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ロジャーが一息つき、満面の笑顔で言った。
「夕食は一緒にできないが、少しだけ時間を作れるから、このバーに来ると言った。」
ええええええ~~~!!
ファン一同、ヤンヤヤンヤと喜び、マリオのバーは大騒ぎとなった。私はまだ実感がわかなくて、頭の中で「会える。。。会える。。。」と何度も自分に言い聞かせる事しかできなかった。アービーが来るまでの間、私はどう過ごしたのかよく覚えていない。
ただ、彼がバーに入ってきた時、まるで全ての騒音が消し去り、彼以外の全ての人がビデオで一時停止したような瞬間だった。
アービーだ。。。。
本物の、アービーだ。。。
アービーと新妻アレクサンドラはファンの皆に握手しながら挨拶をしていた。さすがにまずはスイス軍のファンからだったが彼は私達のほうにもきちんとやって来て挨拶をしてくれ、そして私の番にきてしまった。彼はすらりと細い手を差し出してきてくれ、
「来てくれてありがとう。」
と挨拶をして、私の目を見つめた。私はやっとの思いでその手を握り返す事ができ、「また会えてよかったわ。いい試合だったわね。」とだけ答えられた。彼は私を見つめながら「あ、なんか見たことあるおばちゃんだな。」という顔つきになって「スーパーボール、始まったか知ってる?」と突然聞いてきた。私はまだ彼に話しかけられている、と言う事が信じられないまま、「えとね、今始まったばかりだけど、試合じゃないわ。プリゲーム。」と答えた。彼は「オーケー。ありがとう、じゃあまだ少し時間がありそうだ。」とつぶやいた。その時、スイス軍のファンから声がかかり、彼はそのまま、彼らの要求に答え写真を一緒に撮り、サインをしてたりして忙そうだった。私は今さっき、アービーと交わした会話を反芻しては、まだ夢じゃないかと信じられなかった。
ロジャーもニコニコ顔でスイス軍に加わっていたが、「ああ、そうだった、このヘンなニホンジンは明日コロラドに帰るんだった」とでも思い出したのだろうか、急にアービーに向かってなにやら囁いた。すると、どうだろう、なんと彼と奥様は私たちのテーブルに向かってやって来た!しかも、私の目の前にあるイスに腰掛けてしまった~~!!私は頭から噴水が出るんじゃないかとおもうくらい、汗ばんでしまった自分に気が付き、しかも、顔はマッカッカ、心臓は口からいつ飛び出してきてもおかしくない状態になってしまった。ロジャーはそんな私の横に座り、なにやらスイス語で私のことを説明しているようだった。こいつが、2泊3日でコロラドから来て、明日帰るんだとか、お前が送ったグラブの持ち主はこいつだとか言っていたのだと思う。というのもロジャーがアービーに話している間、彼は私から
視線をそらさなかったのだ。
バンバン感じながら
ガチガチに固まってしまっていた。ロジャーに「ジャージーに、サインしてもらいたかったんじゃなかったのか?」と言われて初めて私は持ち歩いていたアービーのジャージーを思い出し、あわててかばんの中から取り出した。その瞬間、彼の視線が やっと
それたので一言言う事ができた。
「背番号、まちがわないで、ちゃんと1番、って書いてね。」
彼の今の背番号が30番だから冗談で言ったのだが、彼も奥様も、ファンも、思わず噴出してしまった。
サインをしてもらったジャージーを受け取りながら「ナンバー1のゴーリーはあなただけなんだから。」と言うと、彼はとっても素敵な笑顔で「ありがとう」と答えてくれた。「デンバーにあなたがいなくて寂しいわ。」とポツリとこぼすと彼はちょっと悲しそうな顔をして「残念だけどそればっかりは仕方がないよ。」と言い、「でもモントリオールもなかなかいい街だと思うよ。」とポジティブな面を見せてくれたので私も少し元気よく「そうね、今日の試合もほんっとに楽しかったもの。」と応じた。アービーはまだ私から視線を外さず「デンバーより、会場が賑やかだよね?」と会話を続け私もテーブルにいたみんなも「凄かった!」とそれぞれ言ったがロジャーは「今日はファンクラブの声援のほうが大きかった!」とすっかり嗄れ声になった声で言ったのでみんなはまた大笑いした。
笑いが一段落した時、アービーは私に「飛行機はデンバーから直行便が出てたはずだよね?」と聞いてきた。私は「うん。でも私はシカゴで乗り換えてきたの。」と答えると「何も問題なかったの?」と聞き返してきたので「 全くなくて
、時間通りにデンバーからも、シカゴからも来れたわ。」と、今まであった、 哀しみの玉子焼き事件
や 「香港へ行くんでしょう?」事件
は一切なかったような顔をして答えた。何も知らないアービーは笑顔で「それは良かったよ。」と言い、
「それで?ホテルはロジャーたちと同じなの?」
とまた私の顔をしっかり見つめて聞いてきた。サラが冗談交じりに「この子ったら、昨日もホテルの名前が覚えられない、ってぼやいてた位だから、聞いても無駄よ。」と笑った。アービーも口元は微笑んでいたが目線はまだ私に向けられたままだったので私は一生懸命発音を正確に言おうとしながら「ミラタイムプラザホテル、って英語だと言うんだろうけど・・・ごめんね、フランス語ではなんと言うのか覚えれなくて。」と言った。ロジャーが擦れた声で「ミリティムだな。」と言ったその瞬間、アービーの顔がパッと明るくなって
「あ、あの、セイントキャサリーン通りの?」と言った。
私はえ?え?え?とか思いながら
「そうだと思う。向かいの通りがギーストリートで、ホテルの窓から。。。」
「ベルセンターが見えるんだよね!」
と私とアービーは
声を揃えて言っていた!
