時空の流離人(さすらいびと) (風と雲の郷本館)

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October 8, 2010
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 「遠耳」、「遠目」、「つむじ足」、「発火能力」、「飛行能力」など、常人には無い様々の能力を持った常野(とこの)一族を描いた「常野物語」シリーズのひとつ 「蒲公英草紙」




 主人公は中島峰子という少女。峰子は、地元の大地主槙村家の末娘である聡子の話し相手として、槙村の屋敷の通うようになる。聡子は病弱で学校にも行けず、成人するまでは生きられないと言われていたが、優しく美しい少女で、不思議な力を持っていた。槙村家は常野一族の血が入っていて、その力が隔世遺伝のように聡子に出ていたようだ。

 時代は、日清戦争に勝利し、ロシアと緊張が高まりつつある20世紀の初めごろ。まだまだ、峰子たちの住む集落にはのどかな雰囲気が漂っている。槙村家の主人夫婦の人柄も良く、生真面目な書生の伊藤、プチマッドサイエンティストの池端、洋画家の椎名、仏師の永慶など、なかなか面白い人が寄宿していたのだが、さらに、常野一族である春田一家が、槙村家が所有する天聴館に住むようになる。この物語は、そんな人々が繰り広げる日常を描いたものである。

 「蒲公英草紙」とは、そんな日々を記した日記に付けた名前だ。もちろんその中心となるのは、聡子の物語。病弱ながらも凛として美しく生きた少女。過ぎ去った穏やかな日々に対するノスタルジー。それはセピア色の思い出。

 タンポポの花で埋め尽くされた表紙の美しさに目を奪われてしまうが、この作品もタンポポの花のように美しく、しかしタンポポの綿毛のように儚いそんな思いを抱かせてくれるような物語だった。

 聡子との悲しい別れの後、日本は、日露戦争から第二次大戦と、激動の時代に入っていく。この穏やかな風景も壊れていく運命だったのだ。幸せな時は、永遠には続くとは限らない。だから私たちは、その時々を懸命に生きておかないと、悔いを残すことになってしまうだろう。


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(本記事は、「本の宇宙」と同時掲載です。)








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Last updated  October 9, 2010 09:00:23 PM コメント(2) | コメントを書く


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