「防衛省設置法」とあわせて「防衛二法」と呼ばれる昭和29年に制定された自衛隊法では、自衛隊の 任務や自衛隊の部隊の組織及び編成だけでなく自衛隊の行動及び権限と自衛隊員の身分取扱等を定めている。自衛隊内では「 隊法 」と略されているそうなのだ。その自衛隊法61条において 政治的行為の制限されており、その条文には「 隊員は、政党又は政令で定める政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法をもってするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除くほか、政令で定める政治的行為をしてはならない」とされており、自衛隊員はその長とされる防衛大臣を含め選挙権の行使を除く自衛隊員の政治的行為は制限されているのだ。
そして「自衛隊法施行令 87 条」はこの政治行為を具体的に規定しており、その中では「集会その他多数の人に接し得る場所で又は拡声器、ラジオその他の手段を利用して、公に政治的目的を有する意見を述べること」とされているのだ。このように東京都板橋区で行った都議選の自民党公認候補の応援演説でマイクを使用し、公に「防衛省、自衛隊、防衛大臣、自民党としてもお願いしたい」という趣旨の発言をし、政治的目的を有する意見を述べた稲田正美防衛大臣の行為は自衛隊が組織的に特定の候補を応援すると受け取られかねず、「自衛隊施行令 87 条 11 号」に明確に違反しており、つまり「自衛隊法 61 条」の禁止する政治的中立性に違反しているといえそうなのだ。
稲田防衛大臣は演説会場から1キロ余りの距離にある練馬駐屯地の関係者が、選挙区内に住んでいることを念頭に置いたおり、「陸上自衛隊の駐屯地も近く、防衛省・自衛隊の活動に地元の皆さまにご理解ご支援を頂いていることに感謝の気持ちを伝える一環としてそういう言葉を使った」と釈明したが発言は撤回しなかったという。しかしこれらの発言への批判が強まったことを受け国会内の事務所で「誤解を招きかねない発言に関して撤回をしたい」と記者団に語ったそうなのだ。そのうえで「防衛省・自衛隊に限らず、政府の機関は政治的にも中立であって、特定の候補者を応援することはあり得ない」と強調し、「これからもしっかりと職務を全うしていきたい」と述べて辞任は否定したそうなのだ。
自衛隊法61条は選挙権の行使以外の自衛隊員の政治的行為を制限しており、特定の政党などを支持する目的で職権を行使できないとされているが、稲田防衛大臣の発言は防衛省・自衛隊が組織ぐるみで特定政党の候補を応援しているという印象を与えるうえ、大臣が隊員に対し自衛隊法に抵触する政治的行為を呼びかけたと受け取られかねないのだ。軍事ジャーナリストの前田哲男氏は「自衛隊法61条は隊員を対象にしているが、大臣も自衛隊の責任者として順守の義務は当然ある」と指摘し、「『防衛省、自衛隊、防衛大臣として』と言葉に出して応援したのは法律違反であることはもとより常識としてあり得ない。政治家の放言や暴言が続いているがレベルが違う問題発言だ」と語っている。
稲田防衛大臣の言動はたびたび物議を醸し国会などで問題視されてきたが、「長期的には日本独自の核保有を国家戦略として検討すべきではないか」といった過去の発言を野党が追及しているし、国連平和維持活動で南スーダンに派遣した自衛隊部隊の日報の記載をめぐっても答弁が迷走し前半国会の焦点になっていたのだ。都議選期間中の今回の発言は学校法人「加計学園」の獣医学部新設問題をめぐる与野党の攻防が続く中安倍政権にとって新たな火種になる可能性もあるようで、民進党の山井和則国会対策委員長は「稲田防衛相は辞任すべきだ。自衛隊を選挙利用することがあってはならない。稲田防衛大臣をかばい続けた安倍首相の任命責任も当然問われる 」と批判している。
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