衆院議員選挙は自民党が追加公認を含めて過半数を大幅に超える 284 議席を獲得し、公明党と合わせて改憲発議に必要な 310 議席を上回る圧勝劇に終わった。「安倍一強の驕り」と繰り返し批判されてきたこともあってか開票速報番組でも「今後も謙虚に誠実に結果を出していくことに全力を尽くしていきたい」と表情を引き締めていた安倍首相だが、自民党の党本部の総裁室から萩生田光一幹事長代行と一緒に出てきたときは 2 人揃って満面の笑みを浮かべていたそうだ。今回の自民党大勝という選挙結果は希望の党と小池百合子代表のオウンゴールに救われたという見方が大きく、大手新聞社各紙の世論調査では首相の続投を「望まない」とする回答は軒並み 50 %を超えているという。
失速する希望の党を尻目に野党第一党に躍進したのが小池氏に「排除」された側の立憲民主党だ。それに対して不快感を隠さないのが安倍首相で、選挙戦最終日には周囲に「メリットが乏しい」と反対された秋葉原での街頭演説を強行したが、これは立憲民主党の海江田万里氏を批判するためだったという。森友学園や加計学園をめぐる問題について問われた安倍首相は、党首討論会では「私もこれまで予算委員会や閉会中審査で丁寧に説明を重ねてまいりました」と過去形にしてケリをつけてみせ、トランプ米大統領の来日やベトナムで開かれるアジア太平洋経済協力会議への出席などの外交日程が続くことから、 特別国会は実質 3 日間のみで会期延長も行わず臨時国会も見送る方針が明らかになったという。
国会での審議をしないということでは麻生太郎副総理が今回の自民党の衆院選大勝について「北朝鮮のおかげ」と言い放ってみせたそうなのだ。安倍首相が核実験やミサイルの発射を繰り返す北朝鮮の脅威を訴えて「国難突破選挙」とぶち上げたのはご存知のとおりだが、これでは北朝鮮を選挙に利用したと自ら認めているようなもので、政権寄りの報道を続ける新聞も「北朝鮮による挑発が続く中で、不適切な発言だとの指摘を受ける可能性もありそう」という。そもそも国会をまともに開く気がないようで、11月1日に開催されるという特別国会は実質 3 日間のみで、会期延長も行わず臨時国会も見送る方針だそうなのだが、あれだけ訴えていた「北朝鮮の脅威」についての議論さえ行わないのだからどうかしている。
投票行動の分析で定評のある政治学者の小林良彰慶應義塾大学法学部教授は、比例区での野党の総得票数が与党のそれを上回っていたことも重要だが、より注目すべきは自民党の絶対得票率が長期低迷傾向だと指摘している。自民党が大敗し民主党に政権を明け渡した総選挙で自民党 2730 万票を得ているが、その後の選挙では自民党は議席数こそ毎回過半数を大きく超えるものの得票数は、一度も大敗し政権を失った選挙を超えることができず、別の見方をすると野党が低迷し投票率が下がったために、より少ない得票で自民党の獲得議席が増えているというのが実情だというのだ。ちなみに民主党が政権を奪取した総選挙の投票率は 69 %を超えていたが、今回の投票率は 53.6 %で前回は史上最低の 52.6 %だったのだ。
自民党の得票率は毎回 5 割を割っており得票数では野党が自民党を上回っている。現行の選挙制度の下で民意をより正確に反映させるためには野党陣営が一つにまとまるしかないが、今回の希望の党のような政策や理念を無視した離合集散に対しては、国民の間に強い拒否反応があることもこの選挙で明らかになっているそうなのだ。今後は野党第一党となった立憲民主党が野党を一つにまとめられる大きな翼を広げることができるかに注目が集まるが、自民党よりも保守色の強い議員が多い希望の党や維新の会から共産党までがひとつにまとまるのは容易ではなさそうだ。それが実現しない限り自民党が有権者の 4 分の 1 の支持で国会の 4 分の 3 を支配する状態が続くというのだ。
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