梅林庵

梅林庵

2017年10月01日
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平成29年10月1日(日)
 午前5時起床。晴れ。午前に息子のアパートを訪ねる予定でした。昨夜のうちに都合悪しの電話。初日の夜に会ってもう話は済んだつもりか。でも仕方ありません。これが親離れというものなんでしょう。
 ホテルの前にサンマルクカフェがありました。そこのモーニングを食べながら今日の作戦を練りました。よし、鶯谷の書道博物館を冷やかそう。子規庵もあることだし。



 JRでその駅鴬谷へ。この名前、年配のかたは笑福亭鶴光のオールナイトニッポンに覚え有りのことと存じます。いらっしゃいませいらっしゃいませの鶯谷ミュージックホールです。ああここに来たな。そう思いながら改札を出ました。地図に沿って博物館へ。途中は喋喋喃喃が目的のホテル街でした。心持ち膨らんだ感じのショルダーバックを下げた妙齢の女性が目につきました。私の前を歩いていて、突然立ち止まり、くるり後ろを振り向いた後、さっと玄関の暗がりに消えました。うーむ、意味深長だ。博物館から駅に戻る折も同様の光景や、陽射しに眩しげの顔つきとなったカップルが玄関を出るところに出くわしました。なるほど、鶯谷は鴬谷です。


 書道博物館はそのようなところにありました。



 ここの収蔵品、ほとんどは中村不折の蒐集品です。



 彼は江戸末期に生まれ、昭和18年に没しました。洋画家であり書家でもありました。描いては売り、買いては売り。得た蓄財で中国の書を集めたのです。昭和8年、それらを展示・公開するため建設したのが書道博物館。今は台東区の施設として運営されています。ちなみに中村の手によるものとしては、油彩を別にすると「吾輩は猫である」や「若菜集」の挿画を描き、森林太郎の墓碑、清酒「眞澄」や新宿中村家インドカリーの字などです。
 目録を販売していました。私は不要です。そのお金を夜のお勤めに廻さなければなりません。印象深い書はメモすればよい。ということで感じ入った作品をいくつか。
 入館したら王義之が出迎えてくれました。勿論「蘭亭の序」がありました。続いて息子の王献之。則天武后の書も。中国唯一の女帝です。76歳に書いたものを展示してありました。丸々とした字体。艶めかしい人だったのかな。目を移すと「泰山刻石」や唐の玄宗が書。続いて書顔眞卿。褚遂良とともに隋・唐の名筆。北宋の大家も軒並み。蔡襄、蘇軾、黄庭堅などでした。蘇軾の「赤壁賦」は歴史考証的価値と漢詩の芸術性の両方を併せ持ちます。素晴らしい。杜牧、陸游(三国志・陸孫の子孫)、時代が下がり、乾隆帝や林則徐のものも。林はアヘン戦争時、厳しくアヘンを取り締まった欽差大臣(緊急の重要案件を処理する要職)でした。陳舜臣の「アヘン戦争」に登場します。同じ時代の康有為も。
 見入って、時の経つのを忘れました。嗚呼、いいものを鑑賞した。所蔵品の素晴らしさ、話には聞いていました。しかし、まさか孔明の書に対峙しようとは。思いもよりませんでした。息子のことはさておき、これを見ただけで上京した甲斐があろうというものです。
 この博物館、別棟に金石類の展示がありました。胸が一杯になったので、そちらは駆け足で。
 勉強になったことは日本の石墓、庶民が使いだしたのは江戸時代後期ですが、中国ではすでに漢の時代からであったこと、棺の蓋がそれであったこと、鉛の札に刻まれた文字は墓券と言われ、死後の世界の役人宛て、金額と墳墓の面積が書いてあること、後年、その墓石が集められて建築材として利用されていたこと、興味は尽きませんでした。目を惹いたのは璧。史記、趙の恵文王と蘭相如の話に出てくる「和氏の璧」の璧です。高校の漢文授業で璧のなんたるかを判らないまま丸覚えでした。和氏の璧ではありませんが、璧の実物がありました。疑問解決。「完璧」の由来です。
 昼飯を食べずに4時間、疲れました。しかし、この心地よさは何にも代えがたい。ということで高揚した気分は鎮めないといけません。しかし、此処は鶯谷。女衒に操られる女に声を掛けられかねません。その鎮められ方は興味ありますが法度。急いで上野に向かいました。
 目指すはアメ横の大統領。言わずと知れた大衆酒場です。吉田類の番組にも登場しました。飲んべえの甲子園、あこがれの地です。当然突っ込みました。


