多くの企業が最高益を更新し人手不足も深刻。となれば給与は上がるのが道理だが、一向にその気配はない。企業は儲けたお金をまず株主に配り残りは内部留保にしているのだが、なぜ企業は社員に還元しないわけを実際に企業の担当者は賃上げについてどう考えているのか聞いてみると大手機械メーカーの人事部長は「リーマンショック以降、経営サイドから総額人件費管理を徹底するように強く言われています。業績が向上した場合はその分をボーナスで社員に還元するものの、給与は通常の定期昇給以外は増やさない方針をとっています。また、名ばかり管理職のポストを減らし、もらいすぎている中高年世代の人件費を抑える一方で、 20 代の若手社員の給与は増やすなど調整しています」と語っている。
人事部としてはもっと社員の給与を増やしてやりたいという意向はあるが、「経営サイド」はなかなか首を縦に振らないようなのだ。この人事部長は「今の日本企業の株主分配比率はドイツやアメリカに比べても低く、個人的には株主配当を増やすのはしかたがないとしても、もう少し内部留保を給与に還元してもよいと思います。でも、経営陣の間にはリーマンショックの時の業績不振やその後にリストラを余儀なくされたことが頭にあり、内部留保をできるだけ残しておかないと不安でしょうがないようです」と語っている。確かにバブル期以降の不況や 2000 年初頭の IT 不況にリーマンショックと東日本大震災後の不況に見舞われ、賃金を上げること対する経営者の警戒心は相当強いということのようなのだ。
しかも企業内唯一の賃上げ勢力である労働組合が雇用を優先し、賃上げに消極的な姿勢を続けてきた経緯もあるという。日本の労働組合に深く根付いた行動様式があるからで、とりわけ春闘の相場形成を主導する自動車・電機などの民間の大手組合は、自らの企業の雇用維持を最優先して賃上げ要求を抑制する行動をとってきたというのだ。2度の石油危機と大リストラ攻勢に臨んで大手の産業別労働組合は、政府の悪政インフレを避けるための総需要抑制政策に協力する形で賃上げを抑制する代わりに雇用維持を優先する方向に転換したというのだ。この行動様式にはその背後に余りに強すぎる正社員だけの長期安定雇用があって、労使協調路線が組合運動の主導権をとるようになり連合結成に繋がったというのだ。
そうであれば人手不足の時代だからこそ転職して自ら賃金を上げるしかないわけだが、ところが残念ながらこれもあまりいい状況とは言えないとされている。活況を呈する転職市場でも賃金は上がっていないというのだ。会員登録数 600 万人というエン・ジャパンの転職サイト「エン転職」の求人企業が提示する年収の増減率は今年の 9 月は前年同月比 97 %と下がっているそうで、業種別でもほとんどの業種で低下し流通・小売は 84 %だし、運輸・交通や物流・倉庫は 87 %と皮肉にも人手不足感が強い業種ほど下がっているそうなのだ。前年より年収が上回っているのは好調の不動産・建設・設備のみとなっており、その理由のひとつは全体の求人数に占める「未経験者歓迎」案件比率の増加だという。
未経験歓迎案件比率は3年前では 52 %だったが今年の 9 月には 75 %となっているそうで、職種別では営業系 80 %に技術系でも電気・電子・機械が 66 %というだけでなく建築・土木が 57 %を占めているというのだ。未経験者の採用比率が高まっていることに加えて下限年収を下げるケースが多く、 35 歳以上のミドルでも平均で前職の年収の 100 万円程度下がるのが一般的だというのだ。人手不足の影響で大手企業を中心に積極的な採用に動いているが、特殊なスキルや経験の持ち主は別として全体的に企業が採用時の年収を引き上げているわけではないというのだ。全体の賃金が上がらない状況がしばらく続くとしたら後は個人の努力で社内評価を高めてキャリアアップするしかなく、私たちは今そんな時代に生きているというのだ。
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