日銀が発表した 9 月の短観でも企業の景況感は 10 年ぶりの高水準だというように、景気の回復ぶりを伝えるニュースばかりが並ぶのに我々にはなぜ実感に乏しいのだろう。景気が良くなって企業の生産活動が活発になれば、求職活動している人が職にありつきやすくなるため失業率の分子である失業者が減って失業率が下がるとされている。第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは企業の売り上げが伸びていないことが問題だと指摘し、「伸びているのは、企業の収益性です。それは設備投資や人件費の抑制、原油価格の低位安定などによって実現したもので、肝心の売り上げの伸びは昨年までの 4 年間で平均 1.5 %にとどまり低迷したままです」と分析している。
収益重視では賃上げに進まないのだが、人口減少や働き手が不足しているから失業率が低下していると思われがちであるがそれは間違いで、なぜなら人口は減っていても労働力人口は増えているためであるというのだ。実際に昨年度度の失業者数の減少を要因別にみると、就業者数は 73 万人増加しているが労働力人口も 57 万人増えており、結果として完全失業者数が 16 万人の減少にとどまっている。つまり人口が減少していても労働参加率の上昇により労働供給は増えているのであるということのようなのだ。アベノミクスが始動する5年くらい前から円高・株安の是正などにより企業の人手不足感が強まったが、一方で労働参加率の上昇により働ける人も増えているのであるというのだ。
この背景には高齢者の雇用延長や世帯収入を増やすべく働く女性が増えたことがあって、労働組合内にも「 IT バブル崩壊以降、多くの企業が雇用の確保か賃金の上昇かという選択を迫られるなかで労働者側も『雇用が確保されるなら賃上げされずとも仕方ない』と容認に傾き、その流れが依然として続いています。近年は人手不足により完全雇用に近い状態と言われますがこれは偽りで、実態は職探しは容易にできてもいい仕事には就けない。労働の単純化やマニュアル化によってワークシェアリングが進んだ結果、賃金は上がらず、購買力も高まらないままです」というのだ。好景気を実感するには賃金上昇が一番だがそのために雇用確保を犠牲にできるかというのが容易な選択ではないとされている。
失業者とは「就業を希望して実際に求職活動をしている人」のことなのだが、失業率が下がっていても楽観視できないことがあって、なぜなら昨年度の失業者は 202 万人まで減少したが、その中でも非自発的な離職者つまり辞めたくないのに会社を辞めざるを得なくなった失業者が依然として 55 万人以上も存在しているといのだ。そして完全雇用の経済学的な定義の一つが非自発的な離職者が存在しないことからすれば、日本経済は依然として完全雇用とは言えないということなのだ。そして非自発的な離職者が多数存在しているということは企業からみれば賃金を上げなくても働きたい人がまだいるということで、失業率が下がっても賃金が上がりにくい理由の一つとなっているというのだ。
つまり就業を希望していても何がしかの理由から就業活動をしていない人は含まれず、実際に就業環境が厳しくなると求職活動をあきらめてしまう人は増え、つまり実際の労働需給の状況を見るには非労働力人口に含まれる就業希望者の動向にも注意が必要なのだ。働きたくても求職活動をしていない人がどの程度存在するかを見るべく、総務省「労働力調査」の詳細結果を確認すると、今年の 4 ~ 6 月期時点で 200 万人程度の完全失業者の約 2 倍となる 372 万人の就業を希望しているが求職活動をしていない人が存在することがわかるという。そして非求職の理由別にみても「適当な仕事がありそうにない」が 102 万人で、「出産・育児・介護・看護のため」が 105 万人存在し依然として潜在的な労働供給の余地があることがわかるという。
キーワードサーチ
コメント新着