2026.09.14
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今日は朝から少し暗い。
くらいから眠い。
雨が降るかと思ったけど降らないみたい。

今日は何の日

メンズバレンタインデー
セプテンバーバレンタイン
グリーンデー
揚州商人スーラータンメンの日
コスモスの日

丸大燻製屋・ジューシーの日
クラシコ・医師の日
歯ヂカラ探究月間

最近、このお題がちゃんと使われてるのか?って疑問になるんだけど。

タイトル『濡れ衣さま』

民俗学者の久世透が、奥日向の廃村・葛籠集落を訪れたのは、村史に残された奇妙な一文を読んだからだった。
秋桜の咲くころ、濡れた女に乾いた物を貸してはならない。
山の怪談には、「返事をするな」「振り返るな」「数えるな」といった禁忌が多い。しかし、乾いた物を貸すな、というのは珍しい。

葛籠集落は三十年前に廃村となっていた。かつては二十戸ほどが暮らし、山の神に麻布を納めていたという。古い写真を見ると、村の女たちは皆、雨の日でも軒下に濡れた着物を吊るしていた。
久世が林道の終点から山へ入ると、やがて苔むした鳥居が現れた。
注連縄には、色褪せた袖、子供の前掛け、軍服の切れ端、赤い腰巻きまで、無数の布が結びつけられていた。紙垂の代わりらしい。
鳥居の横には石の水盤があり、赤黒い汁の入った椀と、空の茶碗が一つずつ置かれている。


痩せた若い女だった。髪も着物も雨に濡れ、裸足に近い草履で、片手に籠を下げている。奇妙なのは、空に雲一つないことだった。
「村の方ですか」
久世が尋ねると、女は首を横に振った。
「村の者ではありません。村にされるところです」
女はそう言い、寒そうに肩を震わせた。

濡れた女に、乾いた物を貸してはならない。
「その籠は?」
「着るものを集めています」
「鳥居の布を?」
「はい。あれは皆、昔ここに住んでいた人の濡れ衣ですから」
女は平然と答えた。
葛籠では、身に覚えのない罪を着せられた者が出ると、その者の衣を水に浸し、山の社へ奉納する風習があったという。
米を盗んだと疑われた嫁。
火を放ったとされた旅人。
村の子を神隠しに遭わせたと責められた老婆。
のちに無実と分かっても、村人は謝らなかった。
衣だけを社へ運び、
「この罪は、山に預ける」
と言った。
それで済ませたのである。
久世は鳥居に垂れた布を見上げた。
「では、あなたは無実の罪を着せられた誰かの……子孫ですか」
女は少し考え、首を傾げた。
「まだ、誰のものでもありません」

日が傾くと、森の中だけが急に暗くなった。
女は水盤の空の茶碗を持ち上げた。
「昔は秋桜が咲くたび、村から一人がここへ来て、山の汁を飲みました」
「何のために?」
「濡れ衣を着るためです」
村人たちは、社に預けた罪が山から戻ってくることを恐れた。そこで毎年、罪を引き受ける者を一人選んだ。
よそ者。
身寄りのない者。
口の利けない者。
その者に奉納された衣を着せ、山の汁を飲ませる。そして夜が明ける前に、村から追い出した。

翌朝、村人たちは何が起きてもこう言った。
「あの者がやった」
家畜が死んでも、作物が枯れても、夫婦喧嘩が起きても、すべて追放者のせいになった。
女は鳥居の奥を見た。
「でも、村がなくなってから、着る者が来なくなりました。だから衣が溜まって、山が重くなったのです」
風もないのに、吊るされた無数の布が揺れた。
濡れた袖の先が、一斉に久世の方を向いた。
女は茶碗に赤黒い汁を注ぎ、久世に差し出した。
「着ていただけますか」
久世は逃げようとした。
だが、背後の道は秋桜で埋め尽くされていた。来たときには足首ほどだった花が、今は人の胸まで伸びている。白や桃色の花弁の下で、何十人もの顔がこちらを見上げていた。
村人たちだった。
老人も、子供も、作業着姿の男も、皆、土の中から首だけを出している。
「先生が来るって、麓で聞きました」
一人の老婆が言った。
「物好きな先生なら、きっと調べてくれると思って」
久世は息を呑んだ。
廃村になったのではない。
この村では、最後の「濡れ衣役」を決められなかったのだ。
住民全員が互いを指さし、
「あいつが村を滅ぼした」
と言い争った末、山が全員の言い分を聞き入れた。
全員を無実とし、全員の罪を引き取った。
その代わり、村人たちも山の一部にしたのである。
「だからお願いです」と老婆が続けた。
「先生の本に、こう書いてください。この村がなくなったのは、全部あの女のせいだと」
濡れた女は悲しそうに俯いた。
久世はようやく分かった。
村人たちは今も、誰か一人に罪を着せれば、自分たちは土から出られると信じているのだ。
彼は女から茶碗を受け取った。
村人たちの顔が笑った。
しかし久世は汁を飲まず、そのまま土へ注いだ。
「調査報告には、事実を書きます。村が滅びたのは、誰も自分の非を認めなかったからだ、と」
森のあちこちから、呻き声が上がった。
秋桜の茎が激しく震え、土の顔が一つずつ沈んでいく。最後に老婆が叫んだ。
「そんなことを書いたら、村の評判が悪くなる!」
久世は思わず笑った。
「もう村ごとありませんよ」

夜明けとともに、鳥居の布はすべて消えていた。
濡れた女もいなかった。
ただ、久世の肩には、見覚えのない古びた羽織が掛かっていた。
慌てて脱ごうとすると、内側に墨で文字が書かれている。

民俗学者 久世透

その下には、これから着せられる予定の罪が、細かな字でびっしり並んでいた。
史跡への無断侵入。
祭具の損壊。
椀の汁を地面に捨てたこと。
村人への侮辱。
そして最後に、一番新しい墨でこう加えられていた。
「葛籠集落を消滅させた張本人」

麓へ戻った久世は、すぐに役場で調査記録を確認した。
葛籠集落は廃村になっていなかった。
そもそも、そんな村は最初から存在していないという。
ただし町の古老は、「葛籠」という地名だけは知っていた。
それは村の名ではない。
昔、この地方で罪人の着物を入れた籠を、そう呼んだのだという。
久世が宿へ戻ると、濡れた羽織は消えていた。
代わりに彼の上着が、椅子の背でびっしょり濡れていた。
胸ポケットには、見知らぬ女の筆跡で小さな紙が入っていた。
乾いた物を貸してくださらなかったので、
あなたの濡れ衣をお借りしました。
これで私は、村の者ではありません。

その日以来、葛籠の森で濡れた女を見た者はいない。
だが、秋桜の咲くころになると、大学や出版社へ匿名の苦情が届くようになった。
久世透という男が、存在しない村の伝承を捏造し、私腹を肥やしている——という内容だった。
差出人の欄には、毎回違う名前が書かれていた。
ただし住所だけは、すべて同じだった。
奥日向町葛籠集落。
久世が一度も、原稿に書かなかった住所である。

おわり

なんか話がわかりにくいなぁ。







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最終更新日  2026.09.14 18:18:16
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