哲也)の姫川玲子だ。とにかく猪突猛進、考える前に行動するようなところがそっくりだ。おまけに、同僚のペルッティ・ストレム、彼の役割は、正に姫川の天敵である勝俣健作、通称「ガンテツ」そのもの。マリアの前で口を開けば、嫌味かセクハラまがいの言葉だ。ストロベリーナイトほどの危機に陥っていた訳ではないが、最後にペルッティがマリアのことを助けるというところも似ている。もちろん似ているのは、マリアの性格やペルッティとの関係といったところだけであり、事件そのものは、いかにも雪国・フィンランドらしさをよく反映したものとなっている。 ところで、本作では、あまりなじみのないフィンランドの風俗とか文化と言ったものも窺えて、そちらも興味深い。例えば結婚式の誓いは裁判官の前で行ったり、男同士のカップルと女同士のカップルが同居していて、いろんな組み合わせで子供を作って育てているといったようなことなどは、日本では驚きだろう。夫婦別姓制度もあるようだ。女性の性に関する話題が多いような気がするのは、フィンランドだからか、作者が女性だからなのかどっちだろう。 読んでいると、小柄だがパワフルな主人公マリアを応援している自分に気が付く。この作品では母になることが分かったマリアだが、時に、自分が妊娠していることを忘れてしまっているようなところもある。しかし、この事件を通じて、マリアは精神的にも大きな成長を遂げたのではないだろうか。最後に、本書の最後に書かれているパンクロックの一節を紹介しよう。 <今日、おれは起ち上がれる 今日、おれは世界に旅立つ 自分の道を歩いていこう この目で見よう 壁の向こうにあるものを> 今後、母となったマリアがどのような活躍を見せていくのか、楽しみである。※本記事は、「本の宇宙」に掲載したものの写しです。
March 17, 2013
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【送料無料】ストロベリーナイト [ 誉田哲也 ]価格:700円(税込、送料込) 竹内結子主演でテレビドラマや映画にもなった「ストロベリーナイト」(誉田哲也:光文社)。もっとも、映画の方は、同じシリーズの別作品が原作になっているようだが。主任である姫川玲子を中心に、警視庁捜査一課第10係姫川班の面々が残虐な事件に立ち向かうと言う警察小説の第1作目に当たる。⇒続き
March 16, 2013
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【送料無料】ななつのこ [ 加納朋子 ]価格:546円(税込、送料込) ノスタルジックな表紙イラストが目をひく「ななつのこ」(加納朋子:東京創元社)。イラストの風景は、かっては日本のどこにでもあった風景だが、最近は過疎化の影響により、田舎の、麦わら帽子に虫採り網を持った子供の風景なんて、まず見られないものになってしまった。⇒続き
March 9, 2013
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