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そんなある日、ケビンのお店から帰ってきた彼はまたもや「相談」を持ちかけてきた。ケビンがラインコックの皆 に、彼のお店のお得意さんが専用シェフを探している、誰かその仕事に興味がないか、と聞いていた、と。私は「それで、あなたはなんて答えたの?」と 聞いてみた。彼は「僕はバーもあるし、無理だって答えたんだ。」
私はふと、聞 いてみた。「あなた、ラインコックの中では最年長さんなんでしょ?」だんなは不思議そうに「そうだけど?」と答えた。
あのね、私が思うには、よ。ケビンはあなたのこと、随分長い間、知ってるわけでしょ?10年前にも働いたことがあって、今でも ケビンのやってることをあなたは尊敬していて、エスタージュの時だって、パートタイムになってからだって、お仕事は真面目にきちんとやってる、そんなあな たの姿をずっと見てきてるわけでしょ?しかも、その専用シェフの仕事って、彼のお得意さんから来てるってことはケビンだって、よっぽど誰か信頼のお ける人にしか、その仕事をしてもらいたくないはずよ。
今でこそ、レストラン業や、お料理界はテレビのお料理チャンネルやらで華々しいものに見えるけれど、 実際働くと華々しいどころか、長時間、暑い所で立ちっ放しの上、お給料も安くて、しかもあなたの働くような高級レストランなんかになるとラインコックから、スーシェフに昇格なんて、一体いつできるのかわからないから20歳くらいの、どこの誰だかわかんないような若手の子は、実情を知るとすぐ辞めちゃうわけじゃない?
そんな子達にケビンがそんな大切な仕事を任せるにはいかないんじゃないのかな?それに比べてあなたはレストランのいい面も、嫌な面も、全 部知った上でケビンの元へと戻ったわけだし、年は確かに取っちゃったかもしれないけれど、それだけあなたは料理に対して真剣だということも証明していると 思うの。ケビンがあなたにしてあげれることはラインコックとしてパートタイムで雇ってあげるのが精一杯だったけど、今こうして、お得意さんから「あなたに とって」いい話がきたから、ケビンは何気なく、あなたにその仕事をするべきだと促しているんじゃないかしら?
だんなは、しばらくの間考えてから「そうだなぁ~。そうなのかな~。。。まぁ、バーのほうも働いてるっていったって週2.3日の何時間だから な~。。。パーソナルシェフの仕事ったって、採用してもらえるかどうかだってわからないし、よしっ、面接を受けるだけでも受けてみるとするか。相談してよかったよ。ありがとう。」と微笑みながら答え、ちょっと目が輝いた。
次の日、彼はとても明るい顔をして仕事へ出かけていった。そしてお昼過ぎ、「ケビンと話したよ。彼も推薦状を書いてくれると言ってくれ たんだ。」そう、弾んだ声が携帯の向こう側から聞こえてきた。。。
その後はとんとん拍子で事が運ばれた。専用シェフのインタビューとあって、彼はとても緊張していた。ケビンのお得意さんは、とんでもなくお金持ちの石油会社の オーナーで、ハミルトンさんといった。どのくらいお金持ちって、
自家用 ジェット が あって、
美術館に 自分の名前のついた 建物を 何ミリオンダラーも 寄付 して作り、
魚釣り に行くと言えば、自家用ジェットに乗って アラスカ まで行き 、
お年は召されていても各自 在宅パーソナルトレーナー
がついていて
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お庭には テニスコートが 2つ
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インサイドプールが 1つ
あり
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運 動は欠かさない。
相当の美術好きで、 モネ や ピカソ の 原画 が 埋まるほど 彼らの 図書室 の壁にかかっている。
そしてなんと、ご招待なし では入れない
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フィッ シャーアイランドという
島
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の一角をお持ちで
ゴルフ
と 言えばその 島
でするという
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(これがフィッシャーアイランドの一角↓)

(コネチカットからフェリーに乗ってたどり着く。↓)

とにかくの大金持ちだった。
そんなハミルトンさんご夫妻と1時間に及ぶ面接を無事済ませ、(もちろん、入り口では セキュリティ係り
が彼を止め、ハミルトンさんからの承諾を得てからしかパーキング場までたどり着けなかった。
そして、家の前では 執事さん
が彼を向かえ入れた。)彼は私に電話をしてきた。
「とりあえず、3回料理を試しに作ってくれだってさ。1つめのテーマはあひる、2つめの テーマはバッファロー、で、3つめは僕が決めていいんだってさ。」私は「よかったね、まるで‘料理の達人’みたい。」と笑うと、彼も緊張がほぐれたのか、 くすっと笑った。そして、3回のお試し料理も無事終え、ハミルトンさんは「3ヶ月、仮採用」とおっしゃり、だんなも私も大喜びした。
そしてその仮採用の3ヶ月はあっという間に過ぎ、彼は毎日のように彼らが喜びそうな味を求めああでもない、こうでもない、と久しぶりに料理の本に没頭する日が続いた。ハミルトンさんのお好みのお料理とは、だんなが好きなケビンのお店ようなテクニックをあまり要さないシンプルな家庭的なものが多いので、そういった分野での経験がまだ少なかった彼にとって新たな挑戦でもあった。ただ、レストランと違って、働く時間も短く(彼は夕食だけ作る。朝食と昼食は 在宅お手伝いさん
の仕事らしい。
)待機時間のほうが長いので彼は一品ずつ(夕食はいつも3コース食されるらしい。う、うらやましい。。。
) じっくり心を込めて作ることができるし、家に帰ってくるのも早く、
週末はもちろん、
ハミルトンさん夫妻が旅行やお出かけになるとお休みだし、何と言ってもさすがにお給料がレストランのラインコックからはかけ離れていた、というのも私達を喜ばせた。
そして、彼らは今週、10日間ほど恒例の「 別荘でご招待オンリーのゴルフ会 」をすることになり、だんなは20人あまりの人々に、たった一人でお料理を出すことになった。私はフィッシャーアイランドに発つ準備をしているだんなに冗談っぽく聞いてみ た。「ねぇ、あれからもう、半年以上経つんだけど、ハミルトンさん、あなたに何も言ってこないわよね。まだ本採用にはならないの?」と。だんなは肩をすく め、シェフコートをスーツケースに入れながら私にこう言ってウィンクした。
「仮採用のわりには待遇いいよな」
彼が出張で家にいなくて寂しくなる反面、真面目にこつこつと働いてきた彼をケビンが認めてくれたおかげで、こんな新たな道へと彼が進み始めたことを、今ちょっと誇らしく思う。。。。
(彼が愛情込めて作ったPierogi。サワークリームとカーメライズドオニオンで頂く。中身はチーズとポテトが入っている。↓)

だんなとマンチェゴチーズ 2010年07月24日 コメント(3)
だんなの道。その1. 2010年07月15日