所得税改革を着手すると口を開けば「増税するのか」と疑心暗鬼が広まるが、政治家はこれを恐れてか所得税の抜本的な改革に踏み切ることを避け続けてきた。その結果は所得税制で所得格差を是正する機能である所得再分配機能が弱まり、旧態依然の仕組みが放置され新しい働き方には控除が適用できないなどのひずみが現れている。所得税をいくら払うかという計算は課税前の収入から所得計算上の控除と、人的控除や医療費控除に社会保険料控除といった実費控除が含まれるが差し引かれ、残った金額が所得税の課税対象となる課税所得となり、これに税率がかけられて算出されたものが税額だ。さらにその算出税額から、住宅ローン控除などの税額控除が差し引かれて実際に支払う所得税額が求められている。
「給与所得控除」と「公的年金等控除」でいうと、給与所得控除と公的年金等控除が所得税制でどのような位置づけになっているかでは、われわれが得た課税前の所得であるところの専門用語の「収入」では、何の控除もなしにいきなり所得税が課されるわけではないとされている。特に給与収入と公的年金等収入にはそれぞれ独自の控除が設けられており、それが給与所得控除と公的年金等控除となっているのだ。「給与所得控除」は平たく言えば働いて稼ぐのにいろいろと経費がかかるから、その経費を概算で収入から差し引いて所得税の負担を軽減するというものである。「公的年金等控除」も同様に収入から経費を控除することによって所得税の負担を軽くする狙いがあるとされている。
ただ公的年金を受け取るのに働いて稼ぐときにかかるような経費は、実際にはほとんどかかっていないのに公的年金でも給与所得と同様な概算控除が認められている。確かに公的年金等控除は標準的な年金以下の年金のみで暮らす高齢者世帯に配慮を行うための所得税軽減措置というのが公式的な見解だが、所得税制では給与所得控除と同じく所得計算上の控除という位置づけになっているのだ。政府・与党は来年の税制改正で会社員らの給与から一定額を差し引いて税負担を軽くする「給与所得控除」を、高所得層を中心に縮小する一方で全ての人に適用される「基礎控除」を拡大する調整に入っているが、高所得の会社員にとっては増税となるが企業に属さずに働く個人や低所得層の税負担は軽くなるという。
自民党税制調査会は非公式幹部会合を開き終了後記者団に対し「所得税改革の基本的な構造については共有した」と話し控除見直しの検討に入る意向を示した。会社員らに対して必要経費を認め収入から一定額を差し引いて税負担を軽くする給与所得控除額は現在最低65万円だが、年収に応じて増加し年収1000万円を超えると220万円で頭打ちとなる。政府・与党はこの給与所得控除の控除額を年収にかかわらず一律に減らし、上限額の220万円の引き下げも検討している。この見直しで得られた財源で全納税者を対象にした基礎控除の控除額を、現行の一律38万円から引き上げるという。会社員の給与所得控除は縮小するが高所得層以外は基礎控除の控除額の増額を同程度にして負担増を避けるよう調整するという。
所得税改革が必要な 1 つの大きな理由は所得再分配機能の回復で、政府税制調査会の「経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する中間報告」にも明示されている。そうみれば公的年金等控除の最低限を給与所得控除と同じ 65 万円に引き下げる形で控除を見直すということは、所得再分配機能の回復という方向に逆行することになるからありえないとされている。働き方の多様化で企業に属さないものの請負契約などで会社員と同様の働き方をしている個人が増えているが、これらの人は給与所得控除を受けられず不公平感が指摘されているというのだ。基礎控除の控除額拡大は請負契約の個人や低所得層の税負担を軽くするのが狙いだが、負担増となる高所得層の反発も予想されるというのだ。
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