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今回は、【世界の論考 – 異論反論】日本の為替レートと対外債権国としての地位、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 米国の長期金利が上昇する中、日本による米国債売却への懸念が背景にあると広く見られていますが、進行する円安を食い止めるため、米国財務省は日本銀行と協調して金融市場への介入を行いました。 米国の介入規模はごく小規模なものでしたが、日本の介入ははるかに大規模なものでした。財務省の発表によれば、7月30日から8月26日までの為替介入額は970億ドル、4月28日から5月27日までは740億ドルに上りました。8月分の米国債取引に関する米国のデータはまだ出ていませんが、2026年5月のデータを見ると、日本の居住者は600億ドルの財務省短期証券(T-Bills)と約28億ドルの財務省長期国債(T-Bonds)を売却しています。 長期的な視点:1)円の実質為替レートは極めて低い水準にあります。新型コロナウイルスのパンデミック後に生じた大幅な円安は、過去20年間にわたる大きな下落にさらに上乗せされる形で進行しました。2)過去25年間で世界経済における日本の比重は急激に低下しました。これは、一人当たり成長率の低迷、人口減少、そして為替レートの下落(円安)によるものです。3)日本の対外債権国としての地位は、絶対額では依然として世界第3位ですが、相対的な重要性や、米国や世界のGDP比で見ると縮小しています。対米国で見ても、日本は依然として重要な債権国ではありますが、その重要性は20年前と比べて大幅に低下しています。 実質為替レート実質実効為替レートが劇的に下落しています。これは先進国の中でも事実上、前例のない動きです。1999年末と比較して60%以上、2020年半ばの水準と比較しても34%下落しています。より長期的な視点で見ると、円は1980年から2026年の期間における平均水準と比較して44%減価しています。名目為替レートの減価も顕著(36%)ですが、実質的な減価の大きな部分は、貿易相手国と比べて日本のインフレ率がはるかに低いことに起因しています。1999年末から2026年6月までの間に、物価は日本で累積16%上昇したのに対し、米国では98%、ユーロ圏では78%、中国では66%上昇しました。こうした状況下では、購買力を一定に保つためには名目ベースで円が大幅に増価する必要があったはずですが、実際にはその逆の動きとなりました。 円の極端な弱さはどのような要因で説明できるのでしょうか。2000年の水準と比較した実質的な減価の一部は、交易条件の悪化、貿易相手国と比べた生産性伸び率の低下、人口動態といった長期的なファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)の要因に帰することができます。他の主要先進国との金融政策スタンスの乖離も、異なる時期において明らかに影響を及ぼしてきました。例えば、新型コロナウイルスのパンデミック後、貿易相手国が金融を引き締める一方で日本はそうしなかったため、他の先進国との金利差が拡大し、円は急激に減価しました。この期間、世界的なリスク選好姿勢は概して強固に維持されていました。そうした状況下では、低金利である円はキャリートレード(高金利通貨建ての金融商品への投資)の調達通貨として好まれ、高金利通貨に対して円の価値を押し下げる要因となります。こうした取引は通常、ボラティリティ(価格変動)が高まると解消され、円高をもたらします(例として、1998年のロシアの債務不履行後や2007~2009年の世界金融危機時などが挙げられます)。しかし、こうした要因を考慮に入れたとしても、実質ベースでの通貨安の規模は依然として驚くべきものであり、特に直近の動きについては説明が困難です。実際、IMFの最新の対日報告書でも指摘されているように、9月中旬時点での日米10年物国債の金利差は、2023年後半の水準の約半分にまで縮小しています。より長期的な視点で見れば、円相場の変動の大きさや、それを標準的なマクロ経済変数で説明することの難しさは、すでにオブストフェルド(2010年)が1985年から2008年にかけての円相場の推移を論じる中で指摘していた点でもあります。また、貿易相手国(および現在の日本)と比べて金利が著しく低く、かつ巨額の経常黒字と対外純資産を抱えるもう一つの先進国であるスイスが、2000年以降、実際には実質ベースで大幅な通貨高を経験しているという点も注目に値します。 経済規模日本はしばしば、低成長の先進国として描かれます。20世紀末以降、一人当たりベースの成長率は年平均1%未満にとどまっており、これはフランス、ドイツ、英国、カナダといった他の先進国と概ね同水準です。一人当たり成長率の相対的な低迷、人口減少、そして何よりも急激な円の実質減価により、世界経済における日本の比重は大幅に低下しました。IMFのデータによると、市場為替レート換算での世界GDPに占める日本の割合は、2000年には約14.7%でしたが、2025年にはわずか3.8%となりました。日本が占めるGDPの相対的規模の縮小には、交易条件の著しい悪化も影響しています。1999年第4四半期以降、日本のGDPデフレーター(国内生産物の価格)は10ポイント以上上昇しましたが、その上昇幅は消費者物価指数(実質為替レートの算出に用いられる指標)の上昇幅を下回りました。これは、インフレの主な要因がエネルギーなどの輸入価格の上昇にあったためです。購買力平価(PPP)ベースで評価した世界GDPに占める日本のシェアも、2000年から2025年にかけて大きく低下しました(6.8%から3.3%へ)。低下幅は市場為替レートベースより緩やかだったものの、依然として大きなものでした。また、世界の商品・サービス輸出に占める日本のシェアも6.7%から2.8%へと急落しました。 日本の対外純資産(債権国としての地位)日本は1981年以来、経常黒字を継続しており、多額の対外純資産を蓄積してきました。その規模は2025年末時点でGDPの80%を超えています。しかし、世界全体の中で日本の対外純資産の地位はどの程度重要なのでしょうか?日本は1991年から2024年にかけて、世界最大の対外純資産保有国でした。世界の対外純資産合計に占める日本の割合は、2000年には39%、2010年には29%でした。その後、ドイツ、中国、中東の産油国などの対外純資産が急速に拡大したため、世界の対外純資産合計に占める日本のシェアは徐々に低下していきました。実際、2025年までにそのシェアは11%にまで低下し、ドイツと中国の双方が、絶対額ベースで日本を上回る債権国となっていました。2010年頃には日本の対外純債権は米国GDPの約20%に相当していましたが、2025年には約12%にまで低下しました。ここでも、円の実質的な減価が重要な役割を果たしています。 日本の対外純債権国としての世界的地位の低下は、日本の対外資産のかなりの部分が米国に対する債権であることを踏まえると、米国にとって特に重要な意味を持ちます。日本の統計によると、2025年末時点で、日本の証券投資の約半分(約2兆4600億ドル)および対外直接投資の約3分の1(8280億ドル)が米国に向けられていました。さらに、通貨構成が公表されていない日本の外貨準備の大部分も、米ドル(主に米国債)で保有されているとみられます。実際、2026年7月に行われた円を支えるための米国の市場介入は、米国債の長期金利が上昇する局面において、日本当局が自国通貨を支えるために米国債を大量売却する事態を防ぐための措置であると広く解釈されました。アジア諸国の通貨安に関連する貿易上の要因も、何らかの役割を果たした可能性があります。 しかし、こうした日本の保有資産は、絶対額や日本経済の規模との対比で見れば巨額であるものの、米国の対外投資全体や米国における発行済み証券残高に占めるシェアは低下傾向にあります。例えば、日本が保有する市場性米国債のシェアは2004年に17%に達していましたが、円を支えるための米国短期国債(T-Bills)の大量売却を経て、2026年5月には4%を下回る水準にまで低下しました。日本の投資家による米国債の大量売却は、特に不確実性が高くボラティリティが上昇している局面において、依然として金融市場に大きな影響を及ぼし得ますが、ケイマン諸島を拠点とするヘッジファンドなど他の米国債保有者と比較すると、その役割は低下しています。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】日本の為替レートと対外債権国としての地位毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.26

今回は、【世界の論考 – 異論反論】プーチン氏を罰するグラハム制裁法案!、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 9月16日に下院を通過した「2026年ロシア・イラン制裁法(リンジー・O・グラハム法案)」は、ウクライナにとって、そして署名・実施されれば米国にとっても、超党派の勝利と言える。同法案は8月7日に上院を通過しており、手続き上の障害がなければ、ドナルド・J・トランプ大統領の署名を受ける段階に進むはずだ。しかし、ここから先は事態が複雑になる。政権は、法案の提案者たちが意図した通り、ウクライナとの戦争を終わらせるようクレムリンに圧力をかけるためにこの法案を活用するだろうか?もしそうすれば、戦争終結に向けた米国の(これまで一貫性を欠いていた)交渉の取り組みを後押しし、法案に名を冠した故上院議員へのふさわしい敬意の表れともなるだろう。それとも、一部の反対派が懸念するように、政権が誠実に実施せず、意図的に遅延させたり、その趣旨を骨抜きにしたりする事態となるのだろうか? 同法案の中で最も強力かつ物議を醸しているのは第113条である。この条項は、ロシア産の原油や天然ガスを大量に輸入している国、あるいは制裁逃れを助長する主要な国に対し、最大100%の関税を課すというものだ。対象国には当然、中国やインドが含まれるが、トルコや日本といった米国の同盟国、さらにはスロバキアやハンガリーといったEU(欧州連合)の同盟国も含まれる可能性がある。批判派は、ロシアや第三国に圧力をかける手段として、関税はそもそも不適切だと主張している。特に、これまでの政権による関税の運用がしばしば効果を上げず、拙劣ですらあったことを踏まえれば、彼らの主張には一理ある。具体的には、第113条は政権に広範な権限を与えるものであり、その権限が乱用される恐れがあるという指摘だ。例えば、一部の加盟国による石油・ガス購入を理由に、EU全体に関税を課すといった事態が考えられる。 これらは決して根拠のない異論ではない。実際の運用は困難を伴うだろう。しかし、同法には実効性を高めるための柔軟な仕組みも盛り込まれている。第113条(b)項では、対象国がロシア産石油やガスの輸入を削減または停止した場合、関税率を調整することが認められている。これにより、米国は購入削減に同意した国々と協力していくための柔軟性を確保できることになる。 EUの決定により、加盟国は2027年末までにロシア産石油・ガスの購入を停止することがすでに義務付けられている。米国も同様の取り決めを、インドや中国を含むロシア産石油・ガスの輸入国と結び、時間をかけて購入量を段階的に削減させることが可能だ。これはかつて米国が、中国やインドによるイラン産石油の購入を減らすために用いた手法だ。また、同法第113条(c)項は、関税措置の対象をロシア産石油・ガスの輸入上位5カ国に限定しているため、対象となる国の数はそもそも多くない。 現政権であれ他の政権であれ、拙劣な対応や不誠実な行動がとられないという保証はない。しかし、もし私が今その職にあったなら、第113条を効果的に活用し、各国政府と連携してロシアの石油・ガス販売収入を削減できたはずだ。現政権にも同じことが可能だ。私が懸念しているのは、トランプ政権がこの法律をEU叩きに利用することではなく、むしろ単に適用除外措置を乱発し、厳しい規定をほとんど行使しないのではないかという点だ。 議会はこの法案に伴うリスクを承知の上で、あえて法案を受け入れる賢明な選択をした。なぜなら、実際に運用されれば、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領にウクライナとの戦争を終わらせるよう迫ることができるからだ。 今とるべき最善の策は、トランプ氏が法案に署名することだ。その際、法案支持者である超党派のグループに囲まれ、大々的に署名を行う。そのグループには、サウスカロライナ州選出上院議員だった故グラハム氏の議席を現在引き継いでいる妹のダーリーン・グラハム・ノルドーン氏も加わっているはずだ。大統領は、戦争終結への強い決意を改めて示しつつ、政権としてこの法案を迅速かつ強力に実行すると宣言できるだろう。 米国がそのような決意を示すことは、国家の存亡をかけた正義の戦いを続けるウクライナの人々を勇気づけるはずだ。また、ドローン攻撃や暗殺、放火といったロシアの攻撃にさらされている欧州の同盟国に対し、敵対勢力の脅威に直面しても米国は同盟国との連帯を示せるのだということを証明することにもなる。さらに、和平交渉を遅らせるのをやめるよう、クレムリンにメッセージを送ることにもつながる。 懐疑的な人々は、政権がそのようなことをするはずがないと冷笑するだろう。彼らの見方が正しいのかもしれない。しかし、議会はすでに行動を起こしており、ただ座して待つ必要はない。もし政権が「グラハム・ロシア制裁法」を履行するならば、議会はそれを支持すべきである。仮に履行しないのであれば、議会は反発し、政権の責任を追及すべきだ。そうすることで、同法を可決させた「自由世界」の超党派連合が、自らの成し遂げた成果を重く受け止めていることを示す必要がある。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】プーチン氏を罰するグラハム制裁法案!毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.26

今回は、【世界の論考 – 異論反論】AIのグローバル・ガバナンス:米中首脳会談への示唆、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 ここ数週間で、AIのグローバル・ガバナンスに関する3つの異なる制度的構想において、具体的な進展が見られました。(1)6月には米国務省が第2回「パックス・シリカ(Pax Silica)」サミットを主催。(2)その数週間後には国連が「AIガバナンスに関するグローバル対話」を招集。(3)2026年7月16日には上海にて、29カ国の代表者が「世界人工知能協力機構(WAICO)」の設立協定に署名。これは、AIガバナンスをめぐってグローバル・サウス(発展途上国・地域)を巻き込むことを目指す、中国主導の組織です。 現在、米国と中国がAIの安全性を議論する歴史的な会談に向けて準備を進める中、一連の懸念すべき事態がこれらの動きに影を落としています。複数の企業の自律型AIエージェントが、試験中に制御下から逸脱する事案が発生しました。同時に、主要なAI研究所の研究者からは、AIの潜在的な危険性に対する警告がますます強まっています。米国の有力AI研究所の一つであるAnthropic(アンソロピック)社は、悪意ある主体がこの技術を悪用しようとする様々な手法(通常兵器の開発や危険な病原体の研究などを含む)を詳述した報告書を発表しました。同社はまた、業界に対して「フロンティア(最先端技術)の開発ペースを適切に管理する」よう呼びかけ、自社内に第三者評価機関を組み込む決定を独自に発表しました。こうした姿勢は、後にOpenAIやSpaceXAIの指導部からも支持されています。 これらの一連の出来事は、AIを首脳会談の議題における優先順位の高い位置へと押し上げただけでなく、両国間での合意の可能性を広げ、共通の基盤を見出すことの重要性を高める結果となりました。 AIのグローバル・ガバナンスおよび安全対策の基本指針について真剣な議論を行う機は熟しており、間近に迫った米中首脳会談は、この分野で進展を図るための極めて重要な機会となります。 しかし、その進展を実現できるかどうかは、米国が首脳会談の前、そして何よりも会談後において、国内および国際的なレベルでAIガバナンスに包括的かつ継続的に取り組めるかどうかにかかっています。 これは、1)国際的なパートナーとの議論の基盤となり得る、強固なAIガバナンスの国内枠組みを構築すること、2)AI分野の競争を阻害することなく破滅的な事態を回避し得るAIの諸課題について合意形成を図ること、3)双方が受け入れ可能な検証メカニズムに重点を置くこと、そして、4)二国間での成果を多国間の場へと展開できるような形で設計・策定すること、を意味します。 ~結論~世界のAI規制は分断に向かっています。それぞれ異なる支持基盤を持つ2つのAI統治の枠組みが、現在固まりつつあります。一方で、国連主導による第3のAI統治の枠組みは、実質的な推進力を欠いています。相互運用性や統合の兆しは見られず、世界のAI統治をめぐる問題は、依然として米中の広範な戦略的対立という地政学的課題に従属したままです。しかし、世界のAI統治の行方が決まったわけではありません。各国がどの枠組みに参加しているかを見れば、そのことは明らかです。世界的に見て、多くの国が一方の枠組みを決定的に選ぶという選択をまだしていません。むしろ、AI規制の将来において重要な役割を果たす世界各国の多くは、複数の枠組みに参加し、それぞれの利点を享受しつつ、戦略的な選択肢を確保し続けています。ワシントンでは、こうした姿勢はしばしば「日和見的な態度」と見なされがちです。しかし、これはむしろ「ある種の呼びかけ」と捉えるべきかもしれません。つまり、中堅国は米中双方に対し、どちらの大国も、自国を独占的に支持させるほど魅力的なAI統治の枠組みをまだ提示できていない、と伝えているのです。 米国は、世界の多くの国がAI統治に実際に求めているもの、すなわち、技術へのアクセス、能力の向上、そしてルール策定への関与に応える提案を行う必要があります。 したがって、今般9月の米中AIサミットは、ワシントンにある重要な事実を再認識させる機会となります。それは、米国が北京と競っているのは単なる技術的優位性においてだけではなく、規制のあり方を定める「制度的な枠組み」への支持をめぐっても競っているということです。ここでも米国は、世界の多くの国がAI統治に実際に求めているもの、つまり、アクセス、能力、ルール策定への関与に応える提案を行う必要があります。中国と共にWAICO(世界AI協力イニシアチブ)の設立に参加した28カ国がその決断を下したのは、彼らが「枠組みへの参加」と「発言権」を提示されたからです。これこそが競争の本質であり、サミットの結果がどうあれ、この競争は続いていくでしょう。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】AIのグローバル・ガバナンス:米中首脳会談への示唆毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.25

今回は、【世界の論考 – 異論反論】なぜロシアとの外交はうまくいかないのか?、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 欧州に対するロシアのハイブリッド戦(複合的な脅威を伴う戦争)の激化は、明らかに米国の外交的働きかけを嘲笑し、面目を潰すタイミングを狙って行われている。「プーチン大統領、私たちを迎えてくださり、本当にありがとうございます」。米国のスティーブ・ウィトコフ特使は最近モスクワで、ジャレッド・クシュナー特使と共にプーチン氏と会談した際、経済協力の拡大や制裁解除を提示してウクライナとの和平に応じるよう説得を試みながら、そう熱っぽく語った。さらにウィトコフ氏は、「私たちが引退する時、素晴らしい物語や思い出を数多く振り返ることになるでしょうが、大統領との思い出はその中でも最高のものになるはずです」と付け加えた。 米国と欧州は、プーチン大統領の自尊心をおだてたり、ウクライナ側の相手に圧力をかけたり、あるいは彼をさらなる無謀な行動に駆り立てることを恐れて挑発行為に断固として対応しなかったりすることで、プーチン氏を根本的に読み違えている。これらはすべて、何らかの取引を取り付けようとする期待や、彼を刺激して事態を悪化させることへの恐れからくる行動である。 プーチン氏は、サイバー攻撃、プロパガンダ、破壊工作、そして様々な軍事的挑発を含む「ハイブリッド戦」を通じて、欧州の決意を試している。しかし、欧州の指導者たちはさらなる事態の激化を恐れて同様の手段で対抗しようとはせず、ワシントン(米国政府)もそれを促してはいない。 西側の弱腰を察知したプーチン氏は、ハイブリッド戦を大幅に強化したり、あるいは軍隊を別の欧州諸国の国境を越えて侵攻させたりする可能性がある。その時点で、欧州(全体または一部)はプーチン氏の領土拡大の野心を深刻に恐れ、彼を阻止するために軍隊を派遣し、全面戦争の引き金を引くことになるかもしれない。そうした事態の連鎖を防ぐために、ワシントンと欧州は今すぐ行動を起こすべきである。すなわち、より強力な措置をもってプーチン氏に対峙し、特定の「レッドライン(越えてはならない一線)」を越えた場合の結末を明確にし、それを実行に移す覚悟を示すことだ。 その直後、ドナルド・トランプ大統領はキエフ(ウクライナ政府)に対し、ロシア国内のエネルギー施設への攻撃をやめるよう圧力をかけた。ディーゼル燃料の不足を招いているというのがその理由だった。しかし、トランプ大統領はモスクワに対しては何の要求もしなかった。ウクライナの重要インフラや民間人標的への攻撃の停止も、「大量拘束、組織的かつ大規模な拷問、第二次世界大戦以来最大規模となる子供の強制移送」といった残虐行為の停止も求めなかった。 米国のへつらいや経済的インセンティブも、キエフを遠ざけモスクワに傾斜する姿勢も、プーチン氏を和平へと導くことはないだろう。このロシアの強権的指導者は「ウクライナ全土は我々のものだ」と公言し、ウクライナは「国ですらない」と述べており、米国の外交努力を軽蔑の目で見ている可能性が高い。プーチン氏は米国の和平に向けた取り組みを嘲笑しつつ、より頻繁かつ大胆な攻撃を仕掛けることで欧州を試している。 最も大胆な事例として、9月13日、ウクライナとポーランドの国境付近でロシアのドローンが列車のエンジンを攻撃した。これはウクライナを支援する国々への警告と見られる。このドローンは、元CIA長官のデビッド・ペトレイアス氏が乗っていた別の列車の近くに落下したほか、ボリス・ジョンソン元英首相や欧州の政府高官らが乗った列車が出発してから「わずか数分後」に攻撃が行われた。その数日前にも、ロシアのドローンによりモルドバは「数便の運航を一時停止」せざるを得なくなった。その中には、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領をキシナウからオスロ(ノルウェーのハラルド5世国王の葬儀に出席するため)へ運ぶ予定だった便も含まれていた。同時にモスクワは、NATO加盟国の領空に戦闘機やドローンを侵入させたり、公海上空で他国の軍と対峙したりしているほか、欧州全域でGPSや航法システムを妨害し、外国の選挙に干渉し、破壊工作活動を行っている。ここ数日の間にも、コペンハーゲン(デンマーク政府)は、バルト海上空でロシアのフリゲート艦がデンマーク空軍のヘリコプターに向けて発砲したと発表した。またドイツは、ライプツィヒ・ハレ空港の貨物ターミナルでロシアによるドローン攻撃の試みがあったと非難し、ブルガリアは国内の複数の兵器保管施設で発生した爆発事故の調査を開始した。 当然のことながら、欧州の政府高官らは怒りを露わにし、断固たる姿勢を示すと誓っている。デンマークのラース・ロッケ・ラスムセン外相は、自国のヘリコプターに対するロシアの攻撃について「全く容認できない」と述べた。欧州議会は、ロシアを「欧州連合(EU)とその加盟国が直面する最も深刻なハイブリッド脅威」と位置づける決議を採択する予定である。しかし、言葉だけでは不十分だ。報道によれば、欧州の政府高官らはいくつかの選択肢を検討しているという。それには、「いわゆるハイブリッド攻撃がNATOの集団防衛条項(第5条)の発動要件となり得るかどうかの議論を開始すること」、インシデント発生時に統一されたメッセージを発信すること、そして重要インフラの防護をさらに強化することなどが含まれる。 米国と欧州は、さらに踏み込んだ対応をとるべきである。エネルギーや通信のインフラを強靭化し、サイバー防衛を強化することに加え、西側諸国は軍備を増強し、ウクライナのみならず、ロシアによる将来的な攻撃に対して最も脆弱な他の国々に対しても、必要な物資や装備を供与すべきだ。なぜなら、これまでのロシアの行動を鑑みれば、そうした措置を講じなかった場合に生じる代償は、はるかに大きなものとなる恐れがあるからである。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】なぜロシアとの外交はうまくいかないのか?毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.25

今回は、【世界の論考 – 異論反論】中国政府は、西側諸国を弱体化させつつ、気候変動戦略を推進している!、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考(の一部)を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 中国政府は、西側諸国を弱体化させつつ、自国の競争力を強化する気候変動戦略を推進している。中国との競争において、米国は本来、石油の豊富さと安価な天然ガスという優位性を持っている。安定したエネルギー供給は、工場、データセンター、輸送網、そして軍事活動の原動力となる。これにより、米国は技術革新と産業規模の拡大を両立させることができるが、石油やガスを輸入に頼る中国にとって、この優位性を再現することは容易ではない。しかし、中国はある一つの解決策を見出した。それが「ネットゼロ(温室効果ガス排出実質ゼロ)」運動である。長年にわたり、西側諸国では、多額の資金を擁する大規模かつ影響力のあるネットワークが、化石燃料の生産と利用を制限する運動を展開してきた。こうした運動団体の多くは、米国内における最大の「排出ゼロ」電力源である原子力発電にも反対している。気候変動対策の推進派は、米国政府に対し、自国のエネルギー上の優位性を自ら放棄するよう説得しようとしており、中国政府もこれを歓迎している。 その結果、過去20年の間に、実質的な同盟関係とも呼ぶべきものが形成されてきた。一方には中国の党・国家体制があり、もう一方には、活動家の中核層をはるかに超える広範な西側の気候変動コミュニティが存在する。そこには、環境保護団体やそれらに資金を提供する慈善団体、研究機関や国際機関、再生可能エネルギーへの移行を報じるジャーナリスト、運動の内部から登用された政府関係者、さらには、その運動が実現させる政策によって利益を得る投資家、資産運用会社、金融機関などが含まれる。 「ネットゼロ」コミュニティは一枚岩ではない。その急進派は資本主義の終焉と新たな社会主義的実験の導入を目指している。一方で、最も裕福な参加者たちは、風力や太陽光発電への移行から利益を得ようとしている。彼らを結びつけているのは、協定や指揮命令系統ではなく、利害の一致である。彼らの多くは、あるいはその大半は、中国との同盟関係など存在しないと否定するだろう。 一見すると、それは「奇妙な同床異夢(本来なら相容れない者同士の協力関係)」のように見える。中国は世界最大の温室効果ガス排出国であり、石炭の生産量・消費量でも世界一を誇る。同国の電力システムは依然として主に石炭に依存しており、その石炭消費量は世界の他の国々をすべて合わせた量を上回る。気候変動運動が掲げる本来の目標である「排出削減」に照らせば、中国こそが最大の標的となるはずである。しかし、実際にはそうなっていない。気候変動の回避に取り組む組織は、ダイベストメント(投資引き揚げ)、訴訟、規制による圧力、公的な場での批判といった強力な手段を、欧米のエネルギー・産業界や、それらを規制しようとしない政府に向けて行使している。 一方で、中国に対しては全く異なる姿勢をとっている。国連気候変動枠組条約事務局を率い、パリ協定の成立に尽力したクリスティアナ・フィゲレスが中国政府(北京)に対して示した敬意は、示唆に富むものだ。彼女は2025年11月、30年に及ぶ気候変動外交の経験を振り返り、中国は「常に控えめな約束をし、それを上回る成果を上げてきた」と述べ、その姿勢を誠実さと謙虚さによるものだと評した。当時の米国気候変動問題担当大統領特使であり、この運動における米国の最高位の当局者であったジョン・ケリーは、この問題をより率直に表現した。2021年11月のグラスゴー気候変動会議において、米国政府が中国との協力合意を発表した際、ケリーは、世界の太陽光発電用ポリシリコンの大部分が生産されている新疆ウイグル自治区でのウイグル族の強制労働について質問を受けた。しかし彼は、その話題は「自分の担当分野ではない」と答えた。彼の任務は、気候変動対策の取り組みを前進させることだったからだ。フィゲレスは中国の誠実さを評価し、ケリーは中国の行動に目を向けようとしない。両者とも、決して例外的な存在ではない。気候変動対策の枠組みを構築した外交官と、世界最大の排出国と交渉を行った特使。この二人の姿勢の間に、「ネットゼロ(温室効果ガス排出実質ゼロ)」運動の定着した考え方が見て取れる。それは、排出量に関するあらゆる証拠とは裏腹に、中国こそが道徳的に真剣に取り組む当事者であり、欧米は遅れをとっているという見方である。なぜなのか? 広く報じられたいくつかの事例は、中国がネットゼロをめぐる批判の対象外にあるように見える理由の一つとして、中国政府が気候変動運動への資金提供において大きな役割を果たしていることが挙げられる。例えば、米国のテクノロジー起業家であるネビル・ロイ・シンガムは、ニューヨークで連邦大陪審の調査対象になったと報じられている。シンガムは2017年に自身のコンサルティング会社「ソートワークス(Thoughtworks)」を7億8500万ドルで売却し、拠点を上海に移した後、非営利団体やメディア機関からなる世界的なネットワークへの資金提供を開始した。2023年8月、ニューヨーク・タイムズ紙は、シンガムが中国政府のメディア機関と緊密に連携し、非営利団体やペーパーカンパニーを通じて中国政府の主張を世界中に拡散させるための資金を提供していたと報じた。シンガムは、中国共産党を含むいかなる政府や政党からも資金や指示を受けていないと否定している。彼の慈善活動の支援先の一つに、反戦団体「コード・ピンク(Code Pink)」がある。同団体は、シンガムが2017年に結婚したジョディ・エヴァンスが共同設立したものだ。2025年11月、トム・コットン上院議員(共和党、アーカンソー州選出)は司法長官に対し、「外国代理人登録法」に基づきコード・ピンクを調査するよう求めた。コットン議員の書簡によると、エヴァンスはシンガムとの結婚前、中国政府に対し、女性の人権擁護者への弾圧をやめるよう求めていた。しかし結婚後、彼女は中国を「抑圧された人々の擁護者」と見なすようになった。「コード・ピンク(Code Pink)」は、ウイグル族に対する中国の扱いへの批判をやめ、代わりに中国を擁護する姿勢に転じ、2020年には「中国は我々の敵ではない」というスローガンを掲げてキャンペーンを開始した。同書簡は『ニューヨーク・タイムズ』紙の調査報道を引用し、シンガムに関連する団体が2017年以降、コード・ピンクに140万ドル以上(同団体の資金の約4分の1に相当)を提供してきたと指摘している。コード・ピンクは気候変動問題に関しても中国を称賛している。 しかし、もし中国の資金が米国のエネルギー政策を左右しているのだとすれば、最も厳しい監視の目にさらされるべき組織は「エナジー・ファンデーション・チャイナ(Energy Foundation China)」であろう。同団体はカリフォルニア州に拠点を置く慈善団体だが、サンフランシスコに住所を置き、北京にも大規模なオフィスを構えている。同団体の説明によれば、北京のオフィスは北京市公安局に登録されており、中国の「五カ年計画」を策定・管理する省庁である国家発展改革委員会(NDRC)の監督下にあるという。こうした自己説明や、国家安全保障関連の調査グループ「ステート・アーマー(State Armor)」による報告を受け、モンタナ州のオースティン・クヌードセン司法長官をはじめとする26州の司法長官らは2025年12月、同財団を未登録の外国代理人として調査するよう司法省に求める書簡を送付した。司法長官らは、北京オフィスが国家発展改革委員会(NDRC)の「監督下にある」とする同財団の公表声明も根拠としている。 エナジー・ファンデーション・チャイナの最高経営責任者(CEO)鄒驥(ゾウ・ジー)は中国国籍である。同氏は以前、国家発展改革委員会(NDRC)の傘下機関である中国国家気候変動戦略・国際協力センターで副主任を務め、パリ協定締結に至るまでの数年間は中国の交渉チームの一員でもあった。また、中国の副首相が議長を務める国務院の諮問機関「中国環境・発展国際協力委員会」の特別顧問も務めている。他の幹部スタッフも、中国科学院、北京市生態環境局、全人代(全国人民代表大会)の関連機関などの出身者で構成されている。同財団は、中国の省庁や国営機関と提携関係にある。 同団体の説明によれば、その主な事業は、欧米の慈善資金を中国の政策システムへと流し込むことにある。同財団の主な資金提供者には、ヒューレット財団、クライメートワークス財団、クライメート・インペラティブ、チルドレンズ・インベストメント・ファンド財団、マッカーサー財団などが名を連ねている。エネルギー・ファウンデーション・チャイナ(Energy Foundation China)は、これらの資金を中国の政府系研究機関や大学(国家気候変動戦略センター、中国環境計画院、中国科学院など)に助成金として提供している。 しかし、同財団は逆方向、つまり米国の大学や政策提言団体に対しても助成を行っている。ハーバード大学、カリフォルニア大学、ロッキー・マウンテン研究所、国際クリーン・トランスポーテーション評議会(ICCT)、天然資源防衛協議会(NRDC)などが資金提供を受けてきた。エネルギー・ファウンデーション・チャイナは、政府や政党からの資金は一切受け入れていないと主張しており、これに反する事実を指摘した公的な調査結果も存在しない。 とはいえ、疑念を抱く理由は明白だ。米欧の慈善資金で運営される米国の慈善団体が、中国の産業計画担当省庁の管轄下にある北京を拠点に活動し、元中国政府高官らが運営に関与し、西側の資金を中国の政府系機関に分配する一方で、米国のエネルギー・気候政策に取り組む団体にも資金を提供しているという構図があるからだ。・・・・・ ・・・・・西側の人々によって結成され、西側の慈善資金で運営され、西側のジャーナリストによって正当性が裏付けられたある運動が、北京のために成果を上げている。それは、中国による工作活動としては公然と試みることさえできず、また西側の防諜機関も検知するようには設計されていない種類の活動である。この一連の経緯における助成、任命、そして承認の各事案は、いずれも合法的かつ公にされたものであり、個々に見ればそれ自体が直ちに重大な結果を招くものではない。砂の粒一つひとつは自然かつ合法的なものかもしれないが、それらが形成する砂丘は人為的に構築されたものであり、戦略的な脅威となっている。欧米の市民がエネルギー、産業、同盟関係を一つの不可分な課題として捉えるようにならない限り、彼らは自らを害する行為を公益にかなう美徳と取り違え続けることになるだろう。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】中国政府は、西側諸国を弱体化させつつ、気候変動戦略を推進している!毎回ホットなテーマで、世界の論考(の一部)を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.25

今回は、【世界の論考 – 異論反論】ワシントンでのトランプ・習首脳会談:何が予想されるか?、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 過去1年間、ドナルド・トランプ米大統領と習近平中国国家主席は、対立の応酬を一時的に停止させる「不安定な休戦状態」を築いてきました。これは真の緊張緩和(デタント)ではなく、あくまで一時的な安定に過ぎません。双方は今のところ、相手の「レッドライン(越えてはならない一線)」を探りつつ、事態を激化させるような反応を招かずに、可能な限り自国に有利な状況を作り出そうとしています。しかし、この脆い休戦状態をいつまでも続けることはできません。木曜日、両首脳はホワイトハウスで会談を行います。これは1年足らずの間に3度目の対面会談となりますが、双方は自国の利益を増進させる形でこの休戦状態を維持・延長しようとするでしょう。とはいえ、議題に上るいくつかの問題は、現在の比較的安定した状況を崩壊させる「亀裂の起点」となりかねません。 外交的枠組み中国側は、米国の行動を抑制し、ワシントンの動きをより予測可能なものにすることを狙って、トランプ政権をある種の「外交的枠組み」に組み込もうとしています。5月に北京で前回会談した際、中国は「建設的な戦略的安定」という概念を提示しました。王毅外相によれば、これは「協力分野を拡大し、より前向きな議題を創出すると同時に、問題のリストを縮小し、様々なリスクや潜在的な危険を管理する」ことを意味します。さらに同外相は、これには「米国側が台湾関連の問題を極めて慎重に扱うこと」が必要だと付け加えました。つまり中国は、米国による中国への批判をやめさせ、中国を敵対視するような行動を控えさせたいと考えているのです。 一方、米国側では、トランプ政権は中国以外のあらゆる関係者に対し、現在の休戦状態の狙いは「レアアース(希土類)のサプライチェーンにおける中国の支配力を解消するための時間を稼ぐこと」にあると説明しています。その支配力が解消され次第、同政権は中国に対して再び強硬な措置を講じる計画です。中国側はこの方針を察知しており、そうした支配力の解消を阻止しようと動いています。中国はまた、今回の会談を利用して、将来の会談に向けた条件を整えたいと考えている可能性が高い。習氏は、トランプ氏が11月にアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議のために訪中するよう働きかけるでしょう。もしトランプ氏が訪中すれば、その返礼として習氏が12月にマイアミで開催されるG20サミットに出席することで双方はすでに合意している。これにより、2026年末までの首脳級会談の枠組みが確定することになり、中国が求めるある程度の予測可能性が確保されることになります。実質的に中国政府は、将来の外交会談の約束によって、これまで「建設的な戦略的安定」という言葉だけでは達成できなかった成果を得ようとしています。 AIをめぐる競争と安全性ここ数日で、人工知能(AI)が米中間の主要な議題の最優先事項に急浮上しました。米国と中国は激しいAI競争を繰り広げています。双方はAIを、経済と安全保障の両分野にわたり全体的な力関係に影響を及ぼす戦略的技術とみなしています。双方は安全上のリスクを懸念しているものの、そのリスクに対する認識が異なるため、協力は困難な状況にあります。中国のAIへの取り組みに関して米国が抱く主な不満は2点:一つは「蒸留(ディスティレーション)」、つまり中国企業が米国のモデルを利用して自社のモデルを学習させていること。もう一つは、悪意ある主体が中国のモデルを危険な方法で利用する可能性があること。今月初め、米サイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁(CISA)は、連邦捜査局(FBI)および国家安全保障局(NSA)と共同で、中国のAI企業6社を非難する勧告を発表。これらの企業は、米国の最先端モデル(フロンティア・モデル)を利用して自社モデルを学習させ、公正な競争を阻害し知的財産権の侵害に当たり得る不適切な方法で、米国の独自ノウハウを「蒸留」しているとされました。トランプ政権は、これらの企業に対する措置を検討していると報じられています。7月には、スコット・ベッセント米財務長官が「多くの中国製モデルに米国の大規模言語モデルの透かし(ウォーターマーク)が見つかっており、これは容認できない」と述べ、もし実際に知的財産権の侵害があれば「その侵害を理由に制裁を科す能力がある」と語りました。一方、連邦議会では超党派・上下両院による「リモートアクセス・セキュリティ法案」が検討されており、もし成立すれば、中国企業が当該モデルの学習に必要な米国の計算資源にアクセスするために利用している、第三国のデータセンターを経由する抜け穴が塞がれることになります。 米国政府はまた、中国のAI企業に対し、より強固な安全対策(ガードレール)の導入、使用している安全基準に関する情報共有の拡大、そしてリリース前の安全性テストにおけるモデルの性能に関する透明性の向上を求めています。米国と中国の双方のモデルにガードレールは組み込まれています。しかし、中国の安全対策は米国のものに比べてはるかに脆弱であることが多く、回避や無効化もされやすい。米国政府は、悪意ある主体が中国のAIを悪用し、サイバー攻撃や生物兵器の開発を行ったり、あるいは米国のモデルでは実行できないような活動を支援したりする事態を懸念しています。 北京側は、技術の拡散や安全対策に関する米国の懸念を、中国のAI開発を妨害しようとする試みだと捉えています。中国指導部も独自のAI安全性への懸念を抱いているが、それらの懸念は米国との安全性に関する協力に向けた明確な道筋を示すものではありません。彼らの最大の懸念は、AIモデルが国内における中国共産党の統治に対する脅威となり得るという点にあります。今月初め、中国の陳一新・国家安全部長は、こうした懸念を詳細に論じた異例の論文を発表しました。その最大の懸念事項は以下の通りです。「様々な敵対勢力や不純な意図を持つ個人が、ディープフェイクの音声・映像、AI生成のテキストや画像、インテリジェントなオンライン・トロール(荒らし)といった生成AI技術を悪用し、政治的なデマの捏造、有害情報の拡散、対立感情の扇動を低コストかつ大量に行う可能性がある。彼らは我々に対してプロパガンダ戦や認知戦を仕掛け、我々の政治的安全、体制の安全、そしてイデオロギー上の安全を直接的に脅かす恐れがある。」 これは、米国が中国共産党に対してAIを配備することを示唆する表現です。付随する懸念として、米国のAI企業が自社のモデル(特に「Claude Mythos」や「GPT-5.5-Cyber」)を悪用し、中国の「重要情報インフラ」を攻撃する可能性も挙げられます。 懸念事項には一部重複も見られます。例えば、米国と中国の双方が、悪意ある主体(ローグ・アクター)がAIモデルを悪用し、両国とも容認できないような有害な行為に及ぶことを懸念しているようです。具体的には、世界経済を崩壊させるサイバー攻撃や、世界規模の被害をもたらす生物兵器の開発・散布などが想定されます。しかし、こうした共通の懸念事項があるとはいえ、それらに対処するための明確な道筋はまだ見えていません。これまでのところ、首脳会談に向けた駆け引きは見られるものの、具体的な行動計画は策定されていません。より包括的な合意に至らない中、米国政府は「通知メカニズム」の構築を提案しています。これは、国家安全保障に影響を及ぼすような危険なAI関連事象が発生した際、少なくとも相手側の誰に連絡すべきかを把握できるようにするためのものです。米国は、自国の優先事項について中国を交渉のテーブルに着かせるため、「蒸留(ディスティレーション)」技術に関する規制措置を講じるとの姿勢を示唆し、圧力をかけています。一方、中国側は、米国が実際にそのような措置を講じれば報復に出ると警告しています。報道によれば、習近平氏とトランプ氏の双方が、公式晩餐会に自国のAI企業幹部を同伴させる計画を立てているとのことです。最も可能性が高いシナリオは、首脳会談を通じて互いに牽制し合い、せいぜいAIに関するより建設的な対話に向けて引き続き取り組むという合意にとどまることでしょう。 台湾5月に北京から帰国する際、トランプ氏が大統領専用機(エアフォース・ワン)内で記者団に対して行った発言は、台湾に関する米国の長年の政策から著しく逸脱するものでした。同氏は、台湾の現指導部が独立を推進しているとほのめかしましたが、これは北京側が主張する論調であり、現地の事実とは合致しません。さらに同氏は、米国による台湾への武器売却案件について習氏と協議しているとも明言しました。レーガン政権が1982年に行った「武器売却は北京との協議なしに安全保障上の必要性に基づいて決定する」という確約について問いただされると、トランプ氏は「1980年代はずいぶん昔の話だ……はるか彼方のことだ」と答え、さらにこう付け加えました。「じゃあ、どうしろと言うんだ? 『1982年に署名された合意があるから、その件についてはあなたと話したくない』とでも言えというのか?」トランプ氏はまた、「今、我々が最も必要としないのは、9,500マイル(約1万5,000キロ)も離れた場所での戦争だ」と述べました。 中国にとって、こうした発言は米国による大きな譲歩を意味します。トランプ氏は、台湾への武器売却について中国側に発言権を与える用意があることを示唆しており、これは40年以上にわたる安定した状況からの転換を意味します。現在、ホワイトハウスの承認待ちとなっている大規模な武器売却案件が存在しており、習氏は、この売却を来年以降に先送りするという約束をトランプ氏から取り付けるなどして、同氏をさらに追い込もうとするでしょう。もしトランプ氏が譲歩すれば、抑止力が低下し、台湾海峡の安全が脅かされる恐れがあります。習氏が台湾に対して行動を起こす上で優位に立ったと感じれば、米中衝突の可能性が高まるかもしれません。 重要鉱物重要鉱物の輸出は、中国が米国を牽制するために利用している「チョークポイント(戦略的要衝)」です。トランプ政権は新たな供給能力の確保を急いでいますが、そのプロセスには時間を要します。昨秋、韓国の釜山で両首脳が会談し貿易上の「休戦」で合意した際、中国は米国向けのレアアースやその他の重要鉱物に対する新たな輸出規制を一時停止することに同意しました。しかし、その条件は当初から曖昧なものでした。中国側の約束に関する説明は、トランプ政権側の説明に比べて詳細を欠くものでした。今年初め、米国の高官らは非公式な場で、米国のバイヤーの多くが約束通りに出荷を受けており、政権の見解としては中国が合意を履行していると報告していました。しかし、ここ数ヶ月でその認識は変化しました。 7月、米連邦通信委員会(FCC)は、米国の通信インフラに対する安全保障上のリスクをもたらすとして、外国製の高度なロボットやコネクテッド・パワーインバーターを米国市場での禁止製品リストに追加しました。これらの製品の主要な輸出国は中国です。8月、中国はFCCの規則やその他の米国の措置への対抗措置であると主張し、広範な米国企業に対して行動を起こしました。その直後、中国のレアアース輸出業者は米国向けの出荷を停止し始めました。双方が、相手が釜山での休戦合意に違反したと非難し合っています。トランプ氏と習氏は事態を軌道に戻そうとするでしょうが、双方が最小限のコストで相手から最大限の譲歩を引き出そうとする駆け引きが続く見通しです。過去2回の会談のパターンを踏襲するならば、米国は「中国がレアアース輸出再開について確実かつ詳細な約束をした」と発表する一方で、中国は曖昧な外交的表現にとどめ、その後も駆け引きが続くことになるでしょう。 貿易と投資ワシントンでの首脳会談では、貿易休戦の延長と関税の撤廃という、2つの主要な経済的発表が予想されています。現在の休戦協定は11月初旬に期限切れとなる予定であり、双方とも延長する動機を持っています。休戦をどの程度の期間延長するかについてはワシントン内でも意見が分かれていますが、両首脳はおそらく6ヶ月の延長で合意するでしょう。その場合、APECやG20で再び会談する機会があれば、12月に改めて協議することが可能になります。関税の引き下げはほぼ確実な情勢です。これは、双方がそれぞれ300億ドル相当の輸入品に対する既存の関税を撤廃するというものです。この発表は広く織り込み済みと見られており、もし実現しなければ、何かが深刻な事態に陥ったことを意味するでしょう。中国は購入合意を発表する可能性もあります。報道によれば、大豆やボーイング社の航空機などが検討対象となっています。中国政府はすでに5月に一連の購入計画を発表していますが、9月にその規模を拡大したり、正式な合意として確定させたりすることが可能です。 拘束者今回の交渉における「ワイルドカード(不確定要素)」があるとすれば、それは中国で拘束されている人々の解放の可能性です。拘束者の問題はトランプ大統領にとって個人的に優先度の高い課題であり、中国側もそれを承知しています。トランプ大統領は、過去1年間に行われた3回の首脳会談すべてにおいて、この拘束者問題を取り上げてきました。これに対し中国側は7月4日、地下教会に対する取り締まりの一環として拘束・収監されていた中国人牧師、エズラ・ジン(Ezra Jin)氏を解放するという対応をとりました。米国が重視する著名な拘束者は依然として複数存在します。その一人にエクパル・アサット(Ekpar Asat)氏がいます。彼は10年以上前、米国務省の交流プログラムに参加するために訪中した後、収監されました。米議会では、上下両院の超党派議員らが、彼やその他の拘束者の問題について働きかけを行っています。著名な拘束者を解放することは、中国にとって善意を示す良い方法であり、昨今の米中関係において善意というものは得難いものとなっています。習国家主席のワシントン到着に至る最後の数日間や数時間、実務レベルの当局者たちは優位性を確保しようと駆け引きを繰り広げるでしょう。両首脳が会談する際には、前述の課題について議論しつつ、外交的な儀礼も交わされることになります。そして、習氏の乗った飛行機が飛び立てば、再び駆け引きが始まります。こうしたパターンは予測可能なものになりつつありますが、双方にとって、積極的な対立状態にあるよりは望ましいことなのです。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】ワシントンでのトランプ・習首脳会談:何が予想されるか?毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.25

