来年度の予算案を審議している衆院予算委員会では、安倍晋三首相が意欲を示す9条への「自衛隊明記」などの改憲提案を巡る論戦の低調さが目立っているそうなのだが、これは今国会での補正予算審議から続いているそうで、補正予算の2日間の審議で質問に立った与野党議員19人のうち改憲について安倍首相に質問したのは民進党系会派の原口一博氏だけだったという。安倍首相主導を警戒する立憲民主党など各党の思惑が交錯し、安倍首相が期待する与野党を巻き込んだ論議が進むかは依然不透明だという。民進党は集団的自衛権の行使を容認した安全保障関連法や安倍首相の改憲案に反対しており、安倍首相の9条改憲が武力行使の拡大につながるのではないかと警戒している。
安倍首相は「ここで私が説明すべき立場ではない」と前置きしつつ、9条2項の「戦力不保持・交戦権の否認」を維持する案が実現しても「フルスペックの集団的自衛権の行使は認められない」などの見解を披露している。一方で野党第1党の立憲民主党は「憲法は主権者が権力を制限するルールだ」と主張しており、安倍首相の憲法観と相いれないとする枝野代表は「向こうの土俵には乗らない」と明言し、安倍首相や自民が主導する改憲論議に応じない構えだとされているが、立憲民主党の逢坂誠二氏が予定していた質問を取りやめるなど、所属の議員から改憲を巡る質問は補正予算審議にはなかったそうなのだ。また国会発議後の国民投票について広告・宣伝の規制を強める国民投票法改正案の提出も検討しているという。
衆議院で立憲民主党に次ぐ野党第2党の希望の党は、衆院代表質問で玉木雄一郎代表が安倍首相改憲案への反対を明確化しているが、9条を含む改憲に前向きな幹部もいることから党内に意見対立を抱えているのが実情だとされる。「本予算の審議では質問する」と説明するが予算委委員会では別の質問に終始しているという。与党の公明党は代表質問等での改憲への言及はゼロで憲法に関する党内の会合も当面開かず、「急ぐ必要はない」と静観を決め込んでいるそうなのだ。改憲に積極的な自民党も9条1、2項を維持する安倍首相案には異論も残っており、自民党関係者は「2項削除案の本質は自衛隊の軍隊化だが、党の論点整理ではそれが分からないから、世論の支持が会見反対に集まった」と分析している。
憲法改正には世論の理解は必ずしも進んでおらず安倍首相の方針に沿って党内を取りまとめようとした自民党は頭を抱えている模様で、安倍首相も予算委委員の石破茂元幹事長が2項削除を主張していることを念頭に、「石破氏がこちらを見ているが、私が言ったことは党を代表する考え方にはまだなっていない」と付け足しているくらいなのだ。行政府の長として国会答弁するため「質問がないと自説を披露しづらい」という立場を与野党から逆手に取られたかっこうなのだが、自民党は身内の意見統一のため地方議員向けの憲法研修会を開くことを決めたというのだ。推進本部幹部は「国民投票で過半数の賛成を得るには、改憲の内容を分かりやすく説明する必要がある」と語っている。
自民党憲法改正推進本部は全体会合で自民党改憲案の取りまとめに向けた議論を再開したそうなのだが、自民党としては議論を重ね非常時に国民の権利を制限する規定は盛り込まない方向で、憲法推進本部の総会で意見集約を目指す方針だとされ 3 月の党大会で改憲案を発表したい考えだという。昨年行われた衆院選で議論は改憲提案を巡る論戦の低調さが目立つことから遅れており、さらに自民党内での意見集約も予定されている3月には難しいとされ、政権与党であるが憲法改正には消極的な公明党との協議や、憲法改正に反対している多くの野党の取り込みと三つのハードルが待ち受け、国民の支持がないようでは自民党の執行部が目指す通常国会での発議はなお見通せないといわれている。
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