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2026.03.01
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カテゴリ: エッセイ


死のうと思っていた。ことしの正月、よそから着物を一反もらった。
お年玉としてである。着物の布地は麻であった。
鼠色のこまかい縞目が織りこめられていた。
これは夏に着る着物であろう。
夏まで生きていようと思った。 
              ~太宰治、晩年、<葉>の冒頭~

 日の暮れかかった小雨の降る三鷹禅林寺の太宰治の墓の前で一升瓶を抱えて蹲る老人がいた。何やらぶつぶつと老いの繰り言を並べていた。ワザワザ、、、
 ふと、後ろを見ると、墓の路地の向こうに傘を差した女性が花を抱えて立っていた。けったいな老人が酒を飲みながらぶつぶつ言いながら太宰の墓を占領しているので、怖気づいていたのか、ずっと佇んでいた。
 太宰病を患っていた老人はよたよたと立ちあがって森鴎外の墓とは反対の方へ動いて墓の前を開けた。女は傘で顔を隠して、太宰の墓の前に腰を下ろして、やはりなにやらぶつぶつ囁きはじめていた。きっと、この女も太宰病に罹ってしまったんだ。同病相憐れむだ、死ぬる思いで声をかける、
「もしもし、ご一緒に飲みませんか?」 
 無言の女の冷血な視線に狼狽えた。老人は酒をぐいっと飲みこみ、よろよろとその場からずらかった。

 太宰が死んだ翌月に爺さんは産まれたのだ、もう、77年も経っている。無頼派などと煽てられ、酒と女と薬物とおまけに自殺未遂を繰り返していた堕落者なのに、太宰病の感染者は今でもなくならない。
 あの病気はね、命を落とす危険もはらんでいるんだ、そうじゃなくても後遺症で苦しむ人も多いそうだ、ていっ! いい歳こいて、まだ右顧左眄しながら、本棚に太宰の本がならんでるじゃねえか、狸爺こそ気を付けな、走れメロス!転ぶんじゃねえよ爺さん!

 走れメロスが言いたいことは、<待つ身が辛いか、待たせる身が辛いか>だとさ、戯言言っちゃいけませんよ、いつ死ぬのか待たせる身の辛さってえのもあるし、

~生れてすみません~
 しゃらくせえや! 勝手に死んだくせに、、

~いま 自分には幸福も不幸もありません
ただ一さいは過ぎていきます ~ 人間失格

作:朽木一空

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最終更新日  2026.03.01 16:58:49
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