 おーっ、やってるやってる。



 瓶ビールで喉を潤しました。当てはナニハトモアレの煮込み。



 物足りません。向かいの「たきおか」に突っ込みました。真っ赤な顔をしたお兄さんが愛想を振りまいていました。こちらは立ち飲み。





 里芋の煮っ転がしを生中で流しました。椅子のない分、大統領よりコスパ有り。



 晩杯屋のハムカツが美味しかったことを思い出しました。此処のはどうなんだろう。頼んでみました。値段の安い分、それなりでした。


 東京の下町風情を満喫。嗚呼、このまちとは今日でおさらばです。京成線で成田に向かいました。飛行機は明日早朝発。今夜は成田に泊。ライナーに乗ると高いので、特急に乗りました。途中、青砥駅を通過。下車して突っ込もうか。いやいや、いけない。先ほど、の見納めを決めたばかりだ。我慢しました。
 京成成田に着きました。ホテルにチェックイン。シャワーを浴びてうとうとなりました。目が覚めて、嗚呼、明日はもう九州の方田舎だな。そう思うと寂しさがこみ上げてきました。仕方ありません。寂寥を癒すには立ち飲みしかありません。出撃しました。途中でワクチンを補給。



 都内から離れると、駅周辺の賑わいは薄れます。寅屋という立ち飲みに突っ込んだんですが、客層はぐっとブルーカラー。ニッカボッカを履いて腕っぷしの強そうな猪首のお兄さん、作業ズボンに地下足袋の似あう同世代と思しきおっさん、オートレースを楽しんだリタイア組らしき御仁・・・。皆さん、ニコニコ顔でモツを頬張りながらサワーを流していました。



 メニューはこんな感じです。金宮マークが目立ちます。



 先ずはシロ。日本酒で流しました。






 煮込みを日本酒で流しました。この料理、各店が自慢を誇っています。入ると先ずの注文がよろしい。



 隣のおっさんがうまそうにレバーを食べていました。下がりと1本ずつやってもらいました。絶品でした。


 郷に入っては郷に従え、ホッピーを貰いました。サワーよりましです。



 折角だからもう一軒、JR成田駅の方を冷やかしてみよう。いい感じの立ち飲みがありました。あとになって店を出る時、ここが先の店と姉妹店であることを知りました。でも客層はリーマンとお姉さんたち。店が客層に合わせて2パターンを用意している。いい感じでした。



 此処では煮込みを日本酒で流しました。やっぱり冷やがいいです。



 さあ帰ろうか。店を出たら、おっ、おでんの文字。勃然、日本酒に出汁を混ぜる飲み方を思い出しました。よし、もちょっとだけ。ふらり、「博多劇場」に入りました。



 店内は国際色豊かでした。成田空港利用者かな。



 看板のおでんがいい感じでした。



 コップをもらい、「おでん、汁多めでね」。「あいよ、汁多めね」。覚えた出汁割りをこさえました。



 ちびりやりながら書道博物館の印象を荒書きしていたら、隣のおっさん二人が声をかけてきました。「その飲み方、始めてだよ。美味いかい?」いきさつを話し、一杯ずつ馳走しました。話が弾みました。一人は秋田、もう1人は大分・日田の出身。大手建設会社の下請けの下請けで働く技術屋さんたちでした。気持ちのいい方々でした。話の内容は、孫請け会社が如何にピンはねされているか、嘆き節でした。お元気で。