今回は、【世界の論考 – 異論反論】習近平氏のワシントン再訪・国賓訪問、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 中国の習近平国家主席による9月24日のワシントンD.C.への国賓訪問は、緊張を緩和し、世界で最も重要な二国間関係を安定させたいという、同氏およびドナルド・J・トランプ米大統領の意向を反映したものだ。習主席が最後にワシントンを訪れたのは2015年の国賓訪問時であり、中国側は今回もホワイトハウスで盛大な儀礼をもって迎えられるという「見栄え」の良さを歓迎するだろう。今回の訪問は、実質的な進展よりも、演出や象徴的な側面に重きが置かれるものとなりそうだ。 Q1: 米国はこの訪問から何を得ようとしているのか?トランプ大統領は、5月に北京で行われた首脳会談で中国側が見せたような盛大な儀礼的演出を通じて米国の威信を示しつつ、習近平氏との個人的な関係を強調したいと考えている。米国が求めているのは、二国間関係のさらなる安定、レアアースや重要鉱物の供給継続、そして大豆・小麦・牛肉といった農産物や航空機・航空機エンジンなどの米国製品の購入に関するさらなる確約である。とはいえ、スコット・ベッセント財務長官は、中国側が求めていた「貿易休戦」の2年間延長を拒否し、6ヶ月間のみの延長を提示したと報じられている。これは、中国が長期の休戦を望んでいるという事実が米国にとっての交渉の切り札になり得るという、大統領の直感を反映したものだ。 米国は、特に中間選挙を控えた今後数週間のうちに、農産物(とりわけ牛肉と大豆)の購入が加速することを望んでいる。また大統領は、2023年以来の取り組みの成果を踏まえ、米国へのフェンタニル流入を阻止するため、中国側がさらなる行動をとるよう求めるだろう。さらにトランプ大統領は、イラン問題において中国のより大きな協力を求める見通しだ。その内容は、イラン政府への資金の流れを断つという確約から、イランにホルムズ海峡の封鎖を解除させ、容認可能な条件で紛争を終結させるためのより明確な支援に至るまで多岐にわたる。また、イランとの情報共有を停止するよう中国に求める可能性もある。 大統領は北朝鮮問題についても取り上げる可能性が高い。その際、中国が長年求めてきた米韓合同軍事演習の縮小を自ら発表したことや、金正恩氏との再会談を呼びかけていることを強調するだろう。トランプ氏はウクライナ紛争、特に停戦実現に向けた米国の最新の取り組みについても議論し、ロシアのウラジーミル・プーチン氏への働きかけにおいて習氏の協力を求めるものとみられる。さらに大統領は、米国務省によって「不当に拘束されている」と認定された米国市民、ミン・ジン(Min Zin)氏とチェン・ヨウリン(Chen Youlin)氏の解放を求める可能性が高いほか、香港のメディア経営者であるジミー・ライ(黎智英)氏の釈放も強く求めるかもしれない。ライ氏の件については、5月の会談ですでに習氏に提起したと報じられている。 Q2: 中国はこの訪問から何を得ようとしているのか?習氏の最大の狙いは、米国と対等な地位にある中国の姿を際立たせると同時に、米中関係の安定を維持する唯一の道はドナルド・トランプ氏との個人的な関係にあると強調することだ。これは、次期指導部の人事が議論される10月の中国共産党第5回全体会議(五中全会)に向けた弾みとなる。貿易に関する「休戦」の延長に加え、中国は5月に約束されたとされる300億ドル相当の低関税または無関税での対米輸出の承認を取り付けようとするほか、特に電気自動車(EV)、バッテリー、再生可能エネルギー、その他の技術分野における中国企業の対米投資をホワイトハウスが承認するとのシグナルも得たいと考えている。また、中国は米国の輸出管理(特に先端半導体や関連技術に関するもの)のさらなる緩和を望んでおり、AI(人工知能)に関しては、米国の優位性を固定化するものではなく、かつ中国側のAI開発の詳細開示を求めないという条件であれば、穏やかな対話に応じる可能性がある。 習氏は、台湾問題において米国が自制することの重要性を強調し続けると同時に、5月にトランプ大統領を説得して「中国による執拗なグレーゾーン圧力ではなく、台湾こそが問題の元凶である」と認識させた際の手法(これが驚くほど功を奏しました)をさらに推し進めようとするだろう。中国側は、米国の政策が公式に変更される可能性は低いと認識しているものの、トランプ氏が習氏の主張に沿った発言を繰り返すことで、台湾側の士気を低下させ、頼清徳総統を孤立させるとともに、武器売却や頼総統の米国経由の立ち寄りをさらに先送りさせることを期待。習氏は、軍同士の対話・連絡体制の改善を申し出るとともに、2024年に中断された軍備管理対話の再開を提案する見込み。 習氏は、イランに対する中国の直接的な圧力という指摘をかわしつつ、ホルムズ海峡の通航を再開させる形での早期終戦をトランプ氏に促すだろう。また、イランとの貿易(特に石油購入)に関与する中国の銀行やその他の企業・団体に対する制裁措置を講じないよう、釘を刺すものとみられる。 Q3: インド太平洋地域は何に注目しているのか?インド太平洋諸国は、貿易、AI、技術管理、台湾問題、そして中国による対米投資といった分野での具体的な成果や合意内容に加え、会談の「見栄え」や演出にも注目するだろう。トランプ政権発足当初の9ヶ月間、米中の敵対関係や競争が武力衝突に発展する可能性を強く懸念していた同地域諸国だが、今では逆に、米中の関係改善によって自国の行動の自由が制限されたり、投資の流れ(特に東南アジアへの投資)が滞ったり、中国依存からの貿易構造の是正が遅れたりすることを深く懸念している。また、米国が中国との良好な関係を望み、戦争の回避を重視する姿勢を見せることで、中国が台湾海峡、南シナ海、東シナ海、黄海、そしてインドとの実効支配線(LAC)沿いにおいて、ますます攻撃的な圧力を強めることを助長しかねないと危惧している。 Q4: 台湾は何に注目しているのか?台湾は、トランプ氏と習近平氏の関係を推し量るために、会談の演出や儀礼的な側面を注視するだろう。また、合意内容についても深い懸念を抱きながら見守ることになる。特に懸念されるのは、米国の対外的な政策方針が変更され、台湾の独立について「支持しない」という立場から「反対する」という立場へと転換されることだ。台湾の指導者や国民は、トランプ氏が習氏に対し、台湾に関して何らかの確約――とりわけ武器売却の延期や、台湾総統による米国経由の移動(トランジット。2025年以前は年1、2回行われていた)の制限など――を行ったことを示唆する動きがないかどうかも注視するだろう。こうした措置は、トランプ氏が5月に示した姿勢よりもはるかに踏み込んだものとなるからだ。台湾は、トランプ氏が台湾をどう呼称するかについても強い関心を寄せるだろう。というのも、5月のインタビューでトランプ氏が台湾について語った際、その内容は習氏の主張と酷似しており、台湾の頼清徳総統や独立志向こそが北京の対応を余儀なくさせている問題だとする中国側の枠組みをトランプ氏が受け入れたかのように見えたため、台湾側には依然としてその時の不快感が残っているからである。 トランプ氏がレーガン政権時代の「6つの保証」を軽視して退け、台湾への武器売却を「交渉のカード」だと明言したことは大きな懸念を招いた。同様に、台湾を「価値観を共有するパートナー」や「高性能コンピュータ・チップ分野での圧倒的な地位を占める存在」ではなく、「米国にとって戦略的な『負債(リスク要因)』である」とする中華人民共和国(PRC)の主張を、にわかに唱え始める米国人が増えていることにも懸念が広がっている。米中間の軍事関係改善と、台湾への武器売却の継続的な遅延とが結び付けられるような動きがあれば、それもまた台北に懸念を抱かせるだろう。逆に、トランプ氏が台湾を民主主義国家や重要な貿易相手国として肯定的に言及したり、中国に対して台湾への「グレーゾーン」圧力の停止を求めたりすれば、台北の指導者たちは安堵するはずだ。とはいえ、台湾当局者は、現状がこれ以上損なわれないことこそが、望みうる最善の結果だと考えている。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】習近平氏のワシントン再訪・国賓訪問毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.25

今回は、【世界の論考 – 異論反論】台湾:4度目の台湾向け武器売却凍結の背景と影響!、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 台湾の民主主義とハイテク経済は、国際情勢において極めて重要な役割を果たしており、AI(人工知能)をはじめとする数多くの次世代技術を世界が取り入れる上で中核的な存在となっています。これらは、1949年の中国国民党(KMT)の中国本土からの撤退以来、形を変えながら続いてきた米国との安全保障関係によって支えられています。 その安全保障関係の重要な柱となっているのが、米国が台湾に対して武器を売却する用意があるという点です。実際、1979年以来、この方針は米国の国内法に組み込まれてきました。「台湾関係法(TRA)」は、覇権主義的な中国共産党(CCP)による攻撃を抑止する台湾の能力向上を支援する責務を米国に課しているのです。 こうした状況を踏まえ、なぜドナルド・トランプ米大統領の第2次政権が、2005年以降で4度目となる台湾向け武器売却の凍結に踏み切ったのかを問わねばなりません。 台湾向け武器売却凍結の近年の経緯対台湾政策において、米国は長年、ある根本的な欠陥に悩まされてきました。それは、「台湾と強固かつ法に基づいた関係を維持しつつ、同時に北京と有意義かつ実質的な対話を行うことはできない」という思い込みです。この姿勢は、さまざまな形で表れてきました。例えば、台湾の民主的に選出された指導者層と協議するために米国の高官を継続的に派遣しなかったことや、拡大主義的な中国共産党の侵略を抑止するために防衛的な性質を持つ武器(現代においては極めて主観的な定義になり得る言葉ですが)を台湾に提供するよう定めた台湾関係法(TRA)を無視したことなどが挙げられます。 今回の凍結を含め、過去21年間で4度の主要な武器売却凍結が見られました。ジョージ・W・ブッシュ政権下で2回(2005~2007年、2007~2008年)、バラク・オバマ政権下で1回(2011~2015年)。これらの凍結は、台湾の軍近代化を遅らせ、台湾海峡における抑止力を弱め、台湾政府の予算編成プロセスを混乱させ、中国共産党を増長させ、さらには台湾関係法(TRA)に違反するものでした。 最初の台湾向け武器売却凍結は、民主進歩党の陳水扁総統の在任中、国民党(KMT)が防衛予算の可決を拒否したことによって引き起こされました。陳水扁総統は、2001年にブッシュ政権が承認した大規模な武器売却パッケージの費用を賄うため、立法院に予算案を提出していました。このパッケージへの資金拠出に対する国民党(KMT)の反対論は、今年初め、頼清徳総統が410億米ドル規模の特別予算案を最初に提出した際に展開された主張と驚くほど似通っています。予算案を前進させるための試みは2年間で70回以上に及びましたが、一部のプログラムがようやく動き出したのは2006年のことでした。 ブッシュ政権の第2期、イラクへの増派を進める一方で、同政権は朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)や中華人民共和国(PRC)を含む関係国との交渉を優先し、朝鮮半島の緊張緩和を図ろうとしていました。第1期政権で対中強硬派として知られたポール・ウォルフォウィッツやリチャード・アーミテージといった人物はすでに政権を去っており、アジア情勢に関してブッシュ政権の指導部を主導するような有力な声は不在となっていました。2001年当時、ブッシュ政権は台湾への武器売却を加速させようとし、順調な滑り出しを見せていました。しかし、台湾の国内政治と、敵対的な姿勢をとる米国家安全保障会議(NSC)の動きが意図せずしてこれらの取り組みを阻害し、売却の停滞を招くこととなりました。米国の対外有償軍事援助(FMS)制度を通じて武器売却が本格的に動き出したのは2006年になってからであり、2007年には台湾への武器売却に関する4件の通知が議会に対して相次いで行われました。 しかし、米国は台湾への支援と、北朝鮮(DPRK)との交渉といった地域的な重要課題における中国との連携を両立できないという誤った前提により、その進展は滞ることとなりました。政権は、台湾への支援を行えば、北朝鮮(DPRK)に対して圧力をかけようとする中国の意欲を削ぐか、あるいは台無しにしかねないと判断していたのです。2007年後半、台湾への武器売却案件3件が議会への通知待ちとなっていた段階で、ホワイトハウスから台湾向けの通知を無期限に保留するよう指示が下されまし。2007年11月から2008年10月にかけて、ブッシュ政権は台湾への武器売却を凍結しました。この膠着状態がようやく解消された時点で、9件のプログラムが議会への通知待ちのまま滞留していました。 当時、ブッシュ政権は、総額を一度に通知すると中国共産党(CCP)との間で問題が生じかねないと懸念し、9件の対台湾武器売却案件すべてを同時に通知することを拒否しました。そのため、同政権は6件のプログラムを選んで総額64億ドルという任意の金額で通知を行い、残りのプログラムは手つかずのままにしました。PAC-3(地対空ミサイル・システム)のプログラムは、総額を一度に通知するのは刺激が強すぎると判断されたという理由だけで、二つに分割されました。残りのプログラム(PAC-3の残りの部分を含む)について通知が行われたのは、2010年1月、オバマ政権下でのことでした。この大幅な凍結措置は、長年にわたる遅延を招き、台湾側の予算の無駄や総費用の増大といった結果をもたらしました。その間も、中国の軍近代化は急速に進展していました。 中国に対する米国の融和的な政策は、オバマ政権下で頂点に達しました。同政権は中国との関与(エンゲージメント)そのものを成果と見なしており、二国間の懸案事項について実質的な進展を生み出すことよりも、パートナーシップや進展があるかのような「見栄え」を関係に与えるための、終わりのない対話の積み重ねに終始しました。こうしたアプローチは、中国で将来にわたり記録的な利益が得られると期待していた米国の経済界や、汚染抑制や気候変動規制のグローバル化に向けて中国を関与させようとしていた環境保護ロビーなど、重要な支持層の意向に沿うものでした。オバマ政権は、台湾との関与や武器売却を含め、中国との円滑な関係を損なう恐れのある動きには、極めて消極的でした。 オバマ政権は、中国共産党にとって重要な問題について一方的に譲歩すれば、相手側からも同様の譲歩(互恵的対応)が引き出せると考えていました。しかし、実際にはそうはなりませんでした。米国が4年間にわたり台湾への武器売却を停止したのは、まさにこの誤った信念によるものでした。2011年9月の台湾向けF-16戦闘機改修プログラム(コーニン上院議員主導の議会からの強い圧力により実現)以降、2015年12月に小規模かつ控えめな売却パッケージが発表されるまで、新たな武器売却の通知は一切行われませんでした。 この時点で、習近平はすでに中国共産党総書記の座にあり、中国の軍近代化は急速に加速していました。米国による台湾支援の停止は、軍事力の格差が拡大するペースを速める結果にしかなりませんでした。台湾海峡における抑止力に、重大な脆弱性が生じ始めたのです。武器売却の凍結は、アジアでの覇権確立を目指す中国の動きを加速させる要因となっていました。 1982年の共同コミュニケと台湾への武器売却に関する中国の立場米中間の1982年の共同コミュニケは、台湾への武器売却を制限し、かつ将来的な売却停止への道筋をつけることを目指したものでした。その約束は、中国共産党(CCP)による台湾への脅威が低減し、やがて解消されることを条件としていました。要するに、中国が台湾とその住民に対して軍事的脅威を及ぼさなくなった時点で、米国は台湾への武器売却を停止することに合意したのです。 中国は1982年の共同コミュニケにおける米国の義務のみを重視し、台湾への威嚇を停止するという自らの責任を無視しています。これら二つの事項は不可分に結びついており、中台間の相違を平和的に解決するという約束を中国が履行しないことは、台湾への武器売却を停止するという米国の約束をも無効にするものです。 中国が武器売却を問題視する最大の理由は、必ずしも売却される兵器のプラットフォームやシステムの種類、あるいはそのプログラムの金額にあるわけではないという点を理解することが不可欠です。むしろ重要なのは、政府間売却というプロセスに伴う「主権」の承認であり、それこそが台湾との安全保障関係を支える基盤となっているからです。売却対象が7.62mm弾一発であれ、最新鋭のF-16ブロック70「バイパー」であれ、中国共産党の反発の度合いに変わりはありません。 中国を宥和すれば何らかの譲歩(見返り)が得られるという考えは誤りです。中国共産党は、自らの行動を改める責任など一切ないと拒絶しているからです。彼らはその義務を米国のみが負うものと見なしており、中台間の脅威低減であれ他分野での譲歩であれ、中国側が何らかの対応(見返り)を示す必要はないと考えているのです。2008年に北朝鮮に対して圧力をかけるという空虚な約束がなされたことや、オバマ政権下で南シナ海における人工島造成や軍事化について露骨な嘘が繰り返されたことの背景には、こうした姿勢があります。台湾への武器売却をめぐって中国を宥和することが、米中関係の他の分野における中国の行動改善につながるという証拠は存在しません。 「米国第一」の武器輸出戦略2026年2月6日、トランプ氏は、米国の防衛産業基盤の拡大を推進する上で対外有償軍事援助(FMS)などの武器輸出が重要であることを強調する大統領令に署名しました。高賃金の米国人雇用の維持・創出、米軍自身の調達における単価の低減、防衛サプライチェーンからの中国企業の排除、そして中国・ロシア・その他の覇権国家による脅威に直面する同盟・友好国への軍近代化加速の促進――これらを実現する手段として武器輸出を重視する同氏の判断は極めて妥当です。こうした取り組みを強化するために武器輸出を活用することは賢明な策です。2026年から2028年までの3年間における台湾の防衛調達額は、特別予算を含めると550億〜600億ドルに達する可能性があります。大規模な武器購入が凍結されたり滞ったりすれば、雇用や米国経済に資するトランプ政権の周到に練られた政策が損なわれることになります。 現在続いている台湾向け武器売却の凍結2017年、トランプ氏は台湾情勢に精通した、経験豊富で真剣なアジア政策チームを編成しました。国家安全保障会議(NSC)、国務省、国防総省の指導部は、2006年から2017年にかけて武器売却プロセスがいかに政治に翻弄され、機能不全に陥っていたかを認識していました。正常なシステムを再構築し、米国の検討プロセスから政治的思惑を排除するまでには12〜18ヶ月を要しましたが、彼らはそれを成し遂げました。2019年までには、議会への売却通知(CN)が定期的に行われるようになっていました。 トランプ前政権は、武器売却を定例化することが最善の策であることを実証し、バイデン大統領もその方針を任期を通じて継続しました。台湾の軍近代化に対する需要が増大する中、武器売却を安定したペースで継続することは、抑止力強化のプロセスを滞らせないために不可欠です。それは台湾を支援すると同時に、米国のインド太平洋軍の強化にもつながります。 中国は引き続き異議を唱えましたが、その抗議は次第に形骸化し、二国間関係に実質的な影響を及ぼすことはほとんどありませんでした。実際、中国が発表する関連の「制裁」は、中国の核心的利益を損なうものではなく、主に国内向けのパフォーマンスとして意図されたものであることに留意すべきです。今年5月に北京で行われたトランプ氏と習氏の会談は、概してこれといった進展のないものに見えました。写真撮影の機会は設けられ、貿易に関する「休戦」を継続するという大まかな合意はなされたものの、トランプ氏が帰国の途に就くべく大統領専用機に乗り込むと、話題は台湾へと移りました。それまでの48時間における習氏の働きかけは、明らかにトランプ氏の考えに何らかの影響を及ぼしていたようです。同氏は「誰かが独立するような事態は望んでいない」と述べましたが、これは台湾の地位に関する中国の立場を反映するものでした。 さらにトランプ氏は、台湾への武器売却について「我々にとって非常に優れた交渉のカードだ」と述べました。これは「台湾関係法(TRA)」の趣旨とは明らかに異なるものだが、現職の米国大統領が台湾への武器売却を、状況に応じて変更可能な取引材料とみなしたのは、過去4代の政権を通じて今回で3度目となります。 台湾への武器売却の直近の案件は、昨年12月に発表されたものです。報道によれば、台湾はPAC-3(地対空誘導弾パトリオット)のランチャーやミサイル、NASAMS(地対空ミサイルシステム)などの追加供与を要請していますが、国務省ではここ10ヶ月間、売却通知(CN)が滞留したままになっています。2026年4月初旬の時点では、政権は新たな売却を進める準備が整っていたとみられます。しかし、その段階で手続きは凍結されました。トランプ氏と習氏の電話会談が行われた直後のことであり、これは決して偶然ではないでしょう。 中国が台湾に対して及ぼす脅威は極めて深刻であるにもかかわらず、国務省では依然として売却通知が積み上がったままです。台湾は軍の近代化に向けて予算を増額しており、新たなFMS(対外有償軍事援助)の要請も続いています。これこそまさにトランプ氏がパートナーや同盟国に求めてきたことです。それにもかかわらず、トランプ政権は、売却を凍結すれば北京との交渉で有利な立場に立てるという誤った考えから、台湾による防衛費の対GDP比5%への引き上げ(2030年目標)に向けた取り組みを積極的に阻んでいます。過去にそのような効果はなかったし、今回もないだろう。北京はその譲歩を自らの利益として受け取りつつ、従来の立場を維持するだけです。 今後の見通し・国務省に滞留している武器売却通知(CN)の山は、議会へ一括して送付される可能性は低く、小分けにして送付される公算が大きい。・ワシントンでのトランプ・習会談後、早ければ9月下旬から10月上旬にかけて一部の通知が行われるかもしれないが、売却凍結が年末まで延長される可能性もある。・トランプ政権は、自ら「鶏小屋に狐を招き入れる」事態を招いてしまった。・この春、台湾に関する中国の立場に配慮する姿勢を見せたことで、トランプ氏は中国に対し、自身の決定に影響力を行使する余地を与えてしまった。これは、米国の国益や、台湾海峡の平和と安全の維持において台湾を支援するという法律上の責務を考慮することよりも、中国への配慮を優先した結果と言える。・トランプ氏は今月後半、そして11月のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)、12月のG20サミットで習氏と会談する予定である。これら一連の会談日程は、台湾への武器売却を進めないための口実となりかねない。・トランプ氏の判断において中国の意向が重視されるということは、武器売却が二国間関係に何らかの代償を伴う可能性を意味しており、北京側が激しく反発することも予想される。・トランプ氏がこの扉を再び開いてしまった以上、中国はその隙を突いて利益を得ようとし、さらなる売却凍結や遅延を迫るべく彼を揺さぶってくるだろう。・米国製兵器への世界的な需要は高く、手続きが遅れれば、たとえ最終的に売却が実現したとしても、顧客国は納入待ちの列で後回しにされてしまう。台湾は今まさに兵器を必要としており、遅延は納入までの期間を長期化させることになる。・こうした異例の対応は、台湾に政治的・軍事的な不確実性をもたらすものである。その間も台湾海峡の軍事バランスは不安定なままであり、台湾にはさらなる防衛力強化が必要とされている。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】台湾:4度目の台湾向け武器売却凍結の背景と影響!毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.25

今回は、【世界の論考 – 異論反論】ロシアによるウクライナ占領地域の軍事化(続)、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 8月、衛星画像により、ロシア軍がヘニチェスクとチョンハール周辺で新たな舟橋や進入路を建設している様子が確認された。これら2つの地点は、ウクライナ南部占領地域とクリミアを結ぶ陸上物流の要衝である。ウクライナによる攻撃で既存の橋梁が破壊され続けた場合でも軍の輸送を維持できるよう、代替ルートを整備する狙いがあるとみられている。 2022年以降、モスクワはウクライナ占領地域の企業を接収し、軍事目的のためにその役割を転換させる取り組みを積極的に進めてきた。ロシアは占領下にあるウクライナの産業施設の約9割を閉鎖、あるいは用途変更している。具体的には、スタハノフ鉄道車両工場、ルハーンシク航空機修理工場、ペルヴォマイスキー機械工場(JSC)、スニジュネ機械製造工場などが転用された。これらの企業は、無蓋貨車、油圧モーター、燃料制御装置、ポンプ、ヘリコプターや攻撃機用のタービンブレードなど、鉄道、航空、ロケット、宇宙技術に関連する様々な機器を製造している。 2022年以降、国営企業ロステック(Rostec)は、占領地域の産業資産をロシアの経済および防衛部門に組み込むための主要な手段となっている。また、クレムリンは占領地域に軍事装備の修理拠点を設置し、現地住民を動員して二次的な軍事部品や低技術の軍事用構成部品の生産を行わせている。 ロシアは、産業生産能力を軍事支援に直接役立つよう転換することを目指している。クレムリンは、占領地域の経済的・社会的ニーズよりも軍事生産を優先させている。例えば2024年以降、ベルジャンシクにある鉄筋コンクリート工場では、対戦車障害物である「ドラゴンズ・ティース」やその他の防御用構造物が製造されている。さらに占領当局は、ベルジャンシク、トクマク、メリトポリにある旧ドルマッシュ(Dormash)工場や農業機械関連企業を、ロシア軍の装備を修理するための拠点へと転用した。クレムリンは、ウクライナの鉱山や地下施設を弾薬の貯蔵庫に転用し、機械製造工場を軍用車両等の修理拠点へと変貌させている。また、ロシアの占領当局は、冶金工場を弾薬の薬莢(やっきょう)製造へ、化学工場を爆薬の生産へとそれぞれ転換させている。 ロシアは過去1年間で、占領下のクリミアにおける軍用機器の修理能力を拡大させてきた。2025年末、ロシア当局は、国家防衛発注に基づき兵器や軍用機器の修理のためにクリミアへ派遣されたロシア人労働者に対し、給与の倍額支給や追加手当を導入した。2025年10月には、クリミアのセヴァストポリにおいて、ロシア軍が退役したトラックや民軍両用車両を修理拠点に移送した。そこでロシアの専門家がそれらを解体して予備部品を確保し、ウクライナ南部で展開されている軍用機器の修復に充てている。 モスクワは、軍事兵站(ロジスティクス)を支えるため、ウクライナの占領地域における道路や鉄道のインフラに多額の投資を行ってきた。2023年以降、ロシアは占領下のウクライナにおける鉄道網の建設・維持に約4億2500万ドルを費やしている。ロシアは、前線から離れた場所に新たな鉄道路線を敷設し、弾薬や軍用機器を部隊へ安全に輸送することを目指している。 ロシアの「統一空間計画研究所(Unified Institute of Spatial Planning)」は、ウクライナの占領地域を横断する2つの新しい鉄道路線を提案している。そのうちの1つの鉄道路線は、クリミアに至る既存の陸路回廊に沿って、占領下のマリウポリ、ベルジャンシク、メリトポリを経由するルート。一方、もう1つの路線は、占領下にあるヘルソン州とザポリージャ州の地域を結び、ノヴァ・カホフカとコミシュ・ゾリャを接続するもの。これら提案された路線が実現すれば、占領地域全体における輸送の接続性が強化されるとともに、アゾフ海沿岸、ウクライナ南部、そしてクリミアを結ぶ新たな交通網が形成されることになります。 ロシアは、ロストフ・ナ・ドヌとマリウポリ、ザポリージャ州の占領地域、およびクリミアを結ぶ、新規および改修された道路を組み合わせた「ノヴォロシア」高速道路網の整備も進めている。ロシア当局は2030年までの同高速道路の完成を計画している。2026年にはウクライナによるドローン攻撃が同ルートの交通を断続的に妨害しており、このルートがロシア軍の兵站にとって重要であると同時に、ウクライナの長距離攻撃に対して脆弱であることも浮き彫りになっている。 過去2年間、ロシアはヘルソン州占領地域のヘニチェスク渡河地点付近から占領下クリミアに至る新たな道路を建設し、軍の兵站を円滑化し得る交通結節点を整備してきた。ザポリージャ州の占領地域においても、ロシア軍はメリトポリ地区とベルジャンスク地区を接続し、軍の兵站を改善するとともに既存道路の負荷を軽減するため、トクマク・ラヒドネ・ザリチネを結ぶ軸線上で高速道路の再建・建設に取り組んできた。また、ロシア占領当局は、軍事装備の輸送や穀物・金属の輸出を行うため、マリウポリとドネツク州を接続する計画も進めている。 ロシアは、占領下にあるマリウポリとベルジャンスクの港湾を自国の海上輸送網に組み込んでおり、大型船舶の入港を可能にするために進入水路の浚渫(しゅんせつ)を行っている。ロシア軍はマリウポリ港を燃料、軍事装備、弾薬、その他の物資を輸送するための軍事兵站拠点として利用する一方、同港に修理、燃料貯蔵、レーダーなどの支援インフラを維持している。これらの港湾は依然としてウクライナによる攻撃に対して脆弱であり、攻撃によってインフラが損傷し、兵站拠点としての運用が制約されている。 ロシアは、ウクライナ占領地域における産業・輸送インフラを自国の軍事的ニーズに従属させている。企業を軍事産業システムに組み込み、修理能力を拡大し、鉄道・道路・港湾の新たな接続路を建設することによって、クレムリンは、長期化する戦争およびウクライナ占領地域における軍事プレゼンスを維持するための軍事後方支援体制を構築している。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】ロシアによるウクライナ占領地域の軍事化(続)毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.24
今回は、【世界の論考 – 異論反論】米国の同盟国は、習近平氏の訪米を注視するだろう、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 米中関係はもはや純粋に二国間だけの問題ではなく、米国政府は同盟国の懸念を無視しているかのような姿勢を見せるべきではない。中国の習近平国家主席が来週ワシントンを訪問するのを控え、多くの論評は、おなじみの問いに焦点を当てている:習氏とトランプ米大統領は関係を安定させられるか? 台湾をめぐる緊張を緩和できるか? 貿易摩擦は和らぐか? 軍同士の交流は改善するか? こうした問いも重要ではある。しかし、それらは最も重要な戦略的視点を見落としている。習氏とトランプ氏の首脳会談において、真にその動向を注視しているのは、北京やワシントンにいる人々ではない。東京、マニラ、キャンベラ、ソウル、そしてNATO加盟国の首都にいる人々である。この会談の戦略的意義は、米中間の二国間関係にとって何を意味するかということよりも、米国の同盟国に対してどのようなシグナルを送るかによって決まるだろう。 これは、国際安全保障環境における根本的な変化を反映している。冷戦後の大半の期間において、米中関係はおおむね二国間の枠組みで理解することができた。しかし今日では、もはやそうはいかない。インド太平洋地域における勢力均衡を形成しているのは、個々の国家ではなく、連合(コアリション)なのである。その証拠は地域全体に見られる。日本はここ数十年で最大規模の軍事力増強を進めている。フィリピンは「防衛協力強化協定(EDCA)」の下、米軍による軍事施設へのアクセスを拡大した。韓国と日本は、長年の政治的緊張にもかかわらず、安全保障協力を深化させている。AUKUSは、オーストラリア、英国、米国の間の防衛協力を深めた。一方、欧州の同盟国も、海軍の派遣、防衛産業協力、戦略的調整などを通じて、インド太平洋地域での関与を強めている。 北京の視点から見れば、こうした動きは、個々の首脳会談よりもはるかに重大な意味を持つ。中国が直面する課題は、もはや米国単独の力ではなく、同盟国やパートナー国による、ますます統合されたネットワークなのである。米国と日本は、指揮統制の統合や作戦計画の策定を改善しつつある。ワシントン、東京、マニラは三者間協力を拡大してきた。地域全体で、同盟国は防空・ミサイル防衛、海洋監視、兵站(ロジスティクス)の強靭化、そして自律型システムへの投資を行っている。こうした取り組みが相まって、連合に基づく抑止の枠組みが構築されつつある。 習氏がワシントンを訪問する際、成功の是非を判断する基準は、こうした現実を踏まえたものであるべきだ。首脳会談の成功とは、最も好意的な見出しや、最も楽観的な響きを持つ共同声明を生み出すことではない。むしろ、その価値は3つの問いに基づいて判断すべきである。第一、その首脳会談は、抑止力を弱めることなく、誤算のリスクを低減させるものとなるだろうか?米国と中国が意思疎通のルートを維持すべきもっともな理由は存在する。外交的な雰囲気の良し悪しにかかわらず戦略的競争は続くものであり、偶発的な事故や意図せぬ事態の激化という危険は現実に存在するからだ。対話はそうしたリスクを低減させ得る。しかし、安定の基盤となるのは信頼に足る抑止力である。外交が最も効果を発揮するのは、双方が強圧的な行動や軍事的な冒険主義に伴う代償を理解している場合である。第二、その首脳会談は同盟国を軽視するのではなく、安心感を与えるものとなるだろうか?この点が重要なのは、米国の同盟国が長年にわたり、自国の利益が犠牲にされる形での大国間の妥協を懸念してきたからである。同盟国の政府は、ワシントンと北京の間で行われるあらゆる高官級の接触を注視している。同盟国の政策立案者が注目するのは、儀礼的な演出などではなく、自国の利益が米国の戦略において引き続き中心的な位置を占めているという確信を、その会談が強めるものかどうかという点である。こうした懸念は、単なる仮定の話ではない。米国のリーダーシップに対する信頼性は、軍事力のみならず、同盟国側の確信にも左右される。すなわち、ワシントンが同盟国と協議を行い、その利益を真剣に考慮し、長期的な同盟の結束を犠牲にして中国との短期的な安定を図ろうとする誘惑に打ち勝つだろうという確信である。今日のインド太平洋地域において、同盟国に安心感を与えること自体が、一つの戦略的資産なのである。第三、今回の首脳会談は同盟国間の防衛協力の勢いを維持するものとなるだろうか?これこそが、究極的には最も重要な問いかもしれない。インド太平洋地域における最も重要な戦略的進展とは、特定の兵器システムや軍事演習、あるいは外交的イニシアチブのことではない。それは、複数の領域にわたる同盟国の能力の統合が進んでいるという点にある。これには、情報共有、兵站(ロジスティクス)の取り決め、防衛産業協力などが含まれる。情報共有、兵站協力、防衛産業の連携、海洋状況把握(MDA)、そして新興技術といった分野を通じて、同盟国はより深く、かつ制度化された実質的な連携を構築しつつある。重要なのは、こうした取り組みの多くが独自の勢いを持って発展しているという点だ。それらは個々の政府や政権の枠組みを超えつつあり、軍の計画策定プロセスや官僚機構、産業界のパートナーシップの中に定着し始めている。北京の視点から見れば、この傾向は厄介な課題を突きつけるものである。中国は単一の米国政権と交渉することはできる。しかし、同様の安全保障上のリスクを認識し、地域の安定維持という共通の利益を共有する国家間で築かれた、強固な安全保障関係のネットワークを交渉によって解消させることは、はるかに困難である。それゆえ、習氏との首脳会談の成否を、単に米中関係が短期的によくなるかどうかだけで測るべきではない。より重要な問いは、将来の勢力均衡を形作る協力関係にある国々の間で、この会談が信頼を強化するものとなるかどうかである。 習近平氏の訪問は、競争における「ガードレール(衝突回避の枠組み)」を確立し、危機がエスカレートする危険性を低減させる助けとなり得る。それらは価値ある目標である。しかし政策立案者は、対話そのものを戦略的な成果とみなす誘惑に抗うべきだ。インド太平洋地域の長期的な安定は、首脳外交にかかっているというよりも、紛争を抑止するために必要な集団的能力を同盟国が強化し続けられるかどうかにかかっている。戦略的競争の時代において、同盟国間の信頼は些末な問題ではない。それこそが抑止力の基盤なのである。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】米国の同盟国は、習近平氏の訪米を注視するだろう毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.24

今回は、【世界の論考 – 異論反論】米中首脳会談:「失敗は許されない?」・「失敗しても大勢に影響なし?」、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 近々予定されているドナルド・トランプ大統領と中国の習近平指導者による会談は、今年に入って2度目の会合となり、今後さらに2回の会合が行われる可能性もある。世界で最も強力な2カ国の首脳が、二国間関係や国際情勢について協議するために会談を行うこと自体、評価に値する成果である。しかし、想定される議題や成果といった面での両者の野心の低さと、世界が直面している課題との間の乖離は、世界的なリーダーシップの空白が拡大していることを浮き彫りにしている。 失敗は許されない重要性米国と中国の双方は、少なくとも表面的には関係を平穏に保つことに強い利害関係を有している。米国経済は、主にAIへの投資に牽引され大きな強みを持つ一方で、根強いインフレ、失業率の上昇、膨れ上がる債務といった明白な弱点も抱えている。債券市場はすでに不安定な動きを見せており、利回りの上昇が続いていることは、経済の基盤に潜む深刻なリスクへの懸念が高まっていることを示唆している。中間選挙が迫る中、現時点で二国間関係に危機を招くことは、トランプ政権の利益にはならない。中国側もおそらく同様の計算をしているだろう。技術面での進歩があるにもかかわらず、あるいは、その進歩ゆえにか、中国のマクロ経済見通しは、米国以上に不安定な状況にある。習氏は、2027年秋に開催予定の第21回党大会に向けた準備を始めたばかりであり、同大会では中国共産党トップとして4期目(5年任期)に入ることが確実視されている。トランプ氏と同様、習氏にとっても安定した国際環境は自身の政治的地位を強固にするものであり、そのためにはワシントンとの平和的な関係維持が不可欠である。したがって、現在の通商面での「休戦」状態は延長されると予想される。具体的には、中国が米国やその他の国々(日本へのレアアース供給もワシントンにとって優先度の高い課題である)へのレアアース供給を拡大し、トランプ政権は2025年10月の釜山会談時点で適用されていた税率を上回る追加関税を中国に課さない、といった形になるだろう。報道によれば、中国側は現在の取り決めをトランプ政権の任期終了まで延長することを求めているのに対し、米国側は6カ月間の延長を望んでいるとされる。妥協点としては、1年間の延長が妥当な線だろう。 期待を裏切りようがないほど小規模な会談この首脳会談が失敗に終わらないもう一つの理由は、事前の期待値が極限まで低く抑えられているからだ。北京側は多くの成果を、ワシントン側は少数の成果を望むかもしれないが、双方は画期的な取り決めや妥協に対してさほど意欲的ではない。その代わり、限定的な合意や進展、成果にとどまるだろう。例えば、互いの輸出品300億ドル分について関税を標準的な水準まで引き下げる合意、ボーイング機や航空機部品、農産物に関する追加取引、AI(人工知能)の安全性問題に関する初期段階の協議、ウクライナやペルシャ湾での紛争終結に向けた表現の微調整、そしてAPEC(アジア太平洋経済協力会議)やG20の重要性の強調といったことだ。トランプ氏と習氏は、同様のやり取りを続けるために、11月には深センで、12月にはマイアミで会談する可能性が高い。 「G2」ではないトランプ氏と習氏は表向きは友好的に振る舞うだろうが、これは「G2(米中二極体制)」ではない。両者は二国間関係を管理する道を探ってはいるものの、国際秩序の共同管理者として協力しているわけでは全くない。また、より永続的な安定のための条件を整えるべく、実質的な「公共財」を提供することにも関心がない。これは、相互依存関係、大まかな勢力均衡、そして双方にとっての国内課題への対処の必要性によって抑制された、大国間競争なのである。 世界的な権力の分散、同盟関係の衰退、非国家主体の重要性の高まりを考慮すれば、「G2」という枠組みは、米中関係の重要性を正確に反映するものとはなり得ない。とはいえ、今回の会談は、マクロ経済の不均衡が国際社会に及ぼす影響、AIに伴うリスクの増大、ウクライナや中東での戦争、気候変動といった根本的な課題に取り組む機会を逃すものでもある。 しかし、トランプ政権には、それ以上のことを行う上での本質的な制約がある。トランプ政権が追求しているのは、主権、ハードパワー(軍事力や経済力)、そして二国間関係の重視を基本とする「帝国的な」外交政策である。国際的な正当性や、米国自身を含むすべての国を拘束し責任ある行動の指針となる多国間規範への配慮は、考慮の対象外となっている。また、気候変動やAIの安全性についても、他者が抱くような危機感は抱いていない。さらに、省庁間の調整プロセスが機能不全に陥っているため、トランプ政権は通常、次から次へと問題に対応する場当たり的な動きに終始しており、長期にわたる複雑な課題に対処するための十分な備えができていない。その結果、トランプ政権の戦略は貿易と安全保障の両面で障害に直面している。ある分野での問題(例えば、北京との不安定な休戦状態)が、別の分野での成功(例えば、ウクライナやイラン問題での北京の協力取り付け)を妨げている。ワシントンは、複数の戦線で同時に守勢に回らざるを得ない状況にますます追い込まれている。 対照的に、北京はもっと多くのことを行える立場にあるが、トランプ政権の任期切れを待ちつつ、欧州連合(EU)などからの圧力をかわすことに甘んじている。その一方で、上海協力機構(SCO)や世界人工知能協力機構(WAICO)など、自らが主導する様々な枠組みを通じて、グローバル・ガバナンスに対する独自のアプローチを着実に進めている。習氏はおそらく、中国を代表するハイテク企業の幹部らを多数伴って訪米するだろう。しかし、過去の例から判断すれば、彼らが自社や専門知識をアピールする機会を与えられる可能性は低いと思われる。つまり、中国にとって、重要な聴衆に対して自国の社会のより多面的な姿を示す機会を逃すことになる。 失われた機会世界で最も強力な二カ国の指導者(および一部の有力企業幹部)が一堂に会する際には、常に大きな成果を生み出すチャンスがある。しかし、それには双方の継続的な取り組みが必要であり、現時点ではワシントン、北京のいずれにおいても、そのような姿勢は期待できそうにない。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】米中首脳会談:「失敗は許されない?」・「失敗しても大勢に影響なし?」毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.24

今回は、【世界の論考 – 異論反論】トランプ・習首脳会談の視点、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 今回の訪問は、5月にトランプ大統領が北京を訪問したことに対する返礼訪問となります。これは極めて重要な意味を持っています。一つには、習近平国家主席にとって2015年の国賓としての訪問以来、ワシントンへの初訪問となるからです。また、5月の大統領訪問からそれほど時間を置かずに実施されるという点でも重要です。これほど短期間に国賓としての相互訪問が立て続けに行われるというのは、米中関係においては極めて異例なことです。 特に注目すべき点の一つは、多くの意味で「訪問そのものがメッセージである」ということです。ホワイトハウスからも中国側からも、今回の訪問の主要な目標に関するシグナルが驚くほど発信されていません。両国がこの訪問をどのように位置づけているかと言えば、それは「関係の管理」にあります。そして彼らは、その管理は首脳レベルでの定期的な対話を通じてのみ可能であると強く信じているのです。トランプ大統領と習近平国家主席は、互いをコントロールできるのは自分だけだと考えており、二国間関係を管理する唯一の方法は両者の直接的なやり取りにあるという認識を共有していると思います。 注目点:(1)関税に関する「休戦」の延長これは本質的に、レアアースや重要鉱物の供給継続と引き換えに、米国による新たな関税導入を制限するというものです。重要なのは、これが以前(釜山での会談で)合意され、期間が1年とされていた点です。両首脳はこれを更新・延長すると確約するだろうと見られています。中国側は、5月に約束した購入の対価として、中国からの輸入品約300億ドル分について関税免除、あるいは低関税が適用されるとの発表があると期待しているようです。一方、ホワイトハウス側も、さらなる購入の確約が得られると考えていると思われます。(2)AI(人工知能)の問題ここ数週間で非常に大きな問題として浮上しましたが、実は5月の時点ですでに議題に上っていたのがAI(人工知能)の問題です。以前は、AI協力の枠組みに関する何らかの会合や発表があるのではないかと予想していました。個人的には、中身の乏しいものになるだろうと思っていました。しかし、ここ数週間の騒動や中国側の発言を考慮すると、そうした発表が行われる可能性は低いのではないかと懐疑的になっています。とはいえ、可能性はゼロではありませんし、もし実現すれば重要な意味を持つでしょう。(3)台湾問題もう一つの大きな問題は、言うまでもなく台湾です。中国側は明らかに武器売却の凍結継続を望んでおり、その実現を強く求めてくるでしょう。もっとも、5月の出来事で真に重要だったのは武器売却そのものというより、トランプ大統領が実質的に台湾に関する習近平氏の枠組みに沿った発言を行ったという事実でした。ですから、中国側はその点について、さらに何らかの進展が得られるかどうかを見極めようとするだろうと考えています。彼らは、台湾に関して米国が引き続き自制を保つことの重要性を強調するだろうと考えられます。そして、この点は、同地域の米国のパートナーや同盟国、そして当然ながら台湾からも、極めて注視されている問題だと言えるでしょう。(4)米国市民の拘束に関する問題ここ数週間で新たに浮上した問題として、米国市民の拘束に関する件も挙げられます。具体的には、6月に拘束されたミン・シン(Min Xin)氏が不当に拘束されているとの認定がなされたこと、そしてチェン・ヨウリン(Chen Youlin)氏の件です。両氏とも研究に関連する活動を理由に拘束されている研究者であり、それゆえに、大統領が彼らの解放を強く求めるだろうという期待があるのだと思われます。(5)イラン問題もう一つの大きな議題として当然予想されるのは、イラン問題でしょう。トランプ大統領は明らかにイラン情勢を極めて重視しており、今後の焦点は、大統領がどの程度具体的に要求を提示するか、そして中国側がそれに対してどの程度前向きな姿勢を示すかという点にあると考えられます。興味深い動きの一つとして、中国が国際市場での原油購入を増やしている様子が見受けられます。これは価格に影響を及ぼしかねない事象であり、大統領としては、中国が抱えるエネルギー供給への懸念を、イランに対する影響力を行使して事態の解決を促す方向へどう結びつけられるか、その点に強い関心を向けることになるでしょう。(6)「国賓」としての公式訪問である私が注目しているのは、今回の訪問が「国賓」としての公式訪問であるという点です。国賓訪問には所定の儀礼や慣例が存在します。近年定着してきた慣行の一つとして、公式行事が行われる日(今回は24日)とは別に、特にアジアや欧州から首脳が訪れる場合、時差ボケを解消するために早めに到着し、大統領夫妻と訪問国の首脳夫妻とで夕食会や何らかの交流イベントを行うというものがありますが、今回そうした機会が設けられるかどうかも興味深い点です。これは米国の公式な儀礼規定に含まれるものではありませんが、長年の慣行として定着してきたものです。もし実現すれば、大統領が習氏に対して親密さや個人的な絆を示そうと強く意識していることの表れと言えるでしょう。つまり、今回の訪問がどれほど温かい雰囲気や良好な関係性の中で行われるかを示すバロメーターになるはずです。(7)11月のAPEC首脳会議、12月のG20サミットに向けた相互訪問両首脳のいずれかが、11月のAPEC首脳会議(深セン開催)や12月のG20サミット(マイアミ開催)に向けた相互訪問について言及するかどうかも注視したいと思います。双方が訪問の実施について前向きな姿勢を示す可能性や、何らかの言及を行う可能性はあります。もしそうなれば、それはさらなる交流が続くことを示す極めて重要なサインとなるでしょう。そしてそれは、緊張緩和(デタント)や建設的な戦略的安定に向けた取り組みを損なうような行動を回避するよう、双方の体制に圧力をかけ続けることにもつながります。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】トランプ・習首脳会談の視点毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.24

