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聖書預言@ Re:猫の手を借りた日曜日は、少しだけ前に進む(06/07) 神の御子イエス・キリストを信じる者は永…

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2026/09/30
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風鈴が、一度だけ鳴った。

いつもなら続けて二、三度、澄んだ音を落とすのに、今日はそれきりだった。開け放した窓から入る風も、昼間の熱をまだ少し残している。

わたしは窓辺に腰掛け、膝を抱え直した。薄い青のTシャツの裾が、風にふわりと浮く。カーテンには夕焼けの色が透けていて、花柄の影が腕の上をゆっくり動いていた。

「今日も暑かったねぇ」

足元のネネに言う。

白猫は返事をしない。窓の外を見上げたまま、しっぽの先だけを動かした。七歳になっても、こちらを向くかどうかは自分で決めるらしい。

窓の向こうでは、低い雲の縁が桃色に光っている。その下に家々の屋根が重なり、遠くの街灯がひとつ、またひとつと点き始めた。昼間はまぶしすぎて見えなかったものが、夕方になると少しずつ輪郭を取り戻す。

枕元に置いたスマートフォンが、短く震えた。

画面には、友達からのメッセージがある。

『今日は大丈夫だった?』

部活で、わたしが途中からほとんど話さなくなったのを気にしているのだと思う。

大丈夫、と打てば、一言で済む。いつもならそうしている。けれど今日は、送信する指が動かなかった。

合奏中、何度も同じところを吹き直した。わたしのサックスの音だけが、みんなの音から少し遅れる。先生に指摘されたことはそのとおりで、悔しいと思う前に、申し訳なさが来た。

練習が終わったあと、友達は「一緒に帰る?」と聞いてくれた。

「今日は先に帰るね」

わたしは笑って答えたつもりだった。たぶん、うまく笑えていなかった。

窓辺に置いていたグラスを持つ。氷はもう半分ほど溶け、指先に水滴がついた。冷たいお茶を飲むと、渇いていた喉がようやく自分のものに戻る。

ネネがこちらを見た。

「なに?」

そう聞くと、彼女はわたしの手元を一瞥して、また外へ顔を向けた。飲み物が欲しいわけではないらしい。わたしも同じ方向を見る。

夕焼けは、さっきより少し紫がかっていた。

わたしは、失敗したことよりも、そのあと黙ってしまった自分のほうが気になっている。悔しかったと言えばよかったのかもしれない。でも、口にした途端、泣きそうで言えなかった。

友達はたぶん、そんなわたしを見ていた。

「大丈夫」と言うのが上手になるほど、心配してくれる人の前で黙ってしまう。

スマートフォンの画面が暗くなる。

返信を待たせていることが、また小さな重みになった。すぐに返せばいいのに、どんな言葉も大げさに見える。「平気」では嘘になるし、「つらい」では相手を困らせる気がする。

風が少し強くなり、カーテンがネネの背中を撫でた。

ネネは耳を動かしただけで、逃げなかった。子猫だったころは、揺れる布を夢中で追いかけていたのに。いまは窓辺で落ち着いて座り、遠くを見ている。

わたしが膝の上で両手を握ると、ネネはすっと近づいてきた。白い肩が、わたしの脚に触れる。撫でようとしたら離れるくせに、こういうときだけ自分からくっつく。

「……都合がいいなあ」

小さく笑うと、ネネがちらりと見上げた。

わたしは伸ばしかけた手を止め、そのまま窓の縁に置いた。冷めかけた風が指の間を通る。ネネの体温は、脚に触れたところだけ、はっきりとあたたかい。

「今日ね、できなかった」

声にしてみる。

風鈴が、今度は短く二度鳴った。

「練習したところだったのに」

ネネは何も言わない。ただ、わたしの脚に寄りかかったままでいる。

言葉にしたら、もっと情けなくなると思っていた。でも実際には、胸の中で一日中繰り返していたことが、ようやく一つの出来事になった気がした。

できなかった。

それは本当だ。けれど、明日もできないかどうかは、まだ決まっていない。

わたしはスマートフォンを手に取り、友達への返事を打つ。

『今日はちょっと悔しかった。気にしてくれてありがとう』

送信ボタンの上で指が止まる。これだけではそっけないだろうか。もっと明るく書いたほうが、相手も安心するかもしれない。

でも、今日のわたしが話せるのは、たぶんここまでだ。

指を下ろす。

メッセージが送られて、画面の中に二行だけが残った。思ったより小さな言葉だった。それでも、胸の奥には確かに何かを置けた気がした。

すぐには返事が来ない。

わたしはスマートフォンを伏せ、グラスのお茶をもうひと口飲む。氷が縁に当たり、こつ、と鳴った。ネネは脚から離れて窓のほうへ一歩進むと、前足をそろえて座り直した。わたしの顔を見ようとはしない。

その距離が、いまはちょうどよかった。

窓の外の雲は、細い金色を残して青へ溶けていく。遠くで車の走る音がする。街灯の下を誰かが通り過ぎたけれど、ここからは顔まで見えない。

今日一日は、うまくいかないことがあった。何度吹いても揃わなかった音も、帰りに言えなかった言葉も、なかったことにはならない。

でも、夕方の風はちゃんと涼しくなった。お茶も冷たくておいしい。ネネは今日も、わたしの隣にいる。

「明日、もう一回やってみるよ」

ネネの耳だけが、こちらを向いた。

返事を求めずに、その小さな背中を見つめる。夕焼けの最後の色が白い毛の端に残り、やがて静かに消えていく。

スマートフォンがまた震えた。

『そっか。明日、一緒に合わせよう』

画面を読んで、わたしはしばらく動かなかった。それから「うん」と一文字だけ返す。今度は迷わず送れた。

ネネが何かを見つけたように、外へ鼻先を向ける。わたしも顔を上げたけれど、そこには暮れかけた空があるだけだった。

今日を上手に終えられなくても、明日の約束はできる。

風鈴が、またひとつ鳴る。

わたしは窓を閉めず、ネネと並んで、夕焼けが夜になるところを見ていた。

#青春小説 #日菜子とネネ #白猫のいる暮らし #夏の夕暮れ #明日へつなぐ言葉

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Last updated  2026/09/30 04:55:53 PM
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