 店を出たところにワインバーがありました。そういえば上京して以来、ワインを飲んでいませんでした。1杯だけ飲んでいくか。オープンエアの席に座りました。グラスワインを貰いました。少し離れた席にいい格好しいのおっさんが葉巻をくゆらせ始めました。いい香りでした。



 もうこれでおしまい。打ち止め。京成成田駅の地下を通り、ホテルの側に戻りました。喉が渇きました。あと1本だけ、ビールを飲むか。ふらり、コンビニへ寄りました。オリオンビールを手に取りました。小腹がすいたので、鉄火巻きも1本。パクつきながら、早出の準備をしました。バタンキュー。



今日の一句
我が胸も秋風の吹く五丈原
蘭亭を心で真似し酒斗の酒
町の宿春を鬻いで子規悲し

今日のラン
なし

今日の酒
忘れました。

今日の写真は閉門中の子規庵です。



 たまたまの閉館。残念でした。



塀越しに覗き込んでみました。いい風情でした。








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Last updated  2017年10月05日 21時33分41秒
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Re:書道博物館(10/01)  
びっちりびちこ さん
東京は博物館の多いところですよね。私も行きたいです。そんな歴史で学ぶような超有名な人の書が有るのですか!知らないことが多すぎです。!Σ( ̄□ ̄;)
親方さん、夜の部も堪能されたようですね。合計いくつの店を梯子されましたか?「もつ」が多いですね。私はのんびり屋なので、梯子には向いてません。大体、資金が、ね!
飲んで、喫茶店開業の夢が・・・と言われた意味がわかります。(^_^) (2017年10月06日 04時44分34秒)

Re:書道博物館(10/01)  
禁玉減酒  さん
おはようございます。

昼は高尚な博物館、夜は猥雑な居酒屋巡り。
この差がいいですね~。

1800年前の書、ロマンを感じますね。その書が朽ちないように保存するのも大変でしたろうに。

区立の博物館、運営は指定管理なのでしょうね、などとついつい気になってしまいます。 (2017年10月06日 07時49分32秒)

Re:書道博物館(10/01)  
nkuchan さん
ここ数日の、ボリューム満点の日記、昼間も夜も、学究肌の親方さんの面目躍如といったところですね。
こまめにメモを取ってないと、ここまでの内容はかけないですよね。
凄いです。 (2017年10月07日 05時37分23秒)

Re[1]:書道博物館(10/01)  
びっちりびちこさんへ
東京は世界の「TOKYO」です。いろんな「もの」が集まっています。
たのしいです。
モツ焼きの店、だいたい1,000円で済ませます。
安いですよ。
最近、夢は山の木を切って喫茶店をやるよりも、旅三昧の方に傾いています。 (2017年10月07日 10時16分43秒)

Re[1]:書道博物館(10/01)  
禁玉減酒さんへ
東洋文庫と書道博物館、この二つはよかったです。
後者、その視点になること、よくわかります。
調べたら台東区文化芸術財団というところが受けていました。
団体の概要、推して知るべしです。 (2017年10月07日 10時19分18秒)

Re[1]:書道博物館(10/01)  
nkuchanさんへ
ダラダラブログ、読んで頂き、嬉しいです。
学究肌、嬉しい言葉ですが、ちょっと赤面。
趣味の世界ですから。
専門はイワシです(笑い)。
メモ、あとで読み返すのがよいです。
記憶に残りますから。 (2017年10月07日 10時21分19秒)

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シミ君 @ Re:纏めて一週間(11/23) おはようございます。 九州場所も今日が…
禁玉減酒 @ Re:纏めて一週間(11/23) こんにちは〜。 1週間分の記事をアップ…
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