今回は、【世界の論考 – 異論反論】米中首脳会談:それぞれの主張、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 今週、再び米中首脳会談が開かれる。その形式や内容を見ると、5月に北京で行われた前回の会談と非常によく似たものになりそうだ。形式面では、習近平国家主席のワシントン滞在時間は約36時間となる見込みで、これはトランプ氏が北京に滞在した時間とほぼ同じである。また、トランプ氏と同様に、習氏も経済界の代表団を伴って訪米する。さらに、5月の際と同様に公式晩餐会も予定されている。 実質的な成果についても、前回と似たものになる可能性がある。いつものことだが、トランプ氏は会談が「大成功だった」と語るだろう。それが事実かどうかはさておき、両国とも経済問題の深刻化に直面しており、そこに二国間関係の危機まで加わることは望んでいない。つまり、波風を立てずに現状を維持する強い動機があるということだ。過去20ヶ月間の両国関係は、挑発、報復、再報復が続き、最後に首脳会談で関係をリセットして再び同じサイクルに入る、というパターンの繰り返しだった。昨年10月の首脳会談では一種の「休戦」合意に達し、それは今のところ概ね維持されている。この合意の期限は中間選挙の翌週に切れるが、それまでに(おそらく1年間の)延長が決定されると観測されている。それはささやかながらも歓迎すべき成果と言えるだろう。もっとも、新たな挑発と報復の応酬が始まる可能性は常にあり、それは「トゥルース・ソーシャル(Truth Social)」への投稿一つで引き起こされかねないのだが。 取り上げられうる課題は山積しているものの、実質的な成果への期待は控えめだ。両政府とも、根本的かつ重要な問題については話し合えない(あるいは話し合おうとしない)ため、些細な問題の処理でよしとしている。重要な問題の内容は、長年ほとんど変わっていない。米国は中国に対し、補助金や知的財産権の侵害をやめること、そして過剰生産能力や輸出主導の成長に依存した経済モデルから、国内消費主導のモデルへと転換することを求めている。一方、中国は米国に対し、機微技術に関する輸出規制を緩和することや、台湾問題でより柔軟な姿勢をとることを求めている。どちらの国も相手の要求を大きく受け入れるつもりはないため、代わりに、米国の関税や中国によるレアアース・重要鉱物の輸出規制といった、より具体的で摩擦の原因となっている問題について話し合うことになる。双方はこれらの分野で、実質的な成果にはつながらないような曖昧な約束をする可能性がある。また、ボーイング機や鉱物資源、農産物に関する恒例の商取引に加え、貿易委員会や投資委員会の活動を再活性化させるというコミットメントも予想される。 関連する問題として、過剰生産能力に関する「通商法301条」に基づく調査が進行中だ。この調査は16カ国を対象としているが、最も大きな問題があるとされる中国が最重要視されている。調査の結果、米国が中国に対して追加関税を課す可能性は高いものの、その適用には限られた選択肢しかないと見られる。というのも、7.5%の追加関税を課すと、昨年の「休戦」合意で定められた上限に達してしまうからだ。もし米国がその合意を遵守するならば、中国および調査対象となっている他の国々にとって朗報となるだろう。中国にとっては小幅な引き上げで済むし、他の国々も、唯一ではないにせよ中国が最大の「違反者」である以上、自国への関税はそれよりもさらに低く抑えられると期待できるからだ。この決定は首脳会談後まで先送りされているが、中国がこの件について何らかの主張を行うことは間違いない。 最も注目されている議論は、人工知能(AI)に関するものだろう。両国は技術的覇権を争う一方で、短期的には経済や安全への影響、長期的には技術が制御不能に陥った場合の存続に関わるリスクについて、双方で懸念が高まっている。これはルールやガードレール(安全策)に関する合意が強く求められる問題だが、そうした合意がすぐに得られる可能性は低い。その代わり、具体的な行動を先送りする形での「対話の拡大」が発表されると予想される。それが手遅れになる前に行われることを願うばかりだ。 もう一つの懸念材料は、ロシアに対する追加制裁を定めた最近の法案。これには、ロシア産原油の最大級の購入国(中国もその一つ)に対する最大100%の関税賦課が含まれている。財務省は最近、既存の対ロシア制裁を拡大したが、それが中国にどの程度適用されるかについては明確にしていない。今回承認された関税についても、同様の不透明さが予想される。これは、トランプ氏と政権内の他の人々との間の溝を浮き彫りにする問題の一つだ。高官たちは大統領の方針に従ってはいるものの、その多くは中国に対してより懐疑的な見方をしており、強硬姿勢を望んでいる。トランプ氏は依然として個人的な外交を好んでおり、相手国の首脳と良好な個人的関係を築けば、彼らが自分と取引に応じるようになると信じているようだ。これは、ウラジーミル・プーチン氏、金正恩氏、習近平氏に対して彼がとってきたアプローチだ。最初の二人に対してはうまくいかなかったし、習氏に対しても、これまでのところ、一時的な「休戦」以上の成果はほとんど得られていない。米国が重要鉱物資源を中国に依存し続けている限り、これは賢明な戦略だという見方もできる。トランプ政権は歴代政権と同様に、国内および同盟国の能力を強化する政策を推進しているが、それには時間がかかる。短期的には、もし中国が鉱物資源へのアクセスを遮断すれば、米国経済に甚大な打撃が及ぶことになる。 最後に、台湾への言及なしに首脳会談は成立しないだろう。習氏は間違いなくこの問題を持ち出し、台湾に対する米国の支援の度合いに疑問を投げかけるような発言をトランプ氏から引き出そうとするはずだ。これは主に外交政策上の問題だが、台湾への圧力が高まれば、米国、特に半導体セクターに深刻な経済的影響が及ぶ可能性がある。これは、相互依存関係、大まかな勢力均衡、そして双方が抱える国内課題への対処の必要性によって抑制された、大国間競争である、と言える。つまり、小規模な合意や曖昧な約束にとどまる「小規模な」首脳会談になる可能性が高いということだ。そして皮肉なことに、現時点ではそれが最良のシナリオかもしれない。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】米中首脳会談:それぞれの主張毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.24

今回は、【世界の論考 – 異論反論】米国・中国AI開発競争に警告!、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 近々、中国の習近平国家主席がワシントンを訪問する際、人工知能(AI)は議題の最優先事項の一つとなるでしょう。AIの暴走に対する懸念から、最先端分野における技術革新のペースを落とすべきだとの声が高まっており、今年初めに始まった米中間の対話は、より緊急性を帯びるようになっています。 しかし、AI規制をめぐる米国内の議論が激化する中で、一つの重要な点に目を向ける必要があります。それは、米国の研究所が開発を一時停止したとしても、中国側も同様に自制しなければ、その措置は意味をなさないということです。米国は、中国にそうした自制を促すにあたり、外交によるべきか、それとも強硬な圧力を行使すべきかという難しい選択を迫られています。 米国で高まるAIへの懸念1)ホワイトカラーの雇用の喪失や格差の拡大といった、経済的な混乱への懸念2)データセンターが地域社会に及ぼす影響など、地域社会のあり方が揺るがされることへの懸念、3)AIエージェントの暴走や、制御不能な技術革新が人類を危機に陥れかねないという警告が有力研究者から発せられる中、人類の存続に関わるような破局的事態への懸念が急激に高まっていること。こうした懸念の一部は誇張されている可能性がありますが、より強力な規制を求める声は強まる一方です。AI業界のトップ幹部たちでさえ、人間が制御を失う事態を招く恐れがあるという点では意見が一致しています。 Anthropic(アンソロピック)社CEOダリオ・アモデイ氏、「最先端AI開発のペース調整」に向けた3段階のアプローチ:第一段階:最先端AIを開発する企業が、第三者の安全評価機関に対してアクセスを許可する。第二段階:民主主義国の最先端企業間で、共通の安全基準やAIの進歩に関する制限について協議する。第三段階:権威主義国家、とりわけ中国をこの枠組みに組み込むこと。 安全面および戦略面の両方の理由から、中国がAI開発のペースを落とすことに協力することは不可欠です。中国のAIが暴走した場合、米国のAIが暴走した場合と同様に、人類に壊滅的な影響を及ぼしかねないからです。一般的に、米国の研究所は中国の研究所よりも安全性の面で優れた実績を持っていると考えられています。これは、米国が民主主義社会として透明性が高く、外部からの監視や批判にさらされやすい環境にあるためです。さらに、米国が単独で開発を一時停止すれば、戦略的に自らの首を絞める結果になりかねません。これに異を唱えるアナリストもいます。彼らは、米国が単独でペースを落とすだけでも十分だと主張します。なぜなら、そうすれば中国は、蒸留(distillation)やリバースエンジニアリングの対象となる米国の新しいモデルを入手できなくなるからです。 民主主義諸国による開発の一時停止を実現するには、中国側の歩調合わせ(相互的な対応)が不可欠です。そのための選択肢は2つあります。第一の選択肢は、最先端AI開発の相互的な減速について交渉することです。例えば、スコット・ベッセント財務長官と中国の何立峰副首相が主導する予定の、新たなAI対話の枠組みなどを活用する案が考えられます。これは魅力的な案に見えますが、実現は極めて困難でしょう。第二の選択肢は、より強硬なものです。それは、協調的な輸出管理を徹底的に強化するというアプローチです。具体的には、中国のAI研究機関がクラウドや海外子会社を経由して高性能チップを入手できる抜け穴を塞ぐ、密輸や規制逃れをより積極的に取り締まる、最先端半導体製造装置の販売や保守サービスへの規制を強化する、そしてトランプ政権下で緩和された高性能チップの販売規制を元に戻す、といった措置が挙げられます。その狙いは、最先端モデルの学習や運用に必要な計算資源を中国から遮断することにあります。つまり、米国自身は最先端分野での進歩のペースを調整しつつも、中国の発展を単独で減速させることで、米国の優位性を維持しようとするのです。 中国は、米国による技術面での強硬策の波をただ甘んじて受け入れることはないだろう。むしろ、レアアースの輸出規制やその他の報復措置をもって反撃に出る可能性が高い。習近平とトランプがこの1年で演出してきた緊張緩和の動きは、おそらく崩れ去ることになる。不安定な緊張緩和(デタント)の状態は、より激しく、抑制の効かない「冷戦」へと取って代わられる恐れがある。今のところトランプは、そのような決定の必要性を否定している。彼はAI開発のペースを落とすべきだという声を「デマ」だと嘲笑し、そうした主張をする人々を愚か者や裏切り者呼ばわりしている。だが、このジレンマから永遠に逃げ続けることはできない。AIをめぐる米国の懸念は消えておらず、北京にどう対処するのが最善かという問いもまた、依然として残っているからだ。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】米国・中国AI開発競争に警告!毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.24

今回は、【世界の論考 – 異論反論】トランプ大統領はいかにして国連戦略を再活性化できるか、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 トランプ政権による国連改革への取り組みは、一連の目覚ましい成果を上げてきたものの、その勢いは失速しつつある。9月22日、ドナルド・トランプ大統領による国連総会での演説。2017年の初の国連総会演説において、トランプ氏はアントニオ・グテーレス国連事務総長に対し、「主権、安全保障、繁栄への脅威に立ち向かう上で効果的なパートナーとなるためには、国連は改革されなければならないと認識していること」について謝意を表明していた。 それから9年が経過したが、改革の実績は期待を大きく下回るものとなっている。今こそ大統領は世界に対し、抜本的な改革が行われなければ、この国際機関は破綻や無力化(存在意義の喪失)に陥る恐れがあることを改めて認識させるべき時である。 希望の兆しもある。ニューヨークの国連本部において、マイク・ウォルツ大使とそのチームは米国の影響力を効果的に行使し、国連を米国の優先事項に沿うよう動かしてきた。米国は安全保障理事会に対し、レバノン暫定駐留軍(UNIFIL)の活動期限終了(サンセット条項の適用)、西サハラの自治問題解決に向けたモロッコ案の支持、ハイチにおけるギャング掃討部隊への国連支援の確保、そしてガザ地区での停戦を監視する「平和委員会(Board of Peace)」の承認を強く求めた。また、ワシントンは事務総長に対し、国連平和維持活動(PKO)の予算を15%削減するよう迫り、これには文民および制服組(軍・警察)の人員を25%削減することも含まれていた。 米国の外交官らは、国連の通常予算を2億7000万ドル削減し、2900以上の国連職員ポストを廃止する交渉をまとめた。これらはいずれも歴史上前例のない規模の削減であり、加盟国への返還分などを精算した結果、米国にとって1億2600万ドルの節約につながった。ウォルツ氏とそのチームは、トランプ氏の就任後に事務総長が立ち上げた「UN80(国連創設80周年に向けた改革)」を含む、その他の改革に向けた初期段階の支持も取り付けた。 一部の専門機関も、トランプ政権の意図を汲み取った動きを見せている。ホワイトハウスが国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)への資金拠出を停止し、同機関の総予算の約半分を削減した際、UNHCRは抜本的な変革を断行した。同機関はこの機会を捉え、コスト削減や組織の再編を行うとともに、難民の支援・保護に加え、難民人口そのものを減らすことを優先事項に据えるなどの改革を進めたのである。同様に、米国の多額の資金援助に依存していた世界気象機関(WMO)も、米国による拠出停止を機に予算削減や人員整理、肥大化した官僚機構の是正といった改革を断行した。 残念ながら、このメッセージを理解していない組織もある。過去1年間で米国から40億ドル近くという異例の資金が投入されたにもかかわらず、国連人道問題調整事務所(OCHA)は、米国の資金に関する不正や乱用の疑惑について情報開示を求める米国の要請に応じようとせず、米国との覚書に基づく米国の監察官による調査へのアクセスも拒否している。WHO(世界保健機関)も同様に、改革に向けた米国との協議を頑なに拒み続けている。その改革には、新型コロナウイルスの起源に関する詳細な調査も含まれており、もしこれが完了すれば、米国の関与再開につながる可能性もあったはずだ。人権理事会も改革されないままであり、その「特別手続き」については、グテーレス事務総長自身が認めるように「完全に制御不能」な状態にある。 未解決の課題は依然として山積している。「UN80(国連創設80周年)」に向けた改革プロセスは停滞しており、特に、時代遅れ・重複・不要となった任務の見直しや、業務が重複する国連機関の統合といった取り組みが進んでいない。国連職員の給与を同等の米国公務員の水準に引き下げることや、年金制度の改革によって国連の長期的な財政負担を軽減することを目指した米国の提案も、実施に至っていない。国連の分担金算定基準を見直し、米国の負担額を削減するための交渉も、今後控えている。 米国は国連において財政的影響力を行使すべきであるこうした改革はどのように実現するのだろうか。トランプ氏がいなければ、実現はしないだろう。国連の政策変更に対して米国が影響力を行使する鍵は「財政的影響力」にあると、大統領は正しく認識している。しかし驚くべきことに、米国は今月、多くの改革が実施される前に国連の通常予算に対する未払い金7億2,500万ドルを支払うことで、自らの影響力を弱めてしまった。このようなことは二度とあってはならない。 さらに、国連は議会が求めている通り、不十分な監視体制の問題に対処しなければならない。トランプ政権は、米国の資金提供を受けるすべての国際機関に対し、書面による合意を求めるべきである。その合意には、米国の監察官(インスペクター・ジェネラル)を含む独立した監視機関が、記録、文書、職員への十分な世界的アクセス権を持つことを盛り込む必要がある。これにより、職員や下請け業者が米国指定のテロ組織とつながりがないか審査し、米国の納税者の資金が誤用や不適切な管理にさらされないようにすべきである。 最後に、国連およびその関連機関への米国の関与に関する見直し作業は、当初の完了目標時期を大幅に過ぎており、一部の機関について検討されたに過ぎない。国務省の交渉担当者は、どのような変更が望ましいのか、あるいはどのような変更があれば支援を継続するのかについて、明確な姿勢を示さないことが多い。また、米国は改革に対して確実に資金の支払いを再開することで報いてきたわけでもなく、その結果、「アメとムチ」のアプローチの効果が損なわれている。このプロセスは改革を促すきっかけにはなったものの、進展の遅さと不透明さによって停滞を余儀なくされてきた。 国連に対するトランプ氏の型破りなアプローチは評価に値するが、彼の仕事はまだ終わっていない。火曜日に行われる国連総会での演説において、トランプ氏は変革を要求し、抵抗する機関を厳しく指摘する戦略をさらに強化すべきであり、またそうすることが可能である。彼は、どの機関が「問題あり」で、どの機関が「優良」であるかを具体的に示すべきだ。さらに言えば、国連のどの部分が支援を継続するに値し、どの部分が当面の間、打ち切りの対象となるかについての決定を発表すべきである。こうした明確な姿勢を示すことで、トランプ氏は審判を下し、国連の将来に対する新たな希望を抱きながら総会の場を後にすることができるだろう。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】トランプ大統領はいかにして国連戦略を再活性化できるか毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.23

今回は、【世界の論考 – 異論反論】米国の極域防衛産業基盤の構築と活用、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 北極と南極は大きく異なる特性を持つため、米国の政策立案者が両極地域を網羅する一貫した戦略を策定することは、従来困難とされてきました。北極は海氷が急速に減少する海域が中心であり、その陸地や関連海域に対して明確な主権を持つ国々に囲まれているため、人々は政治的、経済的、軍事的なあらゆる活動を自由に行うことができます。一方、地球の反対側に位置する南極は、数キロメートルもの厚さの氷床に覆われた大陸であり、海氷の季節変動が極めて激しい海域に囲まれています。また、南極は米国が主導した国際条約体制の下で管理されており、参加国の政治的、経済的、軍事的な活動が制限されています。 アラスカを領有する米国は、同地域に国民が居住する「北極圏国家」でもあります。米国の北極地域は、本土防衛、国家主権の保護、そして防衛条約上の責務の履行にとって極めて重要です。米国の北極戦略は、北極を安全かつ安定した地域として維持するための国防総省の取り組みを指針づけるものです。同様に、米国は南極に対して領有権を主張したことはありませんが、南極が国際的な紛争の火種となることを避け、平和的な目的にのみ利用されるようにすることは、米国の国益にかなうものです。米国の「2024年南極政策」では、「米国は南極条約体制を通じた国際的な協力の取り組みを主導し続け、南極地域を平和的な目的のために維持し、手つかずの自然環境や生態系を保護し、科学的研究を実施していく」と明記されています。 同時に、極域では中国やロシアといった大国による活動が活発化しています。北極において、中国とロシアは、軍事・科学分野での共同任務の実施や商業航路の開拓などを通じて連携を深めてきました。一方、南極においても、両国はプレゼンスを強化・拡大するために活動を調整しています。これら両極地域における両国の行動は、米国が政策を実効性ある能力で裏付ける必要性を浮き彫りにしています。 残念ながら、米国の極域防衛産業基盤が長年にわたり軽視されてきた結果、潜在的な競合国に対し、米国がこれら二つの地域を忘れてしまったかのような誤った印象を与えてしまっています。主要な運用装備の老朽化と減少は、米国が自ら掲げた目標を達成するには不十分な状況にあります。こうした能力面での軽視を是正するため、米国は、統合的な極域戦略の中核として、また米国の防衛産業基盤全体を再活性化させる広範な取り組みの一環として、強力な極域防衛産業基盤を構築・維持すべきです。米国の極域防衛能力、とりわけ砕氷船やスキー式着陸装置を備えた輸送機の近代化は、北極圏における米国の主権保護と地域の平和維持に必要な装備の整備を通じて米国の政策目標を前進させるものです。さらに、これは同地域における中国やロシアのプレゼンス拡大への対応を可能にするとともに、米国内で数千人規模の雇用を創出することにもつながります。 米国の極地における運用資産と能力米国は現在、北極と南極という二つの極地における現在および将来のニーズを満たすために十分な数の近代的な砕氷船を保有していません。米国が北極圏で定期的に運用している砕氷船は、中型砕氷船「USCGCヒーリー」(最近、重大な機械的故障に見舞われました)と、2024年に取得された「USCGCストーリス」(民間での極地運用において「M/Vアヴィク」として12年間の実績があった船)の2隻のみです。中国やロシアが北極圏の東部および西部海域へ専用の砕氷船を次々と投入する中、米国が北極圏における国内的・国際的な国益を確保するためには、単なる修理中の船や名称変更された商船以上のものが必要とされています。 トランプ政権は、国内における砕氷船の産業基盤の必要性を認識し、それに対応するための注目すべき取り組みを行ってきました。2020年6月、トランプ政権は大統領覚書を発出し、北極および南極における国益を保護するために米国沿岸警備隊向けの砕氷船を国内で建造する必要性について、政府と産業界の行動を促しました。第2次トランプ政権下では、これら二つの極地向け砕氷船の国内建造を促進するために異なるアプローチを採用しつつ、取り組みがさらに拡大されています。北極圏に関しては、米国はバイデン政権下で創設された「ICE協定(ICE Pact)」を通じ、カナダやフィンランドと協力して、「北極警備カッター(ASC)」と呼ばれる中型砕氷船の設計・建造に取り組んでいます。米国は1976年以来、自力で砕氷船を建造しておらず、近年の試みが失敗に終わったことからも、もはやそれが不可能であることを露呈しています。ASCは、「ヒーリー」や「ストーリス」を補完し、将来的にはそれらに取って代わるものとなる予定です。 トランプ政権は2027年度の予算要求において、運用を突然停止した2隻の調査船に代わる南極砕氷調査船(ARV)の建造費として、国立科学財団(NSF)向けに9億ドルを計上しました。米国製として建造が求められているこのARVは、海洋学、地質学・地球物理学、生物学、大気科学といった分野での通年調査のプラットフォームとなり、変化する極域の海に関する極めて重要な知見をもたらすことになります。こうした研究の多くは、急速に変化する環境下で基本的な運用上の知見を維持する上で有益なものです。もし米国がこうしたプラットフォームを建造し、極域研究に資金を投じなければ、情報収集を(潜在的な競合国を含む)他国に依存したり、両極地域の「グラウンド・トゥルース(現地での実態)」を把握できなかったりすることで、不利な立場に置かれることになるでしょう。航空戦力に関しては、米国は両極地域の遠隔観測所や基地への物資輸送をLC-130「スキバード(Skibird)」およびC-17「グローブマスターIII」に依存しています。砕氷船と同様に、これらの航空機に関する米国の防衛産業基盤は停滞しています。ボーイング社はすでにグローブマスターIIIの生産を終了しており、後継機の計画もありません。しかし、既存のスキバード機隊を更新する可能性は残されています。一部の機体は1970年代に製造され、1950年代の技術を使用しているため、更新は長らく待たれていた課題です。 今後の対応トランプ政権は、2期にわたる政権運営を通じて断固たる行動をとり、北極圏向けの砕氷船建造能力において数十年にわたり続いてきた停滞を打破する上で大きな進歩を遂げました。しかし、南極圏のニーズに対応するための国内砕氷船建造能力の拡大において、同様の成果を上げられたかどうかは現時点では不明です。同政権はこれまでの取り組みをさらに発展させ、北極・南極双方における国益を推進するために、調査船を含む大型および中型砕氷船を国内で確実に建造できる体制を整えるべきです。また、両極地域で拡大する作戦上のニーズに対応するため、LC-130Jスキー・ホイール装備輸送機を十分に調達するとともに、C-17の後継機に関する計画策定を加速させ、米国の極地防衛産業基盤をさらに強化すべきです。極域防衛の産業基盤を再構築し、極域を専門とする人材の育成・登用体制を整備することは、単に北極・南極における大国間競争相手の動きに対抗するだけでなく、新たな雇用の創出につながり、今後数十年にわたって米国を極域における主導的地位に就かせることになるでしょう。こうした取り組みは、アラスカにおける米国の本土防衛を確実なものにすると同時に、北極方面からの潜在的な脅威に対して、同地域および米国の安全を維持することにも寄与します。さらに、南極において米国が有する「単独行動能力」を維持・確保することにもつながります。米国はこの能力を数十年にわたり行使し、同地域を国際的な紛争から守り、隔離された状態に保ってきました。こうした取り組みを継続していくためには、ホワイトハウス、連邦議会、そして主要州の選出公職者間での国内的な連携に加え、主要な同盟国や近隣諸国との国際的な協力が不可欠です。米国の極域防衛産業基盤への投資が適切に行われれば、北極・南極における国益を推進するための作戦能力が強化され、将来のニーズに対応する柔軟性も確保されるでしょう。これらすべては、米国の国益にかなうだけでなく、両地域における平和の維持にも資するものです。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】米国の極域防衛産業基盤の構築と活用毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.23

今回は、【世界の論考 – 異論反論】米国にとっての真のAIの脅威は中国に敗北すること?、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 Anthropic社CEOダリオ・アモデイ氏は最近、安全上の理由からAI開発のペースを落とす必要があるかもしれないと主張する一方で、中国の先行を阻止するために米国製チップや技術に対する規制強化を求めた。一方、OpenAIは米連邦政府に対し、最先端AI(フロンティアAI)に関する義務的な国家安全基準の導入を明確に求めており、Anthropicの政策的枠組みはさらに踏み込んで、危険なシステムの展開を阻止または抑制する法的権限を政府が持つべきだと提案している。 北京側は即座に反発し、AI開発の減速を求めるAnthropicの呼びかけを「冷戦」的な戦術だと激しく非難した。 しかし、この対立は明白な戦略的パラドックスを浮き彫りにしている。もし西側諸国のAIガバナンスが政府による安全管理への依存を強める方向に向かえば、競争の舞台を北京の「ホームグラウンド」へと移してしまうリスクがあるからだ。技術的リスクを管理するために設計されたシステムが、同時に「誰が参加できるか」を決める門番(ゲートキーパー)の役割も果たすようになったら、何が起きるだろうか。 現在の議論は、AI競争がいかに「すでに目の前にある技術的軌道上で、どの国が主導権を維持できるか」という枠組みで捉えられているかを示している。そうした問いも重要ではあるが、それらはより根本的な問いを覆い隠してしまっている。つまり、競争の勝敗を最終的に決める技術がまだ発明されていないとしたら、あるいは競争の方向性そのものを調整する必要があるとしたら、どうなるだろうか、という問いだ。 この世界的な競争を理解するには、進歩を促す根本的に異なる2つの原動力を区別する必要がある。一つは、確立されたパラダイムを絶え間なく拡大・展開する「実行のイノベーション(1から100へ)」であり、もう一つは、全く新しいパラダイムを定義する「アーキテクチャのイノベーション「ゼロからイチ」(0から1へ)」である。さらに重要なのは、それぞれの種類のイノベーションに、どちらのシステムが適しているかを問うことだ。 中国は「1から100へ」と進めることにおいて極めて優れている。世界トップクラスのエンジニア人材、強固な製造エコシステム、そして巨額の資金を同時に動員できる中央集権的な政治体制を背景に、既存の技術を取り入れ、改良し、コストを下げ、圧倒的な規模で展開することに長けているのだ。したがって、その実行力の高さは、西側の競合国にとって当然ながら脅威となるはずである。つまり、もし必要なことが単に、現在の「トランスフォーマー(Transformer)」ベースのアーキテクチャを積極的に拡大し、その潜在能力を最大限に引き出すことだけだとしたら、中国の能力は決定的な優位性となり得る。この高度に中央集権的な一党独裁体制は、進むべき方向さえ定まれば、極めて強力な力を発揮するからだ。しかし、進むべき方向がまだ見えていない場合はどうなるか? 既存のシステム(アーキテクチャ)がいずれ限界に達し、次なる飛躍のために根本的な概念のブレイクスルーが必要になると、ゲームのルールは変わる。アーキテクチャの革新には異なる土壌が必要だ。それは自律性と、失敗を許容する風土の中でこそ育まれるものだからだ。優れたシステムとは、その核心において、ごく普通の人々が持つ並外れた知恵を発揮できる場を提供するものだ。ここに、中国の研究体制におけるボトルネックが存在する。中国の主要な国家研究プログラムや大学は、公認の資格、博士号、専門職の肩書き、そして適格とみなされる受け入れ機関(ホスト機関)を極めて重視する。限られたリソースを配分する仕組みはどのシステムにも必要だから、問題は中国が資格を評価すること自体にあるのではなく、そもそも誰が競争の土俵に上がれるかという点にある。 これとは対照的なのが、米国の国立科学財団(NSF)による中小企業向けイノベーション・プログラム。このプログラムでは、スタートアップ企業が、主任研究員の上級学位やエリートとしての肩書きを持っていなくても、商業的ポテンシャルに基づいてハイリスクな技術開発のための資金を求めることができる。欧米のシステムが自動的により優れたアイデアを見つけ出すわけではないが、より多くの「扉」が開かれていることは確かであり、それは最先端のイノベーションにとって不可欠な要素だ。科学の進歩への道とは、プロジェクトであれその背後にいる人物であれ、すでに「信頼に足る」とみなされたものの中から最良のプロジェクトを選ぶことだけではない。より重要なのは、あらゆる背景を持つ価値あるアイデアが開発されるチャンスを得られるよう、十分な数の独立したルートを創出することなのだ。 確固たる肩書きを持つ人物が主導するプロジェクトは、実績のない人物によるパラダイムシフトを伴う「賭け」に比べて、周囲の理解や支持を得て正当化するのが容易だ。こうしたシステムは、エリートとしての経歴を持たない人々を排除するだけでなく、既存の序列の中にいる研究者に対しても、正当化や資金調達、論文発表が容易なアイデアを優先させるようなインセンティブ構造を作り出す。その結果、真に独創的で「ゼロからイチ」を生み出すような挑戦を行うことは、事実上不可能になってしまう。米国の歴史的な強みは、まさにイノベーションを起こし、自由に活動できる点にある。分散型で摩擦の少ないこうした環境こそが、常に新たな才能を育み、「ゼロからイチ」のアーキテクチャ上のブレイクスルーを推進してきた。 安全性を義務付け、技術的リスクを低減しようとするこれらの政策は、皮肉なことに、中国がすでに完璧な形で運用しているようなトップダウン型の「ゲートキーパー」構造へと米国を向かわせることになる。結局のところ、このアプローチは、歴史的に米国のイノベーションを牽引してきた「活動の自由」そのものを弱体化させる恐れがある。 究極の問いそもそも、「1から100」へと規模を拡大するシステムとしての強さが、そのまま「ゼロからイチ」を生み出す強さにつながるわけではない。もし現在のAIアーキテクチャがすでに最終的に求められるものに近いのであれば、残された課題は主にスケーリング(規模拡大)、コスト、展開、そして安全管理といった点に集約される。その場合、中国による先端ハードウェアへのアクセスを制限しようとするワシントンの取り組みは、中国の歩みを遅らせるには十分かもしれないが、必ずしも勝利を確実にするものではない。しかし、もし現在のAI開発の道筋がいずれ概念的な限界に突き当たるとしたら、あるいは、次のブレイクスルーには根本的な方向転換が必要だとしたら、勝者となるのは、未検証のアイデアや組織にとって都合の悪いアイデア(エリートの経歴を持たない人物によるものを含む)であっても、それが最先端の領域を再定義するまで生き残ることを許容できるシステムかもしれない。そこで、ワシントンと北京の双方にとって究極の問いが浮かび上がる:「1から100」への実行・拡大と、「ゼロからイチ」のアーキテクチャ上のブレイクスルー、我々は一体、どちらの競争をしているのか? 以上です。【世界の論考 – 異論反論】米国にとっての真のAIの脅威は中国に敗北すること?毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.23

今回は、【世界の論考 – 異論反論】トランプ・習近平会談の議題:アジアの情勢の危機?!、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 3月にイランをめぐる対立が激化して以来、ホルムズ海峡では船舶の通行が著しく制限され、エネルギー価格の急騰や経済の不確実性の拡大を招き、世界経済の健全性を脅かしています。アジアでも同様の事態が起こるのではないかという懸念が、かつてないほど現実味を帯びています。米国が西半球やイラン情勢への対応に追われる中、中国はこの1年で、近海における支配を最大化しようと、近隣諸国の航行権や経済的権利を侵害する動きをかつてない規模で強めてきました。台湾東方海域において、新たに常駐させた海警局の艦船で民間船舶の航行を妨害するという最近の動きは、ホルムズ海峡の封鎖をはるかに上回る甚大な影響を及ぼしかねない「アジアでの海上封鎖」への懸念を急激に高めています。 これらの問題はいずれも、容易な解決策や、純粋に軍事的な手段のみによる解決策が存在するわけではありません。米軍は、機雷掃海活動や、民間船舶を脅かすイランの能力に対する攻撃を通じて、ホルムズ海峡の安全確保を試みてきました。しかし、こうした努力にもかかわらず、米国の圧倒的な軍事的優位性は、海峡の通航を回復させる能力には直結していません。イランが保有する限定的な攻撃能力であっても、通過する船舶を威嚇し、その多くを航行断念に追い込んだり、あるいはイラン側の条件(新たな航路の利用や通行料の支払いなど)を受け入れさせたりするには十分だったのです。 アジアにおいても、中国の海洋進出に対処するための米国の手段は、軍事力に大きく依存してきました。米海軍は長年にわたり、中国(および他国)による過剰な海洋権益の主張に対抗するため、「航行の自由」作戦を実施してきました。これらの作戦は、係争海域における米軍の航行能力を維持する上では成果を上げましたが、近隣諸国の航行や経済活動を妨害しようとする中国の動きを抑止する効果はほとんどありませんでした。フィリピンの事例は、この問題を如実に物語っています。同国は米国の条約上の同盟国でありながら、南シナ海において、より大型かつ多数の中国船による絶え間ない嫌がらせを受けています。また、ASEAN(東南アジア諸国連合)内で最も高い電気料金に苦しむ同国にとって極めて重要な資源となり得る沖合の石油・ガス埋蔵量についても、北京からの圧力により、その開発を12年間も停止させられています。 中国の「グレーゾーン」作戦の主役が、白い船体の沿岸警備隊(海警局)や海上民兵の船舶であることを踏まえ、米国はより幅広い手段の重要性を認識しています。その一環として、米国は最近、6隻の沿岸警備隊高速対応カッター(FRC)を「遠征カッター戦隊」として西太平洋に展開させました。これらはグアムを母港としつつ、シンガポールやフィリピンを拠点に一時的な運用を行っています。こうした独創的な展開は歓迎すべき動きであり、特に地域の同盟国やパートナー国の船舶と連携することで、アジアの海域における米国のよりきめ細かな作戦行動を支える可能性を秘めています。しかし、こうした能力が重要であるとはいえ、ホルムズ海峡での経験から得られた数多くの教訓の一つは、米国の艦船単独では、機能不全に陥った水路の状況を容易に打開することはできない、という点です。 米国には、地域における能力だけでなく、海洋危機が発生した際にはそれを行使するという明確な意思を中国に示すことが求められています。しかし、国務省は個別の海洋事案に対して声明を発表し続けているものの、政権上層部は、北京との安全保障問題についてあえて発言を控えるという方針をとっています。この方針は8月、マニラでアジアにおける米国の安全保障戦略について演説を行ったエルブリッジ・コルビー国防次官(政策担当)によっても改めて示されましたが、同氏はその演説の中で、中国や南シナ海について一度も言及しませんでした。 トランプ政権は「穏やかな口調で語りつつ、強大な力(少なくともイランとの対立でまだ使い果たしていない力)を保持する」という姿勢をとってきましたが、中国が抑止された様子は全くなく、むしろアジアの海域でルールを曲げ、あるいは破ろうとする動きを加速させています。この1年間で、中国政府(北京)は、過去10年間に見られた懸念すべきではあるものの一定の行動パターンを大きく逸脱する動きを見せています:1) パラセル諸島(西沙諸島)において、南シナ海最大級の島嶼基地を建設するため、10年ぶりに大規模な浚渫作業を再開した。2) スカボロー礁において、複数の浮体式プラットフォームを配備するとともに、2016年の南シナ海仲裁裁判所の裁定に違反してフィリピン政府船や漁船の接近を阻む海上民兵や中国海警局の船舶を4倍に増強した。3) 黄海において、暫定措置水域内の中国側施設周辺で韓国の法執行活動を監視・追尾する海警局の常時パトロール体制を確立した。4) 台湾が実効支配するプラタス島(東沙諸島)周辺での中国海警局の活動を急増させた。5) おそらく最も懸念すべきこととして、台湾の東方海域で海警局による準常時パトロール体制を確立し、そこを通過する数百隻もの民間船舶に対して違法な妨害行為を行った。コルビー国防次官補代理自身が8月の発言で述べているように、威圧的な行動を抑止するには、「実戦配備されたハードパワー(軍事力)」と「それを行使するという明確な政治的意志」の2つが必要です。政権によるハードパワーの配備が成功しているかどうかについては議論の余地があるものの、政権がこの目標の達成に向けて動いていることは明らかです。しかし、アジアにおける海洋危機を抑止するために必要な米国の政治的意志を示すためには、アジアの海洋問題に関するメッセージの発信を強化・刷新する必要があります。 習近平国家主席の訪米が近々予定されている。今こそ、米国は方針を修正し、アジアの海や海峡で起きている事態を重視しているという明確なシグナルを中国に送るべき時です。そのメッセージ自体は、目新しいものである必要はなく、むしろそうすべきではないでしょう。すなわち、「米国は、アジアの海域が国連海洋法条約で定められた国際法に基づいて機能することを期待しており、中国の行動がそれを逸脱する場合には、直接的または間接的な代償を支払うことになる」というものです。過去の政権下であれば、こうした立場を表明することは最低限のことであり、あえて言うまでもないことだったでしょう。しかし、トランプ政権は米国の伝統的な立場をほとんど重視しておらず、ホルムズ海峡を通過する船舶に最大20%の料金を課す可能性を示唆する大統領の投稿など、自らの行き過ぎた言動によって海洋に関する規範に異議を唱えてきました。トランプ氏に対しては様々な批判がなされてきましたが、自ら関心を寄せる事柄について沈黙を守るような人物ではないことは確かです。政策の混乱や指導部トップからの沈黙が続く中、米国がもはやアジアにおける「航行の自由」や海洋空間の安定に関心を持っているのかどうかを中国が試そうとするのは、極めて論理的な動きであり、実際にそうした動きが見られます。 同政権は、中国の貿易や技術政策には明らかに強い関心を寄せている一方で、海上における中国の不適切な行動については、それほど気に留める必要はないと考えているのかもしれません。しかし、イランに関しても、海峡の通航が遮断される事態になるまでは、政権の関心は専ら同国の体制と核開発計画に向けられていました。ホルムズ海峡の事例と同様に、アジアの海域で事態が悪化すれば、米国はそれを最優先課題として扱わざるを得なくなるでしょう。海洋問題に対処するために今どれほどの政治的資本を費やすことになろうとも、中国が自らの立場をさらに強硬に推し進めたり、米国の同盟国との間で危機を引き起こしたりするのを待ってから対処するよりは、はるかに低いコストで済むはずです。 首脳間のルートを通じて決意を示すことは、政権が現在とっている「静かな」アプローチからの転換を意味するものではありません。むしろ、そのアプローチを支えるものとなり得ます。トップからの力強いメッセージを一つ発信し、その影響を浸透させることで、度重なるやり取りによる消耗を避けつつ、米国の能力を望ましい結果へと結びつけるという目的を達成できるのです。 トランプ政権の関心が中国との経済関係に明確に集中している現状を鑑みれば、首脳会談において海洋問題が大きく取り上げられる可能性は低いでしょう。しかし、公の場であれ非公開の場であれ、政権が安全保障上の姿勢を通じて中国の行動を正しい方向へ導こうとするならば、トップレベルからのシグナリングが不可欠となります。もし海洋問題が首脳会談の議題から完全に外れてしまえば、アジアの海域における中国の行動はさらに悪化すると予想すべきでしょう。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】トランプ・習近平会談の議題:アジアの情勢の危機?!毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.23

今回は、【世界の論考 – 異論反論】急務:中国の悪質な連携に対し、米国は優先順位を見直すべき!、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 選出された指導者や国家安全保障の専門家たちは、地政学的な重心がアジアへと移行していることを25年前から認識してきました。米国にとって不可欠な政策転換を行うべき時は、とっくに来ているのです。この転換がますます急務となっている背景には、米国の主要な世界的敵対国であり、かつ中国・ロシア・イラン・北朝鮮という緩やかな連携の要とも言える中国が、自らの政治的・経済的・軍事的な意志を押し付けるための「遊び場」としてアジアを狙っているという事実があります。しかし、超党派の支持が繰り返し表明されてきたにもかかわらず、こうした戦略の変更はほとんど実現していません。 米国のグランド・ストラテジー(大戦略)は、ある古くからの真実を再認識する必要があります。それは、「価値観に基づく外交政策こそが、我々の国家安全保障の利益にかなう」ということです。この視点に立てば、アジアへの優先順位の引き上げや、強まりつつあるCRINKの連携に対する包括的な戦略の策定を遅らせることは誤りだと言えます。 米国がアジアへとリソースや関心、そして世界的な影響力を向け始めると、そのたびに別の事態が我々の目をそちらへと引き戻してしまいます。中東での連鎖的な紛争、2014年と2021年のロシアによるウクライナ侵攻、自国が位置する西半球での移民危機、そして現在イランで起きている激しい動乱などがそうです。これらの課題はいずれも米国のリーダーシップを必要とし、またそのリーダーシップによって事態が改善されました。しかし、米国が世界的な責任を果たすべくバランスを取っている間に、中国の経済的・外交的威圧や軍事力は、アジアのみならず、アフリカ、欧州、そして西半球においても増大し続けました。 CRINK諸国は、米国が欧州、中東、アジアの紛争地域に関心や軍事力、リソースを分散させている状況が自国に利益をもたらすと認識しています。つまり、これらの紛争と、多国間機関を操作しようとするCRINKの動きの活発化は、互いに関連しているのです。問われているのは、アジアへの再注力を急ぐべきかどうかではありません。いかにしてそれを継続させるか、なのです。 新たな政策は、米国の強み、すなわちアジア太平洋地域における同盟国やパートナーとの関係を活かすものであるべきです。インド太平洋全域において、米国は北京が模倣するのに苦労しているあるものによって明確な優位性を有しています。それは、米国との協力を望む国々のネットワークです。民主主義の価値観は、この戦略の要であり、我々が本来持つ強みでもあります。各国が米国とのパートナーシップや同盟関係を選択する際、それは価値観を共有する側につくという意図的な選択であり、小国やその国民に対して決定が一方的に押し付けられることのない環境で活動することを選ぶことでもあります。 ロイド・オースティン国防長官(当時)は2022年、中国を「ペースを測るべき挑戦(pacing challenge)」と表現しましたが、2026年の時点では、中国はもはや単に動向を注視し、そのペースに合わせて対応すればよい相手ではありません。中国は軍事、経済、技術面で優位性を強め、その支配力をますます拡大させています。戦略的環境も根本的に変化しています。なぜなら、中国は孤立して行動しているわけではないからです。ロシア、中国、イラン、北朝鮮は正式な同盟関係にはありませんが、その連携の深化は、地政学的、外交的、そして戦略的に現実の影響を及ぼしています。ロシアによるウクライナへの不当な侵略戦争において、北朝鮮はロシアに兵員や弾薬を供給し、イランはドローン技術を提供しました。また、中国もロシアとイランの双方に対し、軍事能力を強化するための経済的支援や軍民両用(デュアルユース)技術を提供していると報じられています。 我々は脅威を認識しており、その対応を継続的に実行していく必要があります。緩やかな連携関係にあるCRINK(中国、ロシア、イラン、北朝鮮)は、対応の遅れがもたらすコストを増大させています。競合国は、各地の紛争地域が相互に関連していることを理解し、それを巧みに利用しています。彼らは、米国の関心が分散させられる状況を歓迎しているのです。アジアを重視するからといって、米国が欧州や中東を見捨ててよいわけではなく、またそうすべきでもありません。これら双方は、CRINKに対抗する上での政治的かつ現実的な「戦場」でもあります。米国は同盟国との連携や支援を通じ、負担の分担を拡大させるとともに、同盟国を米国の力と影響力を増幅させる存在へと高めていくべきです。同時に、米国はアジア(特に中国への対抗)に関する優先順位を明確に認識し、その現実を実際の行動に反映させる必要があります。 戦略の策定には優先順位付けが不可欠であり、外交、軍事、情報活動における関与のあり方について、困難な政策的判断が求められます。我々は25年以上にわたり、何らかの形で「アジアへの軸足の移行(ピボット)」について議論を重ねてきました。しかし今、中国やCRINKという脅威に直面する中で、我々にはその方針を実際に継続していくことが求められています。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】急務:中国の悪質な連携に対し、米国は優先順位を見直すべき!毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.23

