愛犬こなつのバリュー投資日記

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2026.08.26
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「先生、ちょっと聞きたいんですけど……」

喫茶店の窓際でノートを広げていた健太が、向かいに座る達也に声をかけた。

「なんだ?」

「新NISAって、もう始まってから二年半くらいですよね?」

「そうだな」

「動画を見ていたら、投資信託の保有期間って二年くらいの人が一番多いって言ってたんです。そんなに短いんですか?」

達也はコーヒーを一口飲んだ。

「まあ、そういう調査結果はある。ただ、初心者が一番気をつけたほうがいいのは、『含み益が出たから売る』という発想だな」

「でも、利益が出たら確定したくなりません?」



「先生も?」

「なるよ」

「じゃあ売るんですか?」

達也は笑った。

「そこなんだよ」


1 人間は利益が出ると売りたくなる


達也はスマートフォンを取り出した。

「例えば、100万円積み立てて、それが130万円になったとする」

「30万円の利益ですね」

「そう。すると初心者はこう考える」

達也はホワイトボードに書いた。



「これ、ものすごく自然な心理なんだ」

「悪くないですよね?」

「悪くない。問題は、その後だ」

「その後?」

「売った30万円をどうする?」



「そうだろ?」

達也は笑った。

「だったら、最初から売らなければいい」

健太は少し考えた。

「……確かに」

「もちろん、生活費が必要になったとか、資産配分を変更するとか、明確な理由があるなら売ればいい。でも、『含み益が出たから』だけなら、それは投資戦略じゃなくて感情の処理だ」

「感情の処理……」

「そう。含み益を見ると嬉しい。でも、その嬉しさが怖くなってくる。『せっかく儲かったのに、減ったら嫌だ』となる」

「それで利確する」

「そういうこと」


2 「何のために買ったのか」を忘れない


達也は健太のノートを指差した。

「ところで、君は何のためにNISAを始めた?」

「老後の資産形成です」

「だったら質問だ」

「はい」

「老後のために買った投資信託を、なぜ二年で売る必要がある?」

健太は黙った。

「そこなんだよ。投資期間を20年、30年と考えて買ったものを、二年程度で利益が出たから売る。目的と行動が一致していない」

「でも、二年で50%くらい上がったら……」

「売りたくなるよな」

「先生はならないんですか?」

「なるよ」

「なるんだ(笑)」

「俺だって人間だからな」

達也は自分のスマートフォンを見せた。

「俺が2024年から積み立てている日経平均のインデックスを見てみろ」

「えっ……」

「含み益、53%くらいある」

「53%!?」

健太が身を乗り出した。

「すごいじゃないですか!」

「そうだな」

「だったら、ちょっと売りたくなりません?」

「なるよ」

「じゃあ、なんで売らないんです?」

達也はスマートフォンをしまった。

「何のために積み立てを始めたのかを考えるからだ」


3 株を売ったら、現金になる


「株を売ったら何になる?」

「現金です」

「そう。つまり株式を売るということは、株式を現金に変えることだ」

「当たり前ですね」

「ところが、ここで初心者は一つのことを忘れやすい」

「何です?」

「現金にもリスクがあるということだ」

健太の顔が少し変わった。

「現金って安全じゃないんですか?」

「額面は安全だよ。銀行に100万円預けていて、突然90万円になることは普通はない」

「じゃあ安全じゃないですか」

「でもな」

達也は指を一本立てた。

「100万円で買えたものが、10年後も100万円で買えるとは限らない」

「インフレですね」

「そう」

「物価が3%上がれば、現金の購買力は下がる」

「その通り」

達也は続けた。

「だから株式を持つことには、資産形成だけじゃなく、インフレに対する防衛という側面もある」

「なるほど」

「企業は商品やサービスの価格を上げることができる。売上や利益が名目ベースで増える可能性がある。だから長期的には株式がインフレに対応しやすい資産の一つになる」

「だから現金化しない」

「ただし、ここは勘違いするなよ」

達也の声が少し低くなった。

「『インフレが続けば株は必ず上がり続ける』とまでは言えない。」

「え?」

「企業が利益を出せなければ株価は下がる。インフレが激しすぎれば金利が上がって株価のバリュエーションが下がることもある」

「じゃあ、さっきの話と矛盾しません?」

「いや、矛盾しない」

達也は笑った。

「俺が言いたいのは、『株は絶対に上がる』じゃない。長期の資産形成を目的として株式インデックスを買ったなら、短期の値動きだけで売買しないほうが合理的な場合が多いということだ」

