ぜんちゃんの風に吹かれた日々

ぜんちゃんの風に吹かれた日々

2006年01月20日
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カテゴリ: ライフスタイル
久しぶり正月にEさんと会ったら不動産のことで相談を持ちかけられた。


「いつもひと段落するとみんなでギター弾きながら歌っているのよ」
Eさんはずいぶん年季の入ったヤマハのガットギターと歌本を差し出した。
ボクは「やっぱりこのあたりの歌ですか?」と陽水の「夢の中へ」をギターで弾き出すとスタッフのWさんが微笑みながら側に寄ってきた。

いま障害者たちに講師を呼んで尺八を教えていると言う。
「スゴイのよ、音が出るとね、みんなが輝きだすのよ」
Eさんがそういうと自前の尺八を取り出し子供のように笑った。
「だからこれ、いま最高のマイブーム…ちょっと聴いてよ」


和やかなひとときが流れだす…。
「この施設の仲間でオリジナルCD作ったんだけどもう聴いた?」
知らないというとそのCDを早速ラジカセで聴かせてくれた。
微笑ましくて優しいその歌に素直に感動するとCDを一枚プレゼントしてくれた。
ボクはそのCDを手に取ってクレジットを読んでいたら気になる名前を見つけた。
「このCDをプロデュースしたSさんってD町に住んでいませんか?」
確かにそうだというEさんからSさんの仕事内容を聞くとボクが思っているSさんとは微妙に違う感じがした。
ボクが知っているSさんは十数年前にシンガー豊田勇造さんのコンサートを自宅で開いたりしていた人だ。
その後も二、三回あちこちで勇造さんのライヴを企画して自らギターのサポートをしたりしていた。
ボクはそんなライヴを見に行っては勇造さんにサインを貰ったりSさんと歓談したりした記憶がある。

その夜そのCDで弾いているSさんのギター伴奏を聴きながら思った。

次の日、直ぐにボクはEさんに連絡してSさんを紹介してもらうことにした。
いまなら職場にいるからとEさんが言うので早速Sさんに電話をしてみた。

見事にヒットしたのだ。
とっくにSさんの容姿も当時の記憶も薄れてしまったけれどボクとSさんは電話で打ち解けてしまった。
SさんはボクのCD制作の協力を快く引き受けてくれた。


障害者の人たちは楽しそうに笑い合いながら働いていた。
Sさんは突然の訪問にも関わらずボクを笑顔で歓迎してくれた。
少しずつ記憶が蘇えるけれど、あの頃のSさんは今より細身でクリエーターっぽくて、ちょっといい男だったように思える…。
だからいまのSさんは不恰好になったということではない。
確かに白髪が目立つボサボサ頭に汚れた上着とズボン、おまけに塗料で手が汚れていたけれど内に秘めた静かな音を奏でていたような気がした。
「あのCDの一曲目、ニール・ヤングのカントリーをイメージしてみたんですよ…」
ぐっとくる切り出しを恥ずかしそうに言い放つ。
そして音楽談義になるとSさんは封印してた宝箱を開けたようにジャクソン・ブラウンやライ・クーダーやデイヴィッド・リンドリーや豊田勇造さんやマリア・マルダーなどの名前が噴出してきた。

Sさんもまたいろんな道を歩んできたようだ。
そしていまその授産施設で鶏や豚の世話をし障害者と共生している…。
なるほどあのCDのリードギターの素晴らしい音色はこんな環境の中で構築されたわけか…。

「本当に楽しみですね…」
Sさんは目を細めて言った。
「いやいやSさん、おれ…そんな大したウタ作ってないっす」
ボクは恐縮して恥ずかしくなった。












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最終更新日  2006年01月21日 03時06分00秒
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