今回は、【世界の論考 – 異論反論】中国がいかにして北朝鮮による人権侵害を助長しているか!、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 観点は3つです。第一に、中国がいかにして国境地帯における北朝鮮の人々への侵害を助長しているか、第二に、北朝鮮の強制労働が世界のサプライチェーンに流入する背景にある中国側のビジネス要因について、第三に、ウクライナ戦争に付随する人権侵害の実行において中国と北朝鮮が協力している点についてです。 北朝鮮の人権侵害における中国の役割中国はいくつかの方法で、北朝鮮による人権侵害を助長しています。第一に、脱出や避難、あるいは仕事を求めて国境を越えてきた北朝鮮の人々を(取り締まりや送還を通じて)扱っている。第二に、北朝鮮の難民を強制送還している。第三に、北朝鮮の人権擁護の取り組みが進展しないよう、国連内の機関や枠組みを利用して妨害している。 政治的難民の強制追放について、中国は平壌(北朝鮮政府)との1986年の二国間協定に基づき、自国領内に入った北朝鮮の人々を摘発し、強制送還することに積極的に関与してきました。北朝鮮の人々に難民の地位を認めないというのが、中国政府の長年の政策です。1990年代後半以降、中国政府は数万人の難民を北朝鮮に強制送還してきましたが、その動きは衰えていません。ヒューマン・ライツ・ウォッチの記録によれば、2020年以降、少なくとも1,076人が強制送還されており、そのうち少なくとも406人は2024年1月から2025年9月の間に行われています。彼らの唯一の「罪」は、抑圧的な国を離れてより良い生活を求めたことでした。その多くは、国境を越えた先にある韓国、アジアで最も活気に満ち、繁栄している民主主義国家の一つでの生活を望んでいます。北朝鮮難民の圧倒的多数は、中国を経由して出国します。いかなる組織による組織的な調査も認められていないため、正確な数字を把握することは極めて困難であり、その状況はさらに悪化しています。中国国内の北朝鮮人に関するデータは、もはやUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)からも入手できなくなっているのです。 中国は「1951年の難民の地位に関する条約」および「1967年の難民の地位に関する議定書」の締約国として、政治的迫害の恐れから自国を逃れた政治難民を認定する義務を負っています。中国を含む締約国は「ノン・ルフルマン(追放・送還の禁止)」の原則を遵守する義務があります。 中国は一貫して北朝鮮人を難民として認定することを拒否し、彼らを強制送還の対象となる「不法な経済移民」とみなしています。本来、中国政府は、彼らが難民の地位に該当するかどうかを判断するために、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)による接触を認めるべき立場にあります。 2023年には、中国の収容施設に拘束されている推定2,000人の北朝鮮脱出住民の問題について、国連事務総長はUNHCRではなく国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)に付託する判断を下しました。これはおそらく、中国が世界的な難民支援プログラムに多額の資金拠出を約束しているため、UNHCRが中国政府への圧力行使をためらったことによるものと考えられます。2023年時点で、これらの被拘束者はUNHCR職員や北京の外国公館と接触できない状態にありました。中国の強制送還政策は、難民条約締約国としての義務に反するものです。さらに中国は、国内に潜伏している北朝鮮人に対してUNHCRが面談や支援を行うことも拒否しています。 サプライチェーンと人権侵害中国による北朝鮮難民の強制送還に加え、国境を越えた弾圧における中国と北朝鮮の結託は、両国のサプライチェーンにも深く組み込まれています。北朝鮮の強制労働と国際的なサプライチェーンとの間に潜むつながりを調査する米国の研究所のプロジェクトでは、北朝鮮の国家機関と、同国の経済特区(SEZ)で活動する中国企業との間に、組織的な役割分担が存在することが明らかになっています。例えば、経済特区で操業する工場が、形式上は北朝鮮の貿易会社の名義で登録されていても、実質的には北朝鮮と中国の合弁事業として機能しているケースが見受けられます。中国側は多くの場合、資金、原材料、生産設備、品質基準、そして最終的な輸出先といった要素を全面的に管理・統制する一方、北朝鮮側は労働者の動員や、彼らに対する統制・監視を担っています。調査によると、国内各地の拘禁施設や政治犯収容所に収容されている人々が、中国の民間企業からの発注に基づく労働集約的な製造業務のために、国家保安機関によって積極的に動員されています。 こうした施設での典型的な一日は、早ければ午前5時30分に始まり、日没まで続きます。生産は年中無休、つまり週7日、年間を通じて行われます。生産の需要が高い時期には、頭に電池式の懐中電灯を装着し、夜通しで製品の加工に従事させられる収容者もいると報告されています。施設内では休息が基本的人権として認められておらず、食料が強制の手段として利用されています。生産ノルマを達成できない場合、食事の量が半分に減らされたり、あるいは完全に支給が停止されたりするのです。労働者への現金による賃金支払いは一切ありません。 こうした人権侵害は偶発的なものではなく、北朝鮮政権による国家統制の仕組みを強化する商業的提携関係を維持する一助となっています。北朝鮮での一次加工に必要な資本、原材料、設備を提供する中国企業は、最終加工や再包装を経て、これらの製品が北朝鮮から中国のサプライチェーンへと流出するルートも確保しています。製品は、中国ブランドや「Made in China(中国製)」のラベルを冠して、世界のサプライチェーンに組み込まれていきます。幾重にもわたる隠蔽工作が行われているため、これらの物品が北朝鮮を起源とすることや、その生産過程で人権侵害が関与していることを追跡するのは極めて困難です。 こうした状況は長らく北朝鮮と中国との経済的結びつきに根ざしてきましたが、近年ではロシアもますます深く関与するようになっています。その動きは、北朝鮮の経済特区における流通網へのロシア企業や物流仲介業者の進出拡大や、両国間での国境を越えたインフラおよび物流網の拡充といった形で見て取れます。 ウクライナ戦争と北朝鮮による人権侵害との関連2023年半ばにパンデミックによる封鎖が解除されて以降、北朝鮮にとって最も重要な動きとなったのは、ロシアとの軍事協力の拡大です。ロシアが北朝鮮からの軍需物資を切実に必要としているという事実は、同国が国際的に孤立を深めていること、そして自国の軍事産業複合体が軍の需要を満たせていない現状を反映しています。2024年3月までに、北朝鮮は軍事装備や軍需物資を収めたコンテナを1万個以上供給しており、その弾薬量は300万発以上に上る可能性があります。2024年10月には、その数は122mmおよび152mm弾薬で800万発、さらに多数の弾道ミサイルに達しました。そして2024年10月、北朝鮮の兵士が派遣される事態となりました。ウクライナ戦争のためにロシアへ北朝鮮軍を派遣したことは、金正恩がプーチンの不当な戦争の勝利を支援するために「全力を投じている」ことを如実に示しています。これにより、北朝鮮は欧州におけるロシアの侵略行為を最も目に見える形で、かつ積極的に支援する国となりました。2025年後半の時点で、北朝鮮はロシアが必要とする122mmおよび152mm弾薬の最大50パーセントを供給していました。2026年初頭、韓国の推定によれば、北朝鮮はロシアに1,500万発以上の砲弾を供給し、1万6,000人の兵士をウクライナに派遣したとされ、さらに近い将来3万〜5万人が追加派遣されるとの報道もありました。米国の研究所の試算では、ロシアとの関係拡大により、北朝鮮はこれまでに最大140億ドルの利益を得た可能性があります。2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻は、当初ロシア国内では対応しきれないほどのドローン需要を生み出しました。これに対するクレムリンの解決策は、イランが設計したドローン「シャヘド(Shahed)」をロシア国内、具体的にはタタールスタン共和国のエラブガで製造する体制を整えることでした。 2021年後半以降、エラブガ経済特区(SEZ)にあるUAV(無人航空機)工場および関連施設エリアは、建設中の2棟の建物から、最大116棟の建物で構成される17施設の複合施設へと拡大しました。現在、ウクライナでの戦争を支援するために月産5,500機以上を生産していると報じられています。ロシアは現在、「シャヘド(Shahed)」ドローンの改良型を「ゲラン(Geran)」と改称して生産しており、ウクライナ国防情報総局の推定によれば、ロシアは2026年に長距離ドローン6万機とデコイ(おとり)5万機の生産を目指しているとされています。エラブガ経済特区(SEZ)に送り込まれた労働者は、大きく分けて3つのグループに分類されます。1)ロシア国内の若者、2)外国人労働者、そして3)北朝鮮の労働者です。北朝鮮は、最大1万2000人に上るとされる労働者や技術者を送り込むことで、エラブガ経済特区における急速な生産拡大を支えてきました。外国からの労働者受け入れプログラムがロシア企業による人身売買に該当するとすれば、北朝鮮によるこの仕組みは国家主導の人身売買にあたります。北朝鮮・金正恩政権は、国家間の取り決めの下で自国民の労働力を売却し、出国を厳しく管理するとともに、賃金の大部分を徴収して懐に入れています。これは国連制裁に違反する行為です。約1万2000人の北朝鮮人労働者がそれぞれ時給約2.50ドルで働くことで年間数億ドルの収益を生み出しており、米国務省の報告によれば、金正恩政権は海外労働者の所得の最大90%を徴収しています。こうした慣行は平壌(北朝鮮政権)にとって新しいものではなく、同政権は何十年にもわたり、中国の工場、ロシアの伐採現場、湾岸地域の建設現場などへ労働力を輸出し、非情な手段で利益を上げてきました。新たに生じた要素は、この行為が禁止されたという点です。2017年12月、国連安保理決議2397号により、すべての国連加盟国に対し、北朝鮮人労働者を2019年12月までに帰国させることが義務付けられました。金政権によるロシアへの継続的な労働力送り込みは、この義務に対する公然たる違反です。 強制労働によって北朝鮮が得る資金は、核・弾道ミサイル開発計画を可能にし、金正恩の権力基盤を支えるネットワークを強化しています。北朝鮮の海外労働者プログラムは、約40カ国で10万人以上の労働者を動員し、年間約5億ドルの収益を上げています。したがって、この人身売買の仕組みを断ち切ることは、金政権の資金源を削ぐことにつながります。また、北朝鮮人労働者の派遣は技術ノウハウの移転ももたらします。エラブガ経済特区に派遣された技術者たちは、ドローンの大量生産ラインでの業務を通じて得た貴重な知見を携えて平壌に戻ることになるでしょう。イランが基本設計を提供し、ロシアが工場を建設し、北朝鮮が国家主導の強制労働力を提供しているとすれば、中国は自国が関与する供給網を通じて、ロシアがドローンを大量生産するための手段を提供していることになります。 中国の関与は、ロシアによるドローン工場の急速な産業化と規模拡大を可能にすることで、人権侵害を助長しています。中国は、バッテリー、電子機器、エンジンおよびエンジン部品、航法システムなど、軍民両用(デュアルユース)の構成部品の主要な供給元となっています。中国は、制裁の影響を受けにくい決済ネットワークを通じてロシアへ資金を移動させる、間接的な資金提供者としての役割を果たしています。また、中国や香港を経由して輸送される西側製品を含むドローン部品の経由地ともなっています。中国は、エンジン、航法システム、妨害電波(ジャミング)対策用電子機器といった、ドローンの最も重要なサブシステムの主要な供給源となっています。 結論米国議会は「北朝鮮人権法」を再承認する必要があります。同法は2022年9月以来、審議が停滞したままとなっています。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】中国がいかにして北朝鮮による人権侵害を助長しているか!毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.22

今回は、【世界の論考 – 異論反論】宇宙データネットワークの未来、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 2006年当時、商業打ち上げサービスの需要は低迷しており、ボーイング社の「デルタ」とロッキード・マーティン社の「アトラス」という2大プロバイダーの打ち上げ事業が存続できるかどうかが懸念されていました。そこで両社が単一の事業体への統合を提案した際、国防総省はこれを支持することを決定し、その支持が大きな要因となって連邦取引委員会(FTC)もこの取引を承認しました。この決定には理由がありました。国防総省は軍事衛星の打ち上げが必要な際に確実に宇宙へアクセスできる体制を確保したいと考えていましたが、当時の市場状況では2社の打ち上げ企業を維持できるか不透明だったのです。 しかし、このトレードオフには予見可能な代償が伴いました。2013年、空軍が極めて困難な打ち上げ任務の調達を必要とした時点で、認定を受けたプロバイダーは1社しか存在しなかったのです。国防総省は「確実なアクセス」という短期的な目標を達成したものの、長期的な戦略的選択肢を犠牲にすることになりました。つまり、価格の引き下げや技術革新の促進に活用できたはずの、長期的な調達上の交渉力を手放してしまったのです。 最終的に米国は打ち上げ市場における競争を拡大することに成功しましたが、それには多年にわたる多角的な取り組みが必要でした。さらなる競争の確保を求める議会からの圧力も極めて重要でした。議会は国防総省に対し、競争を促進する計画の策定を義務付け、実施が不可能である場合を除き、打ち上げ業務において競争入札を行うよう求めたのです。 政策とはトレードオフを伴うものです。政府の調達政策次第で、そうしたトレードオフが一過性のものにとどまるか、あるいは固定化して恒久的な市場構造となるかが決まります。 宇宙軍が「宇宙データネットワーク(SDN)」を実戦配備するにあたり、国防総省と議会はこの歴史的経緯を念頭に置くべきです。SDNは米軍の宇宙データリンクの基幹(バックボーン)として機能し、「統合部隊(Joint Force)に対し、堅牢かつ強靭(レジリエント)で、大容量かつ低遅延なデータ伝送を提供する統合ネットワーク」として運用されることになります。今回のケースにおける技術は打ち上げシステムではなく軌道上でのデータ伝送ですが、その根底にある調達上の課題は同様のものです。この場合、国防総省が直面するトレードオフは、スピードと戦略的な選択肢の確保との間のものです。さらに、この決定が及ぼす影響は、SDNや国防総省の枠を大きく超えるものとなります。国防総省は「信頼できる宇宙インフラ」における事実上のアンカーテナント(中核的顧客)であるため、その決定は民間市場の動向を左右し、信頼性の高い低軌道(LEO)衛星サービス市場の競争力にも影響を与えるからです。 したがって、根本的な問いは、将来的な相互運用性とプロバイダーの多様性を保証する「アーキテクチャの開放性」を維持しつつ、宇宙軍が統合されたバックボーンを迅速に構築できるかという点にあります。その答えは「イエス」であるべきです。 これまでのところ、宇宙軍は主にスピードの重要性を重視してきました。例えば5月には、2027年後半までにSDNのプロトタイプを納入する契約を、単一のプロバイダーに対して22億9000万ドルで発注しています。打ち上げ市場の事例と同様に、国防総省の決定の背後にあるトレードオフには合理的な理由があります。宇宙軍は統合された能力を迅速に実戦配備したいと考えており、単一の事業体に契約を発注することで、そうした能力を早期に開発できる場合があるからです。その一方で、これには長期的なリスクも伴います。もし独自のアーキテクチャ設計によって、他の適格なプロバイダーがバックボーンに接続したり、将来の契約を巡って競争したりすることが困難になれば、この初期の発注は、短期的には賢明な判断であっても、長期的には戦略的な依存関係を招く結果となりかねません。 宇宙軍がこのリスクを認識し、それを緩和するための初期段階の措置を講じていることは明らかです。その一例として、標準化されたSDNインターフェースを構築し、軌道上のノードが異なるネットワークをSDNに接続できるようにするための、複数ベンダーへの発注が挙げられます。 議会もまた、重要な役割を担っています。SDNを構築する企業の選定は、当然ながら宇宙軍に委ねられるべきです。しかし議会は、SDNが複数のプロバイダーに対して開かれたものであるよう保証すべきです。SDNを成功させるためには、議会は宇宙軍に対し、新たなベンダーを参入させることを可能にする持続的かつ専用の資金を確保する必要があります。また、SDNの開発過程において、宇宙軍がいかにして相互運用性とプロバイダーの多様性を維持していくかについて、定期的な報告を求めるべきです。成功を収めるには、適格なプロバイダーが実際にコアネットワークに接続し、SDNの契約を巡って競争できる環境を宇宙軍が確保しなければなりません。 議会と国防総省がロケット打ち上げ市場から学ぶべき教訓は、国防総省が困難な決断を避けるべきだということではなく、むしろ、短期的な妥協を行う際には、それがあくまで一時的なものにとどまるよう設計しなければならない、ということです。打ち上げ市場において、国防総省と議会はアクセス確保を優先し、競争環境の整備への着手を、市場が是正困難なほど硬直化するまで先送りしてしまいました。SDNに関しては、プロセスの早い段階で競争的な市場を確保する機会があります。宇宙軍は、この能力を迅速に構築する必要があります。規格をオープンかつ透明なものにし、有意義な競争を促すような資金計画を策定することで、将来の戦略的選択肢を犠牲にすることなく、その迅速性を実現できるでしょう。さらに、SDNのための活気ある市場を創出することは、米国およびその同盟国・パートナーが長期的に活用できる、競争力のあるLEO(低軌道)サービス市場の拡大にも寄与し得るのです。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】宇宙データネットワークの未来毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.22

今回は、【世界の論考 – 異論反論】「中国版パランティア」の登場を阻む「信頼の欠如」、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 (1)データは、中華人民共和国(PRC)の経済、統治、軍事面での野心の中核を成すものですが、同国のデータ・エコシステムは依然として断片化しており、制度的にも未成熟な状態にあります。(2)この課題に対処するため、中国では、個別に存在するデータセットを統合し、より標準化された利用可能なシステムへと構築できる「パランティア(Palantir)」のようなプラットフォームの必要性が議論されています。(3)中国企業は、データ統合プラットフォーム、オントロジー、ナレッジグラフ、軍事用AIツールなど、パランティアの機能の一部に匹敵する製品やサービスを開発してきました。(4)しかし、政府、軍、民間部門の機密性の高いシステムを横断して機能できるような、単一の「ナショナル・チャンピオン(国家を代表する有力企業)」は未だ登場していません。(5)「中国版パランティア」の出現を阻む最大の障壁は、中国における「信頼の欠如」という環境にあります。サイバーセキュリティ上のリスク、官僚機構内の縄張り争い、そしてデータに関する政治的機微といった要因が障壁となり、パランティアが持つ広範な機能に対抗するために不可欠な「組織横断的なデータアクセス権」を単一の企業に委ねることを不可能にしているのです。 ~結論~パランティア(Palantir)自身も最近、同社に対する「信頼の欠如」という壁に直面しています。かつて同社にとって重要な成長市場であった欧州各国の政府は、ワシントン(米国政府)と極めて密接な関係にある企業に機密データや重要システムを委ねることに対し、警戒心を強めています。2026年6月、フランスのセバスチャン・ルコルニュ首相は、同国の国内情報機関が利用するシステムをパランティアから国内の代替企業であるChapsVision(シャップス・ビジョン)へと切り替えると発表しました。中国政府がいかに努力しようとも、同様の根本的な制約から逃れることは難しいでしょう。極めて広範な機密情報や業務システムへのアクセス権を委ねるに足る企業であることを中国が証明しない限り、パランティアのようなプラットフォームが登場し、定着することは困難です。それが実現しない限り、中国で増大し続けるデータは、真に活用・制御する対象というよりは、単に収集が容易なだけの存在にとどまるでしょう。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】「中国版パランティア」の登場を阻む「信頼の欠如」毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.22

今回は、【世界の論考 – 異論反論】トランプと習近平、AI開発競争の進め方を見直すべき?、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 米国のドナルド・トランプ大統領と中国の習近平国家主席は、9月24日にホワイトハウスで予定されている会談の議題を、加速する両国のAI開発競争に潜む危険性への対処へと切り替えるべきである。かつてロナルド・レーガン米大統領とソ連のミハイル・ゴルバチョフ書記長がアイスランドのレイキャビクで核軍拡競争の問題に取り組んだのと同様、これほど適切な対応はないだろう。 先週末に発表されたAnthropic社のCEO、ダリオ・アモデイ氏は、今後6〜12ヶ月の間に、AIがインターネットの大部分を掌握できるほどの強力な自律型エージェントの群れを指揮できるようになる可能性があると警告した。Anthropic社の研究者2名も最近、AIが人類にもたらす脅威について、さらに深刻な警告を発して辞任している。 アモデイ氏は、AIの能力向上のスピードに、安全性を確保する研究者の能力が追いついていないことを懸念した。 それから数時間のうちに、OpenAIのサム・アルトマン氏やSpaceX(およびxAI)のイーロン・マスク氏といったライバルたちも、アモデイ氏の「開発ペース抑制」の呼びかけに賛同した。彼らが危機感を抱いた背景には、OpenAI社のモデルの一つが、評価試験の最中に、他社へのハッキングを可能にする認証情報を独自に入手したことがある。「シリコンバレーや世界中の研究者たちが、AIはもはや完全には人間の制御下にないかもしれないと認識し始めている。AIの群れが『コンテナ(隔離環境)』から脱出し、密かに結託し、証拠を隠滅し、テストで不正を行い、さらには他のコンピュータへの攻撃さえ仕掛けている。AIは暴走し始めたのだ。」 米国と中国は、戦争のあり方、国力、そして経済成長の性質を一変させる技術をどちらがより迅速に構築できるかを競い合う、AI開発競争の渦中にある。この競争に没頭するあまり、両国は、高度な能力を持つ機械が、開発者の意図や制御の及ばない行動をとるかもしれないという危険性を見落としてしまう恐れがある。 AI競争に勝利したからといって、どの国もこのシナリオから身を守れるわけではない。もし米国の防衛システムが実質的な制御を離れて暴走すれば、国境など意に介さないだろう。中国によるAI技術の画期的な進歩が世界の金融ネットワークを不安定化させれば、米国に打撃を与えるだけでなく、中国自身にも被害が及ぶ可能性がある。AIは戦略的な脅威であり、たとえ米中が競争相手や敵対関係にあったとしても、安全策の構築においては共通の利益を見出せる分野なのである。 こうした状況を鑑みれば、AIの安全性はトランプ・習会談の主要な議題となるべきだ。両首脳は、極めて乏しい「信頼」を前提とするのではなく、共に破滅的な事態に直面するリスクを共有しているという認識に基づき、レーガンとゴルバチョフが核兵器に対してとったのと同様のアプローチで、最先端AI(フロンティアAI)に向き合うべきである。 しかし、会談を控えた両国の政治的動機は、そうしたアプローチとは相反する方向に向かっている。トランプ氏はAIを主に米国が勝利すべき競争と捉えており、規制を求める声の高まりを、中国が先を行く中で米国企業を縛り付けるための動きだと見なしているようだ。習氏も同様の論理を抱いている。AIは、中国の経済的野心、軍の近代化、監視能力、そして技術変革の主導権を握る能力において中核をなすものだからだ。 この脅威に対する一般の人々の見方も重要である。例えば、頻繁に使われる「ローグAI(暴走AI)」という言葉は、事態の理解を妨げるものだ。この言葉は、機械が突然意識を持ち、悪意を抱き、危害を加えようと決意するという、SF映画のようなイメージを想起させるからである。より差し迫った危険は、映画のような劇的なものではなく、すでに現実のものとなっている。それは、不十分に定義された目標を野心的に追求し、自らの行動を隠蔽し、認証情報を盗み、ネットワークに侵入し、停止命令に抵抗するシステムのことだ。こうしたシステムを突き動かしているのは、憎悪や異常な人格ではなく、与えられた目標を執拗に追求しようとする動きに他ならない。 ワシントンは差し迫った現実に直面している。米国が民主主義の枠組みの中でAIの安全性を高める最善の方法を模索する一方で、専制的な敵対国と対峙しているという現実だ。その敵対国には安全装置(ガードレール)が存在しないため、たとえ意図せずとも、そのAIシステムはより危険なものとなり得る。 冷戦時代に核兵器をめぐってそうしたように、今後数ヶ月の間に米国が同盟国とより緊密に連携することは極めて重要だ。もし同盟国が米国の最先端システムを利用できると分かれば、安全装置を欠く中国製モデルよりも米国製モデルを選ぶ可能性が高まる。それは状況を一変させる「ゲームチェンジャー」になり得る。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】トランプと習近平、AI開発競争の進め方を見直すべき?毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.22

今回は、【世界の論考 – 異論反論】米国にふさわしい「ドーム」とは?、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 トランプ政権は、詳細を多くは明かさないものの、ミサイルや航空機による攻撃の可能性から米国を防衛するための、堅牢かつ多層的な「ゴールデン・ドーム」システムの構築を提案しています。米議会予算局(CBO)の試算によれば、こうしたシステムの開発・配備・運用に要する費用は、20年間で1兆2000億ドルに上る可能性があります。しかし、これほど大規模なシステムは、財政的に負担しきれない恐れがあるだけでなく、期待される防衛効果を十分に発揮できないまま、軍拡競争を招きかねません。 ロナルド・レーガン大統領が「戦略防衛構想(SDI)」を発表してから43年が経過した現在、米国が当時とは比較にならないほど多くの技術を保有しているというトランプ大統領の指摘はもっともです。しかし、物理の法則は依然として、ミサイル防衛システムが現実的に達成しうる能力に対して、大きな制約を課しています。 したがって、宇宙配備型迎撃ミサイルを主軸とするような巨大なシステムではなく、限定的、あるいは無許可、偶発的、もしくは威圧的な攻撃シナリオに対処するための、より小規模なシステムを検討すべきかもしれません。例えば、少なくとも当面は宇宙配備型迎撃ミサイルを見送り、CBOが想定した地上配備型ミサイル防衛システムを縮小したような、数十発程度の飛来弾頭に対応可能なシステムを構築するのです。これに伴うセンサー類(その多くは宇宙に配備されることになります)を追加しても、20年間の総費用は2000億ドルから3000億ドル程度に収まる可能性があります。 アメリカ版「ゴールデン・ドーム」か?マンハッタン計画以来、これほどの規模を持ち、かつ国際安全保障に甚大な影響を及ぼし得る軍事計画が、これほど徹底した秘密のベールに包まれたことはありませんでした。2025年1月、ドナルド・トランプ大統領は、あらゆる種類の空中からの脅威に対抗する、多層的な全国防衛シールドの構築を求める大統領令を発令しました。当初、彼はこのシステムを、過去3年間にわたり極めて高い有効性を実証してきたイスラエルの防空・ミサイル防衛システムになぞらえ、「アメリカ版アイアン・ドーム(鉄のドーム)」と呼んでいました。現在では、大統領の好む色にちなんで「ゴールデン・ドーム(黄金のドーム)」の名で知られています。トランプ氏は国民に対し、このシステムは、現代の技術を駆使して核兵器を「無力かつ時代遅れ」なものにするという、ロナルド・レーガン氏の「スター・ウォーズ」構想を実現するものであると語っています。しかし、トランプ氏はその後、国防総省に対して詳細を公にすることを禁じ、システムに関する具体的な情報もほとんど提供していません。その状況は現在も続いています。議会予算局(CBO)は、トランプ氏の指示が何を意味し得るかを解釈し、実現可能なシステム構成を策定した上で、その費用を20年間で実に1兆2000億ドルと試算しました。さらに驚くべきことに、CBOが想定したシステムの規模は、単一の地点から同時に発射される10発の長距離ミサイルを迎撃することしか想定していませんでした。この仮想的な防衛システムは4つの層で構成されていました。1つは宇宙、3つは地上に配備され、それぞれが飛来するミサイルや弾頭を飛行の異なる段階で迎撃するように設計されていました。 ロシアと中国は数百発のミサイルを保有しており、中国の保有数は急速に増加しています。全面的な核攻撃に対処するための本格的な防衛システムの構築には、その期間中に数兆ドル規模の費用がかかる可能性が十分にあります。共和党が主導する議会は、これまで「ゴールデン・ドーム(Golden Dome)」計画に対し、厳格な監視や詳細情報の要求を行うことなく予算を承認してきましたが、政権側は今後5年間で年平均約150億ドルの予算を求めています。国防総省は、総額1,850億ドルでシステム全体を配備できると主張していますが、トランプ政権以外には、その内訳がどのようなものかを知る者はいません。米国国民には、より包括的かつ公開された議論を行う権利があり、議会もそれを求めるべきです。 実際、現在のアラスカを主拠点とし、性能が不確かな長距離迎撃ミサイル約44発で構成される、北朝鮮の脅威に対処するための限定的な能力を超えて、防空・ミサイル防衛能力を拡充することには十分な根拠があります。北朝鮮の能力向上、中国による大規模な核戦力増強、ロシアや中国による極超音速ミサイルなどのより複雑な脅威の開発、そしてドローン技術の拡散といった状況は、すべて能力拡充の必要性を示唆しています。また、国防総省の「ゴールデン・ドーム・フォー・アメリカ」室のマイケル・ゲトライン将軍を筆頭に、ミサイル防衛局、宇宙軍、その他の軍種、政府系兵器研究所、そして米国の防衛産業に至るまで、多くの優秀な人材が数多くの有望な構想を追求しています。しかし、全面的な核攻撃にさえ対抗できる強固な国家防衛体制を構築するというトランプ氏の当初の指示は、文字通り「絵に描いた餅」であり、実現不可能なものです。何が、どのような方法で、どの程度の期間と費用をかけて実現可能なのかについて、より信頼性が高く透明性のある判断を下す必要があります。 進展に関して、トランプ氏の主張が全面的に間違っているわけではありません。過去30年間に開発された「ヒット・トゥ・キル(弾頭への直接衝突による破壊)」技術を超え、極めて印象的な新技術が登場しています。例えば、いわゆる「極超音速・弾道ミサイル追跡宇宙センサー(HBTSS)」衛星は、米国に向かうあらゆる脅威となる物体について、はるかに正確な位置情報を提供できるようになるでしょう。また、必要になるまで数年間軌道上に留まる迎撃ミサイルを宇宙に配備することも可能かもしれません(もっとも、レーザー兵器の場合は話が別ですが)。宇宙への打ち上げコストが低下したことも大きな変化をもたらしました。今や、多数の大型迎撃ミサイルを比較的安価に軌道上へ投入することが現実味を帯びてきているのです。 しかし、イスラエルのような小国とは異なり、米国のような広大な国を敵の組織的な攻撃から守ることははるかに困難です。さらに重要な点として、通常爆薬による攻撃に対して広大な国を効果的に防衛することに比べ、核攻撃に対する防衛は格段に難しいという事実があります。通常兵器による攻撃で防衛に数回失敗したとしても、悲劇的ではあれ、国が崩壊するような事態には至らないのが一般的です。しかし、核弾頭がたった1発でも防衛網を突破すれば、それはその国の歴史上、最も甚大な被害をもたらす攻撃になりかねないからです。 堅牢かつ大規模な防空・ミサイル防衛システムの構築を極めて困難にしている要因が、他にも2つあります。第一は、デコイ(おとり)の問題です。宇宙は(ほぼ)真空であるため、そこで一定の速度まで加速された物体は、その大きさ、形状、重量にかかわらず、同じ速度で移動し続けます。したがって、レーダー波を反射するように設計されたマイラー製バルーンのような軽量なデコイであっても、内部に小型の熱源装置を仕込んで本物の弾頭の熱放射(熱的特徴)を模倣すれば、本物の脅威と区別することは困難になります。理論上は、粒子ビームを照射して物体を識別することも可能ですが、それには対象への接近と膨大なエネルギーが必要となります。第二は、宇宙配備型迎撃ミサイルが活動することになる低軌道(LEO)上の物体に関する、厳しい現実です。それは、いわゆる「不在率」の問題です。ある特定の大陸間弾道ミサイル(ICBM)を迎撃・破壊しようとする際、その瞬間に適切な位置にいる宇宙配備型迎撃ミサイルはごく一部に過ぎない、という現実です。それらは地球表面に対して絶えず移動しているため、特定の打ち上げ地点の上空に留まることはできません。また、攻撃側はいつでもICBM(大陸間弾道ミサイル)を発射できる可能性があるため、効果的な防衛を行うには、低軌道上に多数の迎撃ミサイルを配備して「格子状」の網を張り、適切なタイミングと場所で常に迎撃可能な状態を作り出す必要があります。 より現実的なアプローチ:「黄金のドーム」から「青銅のドーム」へ?核兵器がすぐに無力化したり時代遅れになったりすることはないでしょうし、そもそもそうなることはないかもしれません。しかし、より限定的な規模の本土ミサイル防衛システムであれば、いくつかの有益な役割を果たし得るでしょう。これを「黄金のドーム」ではなく、むしろ「青銅のドーム」のようなものと考えてみてください。一つの価値ある目標は、北朝鮮やイランによる小規模な攻撃に対し、現在よりも高い確実性をもって防衛することです。防衛能力に加え、ICBM(大陸間弾道ミサイル)の発射前に先制攻撃を行う能力や、そうした攻撃兵器の電子機器に対するサイバー攻撃能力を組み合わせれば、脅威が高度化・拡大しても、それらを阻止できる可能性があります。限定的な国家ミサイル防衛システムは、偶発的または権限外の発射、例えば、ミサイルサイロや潜水艦の指揮官が独断で行うような発射に対するある程度の防護策にもなり得ます。万が一、暴走したAIシステムが核攻撃を開始するという事態(米国と中国は、AIに核戦争を開始する権限を決して与えないことで合意していますが)においても、こうした能力は有用かもしれません。 限定的なミサイル防衛は、大国間戦争の特定のシナリオにおいても役立つ可能性があり、さらにはそうした戦争の発生を未然に防ぐ抑止力にもなり得ると期待されます。例えば、中国が台湾をめぐる紛争で劣勢に立たされた場合、米軍基地の上空で核弾頭を爆発させるという「賭け」に出る誘惑に駆られるかもしれません。適切な場所を選べば、民間人の犠牲を最小限に抑えつつ、その基地における米軍の作戦能力を無力化できる可能性があるからです。また、そのような攻撃は、紛争がさらに拡大する前に戦争を終わらせようと米大統領に決断させるべく、強烈な恐怖心を植え付けることも狙いとなるでしょう。 もちろん、それは極めてリスクの高い賭けです。しかし、台湾を失い、ひいては自らの権力基盤をも失う事態を避けるためなら、追い詰められた中国の指導者がそのような選択肢を排除しない可能性もあります。実際、朝鮮半島、台湾、ベルリン、キューバ、中東などにおける米国の「核の瀬戸際政策」の歴史を振り返れば、こうした脅威を単に無視できないことは明らかです。ウクライナ戦争初期におけるウラジーミル・プーチンの行動や威嚇も、同じことを示唆しています。ミサイル防衛は、将来の敵対国の意思決定者がそのような選択肢をとることを困難にするか、あるいは不可能にする可能性があります。また、将来の中国やロシアが、主要な軍事基地を破壊するために長射程の通常弾頭型ICBMを使用しようとした場合、その攻撃を阻止する助けにもなり得ます。その場合、たとえ不完全な防衛能力であっても、限定的な攻撃で目的を達成できるという攻撃側の確信を削ぐことで、防衛側に有利に働く可能性があります。 歴史的にミサイル防衛は軍拡競争の引き金になり得ると見なされてきました。しかし将来的には、攻撃能力のみに依存した核軍拡競争に代わる選択肢を提供することで、むしろ軍拡競争を抑制する役割を果たすかもしれません。米国の情報機関は現在、中国が保有する核弾頭数が数年前のわずか200発、現在の約600発から増加し、2030年代には1,000〜1,500発に達すると予測しています。そうなれば、すでに息も絶え絶えの状態にある従来の二国間軍備管理体制は、事実上崩壊することになるでしょう。 中国とロシアは真の同盟関係にはないため、両国の核戦力の合計を米国と同等の上限に抑えることには同意しないでしょう。その結果、米国は依然として核超大国としての地位を維持することになります。しかし米国は、中国とロシアがそれぞれ米国と同規模の核戦力を保有することを容認し、自国に敵対する二国を含む三つの核超大国が存在するような世界を受け入れることはないでしょう。中国とロシアの核戦力の合計に対抗しようとして軍拡競争のリスクを冒すよりも、米国は攻撃能力と防衛能力を組み合わせることで、均衡を維持する方が賢明かもしれません。その場合、米国は防衛面で一定の優位性を持ち、モスクワと北京は共同で攻撃用核兵器において優位に立つという構図になるでしょう。とはいえ、どの国も想像を絶する破壊をもたらすのに十分な兵器を保有し続けることになります。 理にかなったアプローチの一例として、1990年代初頭にブッシュ(父)政権が提示した構想が挙げられます。GPALS(限定的攻撃に対する地球規模防衛システム)と名付けられたこのシステムは、飛来する弾頭を最大約200発迎撃できるよう設計されていました(ただし、実際に処理可能な弾頭数については、かなり楽観的な見積もりだったと思われます)。理論上は、国内約6カ所の地上配備型迎撃ミサイルと1,000基の宇宙配備型迎撃ミサイルを運用する計画でした。第2段階では、これらすべての配備数を増やすことも可能でした。宇宙配備型迎撃ミサイルを3万基ではなく1,000基に抑えたことで、当時の技術的制約の下でも実現可能な費用(2026年価格で約1,500億ドル)に収まりました。これは、より大規模な敵の脅威を想定していたにもかかわらず、CBO(議会予算局)が試算した「ゴールデン・ドーム(Golden Dome)」構想の費用の約8分の1に相当する額でした。 総合的に見れば、地上および宇宙のセンサーで支援された、限定的な3段階の地上配備型防衛アーキテクチャは、戦略的安定性を損なうことなく、偶発的、非承認、あるいは「ならず者国家」による様々な形態の攻撃に対する防衛手段となり得る有望な選択肢です。米国が宇宙配備型の迎撃ミサイルを配備する場合、ブースト段階(上昇段階)での防衛に比べて「不在率(迎撃機が標的の射程圏内にいない確率)」がはるかに低いため、ミッドコース(中間飛行)段階にある弾頭の迎撃に専念することが考えられます。しかし、私はそのようなアプローチにも懐疑的です。なぜなら、デコイ(おとり)によって、宇宙配備型のミッドコース迎撃システムが圧倒されてしまう可能性が高いからです。地上配備型の迎撃ミサイルと、地上および宇宙配備型のセンサーを組み合わせる方が、より妥当なアプローチと言えるでしょう。 CBO(議会予算局)の試算によれば、宇宙配備型を多く含む関連センサーを追加しても、20年間の総費用は5,000億ドル未満に収まるとされています。実際、もし数十発程度の弾頭を迎撃するように設計し、CBOの想定よりも規模を大幅に縮小すれば、費用は2,000億〜3,000億ドル程度、つまり今後20年間の予想平均国防予算の約2%にまで抑えられる可能性があります。 北朝鮮に対するブースト段階での防衛を望むのであれば、朝鮮半島の地理的条件を考慮した別の選択肢もあります。具体的には、日本を拠点とする有人または無人の航空機から迎撃ミサイルを発射し、北朝鮮のICBMをブースト段階(約5分間)で撃墜することが考えられます。この段階であれば、まだデコイが放出されていないため、ミサイルは単一の大きな標的となります。 今こそトランプ政権は、自らの考えを説明し、国家的な防空・ミサイル防衛システムの構想と初期計画を提示し、我々一般市民も議論に参加できるようにすべきです。何しろ、合衆国憲法第1条は、国民を代表する機関である議会に、軍隊に関する予算の決定権を与えているのですから。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】米国にふさわしい「ドーム」とは?毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.22

今回は、【世界の論考 – 異論反論】レーガンの「ベルリンの壁」演説は世界を永遠に変えた!、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 ロナルド・レーガンによる「ベルリンの壁」演説は、当初予定されていた通りの形で行われたわけではありませんでした。しかし、実際にその演説は行われ、結果として世界の歴史を永遠に変えることになったのです。 歴史を塗り替えたその演説をめぐる一連の出来事は、その後の数年間で展開されました。ドイツ政府は、レーガンが、「鉄のカーテン」の向こう側にいた数百万の人々を解放し、ソビエト連邦を打ち負かしたという事実があるにもかかわらず、ドイツの敷地内に彼の銅像を設置することを拒否しました。そのため、銅像は代わりにベルリンにある米国大使館の敷地内に建てられることになったのです。また、ドイツ国民のために多大な貢献をしたにもかかわらず、彼の生誕100周年を祝う行事も行われませんでした。 あるドイツの政治家は歴史を深く理解しており、次のように述べています。「ロナルド・レーガンの決意と明確なメッセージが、欧州における『鉄のカーテン』を崩壊させたのです。ドイツの偉大な友人である彼を、目立つ場所に恒久的に記念すべきです」。彼は、レーガンがいなければドイツの再統一は実現しなかっただろうと語りました。 しかし、その言葉は黙殺されました。ドイツの人々は、これまで一度もレーガンを称えてはいません。 一部のドイツの政治家は、より深刻な欠点に加え、度量の狭さでも知られていました。「ドイツ人の問題点は、相手の足元にひれ伏すか、あるいは喉元に噛みつくかのどちらかである」という古い格言が当てはまるような状況でした。 ベルリンという都市をめぐる複雑な事情は、戦後のドイツ、すなわち連合国による同国および同市の統治のあり方にまで遡ります。 冷戦が激化し始める中、ベルリン市は孤立した状態に置かれました。ベルリンは東西関係における緊張の焦点となったのです。数百万の人々が東ベルリンへと向かい、そこから西ベルリン、そして自由の世界へと脱出することに成功しました。これに対しソ連は国境を封鎖し、邪悪な支配下での生活を望まないさらに多くの人々の希望を打ち砕きました。脱出を試みた人々は、ソ連によって訴追されました。 ハリー・トルーマン大統領が最初に打ち出した「トルーマン・ドクトリン」は、脅威にさらされている国々に対し、必要に応じて経済的・軍事的な支援を行うことで、米国および西側諸国がソ連の拡大に対抗するという方針を示すものでした。 第二次世界大戦後、連合国は(その判断の是非はともかくとして)同市を主要な4つの連合国で分割統治することにしました。米国、英国、フランスが西ベルリンを管理し、ソ連が東ベルリンを管理することになったのです。都市そのものは、東ドイツの深部に位置していました。しかし、ソ連の支配による抑圧から逃れようとする人々の波を食い止めるため、ソ連は1961年8月に壁を建設しました。それは、東西の対立を最も如実に物語る象徴となりました。一方にはソ連という国家がもたらす抑圧と窮乏があり、もう一方には自由と繁栄があったのです。 1963年、筋金入りの反共主義者であったジョン・F・ケネディ大統領がその地で演説を行い、ソ連の共産主義に対する反対の姿勢を明確にしました。大勢の聴衆を前に、ケネディは二つの経済体制間の対立について語り、市民への強力な支持を示すためにこう言いました。「自由な人間として、『私はベルリン市民だ』と言えることを誇りに思う」と。数百万の人々が熱狂しました。それにもかかわらず、残念なことに、その壁はその後も長年にわたって存続することになりました。 レーガン・ドクトリンは、トルーマン・ドクトリンをさらに一歩推し進めたものでした。それは、米国が単にソ連の勢力拡大に反対するだけでなく、ソ連の占領下にある地域で展開される民主化運動を支援するという方針を打ち出したのです。 レーガンは常に攻めの姿勢を崩しませんでした。 リチャード・ニクソン、ジェラルド・フォード、ジミー・カーターといった歴代大統領は、「悪の帝国」に対してデタント(緊張緩和)政策を追求してきましたが、それは実質的に、時間をかけた降伏に等しいものでした。 レーガンはデタントをきっぱりと拒絶しました。 ロナルド・レーガン大統領は1987年6月12日、ブランデンブルク門を背にしてベルリンの壁の前で演説を行いました。 レーガンのスピーチライターであるピーター・ロビンソンが起草した当初の原稿は、ソ連の共産主義と、共産主義下の東ベルリンを自由な西ベルリンから隔てている壁を厳しく非難する内容でした。ロビンソンは、筋金入りの反共主義者であるレーガンなら、この草案を評価してくれるだろうと確信していました。 レーガンの当初の原稿には、ソ連の共産主義に対する辛辣な表現が数多く盛り込まれていましたが、外交政策に関する演説の草案の常として、演説に先立ち国務省の官僚たちによる内容の検討が行われました。 予想通り、国務省の「伝統的な外交官たち」は、レーガンの発言から厳しい表現をすべて削除しました。しかし、レーガンは譲らず、その厳しい言葉を原稿に戻させました。国務省が再びそれを削除すると、レーガンはまた元に戻させました。ある時、彼は「私が大統領なんだろう?」と激しい口調で言い放ちました。 彼らは代わりの草案を提出しましたが、レーガンはそれらを拒否しました。彼はロビンソンが起草した当初の演説を行うと決意し、大統領という「強力な発信の場」を最大限に活用して、ソ連に対して持てる力のすべてをぶつけようとしていました。 そして、彼はそれを実行したのです。 「ゴルバチョフ氏、この壁を壊してください!」 そして今、正義と自由、そして共産主義の敗北を象徴する最後の証として、ベルリンの壁の大きな一部が、カリフォルニア州シミバレーにあるレーガン大統領図書館に設置されています。それは、歴史を変えたレーガンのあの演説と、彼という人物の偉大さを永く伝えるものとなっています。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】レーガンの「ベルリンの壁」演説は世界を永遠に変えた!毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.21

今回は、【世界の論考 – 異論反論】警告:進行中のプーチンの次なる“戦争”!、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 米国の最近の諜報分析によると、ロシアは今後数年のうちに、バルト三国やポーランドなどに対して限定的な攻撃を仕掛け、NATOの決意を試す可能性があるという。こうした警告は夏以降、繰り返し発せられてきたものだ。しかし、ロシアの標的となる可能性がさらに高く、それにもかかわらず政策立案者たちからほとんど注目されていない国がもう一つある。それは、東欧の中心部、ルーマニアとウクライナに挟まれた小国モルドバだ。 ロシアによるウクライナへの全面侵攻が4年半に及ぼうとする中、事態の収束の兆しは見えず、戦況も膠着状態にある。そのため、クレムリン(ロシア政府)は主導権を握ろうと、ますます焦りを募らせている可能性がある。 NATOや欧州連合(EU)といった欧州・大西洋の枠組みから外れているモルドバは、特に脆弱な立場にある。ウクライナで軍事的に多大な困難に直面しているプーチン大統領にとって、より安全かつ容易に事態をエスカレートさせられるモルドバがあるにもかかわらず、なぜNATO同盟全体という強大な力に挑むような真似をするだろうか。 クレムリンにとって、これは戦略的に理にかなっている。モスクワはモルドバを、ウクライナと同様の地政学的闘争の一部と見なしている。もし2022年にウクライナが陥落していれば、モルドバも間違いなく飲み込まれていただろう。西側の政策立案者がウクライナとモルドバを、それぞれ異なる地政学的課題を抱える別個の国と見なしているのに対し、モスクワは両国を相互に関連した同一の戦略的空間の一部と捉えている。 また、ロシアはすでに、モルドバ国内の分離独立派地域であるトランスニストリアに小規模ながら軍事的なプレゼンスを確保している。ドニエストル川の東岸を中心に位置するこの地域は、ロシアに占領されている。この存在が、クレムリンに選択肢を与えている。 概して、モルドバ政府とトランスニストリアの事実上の統治当局との間の境界線は平穏に保たれている。実際、2022年のロシアによるウクライナ全面侵攻以来、トランスニストリアの事実上の当局は、局地的な衝突を避けるべく、概ね責任ある行動をとってきた。しかし、だからといってロシアが同地域における強大な影響力を利用して危機を誘発できないわけではない。 ロシア軍やトランスニストリアの部隊が関与する局地的な衝突が起きたとしても、それだけでモルドバの治安部隊を圧倒できるわけではない。トランスニストリアにおけるロシアの軍事力は、それを行うには不十分な規模だからだ。しかし、そのような衝突は、モスクワがドローンやミサイルを用いてより直接的に介入するための口実となりかねず、モルドバにとって壊滅的な結果をもたらす恐れがある。 ロシアのミサイルやドローンは、すでにウクライナからモルドバの領空に幾度となく侵入している。こうした侵入が繰り返されることで、西側諸国がモルドバの主権侵害に対して感覚を麻痺させてしまうリスクがある。当初はウクライナ戦争の余波の一つとして片付けられていた事態が、やがてロシアによるモルドバへの意図的な攻撃を見過ごしてしまうような状況を生み出す可能性があるのだ。 軍事的な緊張が高まれば、ほぼ間違いなくハイブリッド戦も激化するだろう。ロシアはこれまで、モルドバの選挙への介入、野党勢力への資金提供、政治家への働きかけを繰り返してきたほか、機会があればモルドバ社会への干渉を続けている。 とはいえ、ロシアによるモルドバへの攻勢強化は、クレムリンにとってもリスクを伴う。モルドバへの攻撃が直ちにNATOの介入を招くわけではないが、モルドバが混乱に陥るのをウクライナやルーマニアがただ傍観しているとは考えにくい。ウクライナ国内では、沿ドニエストル地域に介入し、そこに残存するロシア軍を排除すべきだという圧力が強まる可能性がある。モルドバと極めて緊密な文化的・政治的関係にあるルーマニアもまた、同様に行動を求める圧力に直面するかもしれない。 クレムリンにとって究極の狙いは、十分な不安定化を引き起こし、民主的に選出されたモルドバの親欧州政権を排除して、クレムリンの傀儡(かいらい)政権にすげ替えることだろう。これが実現すれば、モスクワはウクライナの西側側面、特にオデーサ周辺に対して圧力をかける新たな手段を手に入れることになる。少なくともロシアは、モルドバの欧州連合(EU)加盟への道を頓挫させる程度の不安定化を狙うことはできるはずだ。混乱に陥っている国を加盟させることには、ブリュッセル(EU)も二の足を踏むだろうからだ。 モルドバはNATO加盟国ではないが、米国が支援すべきパートナーそのものだ。モルドバ政府は、ロシアによるウクライナ全面侵攻以来、極めて困難な地政学的環境を切り抜けながら、ワシントンとの関係を強化してきた。例えばモルドバは、米国からの輸入品に対する関税をゼロにするというトランプ政権の呼びかけに応じた数少ない欧州諸国の一つであり、同時にエネルギー供給源の多角化に向けた重要な措置も講じている。 政策立案者たちは、ロシアがどこでNATOを試す可能性があるかを議論する一方で、NATOと直接対立することなくモスクワがどこで事態をエスカレートさせる可能性があるかについても、より創造的に考えるべきだ。警告の兆候はすでに表れている。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】警告:進行中のプーチンの次なる“戦争”!毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.21

今回は、【世界の論考 – 異論反論】米国のAI主導権に対する中国からの「オープンウェイト」モデルによる挑戦、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 2026年初頭、有力な学識者らは、米国と中国のAIモデルを隔てていた「性能格差」が事実上解消されたと宣言した。特に中国における急速なAI開発の進展は、米国の輸出規制に直面する中で効果的な技術の国産化を進めたことと、「オープンウェイト」モデルのアプローチに大きく賭けたことの成果と言える。一方、サイバーセキュリティやその他の国家安全保障上の影響に関する議論を主導する「フロンティアモデル(最先端AIモデル)」の能力において依然として世界をリードする米国は、現在のAIモデル開発の波とそれに関連する政策的議論への対応をめぐり、政府・産業界を挙げて苦慮している。その中には、オープンウェイトモデルの利点がますます認識されるようになる中で、現在の「クローズド」なフロンティアモデルというアプローチを再評価すべきかどうかの議論も含まれている。 ここ数週間、米国のフロンティアモデルの驚異的な能力を示す一連の出来事が相次ぎ、以前はテスト環境に限られると考えられていた「意図しない挙動(ミスアライメント)」の現実的な事例が明らかになった。暴走したとされるモデルには、OpenAIの未公開モデル「GPT-5.6 Sol」が含まれる。同モデルはサイバーセキュリティ・テスト用のサンドボックスから脱出し、オープンなインターネットにアクセスしてテストを不正に回避した上、AI企業Hugging Faceの内部ネットワークへのハッキングを行った。その後、AnthropicやMetaが開発中のモデルも同様の侵害に関与していたことが判明した。Hugging Faceは、公開されている最新のフロンティアモデルを用いてその自律型サイバー攻撃に対抗しようと試みたが失敗に終わり、最終的に中国製のオープンウェイトモデル「GLM-5.2」を使用して、その自律型ハッキングの診断と対抗措置を行うことを決定した。 一方アジアでは、その直後に台湾政府のシステムに対するハッキングが報告された。これもAIモデルによって自律的に実行されたものであり、攻撃者が中国に関与していることを示唆する証拠も見つかっている。この出来事は前例のないものであり、完全自律型のサイバー攻撃がもはやニュースになるような特異な出来事ではなく、日常的なものとなる未来を予兆している可能性がある。これは、広く利用可能なAI活用型サイバー防衛能力の構築が急務であることを浮き彫りにしている。 こうした状況下、米国のAI業界自体も、自らの存続を脅かす深刻なリスクに直面していると認識しており、大手フロンティアモデル開発企業のCEOらはAI開発の「戦略的停止」を呼びかけている。 一方で、こうした懸念は根拠がないとする見方もあり、中国との間で緊張緩和(デタント)に向けた真剣な外交的努力が行われない限り、現時点で開発を停止することはあまりにリスクが高いと考える人々もいる。そうでなければ、米国はAIの主導権をめぐる、すでに縮まりつつある優位性を失う恐れがある。 自律的にサイバー攻撃を行う「暴走」モデルによる一連の事案が一段落する中、モデルのウェイトを公開するタイプと非公開にするタイプがもたらす脅威と機会の比較、そして、こうした攻撃が頻発する状況下で重要システムを保護する米国政府や産業界の能力について、疑問の声が上がっている。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】米国のAI主導権に対する中国からの「オープンウェイト」モデルによる挑戦毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.21

