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「福島の桃が食べたいんです」
遠方から来た20代の女の子が、そう言った。
私の頭に浮かんだのは、友人の息子さんの果樹園だった。味は最高——お墨付きだ。すぐに紹介した。
その果樹園には、少し長い物語がある。
友人のお父さん、つまりおじいちゃんは、果樹農家だった。けれど娘である友人は、農業を継がなかった。それでも農地は売らなかった。人に貸しながら、土地だけはずっと守ってきた。
おじいちゃんが亡くなって、20年。
その土地に、孫である20代の青年が戻ってきた。昨年から、桃の販売を始めている。
20年、誰も継がなかった畑に、また実がなっている。
今日、あの女の子が我が家に来てくれた。
「ありがとうございました」
にこやかな笑顔だった。
1箱1500円。2箱で3000円。ところが彼女が差し出したのは、3500円だった。
「受け取ってください。私のために、お手間とお時間を使ってくださったお礼です」
20代前半。まだ若い。それなのに、こんなにきちんとしている。
私は、素直に感心した。
「たらいの水」の話を思い出した。
たらいの水を、自分の方に集めよう集めようとすると——水はぐるっと回って、どんどん向こうへ逃げていく。
逆に、「どうぞ、どうぞ」と相手の方へ差し出すと——水は回り回って、自分の方に返ってくる。
先に出す。それが、先出しのマインド。
就農した青年のおじいちゃんは、地域の方々のために尽力して働いてきた人だったそうだ。
そして今。お孫さんが就農して、地域の方々からたくさんの応援をいただいているという。
おじいちゃんが差し出した水が、20年の時をこえて、お孫さんのところに返ってきた。
自分だけよければいい、ではない。周りの方のために働くことが、めぐりめぐって自分を助けることになる。
恩送りとして、ちゃんとつながっているのだと思う。
あの女の子は、ライバーとして頑張っているという。
きっと、たくさんのファンがつくだろうな。
だって、あんなに素直でかわいいんだもの。
私も、そのひとりになります。
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