PR
Calendar
Category
Comments
Keyword Search
幼くして母・桐壺更衣を亡くした光源氏は、父・桐壺帝の後妻として入内した藤壺の宮に、母の面影を重ねて育ちました。しかし成長とともに、その感情は単なる憧れから、一人の女性への激しい恋慕へと変わっていきます。宮中という閉ざされた世界で、義理の親子という超えられぬ壁を前に、源氏の想いは募るばかりでした。
藤壺もまた、源氏の類まれなる美しさと情熱に心揺さぶられながらも、帝の寵妃としての立場と道徳心から、彼を頑なに拒み続けます。源氏がどれほど文を送り、和歌に想いを託しても、二人の間には常に厚い帳(とばり)が下ろされていました。
運命を動かした一夜
しかし、ある春の夜。源氏の執念とも言える恋心に根負けした侍女・王命婦(おうみょうぶ)の手引きにより、ついに絶好の機会が訪れます。
ひっそりと静まり返った宮殿の奥深く。源氏は人目を盗み、ついに藤壺の寝所へと忍び込みました。
光源氏 「ようやく、ここまで辿り着くことができました……」
藤壺の宮 「源氏の君、なりませぬ。今すぐにお帰りくださいませ」
光源氏 「それは叶わぬ願いです。私も覚悟を持って参りました。これで身を滅ぼすならば、それも本望にございます」
そう告げると、源氏は藤壺の拒絶を遮るように、その唇を重ねました。
驚きに身を硬くする藤壺でしたが、彼から溢れる情熱を跳ね返すことはできませんでした。心では拒まねばと激しく葛藤しながらも、全身から力が抜け落ちていきます。
それからどれほどの時間が経ったのでしょうか。藤壺には定かな記憶がありません。ただ、源氏のひたむきな熱情に包まれた記憶だけが、鮮明に刻まれていました。それは、決して許されることのない禁断の記憶。源氏が命を懸けて自分を愛していることを、彼女は肌で感じ取ったのです。そして、そのあまりに深く危うい想いに、抗う術なく身を委ねてしまった自分。
すべてが終わった後、なおも重なり合う吐息の中で、藤壺は自身もまた源氏を愛してしまったという事実に直面します。それと同時に、夜が明けるにつれ、取り返しのつかない罪を犯してしまったのだという後悔が、静かに波のように押し寄せてきました。
光源氏 「……これほどまでに、あなたを求めて彷徨いました。夢にさえ届かなかったこの温もりが、今、私の腕の中にあります。たとえ明日、命が尽きるとも、私はこの一刻(ひととき)を離しはしません」
藤壺の宮 「なりませぬ……。これは地獄へと続く道。帝への背信、人の道に外れたこの罪を、どう償えばよいのでしょう。……ああ、源氏の君。あなたの眼差しが、私の心を溶かしてゆくのが恐ろしいのです」
光源氏 「罪なら、私がすべて背負いましょう。あなたはただ、この灯火が消えるまで、私の名だけを呼んでくださればいい。藤壺の宮……いいえ、私の愛しい人」