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2018.10.05
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カテゴリ: 小説


犬は犬を忘れたのかしら
人間は犬に暴力を振るうけど、とんと、犬が人間を噛んだ話を聞かなくなったわね
犬は飼い主を噛まないが、飼い主の手を噛む人間はいるのよね



「諸犬は忠犬ハチ公の話を聞いたことがあるか?秋田犬のハチ公は死去した飼い主の帰りを渋谷駅前で約10年間も待ち続けたのだ。犬の美談として語り継がれているが、あいつのお陰で、我々犬たちは、飼い主の恩を忘れぬ忠実な犬という看板を背負わされたのだ。犬たちは義理と人情、恩義を忘れぬ人間の従属物になってしまったのだ。」
「自分たち犬がどう生きるべきなのかを忘れ、飼い主に好かれることだけを考えて、忖度し、行動するようになったのだ。飼い主に嫌われたくない、嫌われれば居場所がなくなる、自分を捨て、服従、従順こそが犬の幸せな生涯を送れる道だと思い込んでしまったのだ。」
「だが、諸犬、犬は正義のない人間の官僚や政治家、中間管理職ではない、犬には誇りがあるのだ。ハチ公は、犬の尊厳、犬の能力、犬の崇高な歴史に泥を塗った、その罪は重いのだ。我らが祖先、イヌ科イヌ属の狼以来の尊厳を捨て去るのか。犬は人間に属する動物ではない、犬は自立すべきなのだ、ワンワン犬の幸せとはなんだ、犬は犬なのである、ワンワン」

 音楽堂の犬たちにざわめきがおこった。ワンワン、キャンキャン、ウーウー、ウオーウオー、しばらくの沈黙の後、ダンススクールのコーチをしているダックスフンドが壇上に上がって、マイクを握った。「ラブラドールの言うことは理解できるわ、でも、いま、人間たちは、我々を家畜扱いはしていないわ、家族だと思っていくれる、我々犬だけの力で、こんな快適な環境が作れるでしょうか、今より、おいしい食事が食べられるでしょうか、今より、暖かい部屋が持てるでしょうか、人間には充分優しくしてもらっているわ、キャンキャン、今のままの人間との関係でいいんじゃないかしら、キャンキャン、」

 青年犬ラブラドールは何もわかっていない奴だと、ダックスフンドを睨み付けた。「人間は犬が従順であれば可愛いがるが、自由を求めて行動することは望まないのだ。つまり、人間の奴隷になれということだ、犬を捨てるということなのだ。諸犬、よく聞いてくれ、犬種によって、また、血統書があるかないのかによって、犬に差別があるのは知っているだろう、これは、自分と他人とを比較し、差別し、優越感を持つ、人間の持つ汚らしい心が作ったことなんだ。人間たちは、肌の色、容姿、出自、貧富、男女、で他人を差別する動物だが、その道理を犬の社会にまで持ち込んで、犬を差別している。ペットショップでは人身売買のごとく、犬に値段までつけているのだ、ウーウー人間のための犬の差別なのだ、こんなバカげたことを許していいのか、人間の押し付けた犬の差別を撤廃しようじゃないか、ワンワン、そのためには、犬は人間から解放されねばならないのだ、犬は犬なのである、ワンワン、」

 次に発言したのは、眼鏡をかけた、シェパードの老犬、彼は犬学校の校長だった犬だ。
「犬は人間社会に充分貢献している、臭覚を生かした警察犬として、災害救助犬として、猟犬として、牧羊犬として、盲導犬として、そして、この頃ではセラピー犬が病院やいろいろな施設で活躍している。高齢者や認知症、自閉症などの人間が犬とのふれあいや交流によって、情緒の安定、身体機能の復活、社会機能の向上、記憶力の改善や、認知症の改善など、人間の気力を高め、生きる力を与えている。犬の癒し効果は人間にはない、医者の治療でもできない、偉大な犬の能力なのだ。その犬の力が人間を助けているのだ。ワンワン、私は、ラブラドール君の言うこともわかるが、革命ではなく、人間と共存共栄することが良い道だと思う。今や、人間社会は犬の力によって支えられ、犬もまた人間によっていい環境を与えられている。人間と犬が戦争をするのは反対だ。犬は人間が喜ぶ行動をとり、犬の価値をあげてゆく、それが犬の生きる道であり、平和への道なのだと思う。ワンワン、それが嫌なら、野良犬になって野垂れ死にか、保健所に逮捕され、殺処分されるのが運命である。私は、犬と人間が対等で平和に暮らせるように「犬人平和条約」を結んだらどかと思う」ワンワン、---平和条約?そいつが難しくってね、、人間様も苦労してるのよ---
 ワンワン、キャンキャン、賛同の犬声が音楽堂に響いた。

(つづく)

作:朽木 一空

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最終更新日  2018.10.05 11:19:09
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