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2011年02月16日
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カテゴリ: 洋画(11~)
不思議な映画だった。遠い異国の摩訶不思議な話なのに、どこか懐かしいのである。



監督はニキ・カーロ。アカデミー賞ノミネートの「クジラの島の少女」の監督というよりも、96年マイベストワンの 「スタンドアップ」 のそれと言ったほうが私にはぴたりと来る。彼女の監督作品だということだけで事前情報は何一つなく見た映画である。今までのように女性の自立を描いた話ではない。「抵抗の精神」の話でもない。けれどもこれは広い意味で、精神の自立を描き、偏見からの抵抗を描いているのかもしれない。

原作はニュージーランド作家エリザベス・ノックスの「ザ・ビンテージ・ラック」。しかし、舞台は19世紀フランスブルゴーニューだ。あるシャトーの元で働くワイン醸造家の一代記である。いつか自分の畑でワインを造ると希望に燃える農夫ソブランは、ある夜天使に出会う。「君を褒めも罰しも、しない。見守るだけ」といい、一年に一度の逢瀬を重ねていく。こんな神がキリスト教にいるのだろうか。この天使はやがてキリスト教の中の異端児だということがわかるのではあるが、映画はそれを描きたかったわけではない。

最愛の少女セレストと結婚、ナポレオンのロシア遠征で生死を彷徨い、小さな畑で旨いワインを造り、愛娘と死別、シャトーの醸造を任され、成功、男爵夫人オーロラとの禁断の愛、葡萄畑が病で全滅、妻の発狂、娘の結婚、そして自らの死。その総てがその時々のワインの味に反映される。

002約束の葡萄畑.jpg
ワインの美味さとは何だろうか。私は昔、ソニーのワイン通信講座を受けたことがある。一ヶ月に世界の厳選ワイン2-3本と教材が届き、フランス、イタリア、ドイツ、その他のワインのラベルの見方から味の特徴、料理の合わせ方まで一通り教えるというものである。何の資格も得られないし、一年で12万円近くする道楽であったし、最終的にはワインとは奥深いものだ、という感想しか得られなかった。けれども親類縁者の中では「ワイン通」というステータスを得たので、決して高い買い物ではなかった(今の身分では到底できない道楽だった)。ワインは決して肥えた土地からいい葡萄が得られるわけでもなく、本の少しの違いで「運命」が大きく分かれる。1500円のワインからは上手く買えば、2-3種類の味が得られるけれども、5000円のワインからは4-5種類の味を見分けるのは至難である。1-10万円のワインの良し悪しは、もう私の舌では見分けられない(勿論産地なども当てられない)。最初フルーツの味、次ぎに樽の香り、やがてその日の料理が次々と新しい旨みをワインから引き出す。ワインは醸造家の人生を映しているのだというこの映画の主張には賛成するし、料理との合わせ方はその地方を、熟成の味わいは歴史を、映しているのである。

農夫が天使に出会うのは、その歳の農作物の出来合いを神棚に報告する日本の習慣と似ている。なんとなく懐かしいと思った所以だろう。けれども、天使はやがて羽を捨てることを思いつく。この天使の行方を映画では描かない。たぶん、堕天使サタンのようなおどろおどろしい運命はハリウッド映画に任せて、フランスの美青年が演じたこの堕天使はたんに人類に寄り添って生きていくのではないだろうか。

それぞれの役者、どこかで見たと思ったら、実に国際色豊かに集めていた。ソブランは「ある子供」で子供のような精神年齢しか持たなかったジェレミー・レニエが堂々の大人を演じていた。妻セレストは「クジラ島の少女」の少女を演じたケイシャ・キャッスル=ヒューズ。男爵夫人には「マイレージ・マイライフ」で仕事と家庭と浮気を使い分けていたヴェラ・ファミーガ。そしてニュージーランドとフランスの合作映画。人生と世界はワインのように不思議で豊かである。





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最終更新日  2011年02月16日 11時09分58秒
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