「なるほど」

「投資では、この違いがものすごく重要だ」


4 年間120万円をどう積み立てるか


「じゃあ先生は、NISAをどう使っているんですか?」

「つみたて投資枠は満額だ」

「年間120万円?」

「そう」

「月10万円?」

「正確には、毎月均等なら10万円だが、俺は証券会社の設定上、毎営業日に分散して買っている」

「毎営業日?」

「そう」

「面倒じゃないですか?」

「一度設定したら自動だ」

達也はノートに書いた。

年間120万円
↓
毎営業日に自動購入
↓
日経平均インデックス

「俺の場合は毎営業日に約4,858円ずつ買っている」

「毎日4,858円……」

健太は苦笑した。

「なんか、地味ですね」

「投資なんてそんなものだ」

「もっとこう、安いところでドカンと買うとか……」

「それができるならな」

「できない?」

「できると思っている人のほうが危ない」

達也は笑った。

「相場が下がったときに『まだ下がるかもしれない』と思って買えなくなる。上がったときには『高すぎる』と思って買えない。結局、何も買えない」

「だから自動積立」

「そう。自分の感情を投資判断から外すための仕組みだ」


5 月10万円は誰にでもできるわけじゃない


健太は少し考えてから言った。

「でも、毎月10万円って結構きつくないですか?」

「きついよ」

「ですよね」

「働いている人ならなおさらだ」

「若い人だったら月2万円とか3万円くらいから始めるのが普通ですかね?」

「金額は人それぞれだ」

「頑張って5万円とか」

「それでも十分だ」

達也はきっぱり言った。

「投資で一番大事なのは、他人の積立額と比較しないことだ」

「でもSNSを見ると、毎月30万円とか50万円とか……」

「見ないほうがいい」

「そんなに?」

「他人の資産額を見て、自分の積立額が少ないと思う。それで生活を切り詰めすぎる。これが一番まずい」

「じゃあ月1万円でも?」

「続けられるなら意味がある」

「月3万円なら?」

「十分立派だ」

「月10万円なら?」

「余裕があるなら素晴らしい」

「無理して10万円なら?」

「やめたほうがいい」


6 NISA満額は「普通」ではない


「ところで先生」

「なんだ?」

「NISAを満額積み立てている人って、どのくらいいるんです?」

「意外と少ない」

「どのくらい?」

「2025年の調査では、つみたて投資枠を利用した人のうち、年間120万円を満額投資した人は16%程度だ」

「じゃあ6人に1人くらい?」

「そう」

「思ったより少ないですね」

「60代では2024年調査で20.9%だった」

「5人に1人」

「そう」

健太は腕を組んだ。

「じゃあ、毎月10万円って、かなり頑張ってるほうなんですね」

「少なくとも、全員がやっているようなことではない」

「SNSだと普通に見えますけど」

「SNSは偏っている」

「どういう意味です?」

「投資している人は投資について発信する。投資していない人は、そもそも投資の投稿を見ない。だからSNSを見ていると、投資家ばかりいるように感じる」

「ああ……」

「さらに資産額が大きい人ほど発信したがることもある」

「なるほど」

「だから、SNSを基準にすると感覚がおかしくなる」


7 最後に、先生が教えたこと


店を出る時間になった。

健太はノートを閉じた。

「今日、いろいろ分かりました」

「何が?」

「NISAって、儲けるための制度というより、長期で資産を作るための仕組みとして使うものなんですね」

「その理解でいい」

「だから、含み益が50%になったから売る、というのは必ずしも正しくない」

「そう」

「でも、株が永遠に上がるわけじゃない」

「そこも重要」

「必要になったら売っていい」

「もちろん」

「ただ、『儲かったから売る』だけではなくて、最初に決めた目的に照らして考える」

達也は頷いた。

「それが一番大事だ」

「じゃあ先生」

「ん?」

「先生は、いつ売るんです?」

達也は少し考えた。

そして笑った。

「俺が積み立てを始めた目的がなくなったときだな」

「目的がなくなったとき?」

「老後資金として使う必要が出たとき。あるいは資産配分を変える必要が出たとき。そういうときは売る」

「含み益が100%になっても?」

「目的が同じなら、売らないかもしれない」

「200%でも?」

「分からない」

「先生でも分からないんだ」

「未来の株価なんて誰にも分からんよ」

達也は店のドアを開けた。

「だからこそ、分からないものを予想して売買するより、最初に決めたルールを守るほうが強いことがある」

健太は頷いた。

「じゃあ僕も、まず月3万円から始めてみます」

「それでいい」

「いつか満額にできるようになったら、10万円にします」

「それでいい」

「先生みたいに毎営業日、4,858円……」

「そこは真似しなくていい」

「え?」

「投資方法まで真似する必要はない」

達也は笑った。

「自分の生活を壊さず、自分が続けられる金額で、自分の目的に合わせて続ける。これが一番大事だ」

二人は店を出た。

健太はスマートフォンを取り出し、証券会社のアプリを開いた。

そこには、まだ何も始まっていない自分のNISA口座が表示されていた。

「……まずは月3万円か」

その横で達也は、今日も何も考えずに積み立てられていく自分のインデックス投信の残高を確認した。

含み益は、53%。

達也はスマートフォンをポケットにしまった。

「さて。明日も買うか」

そして二人は、駅へ向かって歩き始めた。





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最終更新日  2026.08.26 08:26:40
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