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いろいろあって、二ヶ月ほど中国に滞在した。二度目の中国の印象は、国民に広がる激しい貧富の差だった。一度目に訪れたのはまだ北京空港が新しくなる前で、そのときは共産圏の暗さばかりが目立った。十年ほどの間に、中国はめまぐるしく変わった。報道などで中国国民の所得格差の問題は耳にしていたが、現状は私の想像を超えていた。共産主義と資本主義経済の同居する中国社会の、今後の大きな課題だろう。
中国滞在中、宿泊していたホテルの近くで一人の女と知り合った。彼女の名はリン。漢字で凛と書き、二十歳で、売春婦だった。外国の宿泊客をターゲットにした売春婦たちは、黒塗りのベンツに何度クラクションを鳴らされてもめげなかった。
私は金持ちではないので、ベンツのハイヤーで街に繰り出すようなことはしなかった。ホテルを出るたび、リンは待っていたように私に声を掛けてきた。最初は相手にしなかった私も、彼女の情熱に、ある日ついに足をとめた。
「こんなことをしないと生活出来ないのか?」
通じるはずのない日本語で、私は尋ねた。リンは私のジャケットの袖口を引っ張り、イチマンエン、イチマンエンと繰り返した。やりきれなかった。胸のうちに、怒りに近い感情が生まれていた。
リンと言葉を交わしたのは、彼女の情熱のせいなどではなかった。私はリンと寝たかったのだ。リンは、昔私が愛した女に似ていた。私は、昔の恋人に売春婦をだぶらせ、せつない恋の思い出に金の力で浸ろうとしていたのだ。
結局私はリンを買った。大人の良識を捨て、自分のエゴだけを満たした。そして自己嫌悪にも陥らず、シャワーを浴びれば全部洗い流せるとでもいうように、今日ものうのうと生きている。