ネット文芸館 木洩れ日の里

ネット文芸館 木洩れ日の里

PR

×

コメント新着

朽木一空と五林寺隆 @ Re:新宿に熊怖い(06/16) 笑左衛門さんへ 新宿、渋谷、池袋、銀座…
笑左衛門 @ 新宿に熊怖い ユニークな画像でびっくりしました。新宿…
イラン攻撃@ Re:時の家(03/05) イラン攻撃については、 0896240183 をど…
日差し@ Re:万作の花(02/22) 日差しの知りたいことは、0896244450 か…
聖書預言@ Re:置き爺(11/25) 神の御子イエス・キリストを信じる者は永…

カレンダー

キーワードサーチ

▼キーワード検索

サイド自由欄

このサイトに掲載している「文章と絵手紙画像の著作権」は、当サイト管理人に帰属しています。従って、無断で転載することをお断りします。

2016.05.20
XML
カテゴリ: 高論歩事件帳
葬儀.jpg



 みんみん蝉に代わって蜩(ひぐらし)が鳴いている、草むらでこおろぎも鳴き始めていた。暑い夏も終わりを告げて、もう秋の気配がしてきた。そして、山間部には間もなく一足早い寒い冬がやってくる。歳をとるごとに春夏秋冬のめぐりは早い。が、この夏は記憶から消えそうにもない出来事がおきた。

 必ずしも貧しいというわけでもないのだが、みな質素に暮らしているのが山里の流儀というものだった。地味が板についている暮らし振りだった。だが、こんな山里の町でも、ひとり、優雅絢爛に暮らしている男がいた。
 町長歴20年、教育長、信用金庫の理事、組長、消防団長など、名誉職のほとんどを経験し、地元の名士で実力者、土地持ち山持ちで、お城のような邸宅に居を構える山岸金蔵だった。町の人は、お大臣様と呼び、表では持ち上げておいても、裏に回ると、金にはドケチで汚いやり口を使うと、評判は必ずしも良くなかった。
 なにしろその財力は町の予算をしのぐほどで、土建業、運送業、電気工事、不動産、パチンコ、スーパーと、事業も手広くやっていた。当然のことだが、正しい商売だけで成功したわけでもなく、金に纏わる悪い噂、力を背景にした恐喝、買収、賄賂、騙し、出し抜き、裏切りと、枚挙にいとまのない悲喜劇が繰り返されて、のしあがった男だった。
 その山岸金蔵が死んだのが今年の夏だった。普通なら88歳の大往生なのだが、病院では特別室に院長を呼び出し、「大腸癌も直せぬやぶ医者め!!治せぬなら、潰れてしまえ」と怒鳴り散らしていた。自分はまだまだ生きるつもりであったらしい。

 そんな地元の名士で幅広く事業をしていた山岸金蔵なので、住民は皆、何かの関わりを持っていて、その存在感は良しつけ悪しきにつけ大きなものだった。山岸金蔵の死が知らされると、町の中は蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。そして、当然のこと、その葬儀は町始まって以来の大がかりで、華麗なるものだった。
 葬儀場は小学校の体育館で行われ、喪主は一人息子の銀蔵が務めた。町役場の職員は当然のこと、学校関係者、警察、消防署、町の公的機関のほとんどの人に葬儀に纏わる役割が課された。丸田万吉巡査は交通整理、高論歩刑事は香典泥棒の警備の主任にさせれていた。
「チッチッチッ」なにしろ、人数が多い、町の半分以上の人が参列したのだ。事件がおきたら大変なことだ。町の人はその香典の額で悩んでいた。

「なにしろ、お大臣様だ、町の者はみな世話になってるべぃ、三千円というわけにもいかんべえなあ」
「受け付けは町役場の助役が仕切っていて、香典の記録は町役場に保管されそうだ。あとあと、誰がいくらなんぞと噂されても困るしな、秘密情報が漏れるということもある。ここは、一枚だすしかなかんべえ」
 町の人は近所の葬儀には三千円と相場が決まっていたが、やはりそこは町一番の有力者の山岸金蔵は死んでも隠然たる影響を町の人に与えていた。隣町の寺からも応援の坊さんを呼び、総勢十人の坊さんのお経が合唱のように小学校に響き、五列に並んだ長い焼香は延々と続いた。
 それは、今まで見たこともない大がかりで華麗なる葬儀であった。焼香が終わり、東京の葬儀屋から運ばれた、車の後ろ半分が神輿のようになっていて、彫刻や彫金で飾られた大型の宮型霊柩車で出棺すると、人々は手を合わせ合わせて見送った。
「ていした葬儀だったな、町始まって以来のことだんべ」
「立派なもんだ、さすがは山岸お大臣様だ」
 人々は華麗なる葬儀にまだ興奮が収まらぬまま家路についていた。

 初七日も過ぎ、華麗なる葬儀の熱も冷めたころ、各家家に香典返しの品が届いた。香典返しを開けるのはなんとなく楽しみなものである。
 だが、山岸金蔵は土地持ちの大金持のお大臣だが、屁を出すのも、唾を吐くのももったいないというほどのケチでもあった。ケチの金蔵、ケチキンという綽名で嘲笑する者までいた。
 金持ちはケチだから金が貯まると、この辺りでは昔から言われていたことだ。案の定、香典返しは厚めの封書だけで、どこにも、海苔やお茶、鰹節、ましてタオルなどが入っていようもなかった。
 ただの挨拶文で終わりか?ケチキンの山岸金蔵の息子もやはり、ケチの銀蔵だったか、ケチギンだなと、笑った。ところがびっくらっ驚いた。その封書の中にはなんと、十万円の現金が入っていたのだ。

 悲しくはない、喜んでいいのかうれしいのか、半信半疑、疑心暗鬼、狐につままれたような表情の顔が町の中をうろついていた。
「チッチッチッ」
 高論歩刑事に十万円の香典の謎を探れという指令がきたのであった。

(つづく)

作:朽木一空


またこのブログ記事が面白いと感じた方も、是非クリックお願い致します。
にほんブログ村 ポエムブログ 心の詩へ
にほんブログ村

人気ブログランキングへ







お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2016.05.20 16:27:09
コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: