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2014.09.10
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真っ赤な.jpg


 その日の気分で幼稚園を休むので、出席率は半分以下である。祖母のたねが手を引いても、電信柱にしがみついて絶対に手を離さない。さらに歯医者で診察を受けるのが怖くて、歯医者の道具を診察室の窓から捨ててしまうこともあった。

 だがたねは一通り注意するものの激怒することはなく、自分の躾けが悪くてすみませんと、幼稚園の先生や歯医者に謝っていたのである。そんなたねの姿を見て、ひろし君はますますつけあがり我がまま放題。「三つ子の魂百まで」できっとこの性格は、死ぬまで治らないかもしれない。

 そんなある日、ひろし君はたねに連れられて、バスに乗っておじさんの家に遊びに行った。おじさんとは、父の紘一郎の弟で次男の文雄のことである。戦争に行かなかった文雄は、紘一郎より先に結婚していた。そのため長男でひろし君の従兄である正男は、ひろし君より一つ年上だった。
 だから正男は、たねにとって初孫なのだが、一緒に住んだことがなかったため、内孫であるひろし君のほうが可愛くてたまらない。そのことは親戚中誰でも分かっていることなのだが、たねはそれを口に出すことはしなかった。子も孫も全て公平に接しなければいけないと言うのが、正義感が強く律儀なたねの性分だったからである。

 このくらいの年令では、たった1歳の違いでもかなり力の差が出てしまう。それでメンコや相撲をしても、ひろし君は正男には全く歯がたたない。面白くないひろし君は、たねに「もう帰ろう」とせかすが、たねは近くの公園で皆で凧を上げようと言って凧を二つ買ってきた。
 たねとひろし君と、正男とその妹の圭子の四人は、たこを持って公園に出かけた。正男の凧はたねが手伝い、ひろし君の凧は圭子が手伝ってくれた。はじめのうちは両方の凧ともぐんぐん大空に舞い上がっていったのだが、暫くするとひろし君の凧は、ぐるぐる回転しはじめて、とうとう墜落してしまった。

「ひろしは何をやってもだめだな」と正男に笑われたとき、突然ひろし君が切れてしまった。
 いきなり正男に跳びかかると、正男の右手に噛みついたのである。驚いた正男がひろし君を突き飛ばすと、その拍子に正男の手から凧糸が放たれて、凧は大空の彼方に流されてしまったのである。そしてクルクル回転しながら池のほうへ落ちて行った。


「ひろちゃん、おばあちゃんも見ていたけど、今のは絶対にひろちゃんが悪いよ。まさちゃんに謝りなさい。!」
 ひろし君ははじめて見るたねの毅然とした態度にたじろいだ。それに正男に味方するようなたねの言葉も悔しかった。いつだってたねは自分の味方だと思っていた。そのたねが自分を捨てて、正男を選んだように感じてしまったのだ。

「おばあちゃんなんか、大嫌いだ!。ぼくは一人で帰る!」と啖呵を切ったひろし君は、そのまま公園を出て大通りに出た。だがバスに乗るお金もないし、どうやって歩いて帰るのか見当もつかない。しばらくの間は大通りを行ったり来たりしていれば、きっとたねが心配になって探しにくるだろうとタカをくくっていた。

 一方たねは、ひろし君の行方が心配で堪らなかった。それに正男と圭子も一緒に探しに行こうと言っている。だがここでひろし君を探しに行ったら、正男や圭子に申し訳ない。孫は全員公平に扱いたいし、ひろし君の我がままを益々助長させたくない。ここは心を鬼にしてじっとここで待っていよう。きっとひろし君は反省して戻って来るはず、自分はひろし君を信じている。そう自分に言い聞かせ、正男と圭子には、ここでそのまま遊んでいようと引き止めた。

 だがなかなかひろし君が戻って来ないので不安になってきた。すでに夕暮れが近づきつつある。そろそろ限界かもしれない。と覚悟をし始めた時、木陰に潜んでいたらしいひろし君がいきなり走ってきた。
「ごめんなさい、おばあちゃん。ごめんなさいまさちゃん、けいちゃん。わぁ~ん。」ひろし君の顔は涙でぐちゃぐちゃだ。正男は下を向いていたが、ひろし君のことが好きな圭子は、ひろし君を抱きしめて一緒に泣きはじめた。
 たねも一緒に泣きたかったが、ここは意地を通してぐっと堪え、ひろし君の頭にそっと掌を乗せた。何事もなかったように、四人は笑いながら手を取り合って公園をあとにした。振り返ると、まるであの凧が落ちた池の中に、真っ赤な夕日が沈んで行くようであった。

作:五林寺隆

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最終更新日  2014.09.10 12:20:39
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