中高年の生涯学習

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2025.11.02
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加藤秀俊教授の 「独学のすすめ」 (ちくま文庫)は50年前に出されたエッセイである。言ってみれば、完全に古本の一種である。最初の婦人雑誌「ミセス」に教育論として発表された。これが文芸春秋で単行本として出された。さらに2009年にちくま文庫で解説付きで出された。もちろん現在でも入手可能である。ここには当然ながら編集者の眼がある。第一に文章がわかりやすく明解であること、主張されている内容が現在でも生きていることが長期にわたって出版されている理由であろう。


「独学」といっても独学の方法論や目先のテクニックについては書かれていない。言ってみれば教育についての幅広いテーマが取り上げられている。独学とはなにか、学ぶとは、読書、教養とはなにか、お稽古ごと、創造性、試験、専門とは、外国語の教育、学問、学校の意味。生涯学習を行っている人には誰でも考えているテーマだ。 加藤教授は社会学博士 。京都大学、スタンフォード大学、ハワイ大学などで教鞭をとっていた。日本の学生とアメリカの学生の学ぶことに意識の違い、比較が多く取り上げられている。大学名はほとんど一流大学だが、当然、意欲のない、やる気のない学生はいる。そういう学生は大学へ入ることが目標で、入ってしまえば、勉強などしないで麻雀屋やパチンコ屋等で過ごすことになる。「学校」など意味があるのかという疑問が出てくる。一方で大学に行けなくて、人生の途中で 自分の無知に気付いて 独学を始める人もいる。


第一章「独学のすすめ」では、イギリスの女性ジェイン・ヴァン・ラヴィック・グロールの紹介である。縫いぐるみのチンパンジーのおもちゃで遊んでいた女性がふとした切っ掛けで チンパンジー研究の 大家になった話である。チンパンジーから身の回りの動物に興味を持つようになる。鶏小屋のにわとりの卵を産むのを熱心に観察するようになる。高校を卒業すると ロンドンで普通のOLになった 。あるときオフィスに一通の手紙が舞い込んだ。なんと消印はアフリカのケニアからである。差出人は高校時代の友達である。その友人の両親はケニアで農場を経営しており、「遊びに来ないか」という招待である。しかしアフリカに行くお金がない。ロンドンで暮らしていたらお金は貯まらない。会社を辞め、故郷に戻り、食堂のウエイトレスになった。自宅通勤なので余計なお金はかからない。ウエイトレスにはチップという収入もあった。しばらく働いたらアフリカまでの旅費はたまった。ジェインは飛行機の切符を手に入れアフリカへ飛んだ。ひと月ほど友人の家に滞在したが、あんまり長くお世話になれない。ジェインが動物好きと知った友人は リーキー博士 を紹介してくれた。リーキー博士はアフリカにおける霊長類研究の最高権威であり、ナイロビ自然博物館の研究主任である。ジェインが動物好きと見抜いたリーキー博士は秘書の仕事を与えた。取り扱う書類は勉強の宝庫である。そこで動物学と考古学を学び始めた。ジェインは探検隊についてキャンプ地の草原や茂みを歩いた。周囲にはキリンやゼブラなど動物園でしか見たことのない動物たちが眼の前にいた。博物館の学者からたくさんの事を教えられた。野生のチンパンジーの生活についての研究がされてないことに気づいた。


「チンパンジーを勉強するわ」とジェインはリーキー博士に申し出た。秘書の仕事から研究部門に移った。そしてタンガニーカ湖畔の密林のなかにテントを張って研究をはじめた。チンパンジーは時々姿を見せるが、すぐどこかに行ってしまう。しかし時が経つにつれてチンパンジーはジェインを気にしないようになり、ジェインはじっと動かないで待った。チンパンジーの警戒心を解くことに成功した。チンパンジーはジェインを仲間と感じるようになったのだろう。近づいてきてジェインに触るようになった。至近距離で彼らの生活を記録していった。一冊の本になった。日本では「森の隣人」(平凡社→現在「朝日選書」)の題名で翻訳されている。1971年に出版され驚異の記録として欧米では版を重ねている。アメリカでは 大学の教科書になっている 。高校卒の女子が独学で、ここまでの成果を上げる彼女の人生記録でもある。学校というのは勉強するのに便利な施設である。しかし学校へ行かなくても「独学」という方法論がある。


加藤教授の 殺し文句 。「独学できっちりと学習できない人間が、やむをえず、学校に行って教育をうけているのだ。学校は脱落者救済施設のようなもので、独学で立ってゆけるだけのつよい精神を持っている人間は、本当は学校に行かなくたって、ちゃんとやってゆけるものなのである。」


以下は赤線を引いた一発フレーズ集である。前後の文脈を知りたい人は同書を参照してほしい。


「教育というものの基本的な目的と意味は、ひとりひとりの個人が、人生にたいする意欲をつちかうことにある。」


「読書というのは、他人の経験を共有するということだ」


「高等教育レベルでは、本を読むことの方が、授業をきくよりはるかに有効であるばあいがすくなくない。


「じつのところ、日本の主婦たちが、いっこうまともに本をお読みになっていない、ということにわたしは気がついている。」


「のぞましい教育ママとは、自己教育に熱心なママのことだ。」


「伝記をつうじてわれわれが学ぶのは、人生の理想というものだ。」


「情報の質が人生の質をきめるのだ。情報を選ぶことが、人生をえらぶことである。


「それぞれの道で立派な教育を受けた人が「三国志」を読んでない、とか、落語、講談のたぐいを知らない、とか、あるいは「百人一首」をいちどもやったことがないとか、そういうふしぎな事態が出現しているのではないか。「ねどこ」って何ですかと聞いてきたエリート青年がいた。→「ねどこ」は落語のタイトル。


「男のつまらなさ、というのは、子供のころの情操教育を受けなかったことと関係している。たくさんのお稽古のチャンスにめぐまれた女性文化をねたんでいる。」


「仕事とは、個人が義務を果たすだけではなく、他の人間としっかりつなぎあわされることのできる開かれた通路と考えられる」


「一般的な思い込みを破った思考によって問題解決にいたることを創造という。」


「創造的思考をするためには、どうしたらよいか。常識を疑い既存の観念の枠組みにとらわれないことがその秘訣だ。」


「ギリシャの学者たちは、それぞれが、ひとりで多面的な知識人であった。」


「日本人の外国語は、着信専用であって、なかなか発信用の道具としては使われにくい。」





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最終更新日  2025.11.02 11:07:09
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