通の痛ましい過労自死事件などをきっかけに残業削減をはじめとする「働き方改革」が喫緊の課題として一般に認識されるようになってきているが、今年 3 月には政府の「働き方改革実現会議」が長時間労働是正や同一労働同一賃金などを盛り込んだ実行計画をまとめている。働き方とくに残業削減に向けての対策は生産性の問題と結びつけて語られているが、その際に生産性という言葉が単に「効率よく仕事をこなすこと」とイコールだと思い込まれているケースも多いとされている。本来「生産性を上げる」ということはより短時間で、それまでと同じかそれ以上のアウトプットを達成することを意味するといわれているが、それなのにアウトプットはどうでもよくとにかく無駄なくテキパキと仕事をすることだと勘違いされがちなのだ。
効率性を上げる策としてよく言われるのに「ダラダラした会議をなくす」とか、「メールチェックはまとめてする」といったものがあるが、これらに違和感を抱く人も少なくないのではないかとされているのだ。たとえば会議を短時間で終わらせ頻度を減らすのにも成功したとして、他にも効率化の努力をした結果仕事が短時間で終わるようになった。しかしそれで早く帰れるようになるかというと「そうは問屋が卸さないというのだ。そには「時間があるのなら」と別の仕事を振られたりして結局は効率化のプレッシャーに増えた仕事の負担が加わり、以前よりも精神的や肉体的に大変になってしまうことが多いというのだ。とくにクリエイティブな仕事などでは量よりも質が重視されてしまうというのだ。
そのような仕事では単純に効率的な方法を追求するだけでは意味がなく、短時間でこなせてもアウトプットの質が下がりクライアントが納得しなければ仕事自体なくなりかねない。長時間労働是正の問題を解決するには画一的な方針やルールを定めるだけでは不十分で、いくら残業時間の上限を定めたところでこなさなくてはいけない仕事の量や、仕事のやり方だけでなく任せ方が変わらなければ、サービス残業や持ち帰りが増えるだけではないかという意見もあるそうなのだ。厚生労働省の「平成 28 年版過労死等防止対策白書」に掲載された調査結果などによると、残業の発生原因が個々人の能力や工夫に関するものではなく、仕事のあり方や量によるものであることを指摘しているというのだ。
雇用者と被雇用者双方に残業が発生する原因を尋ねる質問への回答でも、「人員が足りないことから業務量が多いため」とか、「顧客や消費者からの不規則な要望に対応する必要があるため」・「予定外の仕事が突発的に発生するため」といった、個人の努力ではいかんともしがたい理由が上位になっているというのだ。これには私を含めて身につまされる人も多いのではないだろうかと思うのだが、さらに仕事の任せ方について欧米では「仕事に人をつける」ジョブ型が多いのに対し、日本では「人に仕事をつける」メンバーシップ型が多数派であるとも言われているというのだ。メンバーシップ型には「マルチタスク化」・「多能工化が進む」ということだけでなく、多種の仕事をこなすことで多様な視点得られるといったメリットがあるとされている。
ただし「人に仕事をつける」メンバーシップ型ではどうしても仕事量が増え、残業を誘発しやすいのは確かだというのだ。専門家によるとこれらを踏まえ今の日本企業にとって残業は「合理的」なものであると喝破している。残業は人員を増減することなく仕事の繁閑に柔軟に対応する便利なシステムだというのだ。もっとも残業を肯定しているわけでは決してなく、あくまで合理的なシステムであることや、個人の努力だけではどうにもならないことなどをしっかりと認識した上で議論すべきと言っている。残業時間上限などを画一的にルール化するのではなく、まずは自社や自身の状況や事情や能力を把握し、それぞれに合った対策を考えていくべきではないだろうかとされているのだ。
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