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沢村凛「黄金の王 白銀の王」国の支配をめぐって長年対立してきた二つの一族。いつの時代も互いの一族を倒すことを目的にしてきたのだが、ある時二つの一族の長は二つの一族を一つにまとめあげようとする。ファンタジーのジャンルに入るであろうこの作品なのですが、架空の世界を舞台にしていながら歴史物を感じさせるような重厚な作品になっていました。読み終わった後、実際にあった世界の出来事を読み終えたような深い余韻が残りました。史実を独自にアレンジして描いている藤水名子を彷彿させる世界感とでもいいましょうか。しかし、しかし、これは毎回そうなのですが、この作者の作品はとても良質だと思う一方で、なんとなく手放しで絶賛出来ない気持ちが残ってしまうのも事実なのです。私はこの作者の作品は好きなのです。が、読み終えるといつも何か足りないと感じてしまいます。この作品にしても藤水名子を彷彿させると書いたのですが、藤水名子ほどの歴史ファンタジーに対する熱っぽさは感じられなかったし、作者のミステリ作品にしても上質な出来なのになんだかインパクトに欠ける気がしてしまいます。あと、どっちつかずの中間位置を取ってしまったためファンタジー好きと歴史物好きどっちもおいしい作品かといえば、残念ながらそうでもなく、どっちつかずの中途半端な位置の作品になってしまったようにも感じました。私はこの作者の作品になんとなく、「守り」を感じてしまいます。あまり突出しないで、「こぢんまり」とまとめてしまうような。もちろんこじんまりとしているせいで、作品がまとまった印象になるのは良いのですが、個人的には、もっとはみ出した感じが欲しいような気がします。この作品は良く作り込まれた舞台やストーリー、登場人物が丁寧に描かれているので、飽きずに読むことが出来ます。だけれど、はらはら感や意外なストーリー展開もあまりなく、どこかで見たことのあるような世界と登場人物とストーリー展開だったので、目新しさに欠ける気がして、あまりぱっとしない印象を受けてしまいました。もっと作者の個性を感じさせる突き抜けた感じの「攻め」の作品が読んでみたいと思いました。しかしながら、はみ出さずに「こぢんまり」とまとめているだけに、読んでいて嫌な気分になることのない作品ですので、万人におすすめ出来る作品です。
2009.08.31
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横須賀に突如謎の生物が大量にあらわれ、人々を襲い始める。潜水艦「きりしお」に避難した二人の自衛官と少年少女たち。彼らは、無事脱出できるのか。あらすじだけを見るとマニア向けと言いますか非常に読む人を選ぶ感じの作品なのですが、実際読んでみるとぐいぐいとひきつけられ読む手を止められなくなる作品です。毎回思うのですがこの作者は読ませる力が非常にあります。なんだか突然巨大なザリガニが?!というマニア向けで「んな、あほな!」的な展開で始まり、それで読む気が失せることもなく最後まで面白く読めてしまいます。マニア向けでも最後まで読めてしまうのは、やっぱり登場人物をリアリティを伴って上手に描いているからでしょう。非常事態の閉じ込められた空間での人間関係、親と子の関係、中学生の友達付き合い、近所付き合いなど、一筋縄ではいかない人間関係がちりばめられており考えさせられることがとても多かったです。こういったところを見る限り、この作者は人を実によく見ている人なのだと感じます。おそらく人に興味があって、人が好きなのでしょう。そんな作者の人柄がひしひしと伝わっくる作品です。そしてこの作者で忘れてはならない恋愛についてですが、この作品は普通あり得ない状況下で、そして恋愛においても普通あり得ない結末を迎えるのですが、それでも結末に妙に納得してしまう不思議な作品になっています。吊り橋効果と言いましょうか、現実では非常事態で芽生えた恋愛感情は、日常に戻った途端に脆いものとなり、破局を迎えるのが常だそうです。非日常のドキドキと恋愛のドキドキを勘違いしてしまい、平穏な日常ではドキドキが続かないことが原因だそうです。それは映画「スピード2」でも証明済み。だとすると、この作者のいろいろな作品で見られる非日常で恋愛が芽生えた男女が恋を成就させることなど、普通はあり得ないことになるのです。しかし、頭ではこんなことあるわけないと分かっていても、何故かハッピーエンドはとても自然なことに感じてしまいます。これはもう理屈を超えた一種のファンタジーとでも言っても良いのではないでしょうか。作中の男女は必ずハッピーエンドになるという。そういう意味では最近知ったロマンス小説なるものに近い気がします。ロマンス小説においては、必ずハッピーエンドで、ヒーロー、ヒロインが永遠の愛を確かめ合って終わります。※以下若干ネタばれ防止のため反転していますこの作品の恋愛も普通は恋愛において一番お盛んな時期である男女が五年間消息も知れずにお互いを思い続けるというのは、あまり現実的ではない気がします。しかし、この作品ではそんな展開になっても違和感を感じません。しかもそんなロマンス小説的結末で納得してしまうし、寧ろ望んでしまうのです。誰しも少なからず持っているであろう「たとえ現実的ではなくとも夢を見たい」というファンタジー願望を大いに刺激してくれる作品です。人類対謎の生物の戦いを読みたい人、単純ではない人間関係の奥深さを読みたい人、ロマンス小説ばりの恋愛物語を読みたい人など、様々な人におすすめの作品です。
