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開けては行けない扉を開けてしまったとき、人類にとっての脅威ははじまった。迫り来る黒い春に人類は・・・。こういう架空の病原菌が登場する場合、作品に入り込むには多分膨大な下調べはもちろんのことリアリティも重要で、しかしそうなると専門用語だらけで文章が難しくなってしまいがちです。けれど、この作品は細かい所までしっかり調べられているのに、非常に分かりやすく描かれていて読みやすかった。毎回思うのですがこの作者は難しくなりがちな事柄を非常に分かりやすく書くことに長けていますね。なのでこの作品は読みやすさはもちろんのこと、実際にこんなことが起こるかもしれないと思わせるリアリティがありとても面白く読めました。ただ、残念だったのはいまいちドラマ性が薄いような印象を受けたことと、それに伴って終わりが少しあっけなかったような気がすることでした。多分その原因は先ほど述べたリアリティが関わってくるような気がするのですが。それというのも実際のところ現実はどんな困難を乗り越えたり、大恋愛の後失恋したとしても、終わりはないんですよね。「めでたしめでたし」で完結することもなく明日は続いていく。でも普通小説は架空の物語として読んでいるので話が完結すれば、それで終わりだと納得出来ます。しかしこの作品はドラマ性よりもリアリティの方に偏り過ぎてしまったせいで、物語に現実味が増してしまいそのアンバランスさが仇となって結末が受け入れづらく、なんだか完結していないような印象になってしまったように感じました。リアリティさがこの作品の最大の長所でもあり短所にもなってしまったような気がします。なのでもっとこの素晴らしいほどのリアリティに負けないくらいの紆余曲折なドラマ性があったなら、読み終わった後しばらく余韻に浸ってしまうようなとてもすごい作品になったような気がします。
2009.01.21
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幼いころから大人に囲まれて芸能界で過ごしてきた夕子の18年間を描いた長編。とても読後感の悪い作品でした。だからといって決して悪い作品だと言う訳ではなのですが。最初読んでいて、前作と比べて随分変わったなーと思ったのですが、その最たる理由は三人称になったからか。しかし人の弱い部分、暗いところを目をそらさずにごまかさず真摯に描くところは相変わらずで、それが素晴らしいというか作者の持つ希有な才能ではないかと思いました。正直ストーリーは在り来たりだと思います。誰かをモデルにしたんじゃないかと言う感じで、展開に意外性はあまりないのですが、それでも飽きることなく最後まで読むこのが出来ます。というかこの作者は昔からストーリーで読ませる人ではないです。主人公がピンチの時にどこからともなく優しさの権化のような人が現れて手を差し伸べてくれるこのもなく、主人公の都合の良い展開になったりもしないところなど、現実のしかもどっちかというと暗い部分をしっかりと見つめて描いているのはこの作者らしい。なので、性的な描写も、少女漫画にありがちな次のコマには朝になっていて小鳥が鳴いている感じでもなく、妙な官能の世界のオブラートに包まれているでもなかったので良かったと思いました。表現は相変わらず素晴らしいです。しかし毎回思うことなのだけれど、話がさあそれで?というところで終わるのが気になる。中途半端な結末傾向は芥川賞作家さんの作品に非常に多い気がするのですが、話が中途半端な感じで終わるのはもういいかげんいかがなものだろう。純文学の作品は人の内面に重きを置いているものが多いので作品で問題を提示するのは当然と思いますが、それだけで満足して終わりというのは違うような気がします。作品には問題が提示されているなら、それに対する作者の答えが、出来ればそれを乗り越える答えが必要な気がします。実生活では答えが出ないことがほとんどだと思うので、現実をしっかりと描くなら答えを描くことはリアリティを失わせるかもしれません。しかしだからこそ文学の世界には話が多少都合がよくなったとしても作者の答えを記して欲しいと思いました。数学みたいに確かな答えがない文学で答えを出してしまうのはとても難しいこととは思いますが、その作者が考えた答えが作品には必要な気がします。多分、前作までが好きだった人にはこの作品はあまり好きになれないかもしれないですが、今までの綿矢りさがいまいちだった人はにはお勧めの作品かもしれません。
2009.01.15
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「旅を数えて」川本晶子「ニケツ」 平田俊子「いとこ、かずん」 中島京子「ポジョとユウちゃんとなぎさドライブウェイ」 前川麻子「ニューヨークの亜紀ちゃん」 松井雪子「道くさ、道づれ、道なき道」 篠田節子「ライフガード」 旅をテーマにしたアンソロジー。全体的に読後感の良い作品ばかりだったので、良かったと思いました。ただ、それだけに似たような話が多かったのが残念。そして旅をテーマにしているアンソロジーにしては、あまり旅がメインになっていない感じがして、どちらかと言うと、失恋がテーマのアンソロジーなのでは?という感じがしないでも。でもよく考えてみると旅と失恋は良く似ている気がします。日常から解き放された旅の開放感と少しばかりの心細さ、恋を失った寂しさと少しばかりの開放感、確かに似ているのかもしれません。この作品の中で特に良かったのは川本晶子の「ニケツ」と平田俊子の「いとこ、かずん」でした。「ニケツ」は旅率のとても低い話でしたが、登場人物の優しさが溢れていて良かった。台詞が方言なのですが、それが読みづらいということもなく、かえって暖かさを醸し出していてなお良かったと思いました。あと平田俊子の「いとこ、かずん」は登場人物に悪い人がいないというか、作者が登場人物全てに優しいまなざしをそそいでいる感じがしました。なので家族を置いてでも旅に出てしまう登場人物達の描き方も悪者的な感じがしなくて良かったです。そして旅人が通りかかったら、水をかけて自分のものにしなさいという祖母の教えのエピソードもとても素敵でした。中島京子の「ポジョとユウちゃんとなぎさドライブウェイ」と前川麻子「ニューヨークの亜紀ちゃん」と松井雪子「道くさ、道づれ、道なき道」は自分勝手な女友達に振り回される話の設定が似ている感じでちょっと残念でした。篠田節子「ライフガード」は良い話だったのですが、あまり意外性は少なかったのが残念でした。これを読んで旅に出たくなるかということはさておき、さっぱりとした話が多いので毎日一つづつ読むには最適な作品だと思います。
2009.01.09
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