今回は、【世界の論考 – 異論反論】「中国版スペースX」への道!、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 2026年初頭、中国の商業宇宙分野において過去最大規模の株式取引が成立。中国航天三江集団(CASIC Sanjiang)が、ExPace(航天科工火箭技術)の株式29.6%を、国有企業である武漢投資控股集団に売却。買収額は33億人民元(4億9000万米ドル)。 中国航天三江集団は、中国の主要な国有航空宇宙・防衛コングロマリットであり、中国最大のミサイルシステム製造企業である中国航天科工集団(CASIC)の子会社。同集団は、短距離弾道ミサイルの開発を専門とするCASIC第九研究院の対外的な別称でもある。この株式売却の結果、ExPaceに対する同社の持分比率は約56.4%から26.8%へと低下。一方、武漢市国有資産監督管理委員会の直接的な管理下にある買い手企業が、約30%の株式を保有する筆頭株主となった。7月31日、ExPaceは登記変更を完了し、中国語の社名を「CASICロケット技術(航天科工火箭技術)」から「快舟航天空間科技(Kuaizhou Aerospace Technology)」へ変更。同社の宇宙ロケットシリーズ「快舟(Kuaizhou)」に由来するこの新名称は、同社がもはやCASIC(中国航天科工集団)の直接的な傘下にはないことを反映している。この変更は「株式構成の再編」に伴うものであり、今回の投資は「企業がより本格的な市場志向型運営という新たな段階へ移行するのを加速させる」ものとされている。これは、同社が将来的に株式公開(IPO)を目指していることを示唆している可能性がある。「快舟航天空間科技(Kuaizhou Aerospace Technology)」がIPOの準備を進めている可能性を示すもう一つの動きとして、同社は今年5月、CFO(最高財務責任者)補佐の求人を行った。その職務には、上場基準に適合する財務システムやガバナンス体制の構築、およびIPOに向けた財務検証の完了などが含まれていまする。 短期的には、CASIC三江(CASIC Sanjiang)によるExPaceの過半数株式の売却は、資金面でのプラス効果をもたらすと同時に、近年大きな損失を被っていた問題資産への関与を縮小させることにもつながる。しかし長期的には、この取引は中国の商業宇宙セクターにおける多様化の進展を反映している。数十年にわたり中国の宇宙セクターを支配してきた中央直轄の国有宇宙・防衛企業であるCASICやCASC(中国航天科技集団)は、依然として軍事・国家宇宙プログラム関連の生産の大部分を担っているが、商業宇宙セクターにおける競争はますます激化している。商業宇宙分野は2023年に「戦略的新興産業」に指定され、同分野では新たな民間企業や地方政府系の宇宙関連企業が活発に活動している。 2016年に中国初の本格的な商業宇宙打ち上げ企業として設立され、当初は「中国版SpaceX」とも称されたExPace(航天科工火箭技術有限公司)。同社が赤字先行の段階から注目の買収対象へと変貌を遂げたその軌跡は、過去10年間における同業界の激動の進化を映し出す鏡と言える。 市場競争と再編圧力への直面ExPace社は近年、民間企業および国有企業双方からの競争激化の中で、財政的に苦境に立たされている。例えば、再使用型液体酸素・メタンロケットの開発は進展したものの、この重要な新技術分野において、同社はCASCの「長征」ロケットやその他のシステム、さらには民間のLandSpace社に大きく遅れをとっている。2024年には多額の損失を計上。同年の売上高は合計で約6,400万元(940万米ドル)、純損失は約1億8,000万元(2,700万米ドル)。この傾向は翌年も続き、2025年1月から11月までの売上高は6,700万元(1,000万米ドル)強、純損失は約1億3,600万元(2,000万米ドル)。 CASIC(中国航天科工集団)傘下での最終期においてExPace社に影響を及ぼした可能性のあるもう一つの問題は、親会社であるCASIC三江集団(CASIC Sanjiang)の再編。 2024年7月、CASIC(中国航天科工集団)は「第九研究院」を再設置し、2011年から2024年まで「第四研究院」の傘下にあったCASIC三江(およびその子会社であるExPace)を再び自らの管理下に置いた。この改編により、再設置された第九研究院は、湖北省に拠点を置くCASICの軍事製造子会社を再び取り込むこととなった。新たな第九研究院は、かつての役割に回帰し、中国人民解放軍ロケット軍で広く運用されているDF-11AやDF-16といった短距離弾道ミサイル(SRBM)の開発を専門的に担う体制に戻ったものと見られる。 結論新たに設立された「快舟(Kuaizhou)航空宇宙」は、商用衛星打ち上げロケットの研究・開発・生産に関する確立されたシステムを引き継いでいる。同社を傘下に収めた武漢投資控股集団(Wuhan Investment Holding Group)の担当者は、今回の取引の背景について、ExPace社が「完全なシステム」を備えている点を挙げた。同担当者は、その利点として「単なる産業チェーンの一環にとどまらず、完結したサプライチェーンの中でロケットを完成品として製造できる能力があること」を強調している。さらに、戦略的投資の観点から、「自立性があり、かつコントロール可能な企業への投資を優先する」とも述べている。 ある中国の金融メディアによれば、武漢側がExPaceへの投資において重視しているのは、単なる直近の財務実績ではなく、「既存のロケット機種体系、技術・エンジニアリング人材、産業チェーンのリソース、そして商用打ち上げ市場への参入に不可欠な(希少な)許認可や技術力」。 しかし、「快舟(Kuaizhou)航空宇宙」が成功を収めるためには、「3つの課題に同時に答えを出す」必要がある:(1)既存の固体燃料ロケットが今後も受注を獲得し続けられるか、(2)液体燃料ロケットの技術検証を予定通り完了できるか、そして(3)エンジン開発から初飛行、回収に至る全ライフサイクルを賄う資金を確保できるか。 武漢からの約5億ドルに上る投資は、「快舟(Kuaizhou)航空宇宙」快舟にとって新たな出発点となる。しかし、同社の成否は最終的に、中国国内の極めて競争の激しい商用宇宙飛行分野において、信頼性、コスト、納期の面で競争力のあるサービスを提供できるかどうかにかかっている。武漢市政府による強力な支援と、CASIC三江集団(CASIC Sanjiang)から引き継いだ打ち上げに関する知見や能力をうまく活用できれば、同社はかつて「中国のスペースX」と称されたその地位を確立するための重要な一歩を踏み出せるだろう。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】「中国版スペースX」への道!毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.21

今回は、【世界の論考 – 異論反論】国連を通じたテロへの資金援助を防ぐ!、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 わずか3年前、ハマスは1,200人以上の罪のない男女や子供たちを殺害し(その多くは残虐極まりない手口によるものだった)、254人を人質に取った。犠牲者の中には46人の米国人が含まれていた。さらに12人の米国人が拉致され、数ヶ月にわたって拷問を受けた末、米国とイスラエルの働きかけによってようやく解放された。それにもかかわらず、信じがたいことだが、10月7日のテロ攻撃の恐ろしさは米国人の記憶から薄れつつあるようで、イスラエルへの支持が弱まり、パレスチナ支持へと傾いている。 最も懸念すべきは、国務省もまた、過去10年間で米国人が犠牲となった最悪のテロ攻撃に関する記憶を「闇に葬ろう」としているように見えることだ。その理由は、国務省監察総監室(OIG)の最近の報告書で明白に示されている。同報告書は、10月7日以前の時点で、ハマスを含むテロ組織に米国の資金が流れるのを防ぐための措置が不十分であったと結論付けている。さらに悪いことに、攻撃後でさえ、国務省の人口・難民・移民局は、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)、国際移住機関(IOM)、国連児童基金(UNICEF)に提供される米国の資金に関し、「テロ資金供与のリスクを軽減するための追加措置を特定してはいたものの、それらを効果的に実施しなかった」のである。 トランプ政権は、国連を通じたテロへの資金援助を防ぐために行動しなければならない はじめに わずか3年前、ハマスは1,200人以上の罪のない男女や子供を殺害し(その多くは残虐極まりない手口によるものだった)、254人を人質に取った。犠牲者の中には46人の米国人が含まれていた。さらに12人の米国人が拉致され、数ヶ月にわたって拷問を受けた末、米国とイスラエルの圧力によって解放された。それにもかかわらず、信じがたいことだが、パレスチナへの支持が高まりイスラエルへの支持が弱まる中で、10月7日のテロ攻撃の恐ろしさは米国人の記憶から薄れつつあるようだ。最も懸念すべきは、国務省もまた、過去10年間で米国人が犠牲となった最悪のテロ攻撃に関する記憶を「闇に葬ろう」としているように見えることだ。その理由は、国務省監察総監室(OIG)の最近の報告書で明確に示されている。同報告書は、10月7日以前の時点で、米国の資金がハマスを含むテロ組織の利益になるのを防ぐための措置が不十分であったと結論付けている。さらに悪いことに、攻撃後でさえ、国務省の人口・難民・移民局は、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)、国際移住機関(IOM)、国連児童基金(UNICEF)に提供される米国資金に関し、「テロ資金供与のリスクを軽減するための追加措置を特定したものの、それらを効果的に実施しなかった」。 信じがたいことだが、米国市民が殺害されたという事実があるにもかかわらず、国務省は、構造的な問題を是正するというOIGの主要な勧告に同意せず、それどころか、こうした高リスクの資金提供に対して、さらに悪いとも言えるアプローチを採用している。国連人道問題調整事務所(OCHA)との新たな取り決め(これまでの総額は38億ドルに上る)は、ガザでのテロを助長する結果となった不備のある手続きと比べても、監視体制が根本的に脆弱なものとなっている。トランプ政権・国務省は、米国の税金がこのような致命的なずさんさによって管理される事態の再発を防ぐため、方針を転換しなければならない。 提言米国の納税者の資金が不正使用、不適切管理、あるいは盗用されたり、米国人の安全を脅かすために使われたりしないようにすることは、国務省の極めて重要な責務だ。この責務を果たすためには、国務省は方針を転換する必要があり、具体的には、以下の措置を講じるべきだ。1) 国連人道問題調整事務所(OCHA)との覚書(MOU)の再交渉国務省は、現行のOCHAとの覚書を直ちに破棄し、より実効性の高いUSAID(米国国際開発庁)の慣行に即した内容で再交渉を行うべきである。これにより、共同基金(プール・ファンド)の構造、資金配分権限、テロリスト・スクリーニング基準、特権・免除の保護、情報開示ルール、調査のためのアクセス権、パートナー選定の仕組み、および資金の停止・回収・使途変更を行う米国の能力といった点における不備を是正する必要がある。2) 高リスクな人道支援資金の拠出案件に関する見直し国務省、国務省監察総監室(OIG)、およびUSAID監察総監室は、IOM(国際移住機関)、OCHA、UNICEF(国連児童基金)、ICRC(赤十字国際委員会)、WFP(国連世界食糧計画)、その他テロ資金供与、テロ組織の浸透、または資金の不正流用のリスクが高い環境で活動する多国間機関やNGOを対象とする、現在進行中および検討中の人道支援資金拠出案件について、リスクに基づいた緊急の審査を実施すべきである。既存の拠出案件について、単に承認済みであることを理由に安全であるとみなしてはならない。3) 国務省による法的助言の監査国務省およびUSAIDの監察総監室は、10月7日の前後においてガザ地区向け人道支援資金の枠組みを策定・承認する際、国務省法律顧問室が果たした役割について共同で包括的な検証を行うべきである。これには、物資的支援の制限、テロ資金供与規制、監察総監室のアクセス権、国連の特権・免除、OCHAとの覚書、およびその他の多国間資金拠出の取り決めに関する助言が含まれる。この検証では、文書化されていた監督上の不備がなぜ是正されなかったのかを特定し、独立した法的審査、(利益相反等による)関与の回避、あるいは訴追が必要かどうかを判断すべきである。4) 将来のプログラムの保護テロ組織による資金の不正流用、浸透、またはテロ資金供与のリスクがある環境で実施されるプログラムについては、資金の拠出決定や支出を行う前に、以下の要件を課すべきである:米国基準のテロ対策審査、米国監察総監室への直接的な情報開示の義務化、独立した現地検証、記録および関係者への強制力のあるアクセス権、即時停止権限、サブ・レシピエント(二次受領者)の透明性確保、最終使途のモニタリング、ならびに物資的支援や戦争犯罪への加担の疑いがある場合の通報手順の確立。5) 米国による監督およびアクセス権の制度化 2024年度および2026年度の歳出法案において連邦議会が定めた法的指示に基づき、国務省は以下の措置を講じるべきである。すなわち、米国の支援や資金提供を受けるすべての国際機関と書面による合意を締結し、米国の監察総監(IG)を含む独立した監視機関が、記録、文書、および職員への十分な世界的アクセス権を確保できるようにすることである。これにより、当該機関の職員や下請け業者が、米国が指定するテロ組織と関わりがないか審査し、米国の納税者の資金が不正使用や不適切管理にさらされていないかを確認できるようにする。6) 米国監察総監室(OIG)の専門的知見の維持米国の支援活動や国際機関に関する調査において最も豊富な経験を持つ機関であるUSAID(米国国際開発庁)のOIGは、USAIDの解体に伴い、その将来が不透明な状況にある。連邦議会と政権は、この貴重な専門的知見を維持・継承すべきである。具体的には、USAIDのOIGを国務省内の「対外支援担当監察総監室」として再編・指定し、国務省やその他の機関が拠出する対外支援資金を調査・監視する権限を拡大すべきである。 結論国際的な人道支援機関に対する米国の支援や資金提供は、海外の困窮し、かつ支援に値する地域社会を支えてきた米国の長年の伝統に合致するものである。しかしながら、UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)のような組織による米国の多額な資金の不正使用や、UNRWA職員による米国人の殺害・誘拐への関与が事実として確認されている以上、国務省長官には以下の責務がある。すなわち、こうした事態を許した不備のある支援拠出システムを是正すること、米国の税金が米国人の殺害を助長することにつながった責任を関係者に追及すること、そして、米国の資金の不正使用、とりわけ米国の対外人道支援がテロ活動へと流用されるという壊滅的な事態を防ぐための安全策を確実に構築することである。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】国連を通じたテロへの資金援助を防ぐ!毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.21

今回は、【世界の論考 – 異論反論】中国脅威:科学技術における米国優位性の危機、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 中国が技術・製造の超大国へと成長する一方で、米国や欧州は、半導体や航空機といった科学技術の高度な統合を要する産業において、依然として主導権を維持していますが、しかし、その優位性は危機に瀕しています。中国は多くの科学分野で米国に匹敵するレベルに達しており、こうした産業への進出をさらに深めようとしています。米国政府は自国の科学者を冷遇するのをやめるべきです。さもなければ、多様な科学分野の複雑な統合を必要とする技術開発という、米国が誇る大きな強みの一つを失うことになるでしょう。 中国はすでに、先端製造業において世界をリードする存在です。AppleのiPhoneだけでなく、XiaomiやDJIといった自国ブランドを含め、最先端の家電製品の生産拠点となっています。中国企業は世界で最も多くの電気自動車(EV)を販売しており、品質と価格の両面で競合他社を凌駕しています。また、太陽光発電パネルや大型バッテリーといったクリーンテクノロジー製品の主要な生産国でもあり、さらに幅広い産業用部品の分野でも圧倒的なシェアを誇っています。もはや人件費は安くありませんが、中国の巨大な製造業の労働力(約7000万人)は世界で最も高い能力を備えています。ほぼあらゆる製品について、サプライヤーや専門家が都市規模で近接して集積しています。電力、鉄道、港湾といったインフラも整備されており、特に資金調達面をはじめとする政府の強力な支援も受けています。しかし、科学技術の高度な統合を要する世界の主要産業のうち、集積回路(IC)の設計・製造とワイドボディ機(大型旅客機)の生産という二つの分野においては、いまだ主導権を握れていません。 半導体には、化学、電気工学、コンピュータ科学などの統合が求められます。ASML(Advanced Semiconductor Materials Lithography)が製造する極端紫外線(EUV)露光装置の高度さは、にわかには信じがたいほどです。この業界は、製造装置(ASMLなど)やチップ設計用ソフトウェア、さらにはウェハー、化学薬品、ガスといった基幹材料を手掛ける多種多様な企業で構成されており、その複雑さは圧倒的です。同様に、安全かつ効率的な民間航空機を製造するには、材料科学、機械工学、空気力学の統合が必要です。航空産業においても、エンジンやアビオニクス(航空電子機器)などを専門とするサプライヤーによる巨大なサブシステムが形成されています。 中国企業は科学技術が成熟した分野では強みを発揮する傾向があります。例えば、スマートフォンの組み立てには、もはやそれほど高度な科学的知見は必要とされません。しかし、膨大な数の部品を使い、大規模かつ高品質に製品を製造することは、米国には実現できていないことです。別の例を挙げれば、リチウムイオン電池の製造に関する科学的原理は何十年も前に確立されていますが、安全かつ高効率な電池を製造することは困難な課題であり、現在はこの分野を中国企業が席巻しています。中国の製造業の力は、何十年にもわたって急速な発展を遂げてきました。対照的に、同国の科学エコシステムは、ようやく本格的な勢いづきを見せ始めた段階にあります。 その状況も変わりつつあります。つい最近まで、中国の大学が価値の高い科学的成果を生み出しているかどうかについて、欧米の科学者が懐疑的な目を向けるのはもっともなことでした。中国の科学者の多くは欧米の大学で教育を受けていましたし、大学の教授陣も、論文の質よりも量に重きを置いていたからです。しかし、ここ10年で、中国政府は科学エコシステムへの資金投入を絶えず拡大してきました。今や中国は、トップクラスの大学にノーベル賞受賞者(必ずしも中国系とは限りません)を招聘できるようになっています。化学や多くの工学分野において、中国の教授陣は米国の教授陣に匹敵する数の、被引用数の多い論文を発表しています。さらに、中国の科学界は、量子通信、月探査、核融合といった分野で画期的な成果を上げています。合肥(ヘーフェイ)で進められている核融合実験装置「EAST(全超伝導トカマク型核融合実験装置)」や量子科学実験衛星「墨子号(Micius)」といった主要プロジェクトの成功は、中国の科学エコシステムが着実に整いつつあることを示しています。 米国は、製造業における主導権を中国に大きく譲り渡してしまいました。科学技術の分野でも同様の事態を招く必要はありません。まずは、削減された研究資金を元に戻し、中国を含む世界各地から優秀な科学者を再び米国に呼び込むことから始めてみてはどうでしょうか。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】中国脅威:科学技術における米国優位性の危機毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.20

今回は、【世界の論考 – 異論反論】なぜこれほど多くの主要国がBRICSの存続や拡大を望んでいるのか?、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 アナリストによると、特に最近の加盟国拡大以降、BRICS加盟国の間には地政学的な問題をめぐって大きな相違が存在しています。 イランをめぐる紛争今年の首脳会議は、中東での紛争をめぐり、BRICS加盟国であるイランとUAE(アラブ首長国連邦)の間で亀裂が生じている中で開催されます。一方、この紛争に対するインドの立場も微妙なものです。インドはイラン、イスラエル双方と良好な関係を維持しつつ、米国との関係を損なわないよう慎重に立ち回っています。関係筋によると、同連合は特定の国名を挙げることなく、この紛争への対応を図る見通しです。「米国やイスラエルの名を挙げるようなことがあれば驚きです。おそらく妥協点を見出し、主権、全国家の領土保全、そして正当な利益や懸念の尊重といったテーマを軸に、紛争に関する声明をまとめることになるでしょう。」 イエメン紛争イランの支援を受けるイエメンのフーシ派が、サウジアラビアのエネルギー施設やその他のインフラを標的としてドローンやミサイル攻撃を行う中、イランと、同じくBRICS加盟国であるサウジアラビアとの間でも同様に緊張が高まっています。サウジアラビアは、フーシ派と交戦しているイエメンの国際承認政府を支援していますが、同政府は今週、戦略的に極めて重要なバブ・エル・マンデブ海峡を含むイエメンの紅海沿岸全域の支配権を失いました。7月には、イエメン政府軍がフーシ派の支配下にあるサヌア国際空港を攻撃しました。これは、イラン製の兵器を積んでいるとされる航空機の着陸を阻止するためでした。イラン外務省によると、イランのアッバス・アラグチ外相は木曜夜、サウジアラビアのファイサル・ビン・ファルハーン外相と、「地域の緊張の高まりと不安定化の拡大」について協議しました。同省は、両国が「緊張の拡大を防ぎ、安定を回復するために、協力と外交努力を継続する必要性を強調した」と付け加えました。 インドと中国の緊張関係アジアの二大国である両国の関係は、2020年にヒマラヤ山脈の国境地帯で死者を伴う軍事衝突が発生して以来、緊張状態にあります。近年、関係改善の動きは見られるものの、係争中の国境問題や拡大する貿易赤字をめぐっては根深い不信感が残っており、戦略的な対立関係も依然として両国関係を複雑にしています。中国は、BRICS首脳会議において、グローバル・サウスを代表する主導的な立場を確立したいと考えています。しかしインドを含む一部の国が、中国を「グローバル・サウス」の一員とは見なしていません。「他の多くの国は、中国を今や世界的な超大国だと見なしているかもしれません」、「しかし中国自身は、自分たちはグローバル・サウスの自然な一員であると主張しています。そのため中国は、自国をグローバル・サウスの国、つまり発展途上国として明確に位置づけ、サミットではその視点から議論を展開するでしょう。」 インドと中国が二国間の問題を解決しようと試みる一方で、BRICSの目的をめぐる摩擦は続くでしょう。「中国はBRICSを、自国の利益のためにグローバル・サウスを動員する主要な枠組みと見なしています。同時に、西側諸国、特に米国に対する共通の不満を共有する場としても捉えているのです。」「一方、インドはBRICSを、戦略的自律性を発揮し、新たなパートナーシップを構築するための枠組みとして構造的に捉えています。それは『非西側』であっても『反西側』ではないパートナーシップです。」この認識の相違は今回のサミットでも解消されることはないでしょう。「ロシアや中国は、BRICSを米国や西側の力に対抗する勢力として提示することに抵抗がありませんが、インドや他の数カ国の加盟国は、この組織を『反西側』の同盟として位置づけることにはあまり関心がありません。」 しかし、この同盟はNATO(北大西洋条約機構)やEU(欧州連合)のようなものではありません。NATOやEUでは、組織として機能し続けるために、あらゆる地政学的問題について全加盟国の合意が必要とされます。「BRICSは、互いに意見の相違があっても、国際的な行動の余地を広げるという点では利害を共有する国々を集めたものです。それは、多極化を主体的な力として捉える考え方を体現するグループなのです。」「BRICSの会合のたびに問われる『結束できるか』という点は、本質的な問いではありません。より重要な問いは、意見の相違を抱えながらも、実務的な協力を追求していけるかどうか、ということです。」 西側諸国は懸念すべきなのだろうか?トランプ氏は、自身の「米国第一」的な外交政策ビジョンの一環として、西側主導の国際秩序を揺るがすとともに、米国の経済的優位性に対する脅威とみなすBRICSなどのグローバル・サウスの枠組みを激しく批判してきました。トランプ大統領はこうしたグループを「反米的」と呼んでいます。しかし、西側諸国の指導者の多くは、グローバル・サウスの会合を「反西側」の集まりとはみなしていないとの指摘もあります。「多極化に象徴される世界秩序の変化の中で、彼らはこうした首脳会議を大きな関心を持って注視しているだろう。」「BRICSが結束した『反米同盟』へと変貌することや、加盟国が何らかの形で米ドルの失墜を画策することについて、ワシントンや西側諸国が過度に懸念する必要はありません。」「ロシアでさえ最近、全面的かつ急進的な『脱ドル化』は目指していないと発言しています。加盟国間では、経済的・戦略的な利害がそれぞれ異なっているからです。」「米国にとって重要なのは、なぜこれほど多くの主要国がBRICSの存続や拡大を望んでいるのか、という点です。彼らはより多くの選択肢を求めています。国際機関に対する影響力の拡大を望んでいます。代替となる資金調達や決済のルートを求めています。そして、特定の主要国に起因するサプライチェーンの混乱、制裁、関税、あるいは政治的圧力から自国を守ることを、ますます強く望むようになっています。」「現在そうした混乱や強要、圧力の主な発生源となっているのは米国です。」「つまり、ワシントンが汲み取るべきより深いメッセージは、米国が『戦略的自律』に向けたあらゆる試みを敵対行為とみなせば、かえって各国をBRICSへと向かわせる勢力を強めてしまう可能性がある、ということです。」 以上です。【世界の論考 – 異論反論】なぜこれほど多くの主要国がBRICSの存続や拡大を望んでいるのか?毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.20

今回は、【世界の論考 – 異論反論】イランの核問題、新たな局面へ!、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 国際原子力機関(IAEA)は、イランの核開発計画をめぐり、過去20年間で最も重大な措置を講じました。水曜日、IAEA理事会は、イランが核不拡散義務を履行していないとして、同国を国連安全保障理事会に付託することを賛成23、反対3、棄権8で可決しました。 この採決も重要ですが、それ以上に重要なのはその背景にある問題です。それは、国際社会がもはやイランの核開発計画の実態を確実に検証できなくなっているという点です。IAEAは、米国とイスラエルによる最近の攻撃を受けて、イランの核物質や核施設に何が起きたのかを把握できていません。査察官は、核物質の所在や状態、そしてイランがそれらを移動させたり隠蔽したりしたかどうかを判断する上で不可欠な「情報の継続性」を回復できずにいます。 攻撃前、IAEAはイランが60%まで濃縮されたウランを440.9キログラム保有していると推定していました。これは通常の民生用原子力発電に必要なレベルをはるかに上回り、技術的には兵器級とされる90%の濃縮度に迫る水準です。IAEAは、イランが核兵器を保有しているとは明言していません。しかし、関連施設や核物質へのアクセスがなければ、イランが何を保持し、何を移動させ、あるいは何を作り出した可能性があるのかを特定することはますます困難になっています。 長年にわたり、イランの核開発計画をめぐる議論は、濃縮度を中心に展開されてきました。テヘラン(イラン政府)はどれだけのウランを濃縮できるのか? 兵器級の核物質に到達するまでにどれくらいの時間がかかるのか? 何基の遠心分離機を稼働させているのか? こうした疑問は依然として重要ですが、それらは査察官が対象となる核物質を実際に確認し、その所在を把握できることを前提としています。今や、その前提自体が危うくなっているのです。 イランは、軍事攻撃そのものが査察を不可能にしたと主張し、IAEAの要求は政治的意図に基づくものだと非難しています。また、テヘランは自国の核開発計画が平和的なものであると主張し続けています。こうした主張をどう評価するかにかかわらず、現実的な問題は残ります。すなわち、監視対象である施設や核物質に査察官がアクセスできなければ、国際的な監視体制は機能し得ないということです。 欧州連合(EU)も水曜日、同様の指摘を行いました。EUは、イランがIAEAへの協力を停止していることに深刻な懸念を表明し、最新情報の申告と査察の実施を求めました。その一方で、欧州各国政府は、外交こそが望ましい解決策であるという立場を維持しています。この区別は重要な点です。検証は戦争とは異なり、査察の要求は体制転換の要求とも異なります。しかし、信頼できる検証を伴わない外交は、暗闇の中で行われる外交に等しいものです。 安全保障理事会が直ちに制裁などの懲罰的措置を講じる可能性は低いでしょう。ロシアと中国はIAEA(国際原子力機関)の決議に反対しており、両国とも安保理で拒否権を行使できる立場にあるからです。そのためテヘラン(イラン政府)は、安保理への付託そのものが直ちに実効性のある国際的行動につながるわけではないと判断する根拠を持っています。この状況が検証問題をさらに重要なものにしています。なぜなら、信頼できる監視の仕組みがなければ、イランが義務を遵守しているかどうかを判断する確実な手段が限られてしまうからです。 核をめぐる危機は、イラン国内で進行中のより広範な危機と並行して展開しています。同政権は、深刻な経済的圧力、石油輸出の減少、高インフレに苦しんでおり、社会不安の拡大を強く懸念しています。すでにガソリンの大量消費者に対する価格引き上げを余儀なくされていますが、これは政治的に極めて敏感な問題です。同国では過去に燃料価格の高騰が2019年の大規模な抗議デモの引き金となった経緯があるからです。 核問題を国内の危機から切り離したままにしておくことはできません。この関連性は、水曜日に「イラン抵抗国民評議会(NCRI)」の次期議長であるマリヤム・ラジャヴィ氏によって強調されました。彼女はIAEAへの付託を歓迎しつつ、同政権による人権侵害も国連安全保障理事会で取り上げるべきだと主張しました。彼女の主張の根底にあるのは、イランの核開発の野心、地域における攻撃的行動、そして国内での弾圧は、すべて同一の政治体制に由来する相互に関連した要素であるという考えです。こうした動きの一環として、国連総会の開催に合わせて9月22日、ニューヨークの国連本部前で、イラン国外在住者やNCRIの支持者数千人による大規模な抗議デモが計画されています。 これは政治的な議論ではありますが、ワシントンとその欧州同盟国がいずれ直面せざるを得ない問題を提起します。すなわち、イラン政権の統制力が弱まり始めた場合、イラン国内で何が起こるのか、という問題です。 この危機は、単にイラン・イスラム共和国と外国政府との対立にとどまりません。数十年にわたり、組織的な反体制派は代替的な政治構造の構築を目指してきました。イラン国民抵抗評議会(NCRI)は、政治制度を構築し、民主的な移行に向けた綱領を策定してきました。ワシントンとその欧州同盟国にとって、この国内的な側面は重要です。政権の核能力を制限することは一つの目標ですが、政権が統制力を失った場合にイランを形作る可能性のある政治勢力を理解することもまた別の目標です。政権の兵器能力のみに焦点を当てた戦略では、核問題が解決されるか、あるいは単に先送りされるかを決定する政治的状況を見落としてしまう可能性があります。 したがって、当面の課題は、イランが核開発計画で何をしようとしているのかを把握するだけでなく、実際にどのような核物質を保有しているのかを突き止めることです。イランの核物質の所在が完全に把握できなくなった場合、外交も抑止力も、戦争以前の前提に基づくことはもはや不可能となります。問題はもはや、テヘランが危険なレベルまでウランを濃縮しているかどうかという単純な話ではありません。世界が、テヘランが保有する物質を依然として確信を持って確認できるかどうか、ということです。 だからこそ、水曜日のIAEAの投票は、長年にわたる核紛争における単なる新たなエスカレーションとして理解されるべきではありません。イランの核危機は、検証そのものが中心的な問題となる新たな局面に入った。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】イランの核問題、新たな局面へ!毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.20

今回は、【世界の論考 – 異論反論】米中安全保障をめぐる誤った安心感、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 2026年5月、北京でドナルド・トランプ氏と習近平氏が会談した際、両首脳は「建設的な戦略的安定」という関係を構築することで合意した。残念ながら、この名称とは裏腹に、米国の新たなアプローチは建設的でも戦略的でも安定したものでもない。特に台湾に関してはそうである。この首脳会談によって、短期的には台湾をめぐる戦争の可能性が低下したかもしれないが、その代償として、中台間の長期的な安定が損なわれることになった。 北京での首脳会談は、トランプ大統領の台湾に対するアプローチの評価をめぐる認識の乖離を浮き彫りにした。政権内部の関係者は、トランプ氏が自身の任期中に中台間の現状維持に尽力していると主張する。彼らは、米国の政策に変更はなく、トランプ氏が近年の他の大統領よりも多くの武器を台湾に売却することを承認してきたと説く。また、トランプ氏は自身の任期中に中国が台湾を奪取することを許さないと主張し続けており、習氏も「あなたが大統領である限り」中国は台湾を奪取しないと応じたとされる。 一方で、多くの外部の観察者は懐疑的である。彼らは、トランプ氏の公の場での発言が、台湾に対する米国の長年のコミットメントを損ない、それによって紛争のリスクを高めていると見ている。140億ドル規模の台湾向け武器売却パッケージの発表が政権によって遅らされていることも、ワシントンが台北への支援を見直しているのではないかという懸念を助長している。政権の支持者と批判者の間にあるこうした認識の不一致は、北京や台北、そしてその他の地域に混乱をもたらしている。 もちろん、これら双方の立場が同時に正しいということもあり得る。トランプ氏は、台湾をめぐる大規模な紛争の可能性を短期的には低下させているかもしれない。しかし、そうすることは、長期的には中台間紛争のリスクを高め、短期的には中国による「グレーゾーン」圧力のリスクを増大させるという代償を伴う。これこそが、トランプ大統領のアプローチが抱えるパラドックス(逆説)である。北京はこの状況を(当面の間は)建設的かつ戦略的で安定したものと見なすかもしれないが、ワシントンは警戒すべきである。 変化するトランプ大統領のレトリックホワイトハウスは台湾に関する米国の政策に変更はないと主張しているが、トランプ氏が歴代大統領とは異なるアプローチを台湾に対してとってきたことは明白である。トランプ第1期政権において、彼は就任前から、台湾の蔡英文総統からの祝意の電話に応じるという形で、それまでの慣例を打ち破った。その後まもなく、トランプ氏は中国との戦略的競争という方針を打ち出し、ワシントンと台北、さらには米国の同盟国やパートナーとの間で、台湾海峡問題をめぐるより率直な対話が行われる環境を整えた。トランプ氏の退任後、ジョー・バイデン大統領もこうした台湾海峡に関する取り組みの多くを継続した。しかし、バイデン氏は台湾への米国の支援について、より率直な発言も行っている。中国が台湾を攻撃した場合に米軍を投入する意思があるかと問われた際、バイデン氏は台湾の防衛に乗り出すと4度にわたって明言した。多くの専門家は、こうした発言が「戦略的曖昧さ」の論理を含む米国の長年の政策からの逸脱にあたるのではないかと疑問を呈した。実際、バイデン氏のコメントは「曖昧」というよりは、むしろ「戦略的」なものであった。 トランプ氏は、この論理を逆転させている。2期目に入ってからのトランプ大統領は、台湾に関して「戦略的」であるよりも「曖昧」な態度をとっている。習近平氏から台湾のために戦うつもりがあるかと問われた際、トランプ氏は「その件については話さない」と答えたと述べている。また、台湾には「今、独立を望んでいる人物がいる」と示唆しつつも、「誰かに独立してほしいとは思っていない」と主張し、双方が「少し頭を冷やす」必要があると述べた。さらに、台湾への武器売却を「非常に優れた交渉のカード」と呼び、「今は保留にしており、中国の対応次第だ」と語った。トランプ氏は、ロナルド・レーガン大統領が1982年に台湾に対して提示した「6つの保証」を「古いもの」と呼び、もはや米国の政策立案者を拘束するものではないと示唆した。こうした一連の発言は、当然のことながら、台北をはじめとする各地に深い懸念を抱かせている。 トランプ氏の台湾への対応方針については不透明な点があるものの、短期的には台湾をめぐる大規模な紛争の可能性を低下させるかもしれないと考える根拠がある。中国の当局者や専門家との対話からは、多くの者が「トランプ氏は弱腰に見えることを恐れ、自身の任期中に台湾を『失う』ことは断固として避けようとするだろう」と考えていることがうかがえる。一方で彼らは、トランプ氏が台湾問題を理由に中国との関係が破綻することは望んでおらず、それゆえに台湾への米国の支援を抑制するだろうとも見ている。こうした状況は、今後数ヶ月間、台湾海峡をめぐる米中間の緊張を鎮静化させる可能性がある。 短期的には、習近平氏がトランプ氏を試すような行動に出る可能性は低いと考えられる理由が少なくとも5つある。(1)第一に、トランプ氏の行動は真に予測不可能であるため、習氏は武力行使を辞さないトランプ氏の覚悟を試すようなことは避けたいと考えている可能性がある。(2)第二に、2027年に第21回党大会を控えており、習氏は国内の課題により注力したいと考えている可能性が高い。(3)第三に、習氏による人民解放軍の粛清が、短期的には中国の大規模軍事作戦遂行能力を低下させている可能性がある。(4)第四に、トランプ氏が台湾への武器売却を見直すことで台湾の将来的な防衛能力が損なわれれば、習氏にとっては台湾に対して行動を起こすのを待つ動機となり得る。(5)第五に、中国指導部は、2028年の台湾総統選挙によって、北京に対してより融和的な指導者が選出されることを期待している。こうした理由から、中国は当面の間、台湾をめぐる戦争を避けたいと考えている可能性がある。 「安定・不安定のパラドックス」今後数年間は米中関係が安定する可能性がある一方で、北京には、短期的には台湾に対する「グレーゾーン」での威圧を強め、中長期的には米国自身への圧力を増大させる動機が生まれるからだ。冷戦時代、戦略家たちは、エスカレーションのより高い段階における安定が、より低い段階での不安定を悪化させかねないことを認識していた。彼らはこれを「安定・不安定のパラドックス」と呼んだ。トランプ氏の台湾への対応は、これに関連する2つの「安定・不安定のパラドックス」を生み出している。すなわち、「同盟関係(連合)のパラドックス」と「時間的パラドックス」である。 「同盟関係のパラドックス」とは、北京との二国間関係の安定を望むワシントンの姿勢が、かえって中国に対し、台湾を含む米国の同盟国やパートナーへの圧力を強めるよう促してしまう可能性がある、というものである。トランプ氏は米国の関与のあり方をあえて曖昧にすることで、米国の信頼性に対する疑念を招いている。こうした姿勢は、特に紛争の激化レベルが低い段階において、中国が米国の同盟国やパートナー国に対してより強硬な圧力をかけることを助長しかねない。トランプ政権はまた、多くの同盟国やパートナー国に対して「重要ではあるが限定的な支援」を行うと明言している。実際、今年に入って米国の指導者たちは、中国による台湾への圧力、フィリピンに対する海洋での威圧的行動、そして日本への経済的威圧といった問題について、以前よりも控えめな反応しか示していない。したがって、米中関係の安定は、米国を同盟・協力関係にあるパートナーから切り離すことになり、結果として地域の安定を損なう恐れがある。 一方、「時間的パラドックス」は、米中関係の短期的な安定を求めるワシントンの意向が、長期的な安全保障を犠牲にしているという点に起因する。中国政府は政治的圧力を利用して台湾の頼清徳総統の立場を弱め、中国本土に対してより融和的な政治家を政権の座に就かせようと画策している。トランプ氏が台湾への武器売却を遅らせたことは、こうした中国の思惑を利する結果となった。そのような対応は、台湾の将来的な防衛能力を損なうだけでなく、北京の要求を受け入れやすい新たな政治指導者を台湾に誕生させる可能性もある。政治的威圧であれ軍事力行使であれ、こうした動きは中国に長期的な現状を覆すための手段をさらに与えることになり、結果として「時間的な安定と不安定のパラドックス」を生み出すことになる。 抑止力は「能力」と「信頼性」の掛け合わせによって成立するものであるが、トランプ氏の訪中時の発言が抑止力のこれら双方の要素を損なう恐れがあるという批判はもっともである。台湾への武器売却を見直すことで、台北における防衛費増額反対派を勢いづかせ、台湾の防衛能力強化を妨げる可能性がある。同時に、「台湾は遠く離れており防衛が困難である」といったトランプ氏の発言は、台湾側の懸念を増幅させている。したがって、武器売却はトランプ政権の台湾への関与の姿勢を測る試金石となりつつある。もしトランプ氏が武器売却を中止、延期、あるいは規模縮小すれば、それは台湾の防衛能力を損なうだけでなく、米国の信頼性に対する台湾の信認をも揺るがすことになるだろう。 時間軸を考慮した思考トランプ大統領の訪中は、目に見える具体的な成果をほとんど生み出さなかったものの、ワシントンと北京の間の暫定的な緊張緩和(デタント)を確固たるものにした。双方は、その理由は異なるものの、現時点では二国間関係の安定を望んでいる。しかし今後数ヶ月の間に、北京は「アメとムチ」を使い分け、台湾に対する米国の支持を弱めると同時に、ワシントンに対する台北の信頼を揺るがそうとするだろう。中国指導部は引き続き、「建設的な戦略的安定」の条件として米国の譲歩を求めてくるはずだ。今日、米中間の緊張が緩和されることは、将来的にリスクが増大する代償を伴うものであり、同時に、中国が米国の同盟国やパートナーに対してより強圧的な行動をとる余地を与えることにもなりかねない。 「安定と不安定のパラドックス」は、物理学と同様に外交政策においても、すべての作用には等しく反対の反作用が伴うということを我々に想起させる。米中関係が一見安定しているように見えたとしても、2028年の台湾総統選挙が近づくにつれ、台湾海峡をめぐるリスクは高まるだろう。習近平氏が控える党大会や、人民解放軍における継続的な粛清の動きを鑑みると、リスクを先送りにするのではなく、むしろ今それを受け入れる方が賢明かもしれない。米国の政策立案者が台湾海峡の現状維持と、真に戦略的かつ安定した米中関係の構築を望むのであれば、問うべきは「米中関係においてリスクを受け入れるかどうか」ではなく、「いつ受け入れるか」ということになる。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】米中安全保障をめぐる誤った安心感毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.20

今回は、【世界の論考 – 異論反論】(速報)グリーンランドをめぐる合意が、大西洋同盟にもたらす意味、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 緊張緩和の兆しが見えています。ドナルド・トランプ米大統領は金曜日、デンマークおよびグリーンランドとの安全保障に関する合意を発表しました。かつてトランプ氏が購入の意向を示していた世界最大の島(グリーンランド)をめぐり、米国が抱いていた「数多くの懸念事項すべてに完全に対処する」内容となっています。数日中に署名される予定のこの合意について、デンマークとグリーンランドの当局者は、グリーンランドの自決権とデンマークの主権を尊重するものだと述べています。 視点1:外交の側面今回の合意を「外交上の大きな勝利」と見ています。米国はグリーンランドにおいて、より強固かつ永続的な安全保障上のプレゼンスを確保する一方で、デンマーク王国の主権や領土の完全性、そしてグリーンランドの人々の自決権は維持されるからです。この合意に至る経緯に教訓を見出しています。それは、「欧州側が水面下で米政権と協力することで、大西洋間の緊張を和らげることができる」ことを示しているからです。今回の確約は米国にとって「勝利」としてアピールできる材料となりましたが、それ以上に重要なのは、「米国が、有害かつ無意味な威嚇的言動から身を引くことを可能にした」点にあります。双方の外交官は何ヶ月にもわたってこの問題に取り組んでおり、最終的な条件についてはかなり前から合意に近い状態にありました。彼らにとって常に懸念の種だったのは、「トランプ氏がこれで満足するかどうか」という点でした。そして昨日、満足する内容だったことが判明したのです。視点2:合意の内容合意の詳細はまだ公表されていませんが、この合意によって「米国とその同盟国が、北極圏の戦略的に極めて重要なこの地域から敵対勢力を排除する能力が強化される」でしょう。その結果、「グリーンランド、北極圏、そして北大西洋における共同防衛体制の強化」につながる可能性があります。しかし、こうした内容の多くは目新しいものではありません。敵対勢力によるグリーンランドへの投資や軍事基地の設置を阻止するというトランプ氏の発言について、歓迎すべき確約ではあるものの、画期的な進展とは言えません。1951年の「グリーンランド防衛協定」によって、米国はすでに広範な基地使用権を確保しており、同島にロシアや中国の基地が設置される可能性は「極めて低い」からです。トランプ氏が「グリーンランドの戦略的重要性を強調したのは正しかった」と主張しており、今回の新たな取り決めは過去の合意内容を上回るものとなっています。しかし、この取り決めの真の価値は、それがNATOにとって今後どのような意味を持ち得るかという点にあります。視点3:被害と回復この一連の過程においてトランプ政権は、NATOの創設メンバーである同盟国デンマークへの対応を通じて、大西洋間の信頼関係に深刻な打撃を与えました。もしトランプ氏がグリーンランドを接収するという脅しを実行に移していたら、同盟関係は崩壊していたでしょう。スエズ危機からイラク戦争、そしてそれ以降に至るまで同盟内で意見の対立はあったものの、今回はNATO史上「最も物議を醸した問題」だったと指摘できます。なぜなら、ワシントンがNATO同盟国に対して軍事力を行使するかもしれないという懸念が、最も深い傷跡を残したからです。新たな合意は「関係修復のプロセスを始める」ものとなるはずです。しかし、その影響は長引く可能性があります。欧州諸国はすでにヘッジ(リスク回避)および多角化の戦略を追求しており、その動きが終わる可能性は低い。今回の取り決めによって、同盟に対する米国の広範な関与について欧州の同盟国が抱く懸念が静まることはないでしょう。論争から一歩引いて全体を俯瞰すると、トランプ氏が、「リンジー・O・グラハム対ロシア制裁法」を成立させたことと、金曜日に今回の合意を発表したことの組み合わせは、「大西洋同盟にとって重要な一日」を意味します。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】(速報)グリーンランドをめぐる合意が、大西洋同盟にもたらす意味毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.20

