土地の所有者がわからないために土地の売買や利活用が進められないなど「所有者不明の土地」が引き起こす問題が全国で増えているというが、所有者がわからないという表現には所有者は判明しているものの居所や生存が確認できず、ただちに連絡がとれない場合も含まれるというのだ。この問題が顕著に表面化したのは東日本大震災の復興事業で、被災者の集団移転に伴う高台の用地を取得する際に移転先に所有者不明の土地が含まれていたことで、計画の変更や遅延を余儀なくされるケースが現れたという。これらの問題が震災復興や空き家対策など緊急性の高い課題解決の妨げになっていることを受け、この時は国土交通省が現行の法制度の範囲内でできる対策を示したというのだ。
個人が土地を持つようになる経緯にはまず誰かから買うケースがあり、法律によると売る側と買う側との間で売買契約が交わされると、その時点で土地の所有権は後者に移ったとみなされるのだが、ただしそれだけだと所有権の移転があったことが第三者にはっきりと伝わらないことから、将来土地を売ったり貸したりするときに面倒なことになりかねない。そこで「登記」をするのが不動産取引上のルールになっており、登記とは法務局に届け出ることによって所有者の名義などを記録で明らかにするための仕組みで、司法書士ら専門家が代行するのが一般的となっている。土地は売買を繰り返したとしてもそのたびに登記されて記録に残ることから、所有者が分からなくなることは通常ないというのだ。
このように土地の所有者情報は不動産登記制度によって管理されているにも関わらず、なぜ所有者不明の土地ができてしまうのかというと、その主な要因の一つが「相続未登記」だというのだ。土地の所有者が死亡した場合一般的には新たに所有者となった相続人が相続登記を行ない登記簿の名義を変更するのだが、この相続登記は義務ではなく相続人本人の判断に委ねられているのだ。倒壊の危険や防犯上のリスクなど公益上の損害が表面化しやすい空き家問題とは異なり、その土地を利用しようとする段階で初めて不都合が表面化するため、死亡者の名義のまま登記簿の情報が長期間放置されることも多く、その間にも法定相続人は子や孫と広がって、ねずみ算式に増加し登記簿情報との乖離が進んでいくことになるというのだ。
しかも売買とは異なり専門家がかかわるとは限らず名義を書き換えずに放っておくケースが多くあり、ただでさえ相続の手続きは面倒で後回しにされるうちに登記が忘れられることも多いというのだ。こうした背景からそもそも自分が相続人だと自覚していないケースも多く、国土交通省によると登記簿上で所有者が確認できる土地は調査対象地の 8 割だという。所有者不明土地がこれ以上増えないよう政府が検討するのが相続登記の義務化で、「相続してから一定期間内に登記することを義務付け、反した場合は罰金を科す」という案も浮上しているのだ。ただ現行制度で登記は売買による土地取得の場合も含めて任意であるため、相続に限らずすべて義務化すべきだとの意見も多いという。
そもそも登記をしないと所有権が移転しない制度に改めるべきだとの意見もあって、この考え方は明治の民法制定以来の考え方を大きく変えることになり、法務省などには慎重論も多いというが、土地を所有することは固定資産税などの継続的なコストが発生するということで、過疎地などの市場価値の低い土地を相続した場合には土地の所有が「資産」ではなく、負担になってしまう状況も考えられるのだ。不利益が見えにくく身近に感じる機会が少ない所有者不明の土地問題も国民一人ひとりの意識と密接に係る問題で、土地の所有者を全て明らかすることが難しい状況の中で今以上に放置される土地を生み出さないためには、人口が減少していく時代に即した土地制度の見直しが必要だと言われているのだ。
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