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2012.12.10
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カテゴリ: 小説
三食パン

 六時間目の授業が終わり、徹と鉄男は神社の杉の木の下で待ち合わせた。
 「このあんぱん粒あんだ、うめえな」 今朝盗んだパンは布カバンの中でぺしゃんこになっていたが、甘くておいしかった。
 この時代の子供たちは、いつも腹をすかしていた、若さもあるが、貧乏もその理由だった。
 徹が家に帰って「おやつは?」と、母ににいえば、必ず出てきたのが、ちゃぶ台の上に置かれたさつま芋だった。さつまいもはうまいから喰うのじゃなくて、ただ、腹の足しだった。あんぱんは
格別上手かった。

 「あれ、芳子じゃないか」神社の舗道を、下を向いて、呟くように唄いながら、こっちに向かって歩いてきた。
 「あら、徹君と鉄男君じゃない、何してるのこんなところで」
 「おい、芳子、あんぱん食べるか、粒あんだぞ」 徹や鉄男も盗んだのはいいが、あんぱんを残しても、家に持って帰って泥棒が露見してはヤバいので、芳子にあげれば丁度よかった。

 「あんぱんあげるからよ、おっぱい揉ませろよ!」
 「いいわよ、でも三食パンが好きなの、グローブみたいなの指の中に、あんこと、チョコレートとジャムが入ってるの、なんか、夢があるじゃない、あのパンくれたら、触らせてあげる」と、冗談を言って、あんぱんを美味しそうに食べた。
 「よおし、約束だぞ!」 鉄男の目はギラギラして興奮していた。危険な臭いを徹は感じた。芳子は困ったような困惑した瞳で徹に助けを求めているようだった。
 徹は、芳子の瞳に一瞬どぎまきしたが。大丈夫だよ!という意味をこめた、優しい笑顔で答えた。芳子は軽く頷いた。

 芳子の家は駅前の路地をを入った、小料理屋だった。『料理、お酒、すみれ』と書かれた暖簾がかかっていた。
 芳子の母親は着物の上に、白い割烹着をつけて、いつも化粧をして、いい匂いをさせて、ふっくらとした色白の美人で、この小さな町では、目立っていて、男たちは何かを期待して『すみれ』に通っていた。
 誰とでも、明るく挨拶するが、町の女は、やっかみなのか、自分たちとは違う生活臭を感じていたのか、親しく付き合う人はいなかった。旦那が事業に失敗して遁走し、借金を背負わされて、今は隣町の金融業の社長の2号さんだと、噂していた。

 今日は木曜日でその社長が来ている、社長が来ている間は、「大事なお話があるから、夕方まで外で遊んでてね」 と母親に言われて、芳子はいつも神社で時間潰しをしていた。芳子にも、母が何をしているかはだいたい想像できていた。
 「じゃあ、来週の木曜日に、三食パン持ってくるからな」 鉄男は芳子にそう言っていやらしい笑いをぶつけた。
 粗暴な鉄男は、遁走した父親に暴力を受けたこともある芳子にとって恐怖の対象だった。おとなしく、優しい徹が好ましかった。このやるせない時間に徹に会えるのが、芳子は嬉しかった。

つづく



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最終更新日  2012.12.10 09:57:54
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