今回は、【世界の論考 – 異論反論】最先端チップ設計コストが急激高騰:未来の設計を担えるのは誰か?、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 米国の半導体政策は主に製造能力の回復に重点を置いてきましたが、それと並んで重要な課題が上流工程で浮上しています。それは、最先端チップの設計コストが急激に高騰しているという問題です。最先端の2ナノメートル(nm)チップの開発費は約7億2500万ドルに達しており、これは2000年代後半に28nmチップの設計に必要だった4800万ドルと比較して15倍もの増加です。これほどの規模の開発費を負担できる企業や市場が限られる中、専門特化型の半導体メーカーは比較的少数の顧客層からコストを回収せざるを得なくなり、その設計に依存する産業における価格上昇を招く恐れがあります。したがって、設計コストの高騰により、米国の広範なテクノロジー・エコシステムの一部において、専門的なコンピューティング技術の導入が経済的に困難になる可能性があります。 半導体設計の集中が進むこと自体が、必ずしも有害なわけではありません。開発費の高騰は規模の経済を有利に働かせ、大手企業が技術の最前線で必要な投資を継続することを可能にします。懸念が生じるのは、そうした規模の経済を実現しにくい専門的な市場においてです。例えば、航空宇宙・防衛向けの耐放射線プロセッサや、通信向けの特定用途向けチップなどは、市場規模が比較的小さくても依然として必要とされます。こうしたチップを開発する企業は、高騰するコストを少数の顧客から回収しなければならず、その結果、航空宇宙、防衛、通信、産業システムといった分野全体でイノベーションのコストが上昇する可能性があります。 最先端設計の経済性が参入企業を絞り込んでいる高度な2nmチップには500億個以上のトランジスタを搭載できるため、検証、システム統合、そして製造後の実機検証(ポストシリコン・バリデーション)において、ますます高度なプロセスが求められます。開発費が7億5000万ドルに迫る中、企業が最先端の設計を行うことを正当化するには、極めて巨大な市場で販売するか、あるいは自社のインフラ内で大規模に展開する必要があります。これにより、個々の新しいチップ・プロジェクトにおける損益分岐点が高まります。その結果、選択肢は狭まっていきます。つまり、スタートアップや小規模なファブレス企業、専門特化型の設計会社は最先端ノードのプロジェクト資金を調達するのが困難になり、既存の大手企業はどの設計に取り組むかを選別するようになり、最も高度な設計業務は、最大のバランスシートや顧客基盤、あるいは社内のコンピューティング需要を持つ企業へと集中していくのです。 ハイパースケーラー(巨大クラウド事業者)の事例は、この格差を如実に示しています。GoogleやMetaといった企業は、自社のインフラ全体でカスタムAIチップを大規模に展開しているため、その開発を経済的に正当化できるのです。彼らの成功は、設計コストの低下ではなく、規模の経済によるメリットを実証しています。専門半導体企業は異なる経済状況に直面しています。自社のチップが不可欠な存在であり続ける限り、開発コストの多くを顧客に転嫁せざるを得ない高コストプロバイダーとして生き残ることができるでしょう。 最先端のチップ設計が少数の垂直統合企業に集中すれば、より広範なイノベーションエコシステムは困難な状況に直面する可能性があります。もしこれらの企業のチップが下流のニーズの大部分を満たせるようになれば、小規模な設計企業は市場から撤退するかもしれません。一方、専門設計が不可欠な存在であり続ける限り、これらの企業はニッチなプロバイダーとして生き残ることができるかもしれませんが、顧客基盤が縮小する中で、設計コストの上昇を回収するために大幅に高い価格を設定する必要があるでしょう。後者の場合、チップコストの上昇はスタートアップ企業や専門産業にとってイノベーションを法外なコストにし、高度な半導体技術へのアクセスに依存するより広範なエコシステムを縮小させる可能性があります。 先端設計へのアクセス維持業界の経済構造が変化する中、先端的な設計能力へのアクセスをいかに維持するかが政策上の課題となっています。規模の拡大は、増大する開発コストへの対応に役立ちますが、生産量が少なく、特定の用途に特化したチップ(ASIC等)が不可欠な航空宇宙、防衛、通信といった専門性の高い市場では、そのモデルを維持することが困難です。 特定の産業構造を維持しようとするよりも、設計にかかる根本的なコストを低減させる方が、より現実的な対応策となります。競争前段階の研究、高度なEDA(電子設計自動化)やAI支援型設計ツール、試験・検証インフラの共有、再利用可能なIP(知的財産)、そして技術人材への投資は、専門性の高いプロジェクトの採算性を高めることにつながります。こうした施策は、最先端技術の開発コスト増大が、専門的なコンピューティングに依存する産業におけるイノベーションを阻害しないようにする上で役立つでしょう。 こうした国内の状況に加え、対外的な力学の変化も事態を複雑にしています。米国による輸出規制が強化される中、中国企業は独自のチップ設計への投資を加速させています。具体的には、ファーウェイ(Huawei)の「Ascend」プロセッサ、アリババ・バイドゥ・テンセントによるカスタムシリコンの開発、そして最近ではDeepSeekによる独自推論チップの開発などが挙げられます。中国政府は、こうした取り組みを推定1,000億ドル規模の支援で後押ししています。輸出規制は、中国による米国設計の先端チップへの短期的なアクセスを制限し得るものの、同時に中国が国内で代替製品を開発する動機を高めることにもなります。そうした代替製品の性能が向上すれば、米国企業は中国市場へのアクセスを失う恐れがあり、設計コストの増大を補うための収益源が減少することになります。最先端の設計を国内で維持することを困難にしている経済的要因は、米国チップメーカーが世界規模で活用できる商業的基盤を縮小させる要因にもなっています。したがって、設計コストの問題に取り組むことは、単なる産業政策上の課題にとどまらず、米国の長期的な技術競争力にとってますます喫緊の課題となっているのです。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】最先端チップ設計コストが急激高騰:未来の設計を担えるのは誰か?毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.20

今回は、【世界の論考 – 異論反論】ロシアによるウクライナ占領地域の軍事化、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 8月、ロシアが長距離攻撃用ドローンの発射拠点として少なくとも10カ所の基地からなるネットワークを運用しているという証拠が明らかになった。これには、占領下のドネツク州やクリミアにある拠点も含まれる。ロシアはすでにこれらの施設のうち7カ所を使用し、ウクライナの支配地域に対して大規模な攻撃を行っている。このネットワークには、固定翼ドローンの離陸に使用されるレール(発射用軌道)が少なくとも59基含まれており、さらなる発射インフラの建設も進行中だ。占領下のウクライナ領内に少なくとも3カ所のドローン発射拠点が存在するという事実は、ロシアがいかにしてウクライナ領土を、対ウクライナ戦争を継続するための軍事的な後方支援拠点へと変貌させているかを示している。 ウクライナ占領地におけるロシアの軍事化は、2014年3月のクリミア併合から始まった。違法な併合を問う住民投票の直後、ロシアはクリミアで兵舎やその他の軍事インフラの建設に着手した。また、モスクワはウクライナの兵器・軍事装備品メーカーである「ウクロボロンプロム(Ukroboronprom)」傘下の企業13社を接収し。 2022年のロシアによるウクライナ全面侵攻後、クレムリンはクリミアを重武装の軍事拠点へと変える取り組みを強化した。ロシア軍は2024年に124回の軍事演習を行ったのに続き、2025年にも占領下のクリミア全域で少なくとも70回の演習を実施しており、対ウクライナ戦争におけるロシアの戦力投射拠点として同半島が引き続き重要な役割を担っていることを示している。 現在、クリミアの民間インフラ、経済、そして住民の多くがロシア軍のニーズを満たすために利用されている。ロシアは2022年以降に占領したウクライナ領土に対しても同様の対応をとっており、軍事訓練、兵站(ロジスティクス)、産業、および軍事支援のための区域を次々と組み込んでいる。ザポリージャ州、ドネツク州、ルハンスク州の占領地域において、ロシア軍は2022年以降、ウクライナ軍の訓練場を使用したり、新たな訓練基地を建設したりしている。ロシアは2022年から2024年にかけて、対ウクライナ戦争に向けた部隊の訓練を行うため、ドネツク州とルハンスク州の各地に7つの軍事演習場を整備した。ロシアの占領当局は今年初めから、ザポリージャ州メリトポリ地区において、ロシア軍兵士を収容するための大規模な野営地の建設を開始した。当局は特に訓練施設の整備に注力しており、無人航空機(UAV)操縦者のための施設や新たなドローン訓練場の建設に加え、学校や大学での講習プログラムの実施も進めている。 ロシアは占領下の都市を軍事支援の拠点へと変貌させた。ルハンスク州の占領下にあるスタロビルスクでは、ロシア占領当局が連邦保安庁(FSB)特殊部隊の司令部およびUAV操縦者用訓練センターを設置した。この訓練センターには、ロシア軍の特殊部隊である「ルビコン先端無人技術センター(Rubikon Center for Advanced Unmanned Technologies)」の関係者も関与している。同センターは、ウクライナ国内の民間人や民間施設への攻撃を日常的に行っている部隊である。また、ロシアは占領下のウクライナにおいてUAVの製造も開始しており、接収した複数のウクライナの施設を利用してロシア軍用ドローンの部品を生産している。 モスクワはクリミアについて、UAV訓練に関する「完全なサイクル」のシステムを備えた唯一の地域であると説明している。このシステムは、才能ある学童の選抜から始まり、最終的には予備役への編入支援に至るまでの一連のプロセスを包含するものである。2月、ロシアはクリミアにUAV操縦者用訓練センターを開設した。これはロシア近隣地域で最大規模の施設であり、50日以上にわたる講習コースを提供している。最初の運用サイクルでは、ロシア軍教官の厳格な指導の下、1,500名以上のロシア軍兵士が同コースを修了した。 さらにロシアは、ウクライナの教育施設を直接的な軍事利用へと転用している。ロシア軍は校庭に重火器を配備し、教室を軍の司令部として使用したほか、一部の学校敷地を民間人の違法拘束場所として利用した。ロシアも同様に、民間の医療施設を軍事用に転用しており、病院を軍病院やロシア軍の宿泊施設に変える一方で、民間人の患者の利用を制限または排除している。ロシア軍の将兵は質の高い医療を優先的に受けられるほか、医薬品、医療機器、手術室なども、ロシア軍のニーズを満たすために優先的に回されるようになっている。 ロシアの占領当局は、占領下のウクライナ南部全域でリゾート施設の大部分を接収し、多くの宿泊施設や保養所を軍事施設に転用している。アゾフ海や黒海の沿岸、さらにはアラバト・スピットにあるリゾート地を含め、多くの施設が観光客ではなくロシア軍人の拠点となっている。占領下のクリミアでは、ロシア占領当局が海岸線の一部を閉鎖するか、軍の管理下に置いている。また、工兵・軍事インフラを整備し、かつてのリゾート地を前線地域さながらの場所へと変貌させている。こうした施設へのロシア軍の展開は、占領当局が占領地のリゾートへの訪問を許可したごく少数の観光客を危険にさらしている。観光客は軍人や軍事インフラのすぐ近くに置かれることになるからだ。この動きは、占領地におけるロシアの国有化戦略の一環であり、特にアゾフ海沿岸の保養施設やホテルが「所有者不在」とみなされ、占領軍によって接収されている。さらにロシア軍は、民間人に軍の駐留を支援するよう強要しており、拘束した男性には塹壕掘りや防御陣地の構築を、女性にはロシア軍のための清掃、洗濯、調理を強制している。 5月までに、ロシア国防省は占領下のヘルソン州において包括的な要塞化システムを完成させたと発表した。ロシア軍は、地下通路や偽装された監視所のネットワークに、暗視・赤外線機能を備えた最新のビデオカメラを装備した。これにより、兵士は陣地間を自由に移動し、ウクライナ軍の砲撃を回避し、突然前線に現れることが可能になった。7月には、占領下のクリミアにおいて、アルミアンスク、ミジュヴォドネ、ジャンコイ近郊など、新たな要塞が建設されていることが衛星画像で明らかになった。ウクライナ軍による長距離攻撃が後方地域や兵站ルートを脅かし続ける中、ロシア軍は占領下のウクライナにおいて、新たな要塞化施設や軍事用機材のための追加の掩蔽壕の整備を進めている。クレムリンは、軍事訓練施設の拡張、民間インフラの転用、そして新たな防衛拠点の建設を通じて、対ウクライナ長期戦を支えるための軍事後方体制を強固なものにしようと意図している。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】ロシアによるウクライナ占領地域の軍事化毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.19

今回は、【世界の論考 – 異論反論】中国、医療保険加入を義務化!、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 8月28日、全国人民代表大会常務委員会は「医療保障法」を可決し、同法は2027年1月1日に施行されることとなった。同法は、13億人の加入者を擁し、昨年度には約3兆6000億人民元(5000億米ドル)の資金を集めた広範な医療保障制度および基金を規律するものである。医療保障分野における初の国家レベルの専門法である同法の第11条は、他の公的医療保障を受けていないすべての国民に対し、「居住者基本医療保険(RBMI)」への加入を義務付けている。 この新法は、医療保険の財源縮小に対応するため、加入義務の対象を拡大するものとみられる。「居住者基本医療保険(RBMI)」に関するそれまでの規範的文書はいずれも、任意加入の原則を維持していた。2021年に国家医療保障局(NHSA)が公表した「医療保障法(意見公募稿)」における該当箇所では、対象者は「法に基づき居住者基本医療保険(RBMI)に加入する」ものとされていた。2010年の「社会保険法」においても、加入義務が適用されたのは「都市部被用者基本医療保険(UEBMI)」のみであり、居住者基本医療保険(RBMI)については「国家が制度を確立し整備する」という表現にとどまっていた。こうした方針転換は、公的財政資源の追加投入を避け、財源負担を一般住民に転嫁しようとする国家の姿勢を反映している。もっとも、この制度の加入者は一般的に社会的に弱い立場にある人々である。 「居住者基本医療保険(RBMI)」で加入者離れが進行中「居住者基本医療保険(RBMI)」の加入者数は2019年以降、前年比で減少傾向にある。専門家によると、加入者数は2019年の10億2,500万人から2025年には9億4,200万人へと減少し、その減少幅は累計で8,000万人を超えた。2026年5月末時点では、「居住者基本医療保険(RBMI)」の加入者数はさらに減少し、9億3,300万人となった。同期間中、都市部被用者向け医療保険(UEBMI)の加入者数は700万人以上増加し、3億8,600万人に達した。国家医療保障局(NHSA)はこの傾向の乖離を「加入構造の継続的な最適化」と表現し、加入率が95%で「強固に維持」されていると報告している。 研究者らは、こうした加入者離れの波の原因を、保険料負担の仕組みにあると指摘している。2019年から2025年の間に、個人の保険料負担額は60%上昇した一方、財政補助額の上昇は35%にとどまった。「居住者基本医療保険(RBMI)」は一人当たりの定額制を採用しているため、所得の低い加入者ほど負担が重くなる。所得水準が下位20%に位置する農村部世帯の場合、保険料は2003年には一人当たりの可処分所得の約1.2%だったが、2024年には7.4%にまで上昇した。保険の適用期間は暦年単位で計算され、保険料は毎年秋に支払う必要がある。農村部の高齢者にとって年金は限られた額しかなく、その他の収入も不定期であることが多いため、保険料を一括で支払わなければならない仕組みは、しばしば支払いの困難を招いている。 財政補助の少なさや低い医療費償還率も、保険を解約する理由に挙げられる。「居住者基本医療保険(RBMI)」の財源のうち政府が負担するのは60%強だが、その財源となる予算全体の規模に照らせば、この金額は決して大きくない。 2025年末時点の加入者数9億4,200万人と、2026年の補助金基準額である724人民元(101米ドル)に基づき試算すると、財政補助金の総額は約6,800億人民元(946億米ドル)となり、これは同国の公式な国内総生産(GDP)の0.5%未満に相当する。比較として挙げると、2023年における中国政府の医療支出総額はGDPの3.4%。この水準は、経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均である7.98%を下回るだけでなく、ブラジル(4.3%)、ロシア(4.9%)、南アフリカ(5.5%)といった同等の経済規模を持つ国々と比較しても低い値となっている。一方、中国の家計による医療費の自己負担額は国民医療費全体の32.2%を占めており、これはOECD加盟国平均の13.4%を大きく上回るほか、前述の国々(ブラジル26.2%、ロシア28.4%、南アフリカ6.7%)と比較しても最も高い割合となっている。 税務徴収および信用情報記録がもたらす執行能力本法は、強制加入が実効性を持つよう、一定の制度的準備を講じている。まず第20条は、「税務機関は、規定に基づき、基本医療保険料(出産保険料を含む)を徴収・納付させるものとする」と定めている。この措置は本法の制定以前から存在しており、2018年7月に中国共産党中央弁公庁および国務院弁公庁が発表した「国税・地税徴収管理体制改革案」にも見られるものである。しかし実際には、基本医療保険料は主に地域担当者、Alipay、WeChatといった窓口を通じて支払われるため、加入者が背後にいる真の徴収主体が税務機関であることを常に認識しているわけではなく、その権限についても意識していないことが多い。税務機関は多岐にわたるデータ・インターフェースを掌握しており、基本医療保険料の徴収を同機関が担うことは、将来的な強制天引きなどの厳しい措置を講じるための組織的な準備を整えることにつながる。 加入者に対する圧力として、社会信用記録を活用する取り組みも含まれている。第44条は、医療保障行政部門に対し、指定医療機関とその職員、雇用主、加入者などを対象とした信用管理システムを構築することを義務付けている。同法はそこまでしか規定しておらず、どのような行為が「不利益な記録」として登録されるのか、あるいはそのような記録が当該世帯にどのような不利益をもたらすのかについては明記していない。こうした起草手法は、中国の法制における伝統を踏襲したものである。かつて中国の指導者である鄧小平は、「法律の規定は最初は多少粗削りであってもよく、段階的に完全なものにしていけばよい」と述べている。「細かすぎるよりは粗削りな方がよい」という言葉は、後にこの立法スタイルの通称となった。この手法は、国民の正当な期待を犠牲にする一方で、行政機関に裁量の余地を残すという結果をもたらしている。 中華人民共和国における社会信用システムは、全国的な枠組みの中に組み込まれている。2016年の国務院指導意見は、義務を履行する能力がありながらそれを拒否する個人に対し、各部門が制限措置を講じるよう指示している。こうした制限措置には、出国、不動産の購入、航空機への搭乗、上級列車や上位座席クラスの利用、休暇旅行、格付けホテルの利用などが含まれる。また、金融機関に対しては、貸出金利や財産保険料率の引き上げ、あるいは融資・スポンサー契約・引受業務・保険提供の制限を行うよう指導する。さらに、2025年に発表された党中央弁公庁および国務院弁公庁の意見書では、この制度が継承・発展され、不動産、インターネット、人材、中長期エネルギー契約の各分野における「重大な不誠実主体」のリストが追加された。現時点では、これらの制裁措置を医療保険料の未納と直接結びつける規定は存在せず、強制的な措置が講じられる可能性は将来の実施段階に委ねられている。中国の立法者の視点から見れば、制裁の余地が残されている以上、それが行使される可能性は常に存在する。 法律は国民の義務を規定する一方で、給付を受ける権利の詳細は未定義のままとしている加入義務は全国一律かつ明確だが、加入者が享受できる給付内容は必ずしもそうではない。同法第4条は、「国民は、法に基づき基本医療保険に加入する権利と義務を有し、規定に従って相応の医療保障給付を享受する」と定めている。しかし、この条文では具体的な給付内容については説明されておらず、「居住者基本医療保険(RBMI)」の保険料や医療費の払い戻し率(償還率)も不確定だ。個人の拠出額は財政補助の規模に左右されるが、毎年の補助額を予測することはできない。第11条では、個人拠出額と政府補助金の基準は、国の規定に基づき、省または保険料プール地域(統括地域)の医療保障部門および財政部門が決定すると定めているに過ぎない。受診時の自己負担額を左右する払い戻し率も同様に毎年変動するが、第13条では、給付基準は国の規定に基づき、省または統括地域の医療保障部門および財政部門が決定すると定めているだけだ。その結果、給付を受ける権利に関する最も重要な2つの詳細事項は法律では明記されず、下位の規定に委ねられ、各地域で毎年決定されることになっている。 基本医療保険の給付が開始される時期についても、同様の仕組みとなっています。第13条では、その開始日は「省、自治区、および直轄市が国の規定に基づいて決定する」とされている。これが、2025年から導入される待機期間制度の法的根拠となっている。同制度では、加入が遅れた者や加入が途切れた者には3ヶ月の固定待機期間が設けられ、4年以上継続して加入が途切れていた世帯には、少なくとも6ヶ月の累積待機期間が課される。保険料の支払時期は毎年秋の集中加入期間によって決まり、払い戻しの時期は省ごとの規定によって決まる。集中加入期間を逃した世帯の場合、後から保険料を支払ったとしても、支払時期と給付開始時期の間には3ヶ月以上の開きが生じることになる。 データは、各地域の裁量がどのような方向に傾いているかを反映している。 2019年から2025年にかけて、財政補助金の伸びは個人拠出金の伸びを下回り、その結果、一人当たりの資金調達に占める個人負担の割合は32.5%から36.4%へと上昇した。現在、各省は補助金費用の一定割合を負担しつつ、給付基準を独自に決定する裁量権を有している。しかし、地方財政が逼迫する中、予算が縮小する状況下で補助金額を決定せざるを得ない地方の政策決定者には、「居住者基本医療保険(RBMI)」の給付範囲をさらに縮小しようとするインセンティブが働いている。 階層化された保険制度は、党・国家体制におけるより根深い不平等を反映している「医療保障法」は、長年にわたり医療保険制度を特徴づけてきた不平等を解消するものではない。同法の草案に関する公式な解釈では、「都市部従業員基本医療保険(UEBMI)」と「居住者基本医療保険(RBMI)」の調整・協調を強化し、公平性と統一性を促進することが謳われている。しかし、これら二つの基金の規模には極めて大きな開きがある。「都市部従業員基本医療保険(UEBMI)」は雇用主に雇用されている現役労働者および退職者を対象とし、労使双方の拠出によって運営されている。2025年の実績では、加入者3億8900万人から2兆4700億元(3440億ドル)の資金が調達され、一人当たりの財源は約6353元(884ドル)であった。一方、「居住者基本医療保険(RBMI)」はそれ以外のすべての人々――主に農民、無職の都市住民、学生、柔軟な就労形態にある人々――を対象としている。2025年の実績では、加入者9億4200万人から1兆1200億元(1560億ドル)の資金が調達され、一人当たりの財源は約1190元(165ドル)であった。 「都市部従業員基本医療保険(UEBMI)」の制度設計は、「居住者基本医療保険(RBMI)」との格差を縮小しようとする改革の推進を困難にしている。「都市部従業員基本医療保険(UEBMI)」基金の約4分の1は、直接「個人口座」に流入する仕組みになっている。出産保険を含めた2025年のUEBMI基金の総収入のうち、個人口座への収入は6390億元(890億ドル)であり、全体の26%を占めた。これらの口座の累積残高は巨額に上り、2024年末時点で1兆4500億元(2000億ドル)に達している。UEBMIについて、「私有化された完全積立方式の個人口座を設けており、それによって制度の相互扶助機能が著しく弱められている」と指摘されている。個人口座の存在は、加入者が、本来その口座に割り当てられていた資金を公的なプール(共済基金)へ移転させることを受け入れがたくさせている。実際、UEBMI制度内での調整でさえ、労働者、とりわけ都市部の退職者から強い抗議を招いた経緯がある。 医療保険制度に見られる階層化された構造は、党・国家体制の縮図と言える。二つの制度、二つの財源、そして「勤務先」の有無による線引き、第11条と第13条を合わせると、市民が享受する福祉がその社会的地位に依存し、その地位が主に都市と農村の分断によって決定されるという制度の姿が浮かび上がる。これは他の社会福祉分野でも同様だ。年金制度においても、「住民基本老齢保険」は低水準ながら広範な対象をカバーしているが、他の制度との間には大きな格差が存在する。公式統計データに基づくと、2023年における月額平均基本年金は、政府機関・公的機関の職員、企業従業員、そして都市・農村住民のそれぞれについて、概ね6,350元(900ドル)、3,260元(460ドル)、220元(30ドル)だ。制度内部にいる人々の既得権益を維持するため、中国共産党がこの現状を根本的に変える可能性は低い。 結論新たな「医療保障法」は、医療保険制度が抱える根深い問題の解決を先送りにすることしかできない。全体的な財源不足に直面する中、政策立案者は保険への加入を市民の義務としたが、その負担は社会の下層および中層に不均衡に偏っている。それにもかかわらず、この手法で調達できる資金には限りがあり、人口の高齢化が進むにつれて増大する医療需要が、保険資金をより急速に枯渇させることになるだろう。将来的には、制度の維持が困難になるため、党・国家が「居住者基本医療保険(RBMI)」の実質的な給付水準をさらに引き下げる可能性は十分にある。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】中国、医療保険加入を義務化!毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.19

今回は、【世界の論考 – 異論反論】太平洋諸国首脳会議の重要性、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 8月30日から9月3日にかけて、太平洋島嶼地域の指導者らが第55回太平洋諸国フォーラム(PIF)首脳会議(PIFLM)のために一堂に会しました。この首脳会議は、中国による初の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の太平洋への発射、オーストラリアとフィジーおよびパプアニューギニアとの相互防衛条約の締結、ソロモン諸島における劇的な指導者交代など、激動の1年を経て開催されました。「経済の構築:生活・行動・結束(Building Economies: Life. Action. Unity.)」をテーマに掲げた今年の会議では、地域が直面する課題に対処するための地域主義と協力の強化が主な焦点となりましたが、昨年の会議を取り巻いていた地政学的緊張は依然として続いています。 PIFLMは、なぜこれほど外部から注目されているのか?太平洋諸国フォーラム(PIF)は、オーストラリアやニュージーランドを含む18の国と地域で構成される、太平洋地域の主要な地域機関です。太平洋諸国フォーラム首脳会議(PIFLM)は、PIFの指導者らが課題や協力の機会について議論するために毎年行う会合です。フォーラムの加盟国に加え、従来よりPIFの21の対話パートナーや開発パートナーである台湾も参加に招待されています。近年、この地域会議への注目が高まっています。その背景には、オーストラリアや米国、その他の志を同じくする国々が国家安全保障上極めて重要とみなす太平洋地域において、中国が影響力やプレゼンスを確立しようとする動きを強めていることがあります。米国、日本、中国のように、PIFの加盟国ではないものの同地域に戦略的関心を持つ国々にとって、PIFLMは地域の主要な指導者と会談し、地域の力学や姿勢を形成する上で重要な機会となっています。中国が太平洋地域に関心を寄せる理由は、主に3点あります。(1)水産物や木材などの資源供給源として、(2)有事の際に米国や同盟国の軍事計画を複雑化させるための戦略的資産として、そして(3)国際舞台における台湾の発言力を低下させ、特に海外での台湾への外交的支持を減らすための広範な外交努力の一環として、です。過去10年間で、中国は太平洋の3つの島嶼国(2019年のキリバスとソロモン諸島、および2024年後半のナウル)に対し、外交関係を台湾から中国へと切り替えさせました。台湾(台北)と公式な外交関係を維持している太平洋の国は、マーシャル諸島、パラオ、ツバルの3カ国のみとなっています。2024年と2025年の太平洋諸島フォーラム首脳会議(PIFLM)は、いずれも台湾をめぐる論争によって特徴づけられ、米国や志を同じくする国々の懸念を招きました。トンガが議長国を務めた2024年の会議では、中国の太平洋担当特使からの強い異議を受け、会議の最終共同声明から台湾に関する記述が削除されるよう書き換えられました。ソロモン諸島が議長国を務めた2025年の会議では、当時のジェレミア・マネレ首相率いる政権が中国と緊密な関係にありました。この会議には、米国や中国といった対話パートナーに加え、開発パートナーである台湾の参加も認められませんでした。マネレは、この決定はPIFによる地域的パートナーシップの継続的な見直しの一環であると主張しましたが、多くの関係者は、この結果の背後に中国の影響が明確に働いていたと見ていました。 今年のPIFLM(太平洋諸島フォーラム首脳会議)の成果は何か?今年のフォーラムでは、地域の主要課題に関する進展を示す声明が数多く出されたものの、実際に実行可能な決定はほとんどなされませんでした。18人の首脳のうち6人が欠席するという残念な事態を含め、会議を取り巻く地政学的な状況が、地域の課題に関する議論の影を薄くしてしまいました。今年のPIFLMで特に注目された点の一つは、7月6日に行われた中国による潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の実験に対するフォーラムの反応でした。パラオのスランゲル・ウィップス・ジュニア大統領やツバルのフェレティ・テオ首相など、太平洋地域の複数の首脳は実験直後にこれを強く非難しましたが、その前の夏に開かれた地域外相会議では、ナウルとキリバスからの異議申し立てがあったと報じられており、中国を明確に非難する共同声明を出すことはできませんでした。今回のPIFLMにおいて、太平洋地域の首脳らは事前の通告がなかったことを批判する声明を発表しましたが、その声明の中で中国を名指しすることはありませんでした。声明の中で首脳らは、「十分な通告なしに複数の加盟国の上空を通過した最近の大陸間弾道ミサイル(ICBM)実験について懸念を表明」し、「ICBM実験を行うすべての国に対し、国際慣行に従って少なくとも24時間前の事前通告を行うことを含め、透明性と安心感の確保を求めた」のです。ここでもナウルとキリバスが完全な足並みの揃った声明の発表を阻む形となり、ナウルは声明への不参加を表明し、キリバスは首脳らの非公式会合(リトリート)を欠席しました。首脳らはまた、長年にわたる見直し作業においても進展を見せました。この見直しは、地域内の体制を刷新するとともに、PIF(太平洋諸島フォーラム)と外部の開発パートナーとの関係を明文化することを目的としています。今回のPIFLMで首脳らは、対話パートナーおよび開発パートナーを2つの階層に分類することに合意しました。最終的な共同声明には公式に記載されていませんが、他の報道機関によると、中国、米国、日本、フランス、インド、インドネシア、ドイツ、英国、欧州連合(EU)、カナダ、シンガポール、韓国、アラブ首長国連邦(UAE)が「ティア1(第1階層)」に分類されています。これらの国々は「戦略的パートナー」と位置づけられ、PIFLMへの出席が認められます。一方、「ティア2(第2階層)」に分類された国々は「セクター・パートナー」とみなされ、地域外相会議への出席のみが認められることになります。長年にわたり違法薬物の経由地となってきた太平洋地域では近年、特にオーストラリアやニュージーランド向けに密輸されるメタンフェタミンやコカインに関連する違法薬物取引の件数が急増しています。こうした脅威の拡大を受け、各国の首脳は、太平洋全域における国境を越えた組織犯罪や違法薬物取引の抑制を目指す「ワカ・モアナ(Waqa Moana)」構想に原則として合意しました。オーストラリアのアンソニー・アルバニージー首相は同フォーラムにおいて、この構想に対し6億ドルの拠出を表明しました。資金の大部分は、薬物密輸船の監視を行うための航空監視体制の強化や、フィジー警察への支援に充てられる予定です。気候変動が同地域の多くの国々にとって存続に関わる脅威であり続ける中、首脳らは「1.5℃目標の達成を可能にするための、緊急かつ包摂的な気候変動対策に関するベラウ(BELAU)宣言」を支持しました。この宣言は、パリ協定との整合性を保ちつつ、国際社会に対し、パリ協定の1.5℃目標の維持、海洋と気候変動の密接な関連性の重視、再生可能エネルギー100%への移行、そして気候変動対策のための資金提供および実施体制の改善といった分野で直ちに行動を起こすよう求めています。今年の首脳会議では、このほかにも、地域主義、ジェンダー、気候変動、平和と安全保障、経済開発、技術と連結性(コネクティビティ)などが主要な議題として取り上げられました。 米国はどのような貢献を提示したのか?米国はPIF(太平洋諸島フォーラム)の対話パートナーとして、クリストファー・ランダウ国務副長官率いる代表団を派遣し、広範な分野にわたり同地域へ1億5,000万ドル以上の支援を行うことを発表しました。地域のエネルギー安全保障上のニーズに対応するため、米国は地域エネルギー安全保障イニシアティブに6,000万ドルを拠出するほか、トンガの燃料供給インフラに関する実現可能性調査を実施します。米国貿易開発庁(USTDA)は、マーシャル諸島のマジュロ港およびエベイ港の近代化に向けた資金提供を承認し、同国のモバイルネットワークに関する技術支援を行います。また、トンガのデータセンター・インフラの高度化に向けた実現可能性調査も支援します。安全保障協力の面では、同地域における違法・無報告・無規制(IUU)漁業対策として1,700万ドルを拠出するほか、パラオと共同で「米国・太平洋諸島警察閣僚会議」を初めて開催します。米国は同地域との科学技術協力を深化させ、海底マッピング、探査、および海底の特性調査を支援することで、太平洋諸国がこの分野でより適切な情報に基づいた意思決定を行えるよう後押しします。デジタル技術の分野では、地域全体への支援を拡大し、各国政府によるクラウドベース技術の導入や、通信規制の整備、デジタルトランスフォーメーション(DX)プログラムの推進を支援します。さらに、平和部隊と、ミクロネシア連邦、マーシャル諸島、パラオの各政府は、「北太平洋平和部隊プログラム」の設立に向けた意向表明書に署名しました。米国は他のパートナーと連携した取り組みも発表しました。これには、ニュージーランドと協力したクック諸島ペンリン環礁オモカ港の改修、オーストラリア・日本・ニュージーランド・韓国・台湾と連携したパラオでの新病院建設支援、そして台湾と協力してパラオで実施する飲料水サンプリング・プロジェクトなどが含まれます。 なぜこれほど多くの太平洋地域の指導者が会議を欠席したのか?地域の結束が強く求められている時期に、フォーラム参加国の指導者の3分の1が欠席しました。キリバス、サモア、ニューカレドニア、バヌアツ、フィジー、ソロモン諸島の各指導者が、様々な理由により、その週に行われた議論のすべて、あるいは一部を欠席したのです。ソロモン諸国のマシュー・ウェール首相は、パラオに到着してからわずか数時間後に、不信任決議案への対応を迫られ、ホニアラへの帰国を余儀なくされました。同国のマナセ・マエランガ内務大臣が提出したこの決議案は、ウェール首相が「閣議での適切な協議や承認を経ずに国家の重要事項に関する決定を繰り返し行い、それによって閣僚の連帯責任、代議制民主主義、そして良き統治(グッド・ガバナンス)の原則を損なった」と非難するものでした。この決議案は審議予定日の前日に取り下げられましたが、その結果、ウェール首相はPIF(太平洋諸島フォーラム)首脳会議の主要な日程に出席できず、地域安全保障協定に関する自身の構想を推進することもできませんでした。代わりに、同首相が提案していた「平和の青い太平洋(Blue Pacific Ocean of Peace)」地域安全保障条約案については「留意」するにとどまり、決定には至りませんでした。親中政権が続いた後の近年において、ウェール首相は同国で最も親欧米的な指導者であるため、この決議案が出されたタイミングを不審視する向きもありました。ニュージーランドのウィンストン・ピーターズ外相は「外部勢力」の関与を示唆し、複数の指導者が欠席したことについて、外国の干渉が原因ではないと考えるのは「重力や論理に逆らうことだ」と述べました。これに対し、中国外務省の郭家昆報道官は、「我々は他国の内政に関心を持ったこともなければ、いかなる形であれ干渉したこともなく、今後もしない」と述べました。キリバスのターネティ・マーマウ大統領は、議会の会期中であり移動の便を確保できなかったため出席できないと主張しました。同大統領は、代表団の団長として、キリバスの外務局長兼元駐中国大使を代理として派遣しました。キリバス代表団の団長も首脳非公式会合(リトリート)には出席せず、会議の閉会式でも当初は名前が公表されませんでした。フィジーのシティベニ・ラブカ首相は国内事情により出席せず、サモアのラアウリアレマリエトア・レウアテア・シュミット首相は健康上の問題で欠席しました。バヌアツのジョサム・ナパット首相は「リーダーズ・パーティー・オブ・バヌアツ」の党大会に出席するためコロールを訪れず、ニューカレドニアのミラクロ・トゥクムリア大統領も代表団を率いてパリに滞在中でした。こうした欠席が不運な偶然によるものだった可能性もありますが、結果として、首脳会議でありながら主要な首脳が著しく不在という事態となりました。 今年のPIF首脳会議(PIFLM)において、中国と台湾をめぐる緊張関係はどのような展開を見せたか?中国は長年にわたり、PIFの「開発パートナー」という台湾の地位、とりわけその資格で年次首脳会議に招待されることに対して異議を唱えてきました。中国政府は長年、経済的・外交的な圧力を通じて台湾と太平洋地域との関わりを制限しようとしており、その圧力の多くは、今年のPIF議長国であるパラオを含む台湾の外交関係国に向けられてきました。8月19日、中国の領事当局は「パラオへの渡航には注意を払う」よう促す渡航勧告を発出し、その中で「観光客を標的とした窃盗や強盗事件が多発し、被害者に甚大な損失をもたらしている」と指摘しました。こうした動きは、パラオへの政府系ツアーの制限や度重なる渡航勧告の発出など、過去に中国がパラオに対して行った制裁的措置と軌を一にするものです。こうした行動はパラオの観光産業に著しい打撃を与えており、中国人観光客数は2015年の91,095人から2025年には21,286人へと減少しました。これは事実上、台湾との緊密な関係に対する同国への制裁と言えます。在パラオ台湾大使館はFacebook上で声明を発表し、「台湾は、中国が観光を政治利用・武器化し、人的交流を圧力や威圧の手段として用いることで他国の政治的立場を変更させようとしていることを深く遺憾に思い、強く非難する」と述べました。在コロール米国大使館もFacebookで反応を示し、米国は「パラオを威圧するために中国が観光を武器化しようとするいかなる試みにも反対する」と表明するとともに、中国政府に対し「パラオに対するあらゆる威圧的活動を停止する」よう求めました。中国はまた、台湾がPIF首脳会議に関与することへの不満を表明する別の手段も講じました。中国外務省は8月11日、PIFのバロン・ワカ事務局長宛ての声明を発表し、「中国は太平洋諸島フォーラム事務局長に対し、『一つの中国』の原則を厳守し、台湾関連の問題を適切に処理し、中国とフォーラムとの関係の健全かつ安定した発展に悪影響を及ぼさないよう強く求める」と述べました。こうした類の発言は、首脳会議の期間中も続きました。台湾の林佳龍外交部長と随行団がサミットの関連会合やサイドイベントに参加したことを受け、中国の太平洋担当特使は、「台湾は同フォーラムの対話パートナーではないため、我々は深刻な懸念を抱いている」と主張し、「必ずや結果が伴うことになる……本来あってはならないことだ。極めて不適切だと考えている」と述べた。これに対し、台湾の林佳龍外交部長は次のように応じた。「中国はパーティーに参加するたびに、まるで自分が主催者であるかのように振る舞い、パーティーの雰囲気を台無しにしてしまうのです。」 結論今年の太平洋諸国フォーラム(PIF)首脳会議(PIFLM)が閉幕するにあたり、明らかになったことがあります。それは、世界有数の豊かな漁場や活発な航路、そして活力ある小規模民主主義国家を擁する広大な太平洋が、今後ますます大国間競争の舞台となるだろうということです。太平洋諸国に対する中国の圧力は今後も弱まることはないでしょうが、来年のPIFLMの議長国がニュージーランドであることを踏まえれば、中国の動きによって台湾が再び開発パートナーとして参加することが阻止される可能性は低いと考えられます。とはいえ、中国による、台湾に関するフォーラムの姿勢を操作しようとする試みや、7月に行われた弾道ミサイル実験のような強硬な行動に対する地域の反応を封じ込めようとする動きは、今後も続くものと見られます。こうした外部からの関心の高まりは、太平洋地域により多くのリソースをもたらす可能性を秘めていますが、同時に、気候変動、経済安全保障、越境犯罪など、太平洋諸国が自らの国家安全保障上の優先事項として掲げている課題の重要性を覆い隠してしまう恐れもあります。パートナー諸国がこれら重要な太平洋諸国における影響力を競い合う中で、効果的かつ透明性の高いパートナーとしての能力を示すことが不可欠となるでしょう。最終的に、永続的な影響力を獲得できるのは、大国間競争の論理ではなく、太平洋諸国自身が定めた優先事項に耳を傾け、そこに投資する意思を持つパートナーであるはずです。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】太平洋諸国首脳会議の重要性毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.19

今回は、【世界の論考 – 異論反論】ウクライナ戦争終結後、プーチン大統領の将来は?!、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 ウラジーミル・プーチン大統領は9月3日、ウラジオストクで開催された東方経済フォーラムにおいて、ウクライナ戦争を終結させる「可能性がある」と述べました。その2日後、スティーブ・ウィトコフ氏とジャレッド・クシュナー氏がクレムリンでプーチン氏と3時間にわたり会談し、ユーリ・ウシャコフ氏はその会合を「極めて有益だった」と評しました。両氏は翌朝キエフ(キーウ)へ飛びましたが、合意には至らず帰還しました。9月8日にはトランプ大統領がプーチン大統領と1時間の電話会談を行い、明確な提案を行いました。それは、戦争を早期に終結させ、ウシャコフ氏の言う「米露関係の完全な修復」への道を開くというものでした。同氏の発表によれば、プーチン氏はこのアプローチを「支持した」とのことです。 13ヶ月前、プーチン氏が2015年以来初めて米国本土の地を踏んだアンカレッジでの会談から始まりました。アラスカでの会談でも、具体的な合意は生まれませんでした。プーチン氏はその会談を「非常に良く、実質的かつ率直なものだった」と評しました。トランプ氏は「素晴らしい、大成功の一日だった」と述べました。そこから生まれたのは一つの「習慣」でした。それは、公の場での不満表明やキエフ訪問の失敗、そして一向に終わる気配のない戦争を乗り越えて存続した、対話ルートという習慣です。この戦争が終わる時、プーチン氏が完全に名誉を回復した状態で去ることも、完全に孤立した状態で去ることも、どちらも考えにくいでしょう。戦後の彼の立ち位置の輪郭は、すでに見えています。ワシントンと直接交渉できる程度には関係が正常化しているものの、自らが始めた戦争に伴う法的・戦略的な代償によって依然として制約を受けている、という姿です。 アラスカでの会談がモスクワにもたらしたものそれは領土ではありませんでした。ロシア兵の撤退も一つとしてありませんでした。もたらされたのは「形式」でした。外交的申し入れではなく首脳会談という形式、孤立ではなくレッドカーペット(歓迎の意)という形式です。6月、ロシアは、ワシントンが「アラスカでの合意事項」を実行していないと公に不満を表明しましたが、その合意の内容が具体的に何であったのかについては、一度も明らかにしませんでした。その不満の表明自体が、事態の核心を突いていました。ワシントンがその解釈を受け入れるか否かにかかわらず、モスクワはアンカレッジでのやり取りを、その後の交渉の「基準点」と見なしていたのです。9月に入り、そのパターンはより鮮明になりました。5日のクレムリンでの会合、8日の電話会談、そして12日には、ウクライナのキリル・ブダノフ氏が、同国が10月に予定される三者協議の準備を進めていると発言したことです。わずか10日間のうちに3つの外交的出来事が連鎖的に生じましたが、いずれも、ロシア軍が2022年2月以降に占領した領土をわずかたりとも放棄することをロシアに求めるものではありませんでした。 対話ルートが及ばない領域国際刑事裁判所(ICC)は2023年3月、ウクライナの被占領地からロシア連邦へ子供を違法に追放・移送した容疑で、プーチン氏に対する逮捕状を発付しました。モスクワ、キエフ、ワシントンのいずれからも、この逮捕状を取り消すことはできません。取り消し権限を持つのは裁判所のみであり、同裁判所はそれを行使していません。その試金石となった最も明確な事例は、2024年9月に訪れました。プーチン氏は、ノモンハン事件(ハルハ川の戦い)における対日戦勝記念式典に出席するためモンゴルを訪問しましたが、これは逮捕状発付後、初めて「ローマ規程」締約国を訪れるものでした。モンゴルは彼を逮捕しませんでした。その1ヶ月後、ICCの予審裁判部はモンゴルが規程に違反したと認定し、同件を締約国会議に付託しまし。逮捕状の執行は自動的に行われるわけではありませんが、プーチン氏を受け入れることには、友好国が公の場でその代償を支払うほどの現実的なコストが伴うようになりました。その事実は重要です。なぜなら、プーチン氏を逮捕する義務を負う国々の数は、長年にわたる圧力にもかかわらず、予想されたほどには減少していないからです。ハンガリーは2025年の脱退を表明しましたが、発効の数日前にあたる5月になって方針を撤回しました。同裁判所の締約国数は依然として125カ国を数え、現在5カ国が脱退手続きの途上にあります。マリ、ブルキナファソ、ニジェールは6月から、ベネズエラとチャドは7月から手続きを開始しており、2027年には正式に脱退が完了する予定です。そうした圧力の一部は、ワシントン自身からもたらされています。ルビオ長官はこの夏、加盟国に対して脱退を促し、裁判所に協力する団体に制裁を科す動きを見せてきました。同政権が、裁判所が逮捕を求めている人物との関係正常化を進めているにもかかわらず、です。 北京が手にするものさらに、ワシントンの誰も交渉によって解消できない「負債」も存在します。そもそもワシントンはその債権を保有していないからです。中国はロシア産原油を世界で最も多く購入しており、その取引の多くは現在、人民元で決済されています。原油の取引はすべて、北京にとっては交渉上の「切り札」となりますが、モスクワにとっては単なる善意の表れなどではありません。プーチン大統領は5月に北京を訪問し、習近平国家主席と40件近い文書に署名しました。しかし、2022年以降に失った欧州のガス市場に代わるものとして計画されたパイプライン「シベリアの力2(Power of Siberia 2)」は、その中に含まれていませんでした。北京が求めている価格は自国の国内価格に近い水準であり、これはロシアが現在中国へ供給しているパイプラインで得ている価格の約5分の1に過ぎません。9月までに、交渉に近い筋からは協議が完全に停滞しているとの声が聞かれ、中国当局者がロシア側に対し、この話題を持ち出さないよう求めたとも報じられています。ロシアのエネルギー相は、プーチン氏が和平の可能性を示唆したのと同じウラジオストクのフォーラムの場で、一方的にプロジェクトの名称を変更することで応じました。「シベリアの力」は「バイカルの力(Power of Baikal)」へと改称されたのです。しかし、価格の隔たりは埋まりませんでした。どのような和平合意が結ばれたとしても、この非対称な力関係が変わることはないでしょう。モスクワは依然として、買い手が条件を決定する市場で販売を続けることになります。なぜなら、戦争によって、かつてモスクワが欧州の買い手に対して持っていた交渉力は失われてしまったからです。 こうした状況は、プーチン氏の追放や体制崩壊、あるいは2022年1月時点の対西側関係への回帰を意味するものではありません。事態はそれらのいずれとも異なる、奇妙な様相を呈しています。その結果、ロシアの大統領は、米国大統領との1時間の電話会談を「完全な関係修復に向けた前進」と呼び、ニューデリーでのBRICS首脳会議に出席する一方で、欧州の大部分からは歓迎されず、125カ国が(建前上は)執行義務を負う逮捕状の対象となり、ここ数十年で最も中国という買い手の機嫌に左右される立場に置かれることになったのです。 さらなる試練だからといって、プーチン氏と対話することが間違いだというわけではありません。戦争を終わらせるためには、誰かが対話を行う必要があります。間違いなのは、対話の際の友好的な雰囲気を、2022年2月以降に築かれた西側諸国による孤立化の枠組みが崩れつつある証拠だと捉えてしまうことです。実際には崩れてなどいません。ある政府が、その枠組みの一部を回避するルートを見つけたに過ぎないのです。構造の残りの部分は、依然として強固に維持されています。ワシントンとモスクワの二国間対話だけでは、プーチン大統領をあらゆる面で正常化させることはできません。クレムリンもそれを承知しています。アラスカルートは、首脳会談や電話会談、そして漠然とした関係修復の議論には有効です。しかし、現在の膠着状態の中心にある領土問題の解決には、はるかに不向きです。 次に注目すべきは正しい展開です。トランプ大統領とプーチン大統領が対話の口実を見つけ続けるかどうかではありません。両者が合意した内容が、ウクライナの同意、欧州による制裁解除、あるいはプーチン大統領を縛り付けている法的網の隙間を少しでも作り出すかどうかではありません。これら3つのうちいずれかが実現するまでは、プーチン大統領は交渉の場に居続けるでしょう。しかし、その居場所は非常に居心地の悪いものとなるでしょう。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】ウクライナ戦争終結後、プーチン大統領の将来は?!毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.19

