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2026.06.28
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カテゴリ: 名作鑑賞


★★★★☆
製作:1953年 日本 上映時間:135分 監督:小津安二郎

 邦画の三大巨匠の一人、小津安二郎の代表作であり、戦後日本における家族関係の変貌を、穏やかな筆致でありながら深い余韻とともに描き出した、静かな不朽の名作である。

 尾道で末娘と三人、慎ましく暮らす老夫婦・周吉ととみは、東京で暮らす子どもたちを訪ねるため久しぶりに上京する。はじめこそ歓迎されるものの、医者の長男・幸一も、美容院を営む長女・志げも、それぞれの生活に追われ、両親に十分な時間を割くことができない。そんな中、戦死した次男の妻・紀子だけが、仕事を休んでまで義理の両親を東京見物に連れ出し、変わらぬ優しさを示すのだった。

 十分な相手をできない長男と長女の勧めで、熱海の安宿に泊まった老夫婦は、深夜まで続く団体客の騒ぎに眠れず、一泊で引き返すことになる。しかし忙しい子どもたちは、それを迷惑そうに受け止める。とみは紀子の狭いアパートに身を寄せ、周吉は旧友たちと夜通し酒を酌み交わすのだった。

 やがて東京に居づらくなった二人は尾道へ戻る決心をするが、帰路の車中でとみが突然倒れてしまう。大阪に住む三男・敬三の家で一時回復したものの、実家に戻って間もなく危篤に陥る。

 本作は、地方に暮らす老夫婦が東京を訪れ、変貌した都市とそこに生きる子どもたちの姿を目の当たりにし、数日の旅の中で人生の機微をしみじみと噛みしめる物語である。

 特筆すべきは、米国映画『明日は来らず』に着想を得たとされながらも、原作小説を持たず、小津安二郎と野田高梧が共同で脚本を練り上げたオリジナル作品である点だ。また、とみの死後、通学路から“夫婦瓶”が消えていたり、石灯籠や鉄道風景がわずかに陰りを帯びたりと、映像による繊細な心理描写が随所に潜んでいる。こうした細部の積み重ねこそが、小津が巨匠と称される所以であろう。

 葬儀の後、早々に東京へ戻る兄姉たちに不満を漏らす末娘・京子に対し、紀子は「子供って大きくなると、だんだん親から離れてゆくものではないかしら」と静かに諭す。京子が「私はそんなふうになりたくない、いやね世の中って」と返すと、紀子は「そう、嫌なことばかり……」とつぶやく。この短いやり取りに、家族という存在の普遍的な哀しみが凝縮されている。

 それにしても、70年前の作品でありながら、家族の在り方や心の揺らぎが現代とほとんど変わらないことに驚かされる。戦争がその分岐点だったのかもしれない。また、日本文化に馴染みにくいとされる欧州で高く評価されている事実を思えば、家族の物語は国境を越えて響く普遍性を持つのだろう。

 2012年には山田洋次監督が本作を現代に置き換えたオマージュ作品『東京家族』を発表している。物語としての面白さはあるものの、胸の奥に静かに沁みわたる感動は、やはり本作に軍配が上がる。とりわけ老夫婦を演じた笠智衆と東山千栄子に匹敵する俳優は、今なお見当たらない。

評:蔵研人

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最終更新日  2026.06.28 15:16:53
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