主要7カ国首脳会議で安倍晋三首相が「世界経済はリーマン・ショック前に似ている」との景気認識をもとに財政政策などの強化を呼びかけたことに対し、批判的な論調で報じる海外メディアが相次いだという。景気認識の判断材料となった統計の扱いに疑問を投げかけ、安倍首相の悲観論を「消費増税延期の口実」と見透かす識者の見方を交えて伝えられたそうで、安倍晋三首相が消費税率10%への引き上げを2年半再延期すると提案したのは、景気下振れにつながる増税を先送りしながら、財政健全化目標を堅持する姿勢も示す狙いなのだが、増税が2度にわたり延期されれば政府の財政規律に疑問符が付くのは必至で、増税による税収増をあてにしていた社会保障関連の政策に影響が出るのは必至なのだ。
日本経済の長期低迷の背景には政府の成長戦略の遅れもあり、アベノミクスへの批判も強まっているがデフレ対策等は「道半ば」で乗り切るというのだ。政府は政策経費を借金に頼らずにどの程度賄えているかを示す基礎的財政収支を、2020年度に黒字化する目標を掲げているのだが、増税の遅れは目標の後退につながる恐れに関して「19年度中に増税するなら、増税効果がフルに表れる20年度のPB黒字化目標は取り下げる必要はない」ということで、安倍首相も財政健全化計画への懸念を払拭しようと、ギリギリの線を示したと見られる。ただ安倍首相は前回の増税延期を決めた際、「リーマン・ショックや大震災のような重大な事象が起きない限り、実施する」と断言していたのだ。
安倍首相が主要国首脳会議で新興国経済の低調を示す統計をもとに、「現状はリーマン・ショックの直前に近い」と認識を示したものの、多くのエコノミストやメディアから異論が出ている。英紙フィナンシャル・タイムズは「世界経済が着実に成長する中、安倍氏が説得力のないリーマン・ショックが起きた2008年との比較を持ち出したのは、安倍首相の増税延期計画を意味している」とズバリ指摘されたという。商品価格の下落や新興国経済の低調ぶりを示す統計などを示し自らの景気認識に根拠を持たせようとしたが、年明けに急落した原油価格がやや持ち直すなど金融市場の動揺は一服しているし、米国は追加利上げを探る段階で英国のキャメロン首相は討議で「危機とは言えない」と反論までしているのだ。
英政府幹部の話として「キャメロン氏は安倍氏と同じ意見ではない」と指摘しており、当面は日銀の金融緩和策で低金利が続きそうだが、財政規律への信認がいったん揺らげば反動も大きいといわれている。財政規律への信認を失えば国債の格付け引き下げや金利上昇を招き経済に悪影響を及ぼしかねないという指摘もなされている。安倍首相は伊勢志摩サミットで、新興国の景気低迷を世界経済のリスクだと指摘したが、経済成長率は日本が0.5%と主要7カ国で最低なのに対し米国や英国は2%台を確保しており、日本経済の低迷が長期化しているのは前回の消費税増税後の消費低迷だけでなく、日本の潜在的な経済成長力が停滞し企業や家庭が一定の成長を前提とした消費や投資に向いていないことが原因だという。
政府は企業の国際競争力を高めるための労働規制緩和などに取り組んでいるが、国会審議の遅れなどでなかなか効果が出ない伊野が実情で、前回の増税延期を決めた際に「増税を実現できる経済環境を作る」と説明した安倍首相だったのだ。社会保障に関しては「政権が力を入れると言っているのにもかかわらず、財源を確保しないのは無責任と言われてもしかたない」の懸念が既に渦巻いている。増税分はすべて社会保障の充実や安定化に使うとしており、税率を10%に引き上げた段階では子育て支援や介護の充実・年金制度の改善に2.8兆円を投じる予定なのだが、再延期になれば今年度と同規模の状態が続き、社会保障の充実は遠のくことから安倍政権は難しい対応を迫られるというのだ。
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