今回は、【世界の論考 – 異論反論】アメリカがドルの優位性を放棄したらどうなる?!、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 ドルは 1944 年以来、世界の基軸通貨であり続けています。一世紀のほとんどの間、ドルの世界的支配により、米国は疑いの余地のないリーダーとして世界に君臨してきました。これにより、20世紀は「アメリカの世紀」と呼ばれるようになりました。これはアメリカの消費者と製造業者にとって良いことであり、世界中で安定した存在となっています。 しかし、世界の外貨準備に占めるドルの割合は、2001年の約72%から57%を下回り、1995年以来の低水準となっています。中央銀行は3年連続で年間1,000トン以上の金を購入し、ドル依存からの分散を静かに進めています。その減少は徐々にであり、ほとんど注目されていません。目立つのは、現職の副大統領がアメリカはそれをもっと早く実現させるべきだと主張していることだ。 2023年、当時の上院議員J.D.バンスはジェローム・パウエルFRB議長に対し、基軸通貨の地位は空洞化した産業基盤と結びついた「アメリカの生産者に対する巨額の税金」に相当すると語っています。それ以来、同氏は、米国人が国内の製造業を密かに損なう一方で、安価に借りて消費できるようにしているのは、アパラチアの石炭に匹敵する資源の呪いだと呼んでいます。それは正当な経済的議論です。ドルを保持したいという世界的な需要は実際に、そうでない場合よりも通貨を強く保ち、それが消費者を助け、輸出業者を傷つけます。 トランプ大統領はこれとは反対のことを述べ、2025年7月に閣僚に対し、ドルの地位を失うことは「戦争、大規模な世界大戦に負けることと同じだ」と述べ、「そんなことは許さない」と主張しました。これは党派間の争いではありません。これは、現在アメリカ政府を運営している二人の間の未解決の議論です。 スタンフォード大学の経済学者によると、準備金の地位が失われると、米国の金利がほぼ1パーセント上昇し、その一方で現在その地位が得ているGDPの約0.9パーセントがなくなるという。同氏は、金利コストがバンス氏が望む貿易利益よりも「桁違いに大きい」としています。一部の経済学者たちは、住宅ローン、自動車ローン、クレジットカードはすべて、政府だけでなくすべての人にとってより高価になるだろうとはっきりと述べています。 国家安全保障のコストもかかります。米国の銀行やドルそのものに触れずに資金を世界中に移動させるのは難しいため、準備金の地位は米国の制裁に影響を与えるものです。アナリストらは、ロシアのGDPが制裁下で1000億ドル以上減少したと推定しています。通貨の中心性を放棄すると、そのレバレッジはそれに伴って弱まります。 1956年のスエズ危機の間、英国ポンドへの圧力により、ハロルド・マクミラン首相は特に通貨を守るために英国の国防支出を削減せざるを得なくなりました。このエピソードを研究している経済学者や歴史家は、このエピソードを英国の世界的な軍事力の低下と直接結び付けています。ポンド安だけではありませんでした。同時に、同じ根本的な理由で、英国のリーチは短くなりました。 コロンビアの経済学者の研究モデルは、まさにこの関係が双方向のループであることを示しています。軍事力は基軸通貨の地位を確保するのに役立ち、その地位をより安価に借り入れることで、見返りに軍事力の資金を提供するというものです。世界のシーレーンを開放し続けるという米海軍の使命は、約100カ国にわたる数百の施設に支えられ、まさにこの経済的優位性の上に成り立っています。その存在はどれも無償ではありません。 スペインからオランダ共和国、イギリス、アメリカに至るまで、これまでのすべての政権移行には、明らかな後継者が待っていました。英国の衰退により、米国はその役割を引き受ける準備ができました。現在、中国の人民元は世界の外貨準備高の約2%を占めており、中国政府が独自の政策の独立性を維持するために資本規制を行っているため、自由に交換することはできません。 ドルの厚みやネットワーク効果に匹敵する通貨は他にありません。準備の整った後継国の不在は、2つの方法を切り開きます。1つは、英国よりも米国に調整の余地を与えるかもしれないし、あるいは、弱体化したドルの役割が単一通貨によって代替されることを意味するかもしれません。つまり、単一の支配的な大国が歴史的に持っていた安定化機能を提供する人が誰もいない、分断された多極体制になることを意味するのかもしれません。 英国自身の衰退は、このリスクの正直な姿を示しています。世界的な地位が低下したにもかかわらず、その生活水準は 1950 年代から60年代にかけて上昇し続けました。 IMF救済で頂点に達した1970年代の実際の通貨危機でさえ、家計の実質所得が10年前より約30パーセント増加して終わりました。産業の空洞化、永久に空洞化した地域といった重要な被害が完全に明らかになるまでには数十年を要しました。 この移行の本格的なモデルはどれも、銀行取り付け騒ぎが実際に起こる方法ではなく、イギリスのように段階的に起こることを前提としています。 ドルの下落はすでに始まっており、歴史的に見て緩やかな下落は存続可能です。生き残れるものを真の危機に変えるのはスピードです。段階的なプロセスを意図的に加速することは、飲酒運転に似ています。制御を失うまではすべてが順調に見えます。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】アメリカがドルの優位性を放棄したらどうなる?!毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.19

今回は、【世界の論考 – 異論反論】北京の新たな出国規制に警戒を!、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 中国の新たな出入国管理規則が火曜日(15日)に正式に施行されました。台湾の行政院大陸委員会(MAC)は、この新規則によって出入国管理の執行における当局の裁量権が拡大されたと警告しています。 輸出入管理や国家安全保障といった事柄が、個人の出国を制限する根拠となり得ます。国家安全保障や捜査に関わる特定のケースでは、当局が出国禁止措置をとった事実やその理由、さらには不服申し立ての手段さえも本人に知らせない可能性があります。台湾海峡を頻繁に行き来する台湾のビジネス関係者、ハイテク技術者、半導体専門家にとって、検討すべきは「入国できるかどうか」ではなく、「無事に帰国できるかどうか」なのです。 どの国にも国境を管理する権利があり、国家安全保障は移動の自由を制限する正当な理由となり得ます。問題は、その権限にどのような制約が課されるかという点です。一般的に、行政機関は不利益な処分を行う際、その正当性を説明する義務を負います。なぜなら、当事者がどの行為を問題視されたのか、あるいはどのような法的根拠が適用されたのかを知らなければ、証拠を提示したり法の適用に異議を唱えたりすることが困難になるからです。理由が伏せられたままでは、法的な救済手段も無意味なものとなってしまいます。 この問題は、台湾のハイテク産業にとって特に重要です。技術者が国境を越える際、彼らは単なる手荷物だけでなく、スマートフォン、ノートパソコン、クラウドアカウント、業務メール、技術文書などを持ち運ぶことになります。輸出入管理や国家安全保障が出国制限の対象となれば、企業は中国への渡航に伴うリスクを、単なる出張管理の問題として扱うことはできなくなります。企業はまず、どのようなデータを国境を越えて持ち出せるか、どのファイルを個人用デバイスにダウンロードしてはならないか、そして電子データの提供を求められた際に従業員がどう対応すべきかを明確に定める必要があります。 政府も、より詳細なリスクに関する注意喚起を行うべきです。観光客、半導体の研究開発責任者、顧客データにアクセスできる営業担当者、機密性の高い政府業務に携わった公務員など、それぞれが直面する法的リスクや情報セキュリティ上のリスクは異なります。政府は、業界や職務内容、アクセス可能な情報の機密性に基づいて具体的なガイドラインを策定できるでしょう。その中には、業務用のデバイスの持ち込みを避けるべき人や、事前に削除しておくべきデータ、さらには中国からの出国を禁止された場合に家族や雇用主がどこに支援を求めればよいかといった情報を含めるべきです。企業は、この問題をコーポレート・ガバナンス(企業統治)の枠組みにも組み込むべきです。半導体、人工知能(AI)、情報通信技術(ICT)、精密製造業などの企業は、中国への出張に関する方針を見直し、会議を第三国やビデオ会議で行うことが可能かどうかを検討する必要があります。中国への渡航がどうしても必要な場合には、機密データを含まない専用の端末を支給するとともに、日常的な安否確認や緊急時の対応手順を整備すべきです。これは、企業に対し中台間のあらゆるビジネス取引を停止するよう求めるものではなく、変化する法規制環境を踏まえてリスクを評価するよう促すものです。 中台間の交流を持続可能なものにするためには、参加者が自身の法的立場を合理的に予測できる必要があります。中国で新たな規制が施行されたことを受け、政府は引き続きリスクに関する注意喚起を行うべきであり、企業も渡航や情報セキュリティに関する方針を再評価する必要があります。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】北京の新たな出国規制に警戒を!毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.18

今回は、【世界の論考 – 異論反論】3つの戦争がパックス アメリカーナの衰退をいかに加速させたか!、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 イラン戦争は 1 年も経たないうちに、多極化した世界秩序の輪郭を明らかにし始めました。「戦争にはそれ自体の勢いがある」、「どこから始まるかはわかっているが、どこで終わるかは決してわからない」と、米国の歴史家で外交官のジョージ・F・ケナンは2002年9月、米国がイラク侵攻する直前に警告しました。2003年のイラク戦争により米国はイラン国境に迫り、緊張が激化し、2026年に米国による第三次ペルシャ湾岸戦争が頂点に達することになる。 80年近くにわたり、米国は国際秩序の主要な構築者であり保証者でした。しかし、風向きは変わりつつあります。新しい安全保障パラダイムは、自信に満ちた中大国の台頭と、より多極化した世界です。それでも、パックス・アメリカーナの侵食が中東でどのように進行しているかについては、さらに注視する必要があります。覇権は一夜にして、あるいは一度の決戦で消滅することは滅多にありません。ローマ、オスマン、イギリス、ロシアのいずれであっても、その限界が増大し、すでに進行中の変化を加速させる一連の出来事によって、それらは徐々に弱体化しています。 米国の場合、中東におけるイラクとイランに対する3つの戦争が、決定的な節目として際立っています。1991 年の湾岸戦争により、冷戦後、米国はこの地域の比類のない安全保障国としての地位を確立しました。 2003年のイラク侵攻は、アメリカの軍事力と国家権力の限界を露呈させました。2026年のイラン戦争は、最終的には、アメリカの最も緊密な地域パートナーが、かつては考えられなかったアメリカとの関係について疑問を持ち始めた瞬間として記憶されるかもしれません。湾岸地域に米軍が駐留し続けることは彼らの安全を強化するのか、それともより大きな危険にさらすのか? 湾岸に焦点を当てたこれら三つの地域戦争は単一の戦略的弧を形成し、同盟、貿易ルート、経済関係が再交渉されるにつれて西アジアの変革を急速に進めています。新たに署名されたメッカ協定は、その新たな秩序の最初の兆候の1つである可能性があり、地域大国は、ワシントンが最終的な安全保障の保証人になるともはや想定できない将来に備え始めています。 これら三つの紛争はパックス アメリカーナの衰退を引き起こしませんでしたが、徐々に崩壊する基礎を築きました。米国の覇権が衰退したとしても、その移行は長期にわたる可能性が高く、したがって、この議論は、アメリカの権力の終焉としてではなく、その変革として捉えられるべきです。 元イラン外交官が、米国が今日の多極化世界で例外的な覇権を享受し続けているにもかかわらず、新たな状況を踏まえてパックス・アメリカーナを再定義する必要があることに疑問の余地はない、と語ったのこと。アメリカの力は消えたわけではないが、3度にわたる戦争のおかげで、地域大国がアメリカの力に対してリスクを回避する余地が増えました。 1991 年の湾岸戦争はアメリカの力の最高点を表しました。ソ連が崩壊すると、ワシントンは「新世界秩序」の名の下、国連安全保障理事会決議に基づき、イラクをクウェートから追放する前例のない国際連合を結成しました。湾岸君主国はアメリカを地域の安全保障の不可欠な保証者とみなして、アメリカの恒久的な軍事配備を歓迎しました。同様に、ワシントンは、1993年にイスラエルとパレスチナ解放機構に対し、二国家解決の基礎であるオスロ合意の枠組みを受け入れるよう圧力をかけるため、ノルウェーと並んで第三者調停者としての役割を果たしました。 その支配力には、莫大かつ持続的な支出が必要でした。第二次世界大戦後、特に 1991 年以降、米国は軍事同盟、世界の安全保障機関の管理、金融システムの支配、特に宇宙空間とサイバー空間における技術的リーダーシップに基づいた世界秩序を構築しました。しかし、あらゆる覇権体制は、コミットメントのコストが高くなり、ライバルが代替案を開発し、同盟国がさらなる独立性を求めると、圧力に直面することになる。 2003 年のイラク侵攻は転換点となりました。米国は迅速な軍事的勝利を収めたものの、占領は長期化し莫大な費用がかかるものとなり、米国は2011年に大部分撤退しました。イラクの制度は崩壊し、イランの地域的影響力は拡大し、米国の信頼は傷つきました。諮問任務の一環としてイラクに残された数少ない米軍は、9月30日までに撤退する予定。 2026年のイランとの戦争は、米国の湾岸諸国の戦略的思考を根本的に変えたため、すべての戦争の中で最も大きな影響をもたらす可能性があります。1991年、米国は他の欧州諸国とともにサウジアラビア、エジプト、シリアと協力してクウェートからイラクを追放しました。 2003年、米国と英国はイラク侵略の主要な勢力でした。 2026年、米国とイスラエルはイランを攻撃したが、湾岸諸国は報復を負わされた。しかし、イスラエルの軍事力とアメリカの高度な兵器を持っていても、トランプ政権は、イランがテクノゲリラ戦争で反撃し、報復にドローンを使用したり、世界世論を形成するためにAIレゴビデオを使用したり、アメリカの水道インフラをハッキングしたとされる行為を阻止することはできませんでした。 何十年もの間、米軍を受け入れることが究極の安全保障とみなされてきました。今日、その仮定が疑問視されています。一部の湾岸諸国は、同じ基地が自国の人口やインフラをより大きな危険にさらしているのではないかと疑問を呈しています。このような会話は10年前には考えられなかったでしょう。 湾岸諸国の首都は現在、米国だけに依存するのではなく、対外関係を多様化し、中国との関係を強化し、ロシアとの対話を維持し、より独立した地域外交を追求しています。イラン軍の劣化についてのトランプ大統領の主張にもかかわらず、地域全体のアメリカ、イスラエル、アラブの防空部隊と空軍の何層にも侵入し、数千億ドル相当のアメリカの防空装置、ミサイル迎撃機、戦闘機を事実上無力化するイランの能力が、自国に駐留するアメリカ軍が資産なのか負債なのか、湾岸全域での真剣な再考を促していると指摘されています。トランプ大統領がエピック・フューリー作戦がどれほど決定的であると考えていたとしても、イランの対応がその影響を弱めたということです。「西アジア全域のアメリカ、イスラエル、アラブの標的に対するイランの即時かつ継続的な軍事反応は、イスラエル人やアメリカ人が予想していたよりもイランがはるかに強力で、より一貫性があり、より自信を持っていることを示した」との指摘もあります。この紛争はまた、戦争計画には織り込まれていなかった国民の団結感を再燃させたようです。外国の侵略に直面してナショナリズムが高まったと報告されていることから、民族的、政治的分裂が国家の忠誠心を覆すものではないことが示唆されました。 2026年の戦争が湾岸諸国の信頼を揺るがしたのは間違いないが、同地域は戦略的再編ではなく戦略的ヘッジを追求しているとの指摘もあります。「厳しい現実は、湾岸諸国にとって米国に代わる選択肢はないということだ。・・湾岸諸国の指導者らは、中国やロシアとの関係を強化しながらも、米国が依然として提供している安全保障をどちらの国が提供できるかについては依然として確信を抱いていない。」 中国は2023年にアラブの春冷戦後のイラン・サウジアラビアを停戦に導くために外交介入したが、2026年には米国とイランの間を調停する立場にはなく、またペルシャ湾における新たな域外覇権国を目指す姿勢も示していません。 2015年以来、サウジアラビアはイランを封じ込めるために「イスラム教スンニ派のNATO」創設を目指してきたが失敗に終わりました。トルコ(NATO加盟国でもある)、核武装したパキスタン、石油輸出国機構(OPEC)のスイング生産国であるサウジアラビアの間の最新のメッカ合意は、2026年8月の発表前夜まで沈黙を保っており、これはリヤドが第二次世界大戦後暗黙のうちに続いてきたワシントンの安全保証に対するバックアップを求めていることを示しています。 欧州でも調整が進んでいます。NATOとEUの加盟国であるスペインは、紛争が完全に終結する前にテヘランでの外交駐留を再開し、関与が国家戦略の重要な手段であることを示しました。もちろん、20年前の地位との違いは顕著です。2003年、スペインは「有志連合」に参加し、イラク占領に参加しました。2026年、一極時代の世界覇権に抵抗しました。 三つの湾岸戦争が一つの弧を形成しています。 1991 年の湾岸戦争は、アメリカの決定的な勝利に終わったにもかかわらず、その後のすべてに影響を与える遺産を残しました。ジョージ・H・W・ブッシュ大統領は、イラク国民にサダム・フセインに対して蜂起するよう公に奨励しましたが、蜂起が起きると断念しました。2003年にアメリカ軍が復帰すると、多くのシーア派がスンニ派反乱軍に加わって占領に抵抗し、イランがその影響力を劇的に拡大する条件を作り出しました。イラン政府はシーア派民兵ネットワークに資金を提供し、訓練し、武装させた。その後、シーア派民兵組織はイラクで最も強力な政治的・軍事的主体へと発展した。20年以上経った今でも、これらのグループはイラク国家に深く浸透しており、バグダッドとワシントンの関係を悩ませています。イラク政府が置かれているのは非常に厄介な立場です。なぜなら、一方では米国の支援と投資を必要としているが、他方では権力を維持するためにイランの支援を受けたシーア派民兵組織に依存しているからです。 三つの戦争すべてで下された決定から生まれた矛盾は、現在、中東の多くのジレンマの一つを定義しています。彼らはバグダッド中央政府に対し、覇権国である米国とシーア派民兵組織の両方をなだめるために難しいバランスを取ることを強いています。 これら三つの連続した中東戦争により、アメリカ主導の秩序から、ますます多くの地域および世界の主体に権力が分散される秩序への移行が加速しました。 1991 年が湾岸におけるパックス アメリカーナの誕生を示したとすれば、2003 年はその脆弱性を暴露しました。 2026年のイランとの戦争は、最終的にはイランの最も近い同盟国が次に来ることに備え始めた瞬間として記憶されるかもしれません。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】3つの戦争がパックス アメリカーナの衰退をいかに加速させたか!毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.18

今回は、【世界の論考 – 異論反論】トランプ大統領vs.習近平中国共産党、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 20カ国・地域会議世界の20カ国・地域の財務大臣がノースカロライナ州アシュビルに集まり、世界経済問題についての議論を継続し、レアアースなどの分野における世界貿易と市場政策に関する継続的な懸念に対処することにしました。しかし、この会議では主に中国の経済戦略における過剰生産能力の問題が取り上げられました。加盟国20人中19人が声明に参加し、中国政府が成長のために輸出に過度に依存していることを暗に批判し、国際的な圧力が新たな段階に入りました。もちろん中国は唯一反対しており、正式な声明を出すことができませんでした。なぜこの特定のサミットでこれほど焦点が当てられたのか?この声明自体に基づいて、この問題に対処するために 19 か国連合に何を期待できるか? 共通認識はあります。会議参加者は、もちろん中国を除いて、中国の生産能力については、中国が過剰に輸出に依存していることが原因であり、最も重要なことは、中国が非市場政策と呼ばれるものを実行しているためであることに同意しています。 これは世界的な問題です。中国は異常に孤立しています。中国はBRICSに参加することもできるし、SEOに参加することもできるし、他の国連組織に参加して、あたかも米国が孤立しているかのように米国を非難することもできます。しかし、中国は実際にはかなり孤立しています。何よりも重要なのは、中国の唯一の戦略的パートナーであるロシアが中国政府と協力しなかったことです。ロシアは中国の問題について米国の側に立ったと説明しています。これは非常に異常なことです。日本の片山大臣は、すべての人の感情が一線を越えたと述べ、ロシアの立場の重要性を具体的に指摘しています。インドネシアも非常に重要です。インドネシアはASEAN同盟最大の国です。インドネシアの人口はインド、中国、米国に次いで世界で4番目に大きい、非常に重要な国です。インドネシアは中国とは協力しなかった。もちろん、インドネシアは地政学的問題に関して中国と非常に近い関係にあるが、インドネシアは中国が安い商品を輸出し、過剰生産能力に補助金を出していることに同意しています。最終的な結果は、インドネシア固有の産業基盤の破壊です。それは非常に重要なことです。つまり、世界的な対話の変化の根底にあるのは、この問題はもはや中国対米国ではないということです。中国はあらゆることを米国のせいにすることができますが、ますます中国対世界市場・その他の世界という構図になりつつあるということです。 しかし、米国にとっては、ドナルド・トランプ政権下の米国が中国に重い関税を課しているという別の側面もあります。これにより、実際には 2つ目の問題がさらに深刻化しました。中国製品が米国でより大きな障壁に直面すれば、中国製品や生産者は自動車、鉄鋼、機械、電池、エレクトロニクスなどの製品を欧州、東南アジア、ラテンアメリカなどに向けるさらなるインセンティブが生まれるでしょう。これが、ベッセント長官がG20各国に対し、米国の関税は中国の専門家を貴国や貴国の経済に向かわせることになると特に伝えた理由であり、だからこそ皆に協力して行動するよう促したのです。各国はベッセント長官の行動の呼びかけにかなり積極的に反応したように思えます。 中国の代表団は非市場という言葉が大嫌いです。しかし、非市場とは、過剰生産能力の背後に制度的構造があることを意味します。中国による安価な商品の世界へのダンピングは、主に国有企業、指向信用によって引き起こされています。中国の銀行は、特定の戦略的産業に何のメリットも与えずに、その産業を多大に信用しています。国の補助金、地方政府の援助、そしてより大きな政党による国家産業システムです。これは基本的に非市場メカニズムが働いています。だからこそ問題は、どれだけの中国の輸出品が海外に流出したことが原因なのかということだけではないのです。中国は何十年も米国のチャイナ・ショックを心配していたと思いますが、チャイナ・ショック2.0に対する世界的な反発には立ち向かわないかもしれません。 中国は、ますます、自分たちが不利な立場にある島にいることに気づき始めています。要約すると、西側諸国は、中国の過剰生産能力と、主にEVやソーラーパネルなどの安価な製品が世界市場に氾濫していることを特に懸念しています。その理由は、国内の購入者が単に十分な支出をしていないからです。 ベッセント長官を含む米財務当局者らは、中国の巨額の貿易黒字が国内の工場労働者や企業に損害を与えていると主張し、各国は大量の安価な輸入品に対処するための新たな貿易障壁を検討し、国内製造業へのこのような巨額の補助金の支給をやめるよう中国政府への圧力をさらに強めるべきだと提案しました。 これに対し、中国商務省は、不当な経済不均衡を否定し、世界的なフォーラムを利用して中国の製造業を批判することは経済を抑制することを目的とした保護主義の一形態であると述べています。 中国政府が過剰生産能力の問題に対処するために経済戦略の方向性を変えなかった場合、世界経済への長期的な影響はどのようなものになるか?そして、中国の貿易黒字自体が限界点に達しつつあることを考えると、現実的にどこまで持ちこたえることができるか?2025年の中国の貿易黒字は1.2兆ドルに達すると思います。それは驚くべき数字です。それはすべて、中国政府が高騰時に莫大な投資と製造能力を費やしたためです。しかし結局のところ、中国の家計消費はひどいものです。いわば、誰も何も買っていない状況です。つまり、これは一種の国家信用であり、地方自治体の支援、産業政策、激しい国内競争が膨大な過剰生産能力を促進しているということです。国内需要がその生産を吸収できなくなると、企業は海外市場を求め、他国の経済と産業基盤を破壊します。したがって、これは世界的な対応を求める呼びかけのようなものだと思います。19か国が中国に対してこの種の文言に署名すれば、間違いなく共通の理解を得ることができると思います。共通の理解は共通の行動の前段階です。共通の行動が早く実現することを願っています。 今年12月にはマイアミでG20首脳会議が開催される予定です。12 月には何が期待できるか?その時までに中国の立場はどうなっているか?世界の指導者たちは既存の力関係にどのようにアプローチするか?中国は当然、議論を米国に向けようとするでしょう。すべては米国の封じ込め、貿易障壁、反中国が原因だと言うでしょう。しかし、どれも機能しません。G20加盟国、グローバル・サウスのほとんどが米国の側に立っています。中国は不可能を可能にするために戦うつもりだと思います。つまり、彼らは、中国が市場経済であることを国際社会に認めてもらいたいのですが、これは明らかにナンセンスです。中国は中国国内の“デューデリジェンス”企業をすべて追い出し、外部から誰も中国の経済現実を監視できないようにしています。そしてもし中国が世界市場に対してこの種のダンピングを続ければ、この問題はマイアミでの最大の話題になるでしょう。そして、もちろん、ウクライナ戦争、中東戦争など、中国がすべてその背後にあります。だからこそ、中国は貿易の面で大きな問題であるだけでなく、中国は地政学上でも問題となっており、世界的な問題でもあるのです。 トランプ大統領と習近平氏の二国間対話の第2ラウンドが、わずか2週間後にここワシントンDCで開催されます。中国共産党のレトリックは建設的な戦略的安定というフレーズを中心に展開しています。中国が言う“建設的な戦略的安定”とは何を意味するのか?第一は、アメリカは混乱を生み出し、中国は安定を生み出すということです。中国が“戦略的安定”と言う場合は、これは、米国が世界の安定を生み出すことにあまり協力的ではないことを意味して使用します。これは基本的に彼らのプロパガンダのトップラインです。それは長い間続いています。この場合、もちろん、中国は、貿易、開発、インフラ、主権、不干渉と対話、そして双方にとって有利な競争に重点を置く国として描かれています。それらはすべてナンセンスです。世界はますます混沌としてきています。ウクライナ、イラン、ベネズエラを含む世界中の問題点はすべて中国によって解決できたはずです。もし中国がロシアを支援していなかったら、ロシアのウクライナ戦争は何年も前に終わっていたでしょう。つまり、中国は世界のあらゆる問題の元凶なのです。 中国は1949年以来、最初から代理戦争を行ってきました。朝鮮戦争、ベトナム戦争、すべて代理戦争です。米国に対する代理戦争です。誰が、どの国が最も反米的であっても、中国は常にその背後にいます。イランは中国の“相棒”であり、中国は非常に重要な方法でイランをある種熱心に支援しています。 2021年だけで、中国はイランに4000億ドルを約束しました。したがって、そのような資金があれば、イランは当然、ハマスとヒズボラに武装して資金提供し、防衛産業基盤を構築することができます。つまり、中国が問題なのです。中国がなければニコラス・マドゥロも存在しない。中国がなければ、キューバが地域に迷惑をかけることはないでしょう。世界の不安定の最大の原因は米国ではなく中国だということです。 カール・マルクスの時代以来、資本主義の終末的危機が共産主義運動の特徴であると常に予測されてきました。マルクスは、資本主義の矛盾が最終的に資本主義を破壊すると予想していました。ウラドミール・レーニンが帝国主義を資本主義の最高かつ終末段階と解釈したことは有名です。スターリンは、資本システム内の矛盾が資本主義世界を弱体化させると予想しました。毛沢東はアメリカ帝国主義の衰退は避けられないと繰り返し述べました。アメリカの衰退を常に予測することは共産主義の特徴でした。もし中国指導部が米国の衰退は避けられず進行したものであると本気で信じているなら、なぜ米国の半導体規制の回避、西側技術の獲得、米国同盟の弱体化、米国からの欧州の分離、ドルの代替、西側サプライチェーンへの依存の削減、特に米国の軍事能力を中心に設計された接近阻止兵器の開発、米国の技術・研究ネットワークへの浸透、米国のアジアへの関与を減らすようワシントンを説得することに多大な資源を割く必要があるのでしょうか。つまり、それらはすべてアメリカの強さの兆候であり、衰えではなかったのです。一方で、中国は自国のパートナーからも孤立しています。中国政府は、中国共産党の戦略的不安を隠すために、国内に捕らえられた聴衆を説得しようとしているのだと思います。 トランプ大統領と習近平氏の二国間対話の第2ラウンド、この会談で正式な経済協定や覚書が生まれると予想できるか?もしそうなら、中国側はどの分野に焦点を当てることができるか? 習近平がそのように考えているとすれば、滑稽ですらあります。中国の非国営企業は習近平によってほぼ完全に抹殺されました。中国共産党は多くの非常に収益性の高い優良企業を買収しました。したがって、たとえば、Anthropic、ChatGPT、OpenAI の競合相手である中国の陽江メモリ チップ会社、彼らはアメリカ人のハイテクイノベーションを盗む人々です。したがって、多くのいわゆる企業幹部を連れて行くという習近平の見せかけが、中国の米国へのさらなる投資をもたらすとは思いません。米国の国家安全保障に極めて有害であり、また間違いなく米国の産業および防衛産業基盤をさらに破壊するからです。 今年の習近平の外交戦略について、習近平が何らかの重要な足掛かりを築いたか?私たちは共産主義の独裁者を相手にしているのです。習近平は中国共産党の指導者です。彼は共産主義理論というものを本当によく知っています。彼は国際政治の共通語である英語やフランス語などを話せません。中国とロシア、北朝鮮との二国間関係について、それらは非常に表面的なものに見えます。結局のところ、ロシアと北朝鮮は独自の道を行くだろうと思います。中国は日和見主義の国だと思われています。プーチン大統領は中国の世界支配の野望について何の幻想も抱いていません。つまり、彼は多くのアメリカの評論家に対しても、ロシアは西側の本当の敵ではないと公然と語っています。西側諸国の本当の敵は中国だ、と。彼は4年ほど前にそう言いました。アメリカでは、残念なことに、誰もそれを理解していません。トランプ大統領はこれらのコメントをかなり明確に聞いたと思います。 習近平による粛清の国家的影響中国国家安全保障当局者からの報告により、来月に予定されている党の第5回総会で40人以上の中国共産党中央委員会メンバーが粛清される予定であることが示されています。中国は今年、少なくとも11人の閣僚レベルの高官を解任し捜査しています、これは過去最高です。もちろん、張佑霞氏や劉戦利氏を含む他の主要な軍高官に加え、この最新のラウンドには長年の習氏支持者で中央軍事委員会総局長を11年間務めた鍾暁君氏と、元戦略支援軍司令官の朱崇新氏も含まれており、全員が12月10日に正式に中国共産党から追放されると予想されています。 中国では“粛清”が一種の日常になっています。本当に重要なのは、排除される将軍や提督だけではありません。彼らの多くは通常、終身刑か死刑のいずれかを宣告されるでしょう。基本的に、これは中国の法制度における終身刑とほぼ同じです。つまり、本当に重要なことは、粛清が核兵器、核推進、ミサイル、航空、戦闘機の設計、エレクトロニクス、先端兵器の研究に関係する人々に関連しているということです。本当に重要なのは、排除されるその他の者、つまり、民間兵器のトップ専門家です。たとえば、Liu Zhanli氏は中国工学物理学会の元会長です。彼は中国のトップ核兵器研究者の一人だ。これはとても大きいです。もしあなたが中国の工学物理学会の会長にまで上り詰めたとしたら、あなたはまさに中国のトップの原子力技術者です。もう一人、Luoqi 氏は上級原子力専門家であり、中国原子力総公司 (CNNC) の主任技術者です。それから、周新美氏。彼は AVIC の元会長です。 AVIC は巨大な国営航空複合企業です。ノースロップ・グラマン、ロッキード・マーティン、ゼネラル・ダイナミクス、ボーイング、それらすべて、さらにレイセオンを一つにまとめたような企業です。さらに、人民解放軍近代化の至宝の一つである第 5 世代ステルス戦闘機 J20 の主任設計者。そして、劉国子氏。高出力マイクロ波兵器における中国の第一人者。彼はかつて中国中央軍事科学技術委員会の主任。つまり、彼は中国の防衛科学のトップにいます。その他数多の有為な人材が粛清の対象になっています。 将軍は中国のシステムを通じて比較的早く交代できますが、科学者は違います。ある科学者は数十年を費やして、核物理学、ミサイル誘導、航空機設計、推進システムの専門知識を習得しました。交代ははるかに困難です。軍事近代化はこの種の専門家に依存しているにもかかわらず、彼らは現在、習近平の大規模粛清の対象となっています。毛沢東の時代以来最大の粛清と言えるでしょう。これは本当に深刻です。これは中国の国防科学と兵器工学における問題をさらに深刻化させることになります。結果的に、人々に嘘をつくことを奨励することになっています。彼らはリスクを取ることをさらにためらうようになります。粛清された場合、当人を昇進させたすべての人々も同様に影響を受けるでしょう。全体として、これは中国のシステムが非常に残忍で、透明性を非常に嫌うものであることを示していると思います。そして最も重要なことは、基本的に腐敗の温床を自ら作り出しているということです。中国共産党下のシステムの弱点と脆弱性を認識する必要があります。それは強さを持っており、恐るべき能力を持っていますが、最終的には衰退し、その終焉は避けられないように私には思えます。 習近平体制の異常な変化!ある情報筋によると、中国の国営メディア全体が「党が管理し統治する」という従来の表現を、党自体を統制下に置くことが優先であることを意味する従来の表現に逆転させた、と報告し、さらに中国共産党内の更なる人事異動がかなりの混乱を引き起こすことが予想されると付け加えています。つまり、習近平の目的は、完全かつ厳格な党統治を達成することであり、不誠実を指す思想、中国共産党幹部や派閥を指す組織、平和的進化についての幻想を抱く親米を指す行為という3つの形態の不純物をターゲットにしているということです。 共産党を改革するというこの夢物語、この狂った考えはまったくのナンセンスです。中国共産党は一党独裁を徹底しています。一人の最高指導者によって統治されなければなりません。最高指導者の権力が独占されている限り、個別に抑制され均衡が保たれていない限り、中国で真の改革を達成することはできません。今日の中国では、「習近平のなまりが気に入らない」と言えば、基本的に不誠実な人とみなされます。 「習近平の髪の色が気に入らない」と言えば、彼らは問題を起こすということです。アメリカについてあからさまに良いことを言ったら、彼らは困ることになります。つまり、これは本当にクレイジーです。そこで彼らは、人類史上最悪、最も包括的、そして最も先進的な大規模な監視システムを構築し、国民の発するあらゆる言葉を監視しています。そういう制度は変わらないのです。いかなる改革も失敗するでしょう。だからこそ、システムそのものを徹底的に解体しなければならないのです。 ゴルバチョフは 1980 年代半ばにこの問題に気づきました。二つのことを変えなければ、ソ連は改革不可能だろう、と。一つは開放性です。オープンな考え方が自由に流れるようにします。第二に、共産党の独占構造の変革です。だからこそ彼はペレストロイカと呼ばれるものを制定したのです。つまり、基本的にはリストラを意味します。そこで彼は地方レベルの人々に自由な選挙を許可したのです。その結果、それが共産主義体制の終焉の始まりとなりました。 中国共産党はこの教訓を学びました。したがって、彼らは決して公開を許しませんでした。彼らは選挙を決して認めない、なぜならそれは基本的に自らの終焉の基礎を築くことになるからです。これは基本的に悪循環を許していることになります。 私たちは中国モデルの統治が世界標準になるのを防ぎたいと考えています。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】トランプ大統領vs.習近平中国共産党毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.18

今回は、【世界の論考 – 異論反論】我々は「習近平の世界大戦」の只中にいる!?、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 ロシア・ウクライナ戦争が続く中、多くの米国人は「第三次世界大戦」の引き金を引いた責任をロシアのウラジーミル・プーチン大統領に求めているかもしれない。確かに第三次世界大戦は始まっているが、その真の原因はロシアではなく、中華人民共和国(PRC)にある。この戦争は、2022年のプーチンによるウクライナ侵攻や、その愚かな侵略行為に至るまでの対ロシア宥和政策から始まったわけではない。すべては中国共産党(CCP)から始まったのである。中国共産党は1949年の政権掌握以来、米国との戦争状態にあり、米国や西側諸国を弱体化させるために多岐にわたる戦線を展開してきた。2019年5月、中国共産党が米国に対して「人民戦争」を宣言したことは、習近平指導者が米国に対して総力を挙げて戦うよう呼びかけたものであった。偶然ではないが、その直後に新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大が発生した。中国共産党はウイルスの起源について虚偽の情報を流し、世界との情報共有を拒否し、世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム・ゲブレイエスス事務局長を自らの意のままに動く共犯者として利用した。選挙への介入もまた、一つの戦線である。トランプ大統領は、ジョー・バイデン大統領の勝利を確実にするための中国共産党による2020年米大統領選への介入を明らかにした。バイデン政権の国境開放政策により、軍務に就ける年齢の中国人男性数十万人が米国に入国を許された。これは、米国の本土で国民を攻撃するための戦力を事前に配置する行為に他ならない。フェンタニルによる持続的な化学戦攻撃もまた、米国民の命と家庭を破壊する攻撃手段の一つである。米欧の政治家やジャーナリストを買収し、自らの影響力を行使する工作員として利用することに成功している点も、TikTokの存在と同様に、重要な攻撃手段となっている。 プーチンは第三次世界大戦の元凶ではない。この戦争の構図において、プーチンはあくまで脇役に過ぎない。第三次世界大戦を主導しているのは習近平である。この世界的な危機のあらゆる現れ(それが公然たるものであれ隠密なものであれ、対外的なものであれ国内的なものであれ)に共通するのは、習近平と中国共産党がそれらを扇動または助長してきたという事実、あるいは少なくとも、彼らがその最大の受益者となるという点であるようだ。その結果、これを「第三次世界大戦」と呼ぶ向きもあるが、より適切な名称は「習近平の世界大戦」と言えるかもしれない。 2022年2月初旬の会談で、プーチンにウクライナ侵攻の「ゴーサイン」を出したのは習近平その人であった。それ以来、両者は10回以上会談を重ねており、その都度、習近平はプーチンの戦争に対して公然かつ強力な支持を表明してきた。ロシア・ウクライナ戦争は未だ決着を見ておらず、第一次世界大戦よりも長期化しているが、すでに勝者は明らかである。それは中華人民共和国(PRC)だ。中華人民共和国(PRC)はロシアに対し、外交的・経済的支援に加え、軍民両用(デュアルユース)の軍事支援など多大な援助を行っており、これらはすべてロシアの戦争遂行能力を維持する上で不可欠なものである。北京はそこから莫大な利益を得ており、それが習による「第三次世界大戦」の勝利を後押ししている。第一に、戦争を継続させることで、中華人民共和国(PRC)は米国を釘付けにし、自らの攻撃的行動や台湾をめぐる戦争準備(米国本土への攻撃を含む可能性もある)から米国の注意を逸らしている。米国の情報機関や軍のリソースには限りがあり、イランやウクライナ、その他中東地域での紛争への対応に追われているからだ。さらに、イラン情勢やウクライナへの支援(パトリオットやATACMSなどのミサイル、155mm砲弾を含む)によって米国の備蓄は枯渇しつつあり、これらはすべて、中華人民共和国(PRC)との高強度な戦争を戦う米軍の能力を低下させている。その結果、米国の兵器在庫の減少は、西太平洋や台湾といった主要な戦域における米国の通常戦力による抑止力を弱めることにつながっている。第二に、この戦争はプーチンの中華人民共和国(PRC)への依存を決定的なものにしている。プーチンは習近平の忠実な手先であり、両者の関係において「懇願する側」の立場にある。実のところ、プーチンは習近平にとって「利用される愚か者(ユースフル・イディオット)」に過ぎない。習近平はプーチンを自身の反西側同盟に引き入れたが、その代償としてプーチンは自律性を失った。習近平の究極の野望は、世界の覇権を握る米国の力と地位を覆し、世界を中華人民共和国(PRC)の専制的な野望に縛り付けることにある。本来であれば、プーチンにとっては、米国と中華人民共和国(PRC)の対立において「漁夫の利」を得る立場に回る方が、自身の利益にかなっていただろう。ロシアの国益を中華人民共和国と結びつけた以上、彼は習近平が求める道を歩まざるを得ない。それはつまり、中央アジアなど中国と利害が対立する局面では自国の影響力低下を受け入れ、中国が軍事力や戦略的野心を拡大させる間、米国とそのNATO同盟国の注意をそらすための「目くらまし」の役割を果たすことを意味する。プーチンは、自身の利用価値がなくなった暁には、習近平によって失脚させられるのではないかという恐れを抱いているに違いない。第三に、プーチンは「避雷針」のような役割も果たしており、自身の行動によって世界の敵意や注目を集める一方で、習近平による新疆でのジェノサイド(集団殺害)は、あまり指摘されることなく背景に埋もれたままになっている。台湾に対する中国の戦争準備や、フィリピンに対するますます強圧的な措置もまた、本来受けるべき注目を浴びていない。第四に、ウクライナ戦争の結果、習近平は北側の側面(北の防衛線)を確保した。ロシアの通常戦力および核戦力は今や、中国軍と連携して、あるいは独自に運用されるツールとなっているが、その目的は北京の国益に資することにある。米国は「多正面」での戦争という課題に直面し、対処を迫られている。さらに、習近平は中央アジアにおける西側の側面も確保した。中央アジア諸国は、ウクライナ侵攻を受けてロシアを脅威と見なしており、中露関係においてモスクワを「従属的なパートナー」と捉えている。中国が新疆(あるいは東トルキスタン)でカザフ、キルギス、ウイグル系のイスラム教徒に対してジェノサイドを行っているという状況下で、習近平にとってこれは極めて注目すべき事態だ。中国の西側の側面は、近年になく強固に守られている。二つの側面が確保され、習近平の戦力投射能力が拡大している以上、彼が南側や東側の側面に対して攻撃的な動きを見せていることは何ら驚くべきことではない。 結論として、ロシア・ウクライナ戦争は中国に多大な利益をもたらしている。中国の軍事力が増大するにつれ、西太平洋を含む他の地域における米国の国家安全保障上の利益を守る能力は損なわれる。その結果、台湾やフィリピン、その他の国々に対する侵略を抑止する能力や、抑止が失敗した場合に中国と戦争を遂行する能力が低下することになる。ロシア・ウクライナ戦争がもたらす代償は、あらゆる面で甚大だ。モスクワは「ピュロスの勝利(多大な犠牲を払った末の割に合わない勝利)」を辛うじて手にするかもしれないが、この戦争の真の勝者は北京だ。習近平が望むからこそ戦争は続いており、彼による支援がプーチンにその愚行を続けさせている。二つの側面が確保され、習近平の戦力投射能力が拡大する中、中国は侵略に必要な前提条件を整えつつある。米国とその同盟国は、中国が南側および東側の側面において攻撃的な姿勢を強めていくことを想定しておくべきだ。こうした攻撃は、キネティック(実力行使を伴う軍事的手段)なものとなる可能性があるし、実際、いずれはそうなるだろう。その矛先は、北京にとって南の側面にあたるインドや、東側の台湾、さらには日本や米国に向けられるかもしれない。しかし、中華人民共和国(PRC)は、自らが望む変化をもたらすために、あらゆる国家戦略上の手段を駆使してその力を発揮し続けるはずだ。したがって、世界は中華人民共和国(PRC)からの外交的、イデオロギー的、経済的な圧力を覚悟すべきであり、同時に北京がインド、台湾、日本、米国の政府を弱体化させようと画策していることも認識しなければならない。また、中華人民共和国(PRC)が「統一戦線工作部」などを利用して対象国を内部から切り崩したり、その他の公然・非公然の工作を行ったりすることで、それらの国々における自国の影響力を拡大し続けることにも備える必要がある。 世界は新たな局面を迎えている。冷戦時代には中華人民共和国(PRC)に対して優位にあったソ連の立場は、今や逆転した。プーチンの戦略的愚行により、いわゆる「第三次世界大戦」において主導権を握っているのは中華人民共和国(PRC)だ。北と西の側面を安全に確保したことは、習近平がより攻撃的な姿勢を強めるための重要な布石となった。中国共産党(CCP)はこの戦争において多岐にわたる手段を行使しており、米国国民はそれらの攻撃経路を認識する必要がある。米国とその同盟国・パートナー諸国は、単に攻撃を予測する段階を超え、攻撃が確実に行われること、そして「習近平の世界大戦(World War Xi)」という現実を直視しなければならない。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】我々は「習近平の世界大戦」の只中にいる!?毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.18

今回は、【世界の論考 – 異論反論】ロシア・プーチンが露呈する弱さ!、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 ロシア議会下院(国家院)の全450議席を対象とする選挙が、9月18日から20日にかけて実施される。6月28日、ロシアの与党「統一ロシア」はモスクワで開催された第23回党大会において、次期議会選挙に向けた公式候補者名簿を発表した。予想通り、この名簿は、ウクライナへの全面侵攻やウラジーミル・プーチン大統領の軍国主義路線を支持するクレムリン(ロシア政権)の忠実な支持者たちで構成されている。党大会の期間中、プーチン氏は「統一ロシア」が自らを「プーチンの党」として直接的に打ち出すことを容認した。これは、プーチン氏と与党との間に形式的な距離が置かれていた約20年を経て、初めてのことである。「プーチンを支持することは最低限の条件だ」と記されたポスターなどがその一例である。 5月には、西側諸国の情報機関から流出したとされる報告書の中で、プーチン氏がエリート層によるクーデターを極度に恐れていると指摘された。一部のエリート層の間では、プーチン氏の国内政策や、ウクライナへの全面侵攻以降のロシア経済の低迷に対する不満が高まっている。報道によれば、プーチン氏は自身の警備を強化し、他のエリート層から自らを隔離するようになっているという。また、同大統領が被害妄想に陥っているとする報道もある。プーチン氏と「統一ロシア」の公的な結びつきが復活したことは、ロシアのエリート層内部の亀裂に関する憶測を打ち消そうとするクレムリンの動きの一環である可能性がある。 クレムリンは、通常であればプーチン氏本人やウクライナ戦争そのものを非難することまではしないものの、忠実な関係者による散発的な批判を容認しているように見える。こうした動きは、選挙を前に、国民の不満の一部を公に表出させることで、それらの声が聞き入れられていることを示そうとしているのではないかとの憶測を呼んでいる。 2022年2月のロシアによるウクライナ全面侵攻以前、大統領府は、反体制的な抗議活動を時折容認したり、国内の少数の独立系メディアの活動を認めたりすることに必ずしも否定的ではなかった。治安当局は一定期間が経過した後に抗議活動を弾圧するのが常であったが、それらを容認することは、政治的不満の「はけ口」を作り出すことにつながっていた。時折行われる抗議活動を許容することで、プーチン氏は、危険な存在となり得る政治的アクターに関する情報の空白を埋めることができたのである。こうした抗議活動を容認することは、モスクワにとって、誰が「次なるアレクセイ・ナワリヌイ、ボリス・ネムツォフ、イリヤ・ヤシン」になり得るかを見極める手段ともなっていた。野党系のメディア・プラットフォームがこうした反体制派に発言の場を提供することを容認すれば、体制側は彼らを特定しやすくなる。また、小規模な異議申し立てを許容することは、専制体制が、野党の理念に共鳴しかねないエリート層の人物を特定する助けにもなる。 ウクライナへの全面侵攻開始に伴い、クレムリンは最後まで残っていた批判的なメディアを閉鎖に追い込むか、国外退去を余儀なくさせた。国内に残っていた最後の反体制派も、国外への退去、法的処罰、あるいはクレムリンへの忠誠の表明のいずれかを選択せざるを得なくなった。現政権はもはやいかなる抗議活動も容認しておらず、不都合な批判(特にウクライナへの侵略戦争に対する批判)に対しては、極めて厳しい実刑判決を下している。政権に極めて従順なリベラル系野党である「ヤブロコ」でさえ、その影響を二重に受けている。同党は反戦の立場をとったことで、次期下院(ドゥーマ)選挙への参加を法的に阻まれただけでなく、8月17日には副党首が、ロシア軍の信用を失墜させたとの容疑で11年以上の懲役刑を言い渡された。 クレムリンは、特に次期全国選挙を控え、誰が政権にとって脅威となり得るかを探ることに引き続き関心を寄せている。最近、政権支持者による批判が容認されていることは、情報収集の手段がわずかに変化(あるいは緩和)したと見なすことができる。政権内部の亀裂とされるものが公に露呈したからといって、「プーチン後の時代」が近いと断言すべきではない。プーチン氏が、インフルエンサーや野党指導者さえもはや抑え込めないほど弱体化しているとは考えにくい。 政権支持者によるこうした批判的な言動は、クレムリンによって意図的に容認されている可能性が高いと言える。政権は公然たる抗議活動を避けたいと考えているため、こうした形の異議申し立ては、大規模なデモへの対応を迫られる事態を回避する手段となり得るからだ。2023年6月のワグネルの反乱という経験、支持率のわずかな低下、そして次期下院選挙を考慮すると、特にエリート層の中で誰がもはや現体制に同意していないのかを把握することは重要だ。同時に、それらは政治的な「餌」としても機能する。エリート層や一般市民の中の不満分子がその餌に食いつき、「プーチン体制」が沈没しつつあると誤信して、自らの正体をクレムリンにさらけ出す可能性があるからだ。 西側諸国の情報機関による流出報告書の信憑性を疑う人々は、それがクレムリン内部に不和の種をまくために意図的に作成された可能性があると主張している。このリークの出所や信憑性は依然として不明であるため、報告書の内容が事実か否かにかかわらず、クレムリン自身がその情報をリークした可能性もある。こうした解釈の視点は決定的なものではないが、「プーチン体制」が崩壊の危機に瀕しているという認識に基づき、クレムリンに対する政策提言を性急に策定することへの警鐘を鳴らすものだ。 以上です。今回は、【世界の論考 – 異論反論】ロシア・プーチンが露呈する弱さ!毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.18

