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2012.01.19
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カテゴリ: ショートショート
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 あれから一年間、通常の仕事が終わってから土方をしたりして、2000万円を蓄えた。もちろん暮れの有馬記念の8-3に、全財産をつぎ込むためである。もし払戻金が記憶している2800円だとしたら、2000万円つぎ込んで、5億6000万円になって戻ってくる計算だ。
 さていよいよ今度のレースこそ有馬記念である。目まぐるしく変化する電光掲示板のオッズを見ていると、8-3は40倍前後で点滅している。ここで自分が2000万円買えば、きっとオッズは28倍前後に下がるのだろう。男はそう勝手に解釈して馬券売り場へ向かった。

 いよいよファンファーレが高らかに鳴って、砂煙を上げ各馬が一斉にスタートを切った。そして例によって8-8の馬が飛び出している。そうそうこの展開だ。でも最後は8-3なんだよね。男はそうつぶやきながらほくそえんだ。
 やはり四コーナーまでは、8-8のままでなだれ込んできた。手に汗握る展開とはまさにこのことである。そして予定通りゴール直前で、3の本命馬が差し込んで来る。三頭がほぼ一直線になってゴールイン。よし思った通り、いや当然ながら8-3だ。これで5億6000万円は俺のもの。男は余裕たっぷりにニヤついていた。
 だがなかなか確定のランプがつかない。結局写真判定となり、予定通りハナの差で8-3が点灯した。一度経験したことなので当然なのだが、男は跳び上がらんばかりに狂気した。

 そして暫くするこれも経験した通り、ドーンという地響きと共に、メインスタンドが大きく揺れはじめた。物凄い揺れ方だ。もう立っていられない。だが男は落ち着いていた。この地震も予定通りとばかりに、用意していたヘルメットを被って、暫くじっとうずくまっていた。
 しかし物凄い揺れが1分以上続き、スタンドはパニック状態。ほとんどの人が出口に殺到し、怒号と叫び声の雨嵐であった。それでも男は柱の下でじっと辛抱していた。ここから先は男の経験外の出来事になる。うずくまりながら男は多少不安になってきた。

 数分後にやっと揺れが納まったが、停電のため辺りは夕闇に襲われてかなり薄暗くなっている。当然電光掲示板も機能していない。


 暫くしてやっと自家発電が稼動し、再び電光掲示板が神々しく輝きはじめた。そして確定のランブは8-3を灯している。そら見ろと男は得意満面の笑みを浮かべた。
 ところが、すぐに8-3の点灯が点滅に変わり、いつの間にか8-8が点灯しているではないか。何だ何だ、一体どうしたというのだ。
 そのとき場内アナウンスがあり、着順は8-3だったのだが、3の馬が進路妨害を行ったため、結果は8-8に変更になったのだという。

 男は呆然と立ちすくんでいた。この一年間は一体何だったのだろうか。そして今度も馬券を捨てる気にはならなかった。
 するとまた突然、ドーンという地響きと共に、メインスタンドが大きく揺れはじめた。物凄い揺れ方だ。もう立っていられない。男は懸命に手摺にしがみつき、なんとか余震の被害を受けずに済んだ。しかしもうタイムスリップは起こらなかったようである。

(完)

作:五林寺隆

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最終更新日  2012.01.24 08:25:13
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