2009.08.24
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主人公の女子高生チカが、幼馴染のハルタの助けを借りて学園で巻き起こる謎を解決する連作短編の青春ミステリ。「結晶泥棒」「クロスキューブ」「退出ゲーム」「エレファンツ・ブレス」の4作品。「漆黒の王子」を読んで以来、新作を待ち望んでいた作家さんです。まあ、正確には発売されて一年近く経とうとしているので、もはや新作ではないのですが。ミステリ作家さんでトリックが凄い人、魅力的な登場人物を描ける人などの様々なタイプがありますが、この作家さんは「水の時計」「漆黒の王子」を読む限り、抜群に雰囲気のある作品を描ける作家さんだと思います。物語全体を覆うファンタジックさにダークな雰囲気が漂う作品。この作家さんの最大の魅力はまさにダークさ漂うファンタジックな雰囲気なのです。しかし今回はミステリではあるものの、青春ものということで魅力的であった作者特有の雰囲気は、ほぼ無しと言っていいでしょう。しかも、なんとなくどこかで見たような感じのコメディタッチの青春ミステリになっていたのが少し残念でした。登場人物たちも等身大の高校生が登場しているというよりは、どこかライトノベルを感じさせるような、デフォルメされた感じだったのも気になりました。私は「水の時計」「漆黒の王子」のイメージがあるせいか、今迄になかった軽快な会話にも少々違和感を覚えてしまいました。おそらく笑いを誘う目的の会話なのかも知れませんが、ツボにハマる人はハマるとは思うものの、なんとなく人を選ぶ笑いだったように思います。なので、ハマる人は本当に好きになる作品ではないかと。ただ、今までの作品と違って難しいことを考えることもなくさらりと読めるという魅力はあります。作中で明かされていない伏線も多々あったので、シリーズ化しそうな作品です。「結晶泥棒」なんとなく慌ただしく始まって終わってしまった感じの作品でした。トリックは専門的過ぎてピンとこなかったのですが、作品の冒頭の一行がこの作品のもう一つのトリックとなっていて、作品の印象的を強めていたように思います。「クロスキューブ」トリックはこれもまたまたマニアックだったので、特に驚きも少なかった感じでした。気になったのは親友だった女子二人の関係がいまいち伝わりにくかったことでしょうか。短編で書ききれなかったというものあるのかもしれませんが、どうしてこの二人が親友だったのか想像しづらいところが気になりました。「退出ゲーム」表題作だけあっていちばん良かったように思います。「退出ゲーム」という他ではあまり見たことのない斬新な設定がとても面白かったのですが、なんとなくもうひとひねり欲しかったような気も。「エレファンツ・ブレス」個性的な登場人物が多くて賑やかな感じの作品です。「オモイデマクラ」の設定も回りくどい感じがするので、全体的にごちゃごちゃしたイメージでした。続きを感じさせるようなラストでした。
2009.08.19
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「ゆっくり急げ」最近よく言われる言葉。なんか常にぎりぎり。昔からそう。学生時代、テスト前は常に一夜漬け。社会人になっても、朝はまさに一秒を争うぎりぎりの戦い。追いつめられないと、なかなかやる気が出ない性質なのだ。小心者のくせに、余裕を持った行動が出来ない。実に厄介。そしてさらに輪をかけて厄介なのは、追いつめられたからといって、決してテキパキと行動出来るわけではないということだ。テキパキどころかあたふたもいいところで、昔からそんな私を見かねた周りの人から、もっと余裕をもって行動しなさいと苦言を頂戴するはめになる。で、専業主婦になって時間的に余裕の出来た現在はどうかといえば、もともとの性質なので「追いつめられた揚句のあたふた行動」が改善されることもなく、毎朝戦場状態である。低血圧で朝が弱い私に、早めに起きて準備することは不可能なわけで、毎日の朝食も味噌汁とご飯と納豆と果物という実にシンプルな品数だとしても、食卓について待っている旦那に「ご飯だけでも先に食べちゃってて~」「納豆かき混ぜといて~」と味噌汁を慌ただしくかき混ぜながら叫ぶ日々である。