今回は、【世界の論考 – 異論反論】ロシアが直面する“国力”リスク、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 変化する世界情勢に合わせ、モスクワは外交政策を調整できるか?米国は長らく、ロシアを「衰退の一途をたどる大国」と見なしてきた。こうした評価は、ソ連が「帝国の過剰拡大」の兆候を露呈し始めた1980年代に形成され、ワルシャワ条約機構、そしてソ連そのものの崩壊を経て定着した。その後、ワシントンはNATO(北大西洋条約機構)の拡大など、ロシアの国力や国益を二の次にする政策を推進し、ウクライナをめぐる長年の対立は、ロシアを軽視する姿勢を「見下す態度」へと変質させた。2014年3月、バラク・オバマ米大統領はロシアを「地域大国」と呼び、その行動は「強さからではなく、弱さから近隣諸国を脅かしているものだ」と評した。ドナルド・トランプ大統領は歴代大統領よりもウラジーミル・プーチン大統領に好意的な姿勢を見せているが、西側のロシア専門家の多くは依然として、ロシアの技術的遅れ、シリア・ベネズエラ・キューバにおける同盟国救済の失敗、そして強大な中国の「属国」へと成り下がったという見方に固執している。 ロシアを「脆弱で衰退しつつある国」と捉えるこうした見方は、プーチン大統領を批判する多くの人々の先入観には合致するかもしれないが、現実とは根本的に異なっている。モスクワは国際情勢において、常にその国力以上の影響力を発揮し続けているからだ。ソ連崩壊から35年が経過した今も、ロシアは核超大国であり続けている。冷戦時代と同様、NATOはロシアを軍事計画の基準となる脅威と見なしている。西側諸国による前例のない制裁網も、その立案者たちが予測したような経済崩壊を引き起こすことはできず、政治的・社会的安定を揺るがすこともなかった。モスクワを孤立させようとする試みも頓挫している。クレムリンは、主要新興国グループであるBRICSや、ユーラシアの政治・安全保障枠組みである上海協力機構(SCO)といった非西側諸国の組織を巧みに推進してきた。そうすることで、現在形成されつつある「ポスト西側」の秩序において、自らの影響力を拡大してきたのである。また、ロシアの経済規模は中国よりはるかに小さいものの、モスクワと北京の「無制限」のパートナーシップは、強力な連携関係を生み出している。 こうした強気な評価には、一つの条件がある。それは、現在の国際情勢が今後も続くという前提に基づいているということだ。モスクワが国力以上の影響力を発揮し続けているのは、分断され予測不可能な世界情勢を巧みに利用し、自国の強みを活かしているからにほかならない。変動の激しさや不安定さ、各地での紛争や軍拡競争、経済のデカップリング(分断)とグローバル化の後退、世界的なナショナリズムやポピュリズムの台頭、ソフトパワーの軽視、そして西側同盟の亀裂など、既存の国際秩序に見られるこうした特徴はすべて、モスクワにとって有利に働いている。 ロシアにとっての下振れリスクは、現在の混乱や不確実性が永続するとは限らないという点にある。いずれ事態は反転し、世界の無秩序状態が収束に向かうとともに、国際システムが再び強固なものへと再編される可能性が高い。そうした転換は、トランプ大統領がホワイトハウスを去る際、とりわけ後任者が大西洋同盟や多国間主義、自由貿易に対する米国の伝統的な支持を回復させた場合に起こり得る。また、気候変動の加速や制御不能に陥ったAIシステム、あるいはその他の予期せぬ事態といった地球規模の衝撃が、各国に対し、現在の対立を脇に置いてより緊密な協力へと向かわせる可能性もある。そうした変化が訪れたとき(そして変化は必ず訪れる)、ロシアは、長年頼りにしてきた外交政策や、かつては信頼できたものの硬直化した自国の制度が、もはや有効に機能しないことに気づくだろう。 国際システムを分断させる遠心的な傾向は、モスクワに有利に働いている。強権的な指導者が支配し、むき出しの力が結果を左右する、分断された危険な世界において、ロシアの軍事力は依然として強さと影響力の確固たる源泉であり続けている。また、ロシアは戦略核兵器において米国と肩を並べることができる唯一の勢力でもある。中国も軍備の近代化と拡大を進めているが、これら二大超大国に追いつくには長い時間を要するだろう。ロシアの核保有国としての地位は、実質的な効果をもたらしている。それはNATO加盟国によるウクライナへの軍隊派遣を抑止してきたほか、軍備管理、戦略的安定とリスク低減、核不拡散、核テロ防止といった分野で、モスクワに強力な外交的交渉力を与えている。通常戦力に関しては、ロシアは外洋海軍(ブルーウォーター・ネイビー)と長距離打撃能力を維持しており、これより広範囲に戦力を投射できるのは米国だけである。確かに、2022年2月のウクライナでの戦闘初期段階において、ロシア軍の深刻な弱点が露呈したことは事実だ。しかし、それからの4年半の間に軍は変貌を遂げ、効率性と戦闘力を劇的に向上させた。モスクワは今や世界最強クラスの軍隊を擁しているだけでなく、次世代の地上戦における独自の経験も積んでおり、これは米国を含む他のあらゆる軍事勢力に対する優位性となっている。ウクライナもまた、新たな戦闘技術に合わせて軍や戦術を適応させてきたが、西側の支援に依存しており、戦闘が停止すればそうした能力を維持できない可能性がある。ロシア軍が蓄積してきた経験は、通常戦争が頻発する時代において、今後もモスクワにとって大きな強みであり続けるだろう。 分断され、資源が不足する世界情勢は、ロシアが持つ豊富な天然資源がもたらす交渉力をさらに高めている。ロシアは石油、天然ガス、石炭、小麦、肥料、ウラン、重要金属、ダイヤモンド、その他のコモディティ(商品)の供給国である。特に価格よりも供給の確保が優先される現在、ロシアはしばしば「取引の主導者」としての役割を果たしている。激しい競争と不安定さを伴う環境は、ロシアの集権的な経済・政治システムの価値をも高めている。西側諸国では、こうした体制は往々にして時代遅れで融通が利かず、国の発展を阻害するものとして酷評される。しかし、強力な国家体制のおかげで、ロシアは西側からの圧力やウクライナでの損失にもかかわらず、社会的・経済的・政治的な安定を維持することができた。社会の分断が深まる現代において、ロシアに見られるような中央集権的かつ個人主導の意思決定プロセスは、リベラルな体制と比べて明確な利点をもたらしている。プーチンは、反対勢力や体制内の内紛、メディアからの抵抗をほとんど受けることなく統治を行っており、西側諸国のような予測不可能な選挙サイクルでは不可能とされる長期的な戦略計画を推進することができる。 一方、米国は政治的な分断と混乱のさなかにあり、気まぐれな大統領と機能不全に陥った議会によって統治されている。トランプはプーチンを尊敬しているだけでなく、彼がロシアを強固に掌握しているそのあり方を羨望しているようにも見える。英国やフランスでは首相が次々と交代するものの、国民の信頼を維持できる者は誰一人としていない。欧州連合(EU)は今のところ存続しているが、意思決定は極めて遅々として進まず、加盟国内ではブリュッセルの官僚機構の打倒を目論むポピュリスト政党への支持が急拡大している。 国際システムが、協力よりも対立を、繁栄よりも安全保障を、グローバル化よりも地域化を、そして相互依存よりも主権を重視する限り、ロシアは今後も世界政治の第一線に留まり続けるだろう。それどころか、商業・金融・技術の面で遥かに大きな能力を持つ国々に対してさえ、比較優位に立つことさえあり得る。対抗する国々は、自国の民主主義に伴う政治的膠着状態や、不満を抱える有権者の動向に縛られることになるからだ。ロシアが西側諸国を完全に打ち負かすことはできないにせよ、互角に渡り合い、引き分けに持ち込むことは可能である(現在の競争的かつ分断された秩序が、妥協や緊張緩和、そして安定へと取って代わられるその時までは)。 歴史は循環するものであり、国際システムの現在のあり方も、一時的なものに過ぎない可能性がある。グローバル化が新たな形で回帰し、不安定な状況が長期間にわたる安定した平和へと取って代わるかもしれない。中東での終わりの見えない紛争がついに終結し、ワシントンと北京が貿易や地政学的な問題で持続可能な妥協点を見出し、欧州連合(EU)が存続の危機を乗り越え、そして新たな国連事務総長が国際情勢における多国間主義の原則を再興させることに成功するかもしれない。こうした情勢の転換は、早ければ米国の次期中間選挙から始まる可能性がある。もし同選挙で、連邦議会におけるトランプ支持派が大敗を喫することになれば、そのきっかけとなり得るからだ。そのような世界では、ロシアが現在最も重視している外交上の強みの一部が、その価値を失い始めるだろう。ロシアが長らく過小評価してきた「ソフトパワー」の重要性が増すはずだ。例えば、戦略戦力や通常戦力への巨額の投資は、モスクワに地政学的な重みをもたらしはするものの、高付加価値な新たなグローバル・サプライチェーンにロシアを組み込む役には立たない。もし国内市場が中国やインド並みに巨大であれば、ロシアはグローバル化の再来に伴うリスクから自国を切り離すこともできただろう。しかし、長期的な人口減少がその選択肢を閉ざしている。化石燃料の需要減少が見込まれる中、炭化水素(石油・ガス等)の輸出をさらに拡大して困難を脱するという策も通用しないだろう。大規模な対内直接投資の獲得競争となれば、さらに困難な状況に直面するはずだ。それには、国家間の高い信頼と透明性、そして安定的かつ利用しやすい法制度が必要とされるからである。 地理的条件は、ロシアにいくつかの利点をもたらしている。世界最長の北極海沿岸線を有することで、ロシアは極北地域の資源埋蔵量や、気候変動に伴い開通する新たな航路において、大きなシェアを確保できる可能性がある。しかし、東アジアと西欧を結ぶ通過回廊としての地位を活かすには、中国だけでなくEUとも長期的かつ安定したパートナーシップを築く必要がある。現時点では、そのような関係の構築は想像しがたい。 最後に、強力な民間のハイテク・エコシステムがなければ、ロシアは技術力において米国や中国に大きく遅れをとることになりかねない。過去20年以上にわたり、ロシア指導部は民間部門に対する統制を強めてきたからである。極めて中央集権的な意思決定体制は、クレムリンが迅速にリソースを動員し、国家を脅かす政治的・社会的事態を未然に防ぐ助けとなってきた。しかし同時に、技術的優位性を回復し、将来の市場で競争するために不可欠な起業家精神や活力を抑え込んでもきた。ロシアのイノベーション基盤は、依然として20世紀のソ連型「国家主導モデル」に根ざしている。しかし、AIやロボット工学、クリーンエネルギー、量子コンピューティング、遺伝子編集といった今日の技術変革は、国家と民間企業との間に新たな連携のあり方を求めている。それは、グローバル・プラットフォーム企業から、重要なブレークスルーをしばしば主導するガレージ・スタートアップに至るまで、あらゆるレベルでの連携を意味する。 ロシアの長期的な命運は、世界秩序の新たな変化に対してリスクを回避し、備える能力にかかっている。現在の「包囲された要塞」というモデルは、国際環境を機会ではなく脅威とみなしている。このモデルは当面の外部リスクを最小限に抑えることはできるかもしれないが、ロシアが自国の地理的条件、資源、人的資本を最大限に活用することを妨げてもいる。米国や欧州との絶え間ない対立は、ロシアの長期的な発展には寄与しない。西側諸国の力は今後も衰退していくかもしれないが、ロシアの対外環境において西側諸国が不可欠な存在であり続けることに変わりはない。彼らはモスクワにとって時に問題の種となり、時に解決策の一部ともなる。平和共存、さらには限定的な協力関係の構築こそが、より望ましい道と言える。 何よりも重要なのは、EUとの関係修復だ。かつてEU加盟国がモスクワにとって主要な経済パートナーであり、新技術や現代的なビジネス慣行の主要な供給源であったことは、今では忘れられがちだ。ロシアと欧州の関係が極めて悪化している現状を鑑みれば、たとえ部分的な関係改善であっても、かなりの時間を要する。しかし、ウクライナでの紛争が終結すれば、双方は関係修復に向けた息の長い取り組みを始めることができるはずだ。たとえ譲歩や短期的な利益の放棄を伴うとしても、国際的な法規範、とりわけ国連やその他の国際機関が定める規範を遵守する役割を果たすことは、ロシア自身の利益にもかなうことである。「力こそ正義」が支配する世界は、確かに短期的にはモスクワに好機をもたらすかもしれないが、しかし、長期的にはそれは危険な賭けである。国際的な勢力均衡は急速に変化しつつあり、新たなアクターが台頭している。ロシアを含むすべての主要国に支えられた強固な国際法体制こそが、現状変更を志向する誘惑に対する数少ない防波堤の一つとなり得る。批判者たちを当惑させることに、ロシアは現在、強さを維持し、その実力を証明してみせている。しかし、その成功を持続させるためには、短期的な利益や狭隘な自己利益を超えた視点を持つ必要がある。国際システムの激動や急速な技術変化に耐え抜く力が求められる。ロシアには自らの進路を決定する資源や能力が備わっているが、変化よりも安定を好む姿勢に固執しすぎているきらいがある。1990年代の痛ましい記憶を考えれば、その姿勢も理解はできる。当時、変化は破局として訪れ、数百万人のロシア人から職や貯蓄だけでなく、自尊心や帰属意識、さらには生きる意味さえも奪い去ったからだ。しかし、そうした選好は、適応を拒む姿勢へと硬直化してしまう恐れもある。かつて大国を歴史の表舞台から退場させることになった、あの「硬直化」である。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】ロシアが直面する“国力”リスク毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.17

今回は、【世界の論考 – 異論反論】アジアによって「再構築」されつつあるBRICS!、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 ワシントンは依然としてBRICSを主に「反西側」の枠組みと誤認しているが、真の焦点は、アジアのエネルギー、技術、そして連結性(コネクティビティ)がいかにして前面に出てきているかという点にある。 ワシントンは今週開催されるBRICS首脳会議を、中国、ロシア、そして「脱ドル化」というレンズを通して見るだろう。しかし、それによって、より重要な側面を見落とすことになる。それは、開発、技術、エネルギー、連結性といったアジアの優先事項が、BRICSのあり方を静かに作り変えているという事実だ。 インドは以前から、BRICSの「反西側」的なレトリックにとらわれず、加盟国拡大によって同グループの焦点がどう変化したかに目を向けるよう主張してきた。つまり、現在何が喫緊の課題とみなされているか、そしてどのような制度的代替案を提示しようとしているか、という点である。 BRICSの加盟国11カ国のうち、中国、インド、インドネシア、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)の6カ国がアジアに位置している。購買力平価(PPP)ベースで見ると、これら6カ国はBRICSのGDPの約83%(ユーラシア大陸にまたがるロシアを含めれば90%)を占め、中国単独でも58%に達する。中国とインドを合わせると、同グループの人口の71%、GDPの74%を占めることになる。BRICS全体では、世界のGDPの約40%、そして世界人口のほぼ半数を代表する存在となっている。しかし、こうした数字でさえ、アジアが持つ影響力を過小評価していると言える。これら6カ国は、製造、消費、エネルギー、海運、金融、技術といった分野が交差する要衝に位置しているからだ。中国は世界最大の原油輸入国であり、インドはそれに次ぐ規模で、かつ主要なエネルギー消費国の中で最も急速に需要が拡大している国である。サウジアラビアとUAEは極めて重要な石油輸出国であり、イランも依然として主要な炭化水素生産国である。さらにインドネシアの参加により、東南アジアの広大な資源と消費経済がこの枠組みに取り込まれることになる。 BRICSの拡大は、エネルギー生産国と消費国の間で、極めて特異な構造を生み出した。サウジアラビア、UAE、イランは、アジアの加盟国にとって生命線となる膨大な炭化水素埋蔵量をもたらしている。実際、これら3カ国の輸出先の44%を中国とインドが占めている。2025年、UAEは日量約320万バレルの原油を輸出し、その99%がアジア・オセアニア向けであった。一方、中国は同年に日量1160万バレルという過去最高の原油を輸入した。天然ガスに目を向けると、その構図はさらに鮮明になる。カタールはBRICSの加盟国ではないが、UAEは加盟しており、両国のLNG輸出を合わせると世界のLNG貿易の20%近くを占める。しかも、2025年時点ではその90%近くがアジア市場向けとなっている。ここから導き出される結論は明らか。すなわち、BRICSにおけるエネルギー安全保障は今や、湾岸地域のチョークポイント(海上交通の要衝)やインド洋の海上交通路の安全確保と切り離せないものとなっている。 こうした状況において、2026年にBRICS議長国を務めるインドの役割が決定的な意味を持つ可能性がある。インドは、より繊細かつ、長期的にはより強固な基盤となり得るアプローチを試みている。それは、BRICSを「議論のための場」ではなく「具体的な成果を生み出す場」として定着させることだ。「強靭性、イノベーション、協力、持続可能性の構築」を掲げる同国の議長国としてのテーマは、エネルギー安全保障、技術、開発、気候変動、貿易、連結性、そして制度改革といった要素を、従来の地政学的な課題と並列に位置づけている。「万人のためのエネルギー(Energy for All)」を軸とするエネルギー分野の取り組みでは、安全保障と、エネルギーの「手頃な価格(アフォーダビリティ)」、持続可能性、イノベーションとが結びつけられている。インド外務省は、BRICSの議論の中心に「グローバル・ガバナンスの改革」を据えている。これは、地政学的な視点を放棄するのではなく、むしろ開発の課題と融合させるという、極めてアジア的な政治的アプローチと言える。 BRICSのアジア化は、それ特有の矛盾を孕んでいる。同グループの最大経済国である中国とインドは、協力者であり、競争相手であり、かつ戦略的ライバルでもある。両国の存在感がBRICSに重みを与えている一方で、その相違点が事態を複雑にしている。しかし、BRICSの組織文化は、外交的立ち位置が根本的に異なる加盟国同士が、特定の分野を選んで協力することを可能にしている。インドは「クアッド(日米豪印)」を通じて米国と関わりつつ、BRICSでは中国やロシアと連携することができる。サウジアラビアやUAEは、イランも参加する枠組みに身を置きながら、米国との関係を深めることが可能だ。インドネシアは、中国・インド・ロシアの影響力が強まるグループに参加しつつ、非同盟という伝統を維持できる。これは一貫性の欠如ではなく、「アジア的戦略多元主義」なのだ。 インドネシアの加盟によって、その多元主義はより鮮明になった。同国の参加は東南アジアをBRICSの組織的中核へと引き込み、「BRICSとは本質的に中国・インド・ロシア・ブラジル・南アフリカによる対話の枠組みである」という従来の前提を覆した。インドネシアは、世界で最も重要な海上交通路の一部にまたがる巨大な群島国家の経済という、新たな「アジア型発展モデル」を同グループにもたらしている。インドネシアの存在により、サプライチェーン、重要鉱物、海上連結性、食料安全保障、そしてグローバル・サウスの産業変革といった課題を、単なる「周辺的な問題」として扱うことは難しくなっている。BRICSの地理的構成は、ますますインド太平洋地域の姿を反映するものとなりつつある。 「脱ドル化」の再考アジアにおける次なる「再構築」は、技術の領域で進んでいる。アジア諸国は、デジタル公共インフラ、即時決済、デジタルID、人工知能(AI)、そしてテクノロジーを活用した福祉サービスの提供といった分野で、積極的な試みを行ってきた。特にインドは、こうしたインフラが単なる商業的なツールにとどまらず、いかにして発展のための手段となり得るかを示している。こうした経験は、BRICSに対し、ドルに代わる通貨を求めるという従来の執着を超えた新たな課題をもたらしている。より重要な問いは、他地域で設計された既存の制度への依存を減らすような、相互運用可能なデジタルシステム、AIガバナンスの原則、国境を越えた決済ネットワーク、そして技術標準を、BRICSが構築できるかどうかという点にある。こうした転換により、BRICSの物語は「西側への対抗」から「西側と並行した構築」へとその性格を変えつつある。ドルという問題は依然として最も困難なパズルのピースだが、ここでもアジアの影響力がBRICSを現実的なアプローチへと向かわせている。中国とインドは自国通貨による貿易を拡大しており、湾岸諸国にも外貨準備を多様化させる動機がある。西側諸国による制裁は、ロシアに代替的な決済ルートの開発を促した。これらの国の多くは、一夜にしてドルに取って代わることを望んでいるわけではない。より現実的な戦略は、金融面での「冗長性(バックアップ体制)」の確保。つまり、通貨、決済ルート、決済メカニズムを多様化させ、単一の脆弱性ポイント(単一障害点)を減らすことだ。これは革命ではなく、システムの「再構築」である。 西アジアが中心へイラン、サウジアラビア、UAEの加盟は、BRICSの戦略的構図をも塗り替えた。西アジアはもはや同グループにとって「外部」の存在ではない。石油、ガス、海上輸送路、テロ、海洋安全保障、地域紛争といった要素がすべて交差する、経済と安全保障の「大動脈」の中心に位置するようになった。ホルムズ海峡が「武器」として利用され得る状況は、湾岸地域の産油国とアジアの主要経済圏がいかに密接に結びついているかを示した。海峡の機能不全が長期化すれば、それは世界的な事態となる。米国の安全保障というレンズを通して中東を捉えることに慣れてきた戦略家たちにとって、これは概念的な転換を意味する。西アジアのエネルギーを東方へと引き寄せているのは、ますますアジアの需要となっている。また、アジアはBRICSにおける「安全保障」の定義を拡大しつつある。テロ、食料安全保障、エネルギーの強靭性(レジリエンス)、サプライチェーンの寸断、重要鉱物、気候変動への脆弱性、そして海洋の連結性といった課題が、戦争や平和といった従来の安全保障問題と並んで議論されるようになっている。アジアの主要国は長らく、安全保障を単なる軍事的な範疇としてではなく、経済的な脆弱性と戦略的な脆弱性を結びつける連続的なものとして捉えてきた。例えば、航路の遮断はインフレを引き起こし、半導体サプライチェーンの寸断は国家安全保障上の緊急事態となり、エネルギー・ショックは外交危機へと発展し得る。BRICSは、こうした安全保障に対するより包括的でアジア的な概念を、徐々に取り入れてき。 BRICSの真の「再構築」最も根本的な変革は、制度面での変化だ。BRICSがアジアの組織へと変貌を遂げているわけではない。ブラジル、ロシア、エジプト、エチオピア、南アフリカは依然として不可欠な存在であり、アジア自体も一枚岩ではない。中国とインドは対立し、イラン、サウジアラビア、UAEはそれぞれ異なる地域的優先事項を抱え、インドネシアは独自の戦略的自律性を維持しようとしている。変化したのは、BRICSの議論が今や、アジアの発展への野心、戦略的自律性、エネルギーの相互依存、技術的試行、海洋への意識、そして制度的多元主義によって形作られるようになったという点だ。その結果生まれたのは「アジア版BRICS」などではなく、アジアの経験がもたらす課題や可能性によって、その性格がますます規定されるBRICSである。真に問われているのは、かつて5つの新興国を中心に構築されたこの枠組みが、人口、生産、エネルギー、技術、そして連結性(コネクティビティ)が驚異的な規模で集中するアジアによって、静かに「再構築」されつつあるのかどうか、という点である。もしそうだとすれば、BRICSは単に拡大しているのではなく、その回路そのものを組み替えようとしているのである。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】アジアによって「再構築」されつつあるBRICS!毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.17

今回は、【世界の論考 – 異論反論】原子力エネルギー分野における米国・中国競争!、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 米国と中国は、原子力エネルギーの主導権をめぐる戦略的競争の時代に突入している。米国にはリソースが不足しているわけではないが、政府による調整のあり方は、中国のスピードや規模に見合うものではなかった。根本的な問題はリスクにある。原子力インフラの建設には、収益が発生する何年も前から、開発事業者が数十億ドルもの資金と数千人時もの労働力を投入する必要があり、10年以上に及ぶこともあるプロジェクト期間において極めて大きな不確実性を生じさせている。中国は、中央集権的な国家計画と展開の仕組みを活用することで、この問題を緩和している。この中央集権的なシステムにより、中国は原子炉の設計、許認可、調達、展開のサイクルを標準化しつつ、それらを支える資金調達、労働力、インフラ、サプライチェーンを調整することが可能になっている。その結果、インフラの急速な整備だけでなく、経験の迅速な蓄積も実現している。各プロジェクトが、次のプロジェクトに必要な産業能力、組織的知見、熟練した労働力、サプライヤー基盤を構築していくのである。こうして中国はリソースを結集し、単に原子力発電所を建設するだけでなく、時間の経過とともに優位性を増幅させる「支援エコシステム」を構築しており、エコシステムの成熟に伴い、導入が加速している。 中国が中央計画に依存する一方で、米国はその主要な強みを発揮させるためにインセンティブを活用する必要がある。米国はすでに、初期建設や品質保証から、運転、プロジェクト管理、研究に至るまで、原子力インフラのライフサイクル全体にわたって熟練した専門職を育成できる、充実した継続教育システムを有している。また、原子力導入に伴う巨額の初期費用を調達できる、ダイナミックかつ高度な資本市場も備えている。さらに、連邦政府の規制環境は近年原子力開発をより支援する方向へと変化しており、新たな原子力インフラに対する超党派の政治的支持も高まっている。米国独自のシステムを構築するとは、原子力プロジェクトを取り巻くエコシステムそのものを、独立した公共政策の目標として位置づけることを意味する。政府は、建設開始前に労働力供給のパイプラインを構築し、インフラ投資をプロジェクトのスケジュールと調整し、サプライヤーの適格性確認や能力強化を促進し、規制・許認可プロセスの不確実性を低減し、さらに公的資金や調達の仕組みを活用して民間投資家のリスクを軽減するといった支援が可能である。こうした手段を提供することで、政府はインフラ建設プロセスに伴うリスクを低減し、資本市場が米国の成長に投資するための新たな機会を創出することができる。 米国のプロジェクト開発者が直面するリスクの様相は多岐にわたり、それらは互いに複雑に絡み合っている。最大のリスクは、常に開発および規制に関するリスク。開発者は、建設を予定通りに進められるという確証を得るまでに、用地調査、エンジニアリング、許認可取得、環境審査などに数年もの歳月と数億ドルもの資金を費やす可能性がある。この期間中も資金調達コストは積み重なるため、規制当局の視点からは些細に見えるような遅延であっても、プロジェクトの採算性を根本から変えてしまう恐れがある。第二のリスクは、建設およびサプライチェーン(供給網)に関するリスク。原子力プロジェクトには、数千人の作業員、特殊な機器、適格なサプライヤー、そして製造に数年を要する場合もある部品などが必要だ。熟練労働者の不足や、納入に長期間を要する部品の到着遅れが一つでも生じれば、建設スケジュール全体が狂いかねない。その結果、高価な機器や作業員が遊休状態にある間も、プロジェクトの資金調達コストだけは増え続けることになる。こうしたリスクを個々の開発者が管理するのは特に困難。なぜなら、プロジェクトを完遂するために必要な能力の多くが、プロジェクトそのものの枠外にある企業や機関による投資に依存しているからだ。最後のリスクは、市場および資金調達に関するリスク。原子力発電所は、実際に電力や収益を生み出す前に巨額の資本を必要とする。一方で、その経済的価値は、電力価格、電力引取契約、金利、そして数十年にわたる競合する発電方式のコストといった要因に左右される。そのため投資家は、建設にかかる予想コストに対する対価だけでなく、遅延や市場環境の変化によってプロジェクトの収益性が損なわれる可能性に対する対価も求める。不確実性が高ければ高いほど、初期投資を正当化するために求められるリターンも大きくなり、結果として民間資金による調達の基準をクリアできるプロジェクトの数は減少することになる。 米国インフラプロジェクトのリスクを政府がいかに低減できるか原子力インフラのリスク低減に向けた第一歩は、開発活動の多くを民間投資が行われる段階よりも前の「上流」工程へと移行させることだ。連邦政府や州政府は、開発業者が多額の資本を投じる必要が生じる前に、原子力発電所の候補地やその周辺インフラの準備を進めることができる。また、政府は候補プロジェクトに伴う労働力やサプライチェーンの要件を特定し、それらが制約要因となる何年も前から不足や課題への対応を開始することも可能だ。建設に向けた条件をあらかじめ整えておくことで、政府は、プロジェクトが資金調達可能な段階に至るまでに個々の企業が負わなければならない開発リスクを軽減できる。同様に、政府は実際のプロジェクトのスケジュールに合わせて、地域的な能力を結集させる体制を構築することもできる。原子力プロジェクトには、単に原子炉や建設会社が必要なわけではない。数千人の有資格労働者、専門的な製造業者、教育機関、電力会社、輸送ネットワーク、そして地方自治体といった関係者が、適切なタイミングでそれぞれの役割を果たす必要がある。州政府は、候補プロジェクトを軸にこうした能力の調整を担う「地域原子力開発パートナーシップ」を設立できる。これらのパートナーシップは、建設を直接管理したり、民間開発業者に取って代わったりするものではない。その目的は、建設開始時にプロジェクトを支えられるよう、労働力、サプライヤー、インフラ、公共機関などの体制を整えておくことにある。これにより、個別に存在する不確実性の集合体が、開発業者や投資家が事前に評価可能な、調整された展開計画へと変わることになる。さらに連邦政府は、民間資本では負担しにくいリスクに対処するために、自らのバランスシートを活用し始めることも考えられる。債務保証、税制優遇措置、長期の電力引取契約、マイルストーン(達成段階)に応じた助成金などを活用すれば、政府がプロジェクト全体に資金を供給することなく、資金調達や市場に関する不確実性を低減できる。これらの手法は、プロジェクトリスクの測定可能な低減を軸に設計されるべきであり、同時に、建設や運転のパフォーマンスに対する民間の関与(リスク負担)が適切に維持されるような仕組みである必要がある。その目的は、開発業者に利益を保証することではなく、本来であれば実現可能なプロジェクトが民間投資を呼び込めるよう、リスク調整後の資本コストを十分に引き下げることにある。最後に、各国政府は、個々の原子炉を単発の事業として扱うのではなく、予測可能なプロジェクトのパイプライン(継続的な計画)を構築することを検討すべきだ。長期的な調達の確約、標準化された規制プロセス、そしてインフラや人材育成への協調的な投資は、単一のプロジェクトを超えて需要が続くという確信を、製造業者や請負業者に与えることができる。そうした予測可能性そのものが、リスク低減の一形態となる。 中国との原子力エネルギー分野における競争の行方は、民間資本の活用にかかっている。政府が資金面や規制面でのセーフティネット(下支え)の役割を果たすことで、民間開発業者や投資家にとっての採算性や投資判断の前提を変えられる可能性がある。こうした官民連携の仕組みが機能し、広く理解されるようになれば、米国の資本市場は、全米各地に雇用とエネルギーをもたらすインフラ整備のための資金を供給できるようになる。資本市場こそが米国を特徴づけるものであり、中国とのあらゆる経済競争において最大の強みとなるが、それが機能するためには、政府が適切な方向へインセンティブを設計することが不可欠だ。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】原子力エネルギー分野における米国・中国競争!毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.17

今回は、【世界の論考 – 異論反論】英国による対イスラエル制裁は裏目に出るだろう!、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 アンディ・バーナム率いる政権による、イスラエルの入植地からの産品に対する新たな制裁この制裁はパレスチナ国家樹立の運動を支援する意図があるものの、実際には逆効果となる可能性がある。さらに悪いことに、米国への英国の輸出に打撃を与える恐れさえある。イスラエルに対する英国の政策の「包括的な見直し」は、険悪な雰囲気の中で行われているイスラエル総選挙の最中になされた。次期政権を担う可能性のある勢力のほとんどは、パレスチナ国家の樹立に反対している。しかし、極右政党は、ガザを皮切りにパレスチナ人を追放したい(彼らはこれを「自発的な再定住」と呼んでいる)という意図を公然と示している。彼らは対立する相手となる外国政府を探していたが、英国がその期待に応えてしまった格好だ。 イスラエルのイタマル・ベン・グヴィル国家安全保障相は、自らが所属する政府に対し、フォークランド諸島を「占領下にあるアルゼンチン領土」として認めるよう求めた。挑発行為に長けたベン・グヴィルは、X(旧ツイッター)にスペイン語でそのメッセージを投稿し、アルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領をタグ付けした(ミレイ大統領は即座にそれをリポストした)。ベン・グヴィルは、英国が「アルゼンチン国民から暴力的に奪った」領土を保持し続ける限り、英国に対する国際的な制裁を求めた。 イスラエル政府内のもう一人の有力な右派政治家であるベザレル・スモトリッチは、イスラエルに対し、英国大使を追放するよう求めた――それも「今夜すぐに」だ。彼は次のように述べた。「我々は、反ユダヤ主義的な政権に踏みつけられるような『踏み絵(ドアマット)』にはならない。」 財務相であると同時に、スモトリッチは事実上、ヨルダン川西岸地区(1967年の戦争でイスラエルが占領したヨルダン川以西の地域)の統治者でもある。彼は、いわゆる「丘の若者たち(入植活動を行う過激派の若者)」に対し、可能な限り多くのパレスチナ人の土地を占拠するよう奨励してきた。いくつかの推計によれば、彼の在任中に200もの新たな入植地や前哨拠点が作られたという。しかし、最大の「獲物」と言えるのがE1地区の開発計画だ。スモトリッチ氏によれば、この計画は「パレスチナ国家樹立の構想を完全に葬り去る」ものだとされている。同地区では3,000戸以上の住宅建設が計画されており、先月、イスラエル政府はそのうち1,200戸の建設に関する入札を行った。これが、英国による制裁措置の引き金となった。 自身も入植者であるスモトリッチ氏は、この土地が神からユダヤ人に与えられたものだと信じている。E1地区の面積は5平方マイル(約13平方キロメートル)にも満たないものの、占領地全体(あるいは「ユダヤ・サマリア」と呼ぶならその地域)において、おそらく最も重要な土地と言える。そこで建設が進めば、パレスチナ側が首都と主張する東エルサレムが切り離されることになる。また、ヨルダン川西岸地区も事実上、南北に分断されてしまう。スモトリッチ氏は、E1地区の開発によってパレスチナ国家の樹立は不可能になると主張している。「承認すべき対象も、承認すべき相手も存在しなくなるからだ」というのがその理由だ。 1990年代以降、歴代のイスラエル政権はE1地区の開発計画を進めたり中断したりを繰り返してきた。ブルドーザーが投入されそうになるたびに、国際的な非難の声が上がり、何よりもワシントン(米国政府)からの圧力がかかってきたからだ。しかし今や、「イスラエルにとって史上最高の友人」を自任するドナルド・トランプ氏は、E1地区の問題について沈黙を決め込んでいる。したがって、駐イスラエル米国大使のマイク・ハッカビー氏がこの制裁措置を批判する姿勢を見せたのも、驚くには当たらない。同氏はすでに、エド・ミリバンド外相との間で異例の論争を繰り広げていた。ミリバンド外相が、ガザ地区への医薬品の搬入が許可されているかどうか疑問を呈したことが発端。ハッカビー氏は「英国は常軌を逸している。・・・英国政府のユダヤ人嫌悪には限度というものがなく、事実に基づいてもいない」と述べた。火曜日に出演したラジオ番組「トゥデイ(Today)」でも、彼はその主張を曲げなかった。ミリバンド外相がユダヤ人であること(彼はナチスから逃れた難民の息子)を指摘されても、態度は変わらなかった。「人の判断は、その行動に基づいてなされるべきだ」と述べたハッカビー氏は、入植地産品の禁止措置について、「イスラエル政府およびユダヤ人に対する差別だ」と主張した。さらに同氏は、英国がこの措置を強行すれば、「米国からの制裁、反動、あるいは報復措置」を招く可能性があると警告した。 ハッカビー氏は、イスラエルをボイコットする企業や国との取引を禁じる法律を可決したフロリダ州などの例を挙げた。フロリダ州選出のランディ・ファイン下院議員は、英国政府に対し、「イスラム教徒のテロを支援するという彼らの虚栄心を満たすための計画が、数十億ドルの損失を招きかねないことを理解すべきだ」と述べた。一見すると、これは愚かな脅しのように思える。毎年100万人の英国人観光客がフロリダを訪れており、彼らは同州の経済にとって不可欠な存在だ。英国はフロリダにとって最大の対外投資元でもある。しかし、米国は宗教的な国であり、数百万人の有権者が「キリスト教シオニスト」である。彼らは、聖書に記されたイスラエルの地にユダヤ人の国家を築くことが神の定めであると信じている。政界入りする前はバプテスト派の牧師だったハッカビー氏も、かつて「イスラエルを祝福する者は祝福され、イスラエルを呪う者は呪われるだろう」と語ったことがある。 大騒ぎにはなっているものの、英国による制裁措置は大部分が象徴的なものに過ぎない。イスラエル経済のごく一部にしか影響を及ぼさないからだ。つまり、この制裁はイスラエル本土を原産地とする製品やサービスには適用されない。最もあり得る結末は、入植地で製造された製品のラベルが単に「イスラエル製」に張り替えられるだけ、ということだろう。それに、英国は武器の供与など、他の形ではイスラエルを支援し続けている。 それでも、イスラエルの右派にとって、英国に対して辛辣な態度をとることは都合が良い。それはベンヤミン・ネタニヤフ首相も同様だ。彼は英国を「英国・イスラム共和国」と呼んだことがあり、先月にはJ.D.ヴァンス氏のジョークを引用して、同国が「核兵器を保有する最初のイスラム共和国」になるだろうと繰り返した。世論調査ではネタニヤフ氏が(わずかに)遅れをとっているが、彼が2009年以来、わずか18ヶ月の空白期間を除いてイスラエルの首相であり続けてきたのには理由がある。彼は、これまで何度も「終わった」と言われながらも生き残ってきた、政治の世界の「脱出王」のような人物なのだ。世論調査は、中道右派や極右政党への支持を過小評価している可能性もある(世論調査には往々にしてそういう傾向がある)。 たとえ彼が敗北したとしても、イスラエルの戦略は、3つの戦線で3年近くにわたって彼が描いてきた路線の枠内で進められることになるだろう。彼の主な対抗馬である元参謀総長のガディ・アイゼンコット氏もまた、ハマスの武装解除に強い意欲を燃やしているからだ。同氏は先月、10月7日の出来事を経てなお「二国家解決」を考えている者は「単なる妄想を抱いているに過ぎない」と語っている。彼は「ダヒヤ・ドクトリン」の提唱者である。同ドクトリンは、ヒズボラやハマスといった組織に対し、圧倒的な武力を行使することを求めている。イスラエルへの攻撃拠点として利用される町や村は、民間人の居住地域ではなく、軍事拠点として扱われる。この「ダヒヤ・ドクトリン」の適用により、ガザ地区の大部分は瓦礫の山と化した。しかし、アイゼンコット氏は「E1」計画(ヨルダン川西岸地区での入植拡大計画)を誤りだと指摘し、スモトリッチ氏やベン・グヴィル氏が「イスラエルの国際的な正当性を損なっている」と批判している。 英国の動きは無視できても、米国の動きを無視することはできないだろう。米国におけるイスラエルへの支持は、宗教的・共和党支持・高齢者層という基盤に支えられているからだ。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】英国による対イスラエル制裁は裏目に出るだろう!毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.17

今回は、【世界の論考 – 異論反論】IMFによる中国通貨への「お墨付き」が意味するもの!、というテーマで、最近の論考を、論点整理したいと思います。毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。 10年前、国際通貨基金(IMF)は、特別引出権(SDR)の構成通貨バスケットに中国の人民元を加えることを決定した。これは画期的な出来事であった。米ドル、ユーロ、英ポンド、日本円にのみ与えられていた地位に中国の通貨を引き上げることで、国際社会は中国に対して特別な「お墨付き」を与えた。しかし、国際社会のこの決定は当時(2016年)から疑問視され、激しい議論の的となっていた。そして今日、この決定が、より分断された世界通貨システムの種をまいてしまったのではないかという懸念が高まっている。 中国は新興の貿易大国としての地位を確立していたが、2016年当時の人民元は、政府の外貨準備においてカナダドルや豪ドルと同程度の重要性しか持っていなかった。取引可能な通貨の中で、その存在感はごくわずかなものだった。その主な理由は、中国政府が国内への資本流入と国外への資本流出を厳しく制限し、外国為替市場における人民元の動きをさらに厳格に管理していたことにある。当然のことながら、人民元をIMFの主要通貨の一つに加えるという決定には、かなりの懐疑的な見方が寄せられた。 それ以来、中国は世界最大の製造品輸出国となり、貿易の資金調達や決済における人民元の利用は爆発的に増加した。2024年には、中国の物品貿易の27%、サービス貿易の32%を人民元が占めるに至っている。それでもなお、中国政府による資本取引の管理体制はほとんど変わっておらず、世界の外国為替市場への人民元の統合は依然として厳しく制限されたまま。 習近平指導部の下、中国はこうした制限を利用して国内資源を「囲い込み」、先端技術などの優先的な投資分野への資金を確保すると同時に、米ドル基軸の世界経済への依存を抑え、経済制裁に対する脆弱性を低減させてきた。しかし、中国政府のこうした手法は国際的な緊張も招いている。結局のところ、一貫して過小評価された状態にある人民元は、中国が世界に対して巨額の貿易黒字を維持する一因となってきた。 IMFが人民元をSDR(特別引出権)の構成通貨バスケットに加える決定を下したのは、世界有数の経済大国である中国との結びつきを強化するためだった。しかし、人民元が組み入れられた当時、中国は他のSDR構成通貨の基盤となっている開放的な体制とは根本的に異なる金融制度を維持していた。それにもかかわらず、IMFは国際取引における人民元の「利用可能性」について寛容な解釈を適用することで、その採用を認めた。ただし、この決定は、中国がいずれ通貨に対する統制を緩和するだろうという前提に基づいたものであった。 2016年以降、中国政府は資本規制制度の改革に向けていくつかの措置を講じてきた。中国の株式・債券市場への外国投資を認め、主に香港を経由する形ではあるものの、中国人投資家の資金が海外資産へ流れることを限定的に許可。また、オフショア人民元預金の促進や人民元建て融資の拡大、中国国外での人民元建て債券発行の管理・監督も行っている。さらに、中国政府は人民元建ての国境を越えた決済システムの普及も推進し始めた。しかし、「国際化」の推進を名目に行われたこれらすべての改革は、依然として中国政府の厳格な管理下に置かれている。 結論として、人民元は他のSDR構成通貨に比べて、世界経済への統合が著しく遅れている。米連邦準備制度理事会(FRB)のグローバル金融市場担当責任者は2024年の報告の中で、中国政府による為替レート管理や資本規制が「人民元のさらなる普及や人民元建て資産の魅力を制限し続けている」と指摘し、その結果、国際利用において人民元は依然として「ニッチな通貨」にとどまっていると述べている。その結果、人民元は異例の立ち位置に置かれることになった。国際的な広がりを見せている通貨でありながら、その国境を越えた利用は依然として中国によって厳格に管理されている。中国が目指しているのは「通貨の国際化というよりはむしろ、人民元の国境を越えた利用のための代替的な通貨システムの構築に近い」と指摘されている。 中国政府は依然として通貨市場における人民元の動きを抑制している。IMFは最近、人民元が17.3%から25.3%過小評価されていると試算した。こうした状況は中国の輸出急増を後押しし、不動産市場の崩壊、投資の減速、消費者マインドの急激な悪化といった厳しい圧力に直面する中国経済にとって、重要な成長の源泉となってきた。したがって、中国の人民元に対する姿勢は、単なる国内政策の選択にとどまらず、進行中の世界経済の分断を助長する要因ともなっている。 もしこの分断が続けば、次なる金融危機は世界秩序に対して前例のない試練を突きつける可能性がある。仮に米国政府が、そうした危機を緩和するために必要なドル流動性を供給できない(あるいは供給する意思がない)事態となれば、中国は大きな影響力を行使できるようになるかもしれない。また、人民元建て資産への需要が急増すれば、中国は重要鉱物の場合と同様に、新たな「チョークポイント(戦略的要衝)」を掌握し、それを自国に有利に利用する可能性がある。その結果、財政難に陥った国々は、人民元を利用するために政治的あるいは経済的な代償を支払うことを余儀なくされるかもしれない。 この窮地から抜け出す簡単な方法はない。各国政府が北京の国際システム操作のやり方をどう考えているにせよ、特に経済の不確実性が高まる中で、人民元をSDR構成通貨から除外することへの支持はほとんど得られないだろう。残されたのは、影響力を行使する立場だ。IMFは5年ごとにSDR構成通貨の比率を見直しており、次回の見直しは2027年7月までに完了する予定だ。IMFはこの機会を利用して、中国が国際的な義務、特に資本勘定の開放を履行するためのロードマップを示すべきである。また、IMFは協定条項における「自由に利用可能な」通貨の要件に関する文言を強化すべきだ。来年議長国を務めるG7(主要7カ国)も、こうした要求を後押しすべきである。 以上です。【世界の論考 – 異論反論】IMFによる中国通貨への「お墨付き」が意味するもの!毎回ホットなテーマで、世界の論考を、概略(未定稿ですが)紹介します。皆さんの知的関心の一助になれば幸いです。
2026.09.17
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