さあ今日の疲れを癒そうと風呂入るは、一日最後の締めくくり。裸になって寛いでいるところへ、あの嫌な羽音が聞こえてきた日にゃあたまらない。
やっつけてやろうにも、こちとら近眼でメガネを外しているから蚊の姿が見えやしない。
もう、頭にくる。
イライラして音のする辺りを、濡れた手で払ってみたり握りつぶそうとしてみたりするが、どうしても掴まらない。
鬱陶しくて、憎らしくて、血圧は急上昇だ。ほうほうの体で浴槽へ逃げ込むことになる。
大分違うが、夜を選んで襲い来るB29を思い浮かべたりする。飛行高度が高いのと夜なのでその姿が見えず、音ばかりが恐怖をあおったあの忌まわしい夜。
空襲の経験などないからこんな悠長なことが言ってられるが、おぞましさは同じだ。
目にも見えない、たった一匹の蚊のために一日の最後の楽しみが台無しだ。
独房にかしこまる囚人のような心持ちでバスタブに身を沈めながら、一日が終ったのだった。
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