そんな私を見かねての旦那の言葉が、「ゆっくり急げ」である。「ゆっくり急げ」トムとジェリーの「仲良く喧嘩しな」みたいな矛盾した言葉である。でも、この場合はおそらく「優雅なハクチョウは、じつは水面下では必死で足をもがいている」的な意味合だと思われる。慌てている様子を見せずに、急げということだろう。しかし、低血圧な朝に優雅に行動することは実に難しい。そこでとりあえず、これは「ゆっくり急げ」のイメージトレーニングが必要だと思い立ち、想像力に乏しい私が必死の想いで思い起こした「ゆっくり急げ」のイメージはまさしく「ムスカ」だ。「ムスカ」とは、「天空の城ラピュタ」に登場する人物である。眼鏡をかけている男の人。分からない人は「トトロ」のさつきとメイのお父さんに似ている人と言えば良いだろうか。(それでも分からない場合はお手数ですが各自調べて下さい)で、そのムスカが天空の城で飛行石を使って、手長ロボットを動員させたり、地上にミサイルを打って「見ろ、人がごみのようだ」とか言っちゃってまさに天下取ったり状態のところである。見かねたシータが飛行石をムスカから奪って逃げたまさにその場面。「返したまえ良い子だから!さあ!!」とムスカがシータを追いかけるあのつかつかした早歩き。あれこそが私の思い描ける「ゆっくり急げ」のイメージなのだ。始めてあの場面を目にしたとき、幼いながらも私は「なんで走って追いかけないのか」ともどかしい思いでいっぱいになったことを覚えている。だってあの場面で歩くってある意味凄いことではないだろうか。世界征服ために唯一必要な飛行石は、ある意味ムスカにとっては命と等しいくらいのもの。それを奪われてもなお歩くって、「ゆっくり急げ」順守もいいところだ。あの場面で最初から走っていれば、もしかして飛行石を取り戻せていたかもしれないのに。違った結末になったかもしれない重要な場面なのに。しかし、そんな状況においても決して走らないムスカの心意気こそが「ゆっくり急げ」の真髄なのだろう。そうだとすると私には到底「ゆっくり急げ」の精神は無理だと自覚せざるを得ない。なぜなら、あのラピュタの場面を自分に置き換えてイメージトレーニングしても、どうしてもつかつか歩いている自分を想像出来ないのだ。確実に出だしから全力で追いかける自分しか描けない。無理に歩くとしたら、水の中で走るような重い足取りになってしまう。恐らくあの場面を落ち着いて違和感なしに見られる者こそが「ゆっくり急げ」の行動が出来る選ばれし人なのではないであろうか。未だにあの場面を目にするたびに「シータ逃げてー!!」と思うより「ムスカ走っちゃいなよ~!」と、もどかしい気持でいっぱいになってしまう私には無理なことみたいだ。貴志祐介「新世界より」未来の日本。そこでは、人々は「呪力」なる力を使いながら、穏やかに生活していた。分厚い上に、上下巻なので読み応え十分過ぎる作品でした。ずっと読みたいと思っていた作品でした。SF大賞受賞作です。前半、読んでいて受ける印象は、大人の未来型和風ハリーポッターでしょうか。現代で言うところの超能力みたいな能力「呪力」を使うことの出来る世界の物語です。細部まで作り込まれた世界観。少年少女達が無茶をしながら多少の無謀さと勇気をもっての冒険など、最初の方はハリーポッター的な世界観と展開に、この作者の他の作品を読んだことのある方は少々違和感を覚えるかもしれません。そして更にその合間にはマニア向けな性描写などもあったりしてと、今までにないくらい広いジャンルの世界観を感じました。しかし、しかし、中盤から徐々に作者おなじみの黒い影が物語に忍び込んできて、後半は息もつかせぬ展開が繰り広げられるのです。待ってました!まさに私が望んでいた「クリムゾンの迷宮」のような、はらはらして思わず「逃げて~!」「う、後ろ~!」と叫びたくなるような展開。後半はもう期待を裏切らない展開の応酬です。読み終わったあとはまさしく息も絶え絶え、しばらく放心状態でした。まるで大きな大きな津波にさらわれて、海の中でもみくちゃにされ、気が付いたら波打ち際に打ち上げられたみたいに読者を離さない怒涛のストーリー展開でした。はぁ~、堪能致しました。そしてはらはらさせる物語もさることながら、深く読み込んでみると「優位な者からの正義とは実は一方的なものではないのか」など、現代の社会情勢にも通じるテーマもあったりして実に奥の深い作品とも読めると思います。この作品で壮大な世界を主人公達と一緒になって生き延びてきたような冒険を体験することが出来ます。大人から子供まで、この作者の作品を読んだことのない人にもおすすめな作品です。刺激的を求めている方、夏休み特に出かける予定のない方、この作品の世界に旅をしてみてはいかがでしょうか。
2009.08.04
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