私はなんだかとってもうれしくて「どうしてそのホテルのこと、よく知ってるの?」と聞いてみた。アービーは「トレードされた時、そのホテルでしばらく住んでいたんだ。」と答えてくれた。ミーハーな私は思わず「何階だったか、覚えてる?」と聞いてみたがアービーは「そこまでは覚えてないよ、いろんなホテルを移動毎に使うからね」と微笑んだ。
奥様が腕時計を見て彼の耳元で何か囁いた。アービーは彼女の顔を見て、私達を見回し「そろそろ行かなきゃ。」とちょっと寂しそうに言った。みんな座っていた椅子から立ち上がった。
ロジャーが「来てくれてありがとう、また電話するよ。」と言いながらアービーにHug(ハグ)(軽く抱きしめる?日本語ではどう表現すればいいのでしょう?)をした。するとナンシーもサラもブリットニーも次々とアービーにHugしながらお別れを言っているではないか!!
げげげ~~!!
ってことは私も
Hugするの~~!!
マジっすか~~!!
あっという間に私の番が回ってきたものの、
ワタシ、ヘンナニホンジン~
アメリカ在住歴15年、いかにHug慣れしてても、
相手は 有名アスリート ですぜぃ~
ガチガチになってしまっていたら、ロジャーが面倒見切れないよ、と言うような顔をして 「ホラよ」 と私の背中を押したので、つんのめりそうな状態で片方の肩が突き出してしまった。 するとアービーが、なんと、その突き出た肩を グッと自分のほうに引き寄せてくれ Hugが成立(?)してしまった~!!!
Hug!
Hug!!
Hug!!!
あんなに会いたかった、アービーに、
今、
Hugされている~~!!
私はすっかり10代に戻った気ですっぽり包まれていた。
やっとの思いで「わざわざ時間を割いて来てくれてありがとう、いい思い出になるわ。」と言う事ができた。アービーは私の肩をポンポン、っと叩きながら「こちらこそ、デンバーからわざわざ応援してくれてありがとう、気をつけて帰るんだよ」と言ってくれた。彼のつけているコロンの匂いをふんわり感じながら、私も彼の背中をポンポンっと叩き「ちょっと早いけどお誕生日も、おめでとう。それからグラブ、本当にありがとう。」と言った。アービーは「こちらこそ、素敵なファンレターをありがとう。」と微笑んだ。
アービーと奥様は来た時と同じようにスイス軍のファン達一人一人にお別れをしてから去って行った。
私は突っ立ったまま、去っていく彼らの後姿を見つめていた。 私はたったの15分か20分ほどだったのに、今起こった出来事がまるで映画のように頭の中で流れていた。
会えて、よかった。。。。
突然、私の目から涙がボロボロっとでてしまった。
それに気が付いたナンシーが「どうしたの!?何があったの!?」と、今までヘラヘラ笑っていた私が急に泣き出したことにびっくりしてしまった。おかげでみんなの視線は私に向けられた。私は泣き笑いしながら言った。
「会えて、よかったな、と思ったらなんだか感きわまっちゃって。」
ナンシーは子供を見つめる優しい目をしながら私の肩を抱き、「ほんっとに会いたかったのね。」と言い、サラもブリットニーもニコニコして「泣くほど会いたかったんだね。」とそれぞれ言うとロジャーが出ない声を振り絞って「オレも何だか泣きたくなっちゃうぜ」と冗談を言ったのでまたもや大笑いした。
夜も更けてきた。ロジャーたちとのパーティも今日が最後。 みんなとメールアドレスを交換して、それぞれハグをした。口々に「また絶対会おうね。」と言いながら。
次の朝、私はモントリオールを後にした。スーツケースに入りきらないくらいの思い出と一緒に。。。

涙の再会(↑)顔写真だけはご勘弁くだせぃ~