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最終処分地選定の課題
―鈴木 達治郎 ―
原発から出る高レベル放射性廃棄物の最終処分地の選定を巡っては、北海道・寿都町、神恵内村の文献調査の最終報告書案が了承され、佐賀県玄海町では文献調査が始まっている。しかし、政府が目標とする 10 件程度の候補地選定にほど遠い。進まない最終処分地の選定の課題はどこにあるのか、改善すべき点は何か。原子力委員会委員長代理もつとめた長崎大学核兵器廃絶研究センターの鈴木達治郎教授に聞いた。
不透明な選定プロセス
「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」( 2000 年)ができて 24 年が過ぎましたが、現在まで処分地選定の第 1 段階である文献調査が 3 カ所でしか進んでいないことは好ましい状況とは言えません。
2015 年の政策見直しに基づき、 17 年、経産省は処分地に適する地域を示す科学的マップを発表し、「国が前面に立って」関係住民の理解と協力を得ながら進めることとしましたが、実際には文献調査の段階から地域に手を挙げてもらっているのが現状で、解明責任を負う自治体の首長の負担は軽くありません。これが文献調査に手が挙がらない原因です。現在のすすめ方では、特性マップでより好ましいとされる候補地から手が挙がるとは限らず、処分地に適さない地域を含む自治体が候補に挙がる状況も生まれています。
また、今後の選定プロセスが不透明であることも問題です。第 1 段階である文献調査の候補地選定をいつまで続けるのか。既に文献調査を終えた自治体とのズレをどう埋め、次の概要調査に進むのかも明らかになっていません。
これらの問題は処分地の選定が絞り込むプロセスになっていないことが原因です。減税すすめられる文献調査では、候補地が基準を満たすのかどうか、その基準もはっきりしないカギ r ンが進んでいます。そうした難しい判定にとらわれ、曖昧さを残したまま先に進もうとしているのが現状ではないでしょうか。そうではなく、各地の調査結果をきちんとした比較検討し、優先的に次の段階に進める候補地はどこなのか、複数の中から絞り込んでいく、そうしたプロセスこそ必要だと思います。
原発から出る「核のごみ」
分断の原因探り合意形成を
不安解消し柔軟な対応へ
文献調査を受け入れるにあたっては十分な合意形成も必要です。しかし、実際には文献調査も必要です。しかし、実際には文献調査を巡って住民間に分断が生まれています。それは廃棄物処分事業が元の圧政策に必要であると法律に位置付けられていることに原因の一つがあると私は思っています。
冒頭に挙げた法律第 1 条には、「原子力の適正な利用に資するため」と、原子力推進の姿勢が記されています。したがって文献調査に賛成することは原発政策を前に進めることに同意しているともとられるのです。脱原発を望む住民には受け入れられないことでしょう。
しかし、原子力委員会が同法に先立ち、1998年に出した報告書では、「今後の原子力政策がどのような方向に進められるにせよ……その処分を具体的に実施することが必要である」とはっきりと書き込まれているのです。この原点に立ち返り処分は原発政策の将来に関係なく必要であることを法律に明記し合意形成を図るべきではないでしょうか、
先月、使用済み核燃料の中間貯蔵施設が立地する青森県とむつ市、施設を運営する会社との間で安全協定が結ばれ、使用済み核燃料のむつ市への搬入が決まりましたが、地元住民には現在の不安が残っています。これは核燃料サイクル事業と深くつながる問題です。
使用済み核燃料は再処理され、原発で再利用する——これが核燃料サイクルですが、現行法では、再処理の過程で出る廃棄物を「核のごみ」とし、使用済み核燃料は「核のごみ」としていません。しかし完成延期が繰り返される再処理工場が本当に稼働するかどうかわからない。そうすると、使用済み核燃料は残り続けるわけです。
こうした住民の不安を理解し、例えば、使用済み核燃料も「核のごみ」として最終処分の対象にすると法律を改正してはどうでしょうか。そうすることにより、使用済み核燃料の扱いにも柔軟性が増し、住民の不安を解消することにつながるのではないかと考えています。
第三者による監視の仕組み必要
信頼性、透明性の工場こそ
原発を推進するカナダや脱原発を達成したドイツでは、立場は違っても最終処分地は必要であるとの前提から候補地の選定、絞り込みを進めています。ドイツでは2020年9月の段階で90カ所が候補地に挙がっています。
さらに、海外では処分地の選定過程、選定理由について第三者機関からチェックを受けながら、候補地の絞り込みが行われていることが特徴です。原子力委員会の報告書でも「公正な第三者によるレビューの仕組み」が必要であることを強く訴えていますが、こうした第三者機関がないのが、今の日本の現状です。
私が考える第三者機関とは、例えば福島第一原発事故後、黒海に設置された事故調査委員会です。政府から独立した機関として、放射性廃棄物の処理・処分に関する調査、情報収集を行い。処分地の選定について中立的に評価する機関です。アメリカでは1982年に康レベル放射性廃棄物の最終処分を連邦政府の責任で実施するとして放射性廃棄物政策法を成立させますが、連邦議会に設置された OTA (技術評価局)が放射性廃棄物の処理・処分に関する報告書を作成しています。処分計画の推進派議員も、反対派議員も、この報告書をそれぞれ使って論争が繰り広げられたという有名な報告書です。こういう信頼できる情報源が日本にはありません。
日本にも独立した対場で調査、情報収集する機関が必要です。また、そうした第三者レビューがあることで処分地選定プロセスの信頼性、透明性は高まると考えます。
すずき・たつじろう 1951年、大阪府生まれ。工学博士。㈶電力中央研究所等を経て現職。2010年1月から14年3月まで内閣府原子力委員会委員長代理を務めた。著書に『エネルギー技術の社会意思決定』(共編著)などがある。
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